丸山穂高・長谷川豊両氏の発言で維新への風向きが急速に変わり始めた、堺市長選や参院選へどう影響するか、大阪維新のこれから(5)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その157)

 

 大阪政界の風向きは変わり目が早い。またこれに劣らず、有権者の心変わりも早いという。大阪ダブル選挙と統一地方選で「維新台風」が府下一円に吹き荒れたと思っていたら、今度は一転して丸山穂高衆院議員(維新、大阪19区選出)や長谷川豊氏(維新参院選比例候補、元フジテレビアナウンサー)の発言が切っ掛けで、大阪維新が乱気流(突風)に巻き込まれ始めたのである。大阪維新を「大阪復権の旗手」としてイメージチエンジさせることに成功したと思っていた矢先、丸山暴言でそのマントが剥がれ始めたのだから、松井代表が目下火消しに躍起なのも無理はない。問題は、それが目前に迫った堺市長選や夏の参院選にどう影響するかということだ。

 

 『週刊文春』(2019年5月22日、文春オンライン)が伝えるところによれば、丸山氏は、国後島への「ビザなし訪問」の最中、団長に「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」などと発言したことに加えて、その後「俺は女を買いたいんだ」と禁じられている外出を試み、事務局スタッフや政府関係者ともみ合いになったというのである。売買春は日露両国で共に違法行為なので、実行していれば(日本の)国会議員の逮捕・勾留ということになりかねない稀代の不祥事であり、外交問題にも発展する可能性があった。

 

 このことは、共同通信社(同5月22日電子版)によっても「丸山氏『女性いる店で飲ませろ』 北方領土訪問中に外出試みる」として配信(確認)されている。記事の内容は、「訪問団員によると11日夜、宿舎の玄関で丸山氏が酒に酔った様子で『キャバクラに行こうよ』と発言して外出しようとし、同行の職員らに制止された。ある政府関係者は『女のいる店で飲ませろ』との発言や、『おっぱい』という言葉は聞いた」というものだ。いずれも国会議員としてはもとより日本国民としても絶対に許されない行為であり、「国辱もの」というしかない。

 

 一方、これまで数々の暴言、例えば「自業自得の人工透析患者なんて全員実費負担させよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」といったブログで批判を浴びてきた維新参院選比例候補の長谷川氏が、今度は今年2月の東京都内の講演会で江戸時代の被差別部落に関して差別発言をしたという問題が急浮上した。毎日新聞(5月22日電子版)によると、同氏は「人間以下と設定された人たちも、性欲などがあります。当然、乱暴なども働きます」と指摘し、被差別民が集団で女性や子どもに暴行しようとした時、侍は刀で守ったという話をしたという。

 

 長谷川氏は22日、公式ホームページに「私自身の『潜在意識にある予断と偏見』『人権意識の欠如』『差別問題解決へ向けた自覚の欠如』に起因する、とんでもない発言」と認め、「謝罪するとともに、完全撤回させてください」と陳謝するコメントを掲載したというが、馬場維新幹事長は毎日新聞の取材に対して、「大変な無知による事実誤認の発言。党紀委員会を開き、処分を含めて議論する」と語ったとされる(同上)。

 

 大阪市民はもう忘れているかもしれないが、維新の創始者である橋下氏が市長当時、旧日本軍の慰安婦問題に関して「慰安婦の制度的必要性」に理解を示したことをはじめとして(彼自身も神戸・福原の高級風俗店のコスプレイ常連客だった)、維新にはおよそ国会議員にはあるまじき人物(群)が要職に就いている。「民主党はアホ」「石破氏などは犯罪者」「朝日新聞は死ね!」などの暴言を吐いて何度も国会の懲罰動議を受けながら、現在は馬場幹事長の片腕として「活躍」している足立康史衆院議員(維新幹事長代理)もそうなら、丸山氏も発言前は維新政調副会長だった。『新潮45』にLGBT(性的少数者)に対する差別論文を寄稿して国民的批判を浴びた杉田水脈衆院議員(現在は自民党)も、最初は維新から国会議員に出馬して当選した。

 

 丸山・長谷川両氏の暴言は、足立・杉田氏らの言動とも通底する維新の暴力的政治体質に根ざしている。人間の尊厳を踏みにじることに平気で何度も繰り返す、物理的・言語的暴力で相手を屈服させることを厭わない、ウソとデマをまき散らすことに長けている――、こんなファッショ的体質が余すところなく露出しているというべきではないか。こんな危険な政治集団が「官邸別動隊」として表舞台に出てきたのだから、これが堺市長選や参院選を通して全国的に波及していくとなると、事態は容易ならざる様相を帯びることになる。

 

 堺市長選の反維新陣営の候補が漸く決まったという。若手の自民党堺市議が離党して「反維新」「反大阪都構想」を掲げ、維新元府議と対決する構図だ。共産党や立憲民主党は自主的支援に回り、市民団体が選挙母体を作って選挙戦を戦うのだという。しかし、問題は自民と公明がどう動くかと言うことだろう。自民大阪府連は渡嘉敷会長の下で反維新候補は支援しないとすでに態度表明しているし、公明は自主投票を表明しているものの、情勢次第でこれからどう転ぶかわからない。事前の予想からすれば、維新候補の圧倒的優勢が伝えられていて「ダブルスコア」どころか「トリプルスコア」もあり得ると言われていた。果たしてこの情勢が丸山・長谷川暴言で変化するのかしないのか、今後の行方が注目される。(つづく)

自民・公明両党が維新に屈服、議席欲しさに政策を投げ棄てる究極の〝政党ロス現象〟、大阪維新のこれから(4)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その156)

 

 産経新聞が大阪維新を天まで持ち上げている「だけ」だと思っていたら、今度は全国紙全て(大阪本社版)が5月12日(日)朝刊の1面トップで、自公両党が維新に屈服し、大阪都構想の住民投票に対する態度を翻したことを伝える始末になった。ついこの前の大阪ダブル選挙まで「大阪都構想反対!」「住民投票反対!」と絶叫していた自民・公明両党が、今度は手のひらを反して住民投票に協力するというのである。自民・公明の公約を信じて反維新候補に投票した有権者は、開いた口が塞がらないのではないか。

 

 政党は政策を同じくする者が結集する組織だ。理由もなく政策を変えれば(これを「豹変」という)、政党の立ち位置はたちまち崩壊する。自民・公明は「維新への民意を受け止めなければならない」として態度を変えたというが、それなら反維新候補に投票した有権者の〝民意〟はいったいどうなるというのか。彼らが言う「維新への民意」を受け止めるということは、取りも直さず、自らの支持者の〝民意〟を踏みにじることだということがわからないのか。

 

 また、選挙に負けた政党が政策を変えるとなると、これは「翼賛体制=政党ロス(消滅)」に直結する。政党が時の権力に対して批判もせず、ただ従うだけの存在になれば、政党政治そのものが崩壊するからだ。太平洋戦争で諸国民に塗炭の苦しみを与えた軍部独裁政権(天皇制ファシズム)を支えたのは「翼賛体制」であり、その反省の上に立って生まれたのが戦後の議会制民主主義であるなら、今度の自公両党の豹変は、戦後民主主義の否定につながることになる。以下、各紙の代表的な記事を抜粋しよう。

 

 〇毎日新聞、「都構想 来秋にも住民投票、自民府連会長も容認」「自公、維新に屈服、都構想住民投票 容認表明、統一選1カ月 困惑、市民ら 共産は反対変わらず」「大阪都構想 住民投票へ、同日選の影 公明転換、強い維新になびく」

 ―「今回の民意を受けて、より充実した協定書(都構想の制度案)のため、積極的、建設的に改革を進める立場で前向きの議論をする」。11日の公明党大阪府本部会議で住民投票実施容認の方針を決め、記者会見に臨んだ佐藤茂樹代表(衆院議員)はにこやかな表情で方針転換の理由を説明した。安倍晋三首相が衆参同日選に踏み切るとの憶測もある中、議席を死守したい公明としては住民投票の容認方針で維新に対し、関係修復に向けたシグナルを早期に送り国政選挙の不安要素を取り除きたい考えだ。

 ―ダブル選や衆院大阪12区補選で惨敗した自民党大阪府連も11日、国会議員や地方議員が参加する会合を開き、引責辞任した佐藤章府連会長の後任に渡嘉敷奈緒美・衆院議員を選任。渡嘉敷氏は「今回の民意を受けて住民投票は賛成したい。維新と対立するのではなく、ちゃんと歩み寄っていく」と述べた。ただ、自民はこれまで住民投票の実施も含めて一貫して反対。ダブル選でも「都構想に終止符を打つ」と訴え戦ってきただけに、松井氏も「党内でコンセンサスが取れているのか」といぶかった。

 

 〇朝日新聞、「自公、住民投票を容認、大阪都構想巡り 来年以降にも」「住民投票へ自公急転、衆参同日選意識し焦り、維新『実施確約』求める」

 ―「民意に応える大阪の改革をさらに強めていくという党の立場を、より鮮明にしなければならない」。11日、公明党大阪府本部での記者会見。佐藤茂樹代表が住民投票の容認を表明した。実態は、地方選に負けたうえで国政選挙を意識させられる中、追い込まれた格好での決断だった。

 ―大阪ダブル選前は住民投票実施に一定の理解を示していた公明よりも強硬だったのが、自民党大阪府連だ。一貫して住民投票の実施に反対だったが、「反維新」候補が大敗して方針を大転換した形だ。夏の国政選挙を控えて党勢を立て直すため、この日就任したばかりの渡嘉敷奈緒美会長は実施容認を表明した。渡嘉敷氏は「国政では野党が反対ばかりしているイメージがあるが、それと同じような声が(大阪では)上がっていた」と強調した。ただ、いきなりの方針転換に両党の足元は揺らいでいる。公明府議の一人は「うちはもう維新の言いなりだ」。自民府連幹部はこう反発した。「府連でもまだ議論はできていない」。

 

 〇読売新聞、「都構想 再び住民投票、来秋にも 自民・公明が容認」「住民投票『民意』で転換、公明 参院選注力を狙い、自民『寝耳に水』憤りも」

 ―4月の統一地方選で地域政党・大阪維新の会が圧勝した「民意」は、これまで一貫して大阪都構想に反対してきた「反維新」勢力の住民投票への対応を一転させた。4年前、大阪を二分した都構想の賛否を問う住民投票が再び現実味を帯びてきた。公明党は11日、府本部代表の佐藤茂樹衆院議員が大阪市内で記者会見を開き、住民投票の実施容認を表明。統一選の結果について「維新の行政運営を有権者が高く評価した」などと維新を持ち上げた。統一選の期間中は維新を「壊れたレコードのように都構想としか言えない連中」と批判していたが、転換の背景には支持母体の創価学会の突き上げがあった。だが、住民投票の容認は、前回に続き2度目で、決裂と歩み寄りとを繰り返す党の姿勢には「日和見」との批判も出かねない。ある公明議員は「党の方針を支持者に説明するのは大変だが、現実的にはこれしかない」と複雑な心境を吐露した。

 ―「住民投票(の実施)には賛成したい。今までの路線とは違う形で再生していく」。11日、自民党府連の議員が一堂に集まる全体会議後、新府連会長に選出された渡嘉敷奈緒美衆院議員は記者団に唐突に告げた。党関係者によると、全体会議前の幹部の集まりで渡嘉敷氏が住民投票の実施容認を提案。反対意見も出たが、多くの国会議員の賛成で決まったという。だが、渡嘉敷氏は全体会議で方針転換を説明しておらず、そのことをニュースなどで知った多くの地方議員は「寝耳に水だ」と戸惑った。大阪市議団からは「支持者に説明できない」と憤る声が続出。ある府連幹部は「全くガバナンス(統制)利いておらず、危機的状況と嘆いた。

 

 〇産経新聞、「都構想 来秋にも住民投票、維新・松井氏 自公、協力へ転換」「都構想住民投票を容認、自公、民意受け白旗、国政選挙にらみ維新と対決回避、『もう終わりや』府連内に反発 自民」

―「大都市制度のあり方と衆院選はまったく関係がない」。公明府本部の佐藤茂樹代表は11日、住民投票容認と衆院選との関連性を記者に問われ、言下にこう否定した。だが、そんな佐藤氏の言葉とは裏腹に、支持母体の創価学会や党本部からは、維新との関係見直しを求める声が強まっていた。公明が前回投票に協力したときは、衆院選での維新との対決を避けたい学会本部の強い意向が動いたとされる。「常勝関西」と呼ばれるほど、関西の地盤を固めてきた公明にとって、大阪、兵庫の衆院6議席は党として絶対に失うことのできない〝生命線〟とされる。学会や党本部では「反維新」の旗を振り続けることによる逆風が、国政選挙に及ぶことに日増しに危機感が強まった。大型連休明けの今月7、8日には、公明の府市両議員団の幹部が都構想の賛否を含めた見直しを明言。8日には関西の学会幹部と3期以上の公明市議団が集まり、「維新への民意を受け止めなければならないとの共通認識が形成された」(公明関係者)という。

 ―「民意を得た維新と連携を目指す。従来の立ち位置を変えていく」。自民大阪府連の新会長が会見の冒頭で訴えたのは、不倶戴天の敵であるはずの維新との関係改善だった。ダブル選で完敗しただけでなく、安倍晋三首相も応援に駆け付けた衆院大阪12区補選で維新候補に膝を屈した自民府連。府議・市議ともに議席を減らし、「解党的」とまで言われた現状について、この日就任した衆院議員の渡嘉敷奈緒美会長は「負けは神様がくれた贈り物」と表現。「対立からは何も生まれない」と維新への歩み寄りを明確に打ち出した。会見に先立って行われた府連の総務会では、都構想の住民投票容認について賛成多数で承認が得られたと強調したが、大阪市議団を中心に維新へのアレルギーは強い。ある自民市議は渡嘉敷氏の融和路戦について「全体会議では一切そんなことは聞いていない。国会議員は自分らの選挙のことだけ。府連はもう終わりや」と猛反発した。

 

 以上が各紙記事の抜粋だが、公明は学会と党本部の圧力で、自民は国会議員の主導で維新への「関係改善=屈服」が突如表明されたことがわかる。自公与党が学会の支援の下で戦わなければならない国政選挙を目前にして、首相官邸の別動隊である維新との関係改善は急務の課題だったのであり、自公の惨敗は「神様の贈り物」だったというわけだ。このことの堺市長選に及ぼす影響は、関西空港を襲った台風どころではないだろう。自民・公明が維新候補に組する事態も想定されないことはない。さて、堺市のリベラル勢力はいかなる戦略を構築するのか。キーワードは、「堺のジャンヌダルクよ、出でよ!」といいたい。(つづく)

堺市長選、維新候補は維新市議団の「汚れた体質の刷新」を選挙公約に掲げるべきだ、大阪維新のこれから(3)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その155)

 

 2019年5月7日、大阪維新は元府議・永藤氏を党公認の市長候補として擁立することを発表し、同氏が記者会見を行った。毎日新聞によると、当人は「市民の信頼を取り戻し、希望の持てる堺の未来をつくっていきたい」と述べたという。「市民の信頼を取り戻す」とは、竹山前市長が政治資金問題で辞職したことを指すのだろうが、維新堺市議団も決して「政治とカネ」問題には無関係でない。むしろ「真っ黒!」と言っていいほどに汚れ切った体質のグループなのだ。例えば...

 

まだ記憶にも新しい数年前の2014年、当時の維新市議団団長がウソの領収書をつくって政務活動費1千万円余を不正支出し、メディアや議会の激しい追求を受けて辞職に追い込まれた。翌年の2015年にはこれに懲りず、今度は中堅(男性)と若手(女性)の維新市議2人が架空のチラシ代など政務活動費約1300万円を不正支出。しかも証言拒否を続けて逃げ回るなど、議員にあるまじき悪質性が糾弾されてこれも相次いで辞職に追い込まれた。大阪維新が市長候補を擁立するのであれば、真っ先に自らの「汚れた体質」の自己批判から始めるべきだが、記者会見でそのことに果たして言及したかどうか、また記者団が追求したのかどうか、私にはわからない。

 

竹山前市長の「政治とカネ」問題も、堺市政全般の体質にかかわる(通底する)問題としてきわめて深刻だ。自民、公明、旧民主、共産などの市議会与党が、竹山氏の政治資金管理に日頃から監視の目を向けていたかどうかさっぱりわからないからだ。今年2月、竹山氏の問題が発覚したとき、自らの体質は棚に上げて即刻辞職を迫った維新の政治的思惑はともかく、心ある市民からも少なからず竹山氏への厳しい追求の声が上がっていた。この時、市長与党が毅然とした態度をとって真相を解明し、竹山氏が責任を取って辞職していれば、堺市長選は統一地方選の大きな焦点となり、「政治とカネ」問題の追求によって維新は大きな打撃を受けたであろう。

 

だが、市長与党は「市長が説明責任を果たすべき」として真相究明を怠った結果、竹山氏にまつわる「政治とカネ」問題はさらに不透明感を深め、もはや抜き差しならぬ泥沼状態に陥ったのだ。そのことがこれまでの維新の「汚れた体質」の問題を相対化させ、竹山氏の「政治とカネ」問題を追求する維新があたかも「クリーンハンド」の持ち主であるかのような印象を有権者に与えることになった。と同時に、竹山氏の問題を曖昧にしようとする市長与党が「同じ穴の狢(むじな)」と見られ、市民の信頼を失う原因となったことも否めない。そのことが与党会派の後退につながり、維新の躍進につながったことは間違いないのである。

 

もう一方の「希望の持てる堺の未来をつくっていきたい」という点についてはどうか。維新候補は「新しい堺を創る」をテーマに、(1)大阪府市との連携、(2)市内行政区の権限拡大による自治機能強化、(3)民間の活用――などを公約に掲げた。注目される大阪都構想については、ただちに議論を始めるのは「時期尚早」であり、今後の市長選で改めて市民に賛否を問うと語った。ただし、大阪の副首都化を目指す大阪府市の「副首都推進本部会議」には参加する方針を示した。しかし、これだけでは選挙戦でどのような具体策を打ち出すのかよくわからないので、今後の選挙戦をフォローしながらその狙いを分析していきたいと思う。

 

ただ、松井大阪市長(維新代表)や吉村知事(同政調会長)の戦略は明確だ。産経新聞の単独インタビューによると(産経4月24日)、松井氏は「大阪府市と堺市が一体となって、成長する都市圏をつくっていきたい」と述べ、大阪府市との成長戦略の共有が維新候補擁立の公約になると言明した。具体的には、2025年万博の用地となる人工島・夢洲を中心とするベイエリア活性化策に堺市を加え、堺泉北港までを含めた拠点づくりを目指すのだという。一方、吉村氏は「堺特区構想」を堺市長選の公約に掲げ、「堺市と大阪市の垣根を取り払う」と語った。大阪府市の重要課題を話し合う副首都推進本部会議に堺市を加え、観光戦略などを共同で構築していくべきだと主張している。

 

ただし、松井・吉村両氏とも大阪都構想は今回の堺市長選の争点にはならない(しない)としており、まずは大阪府市の都構想を実現した後、次の段階で堺市や周辺自治体を含めた「グレーター大阪」の形成を考えるとしている。この「大阪都構想の段階的戦略=争点隠し」に対して反維新候補が如何に切り込むか、これが今回の堺市長選の帰趨を分けることになるだろう。このことは、反維新側の候補者が決まってから検討したい。(つづく)

橋下(元大阪市長)がつぶやき産経が拡散する政治再編戦略、公明を脅かし改憲ロードへ、大阪維新のこれから(2)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その154)

 

 

5月4日の産経紙を読んでたまげた。橋下氏の単独インタビュー記事が大々的に掲載されているばかりか、その解説記事を1面トップに祭り上げ、真正面から政治再編と改憲を煽っているではないか。橋下氏といえば、大阪市長当時、大阪都構想住民投票に敗れてテレビタレントに転身し、それ以降はツイッターで好き勝手放題のことをつぶやいてきた御仁である。テレタレントだから何でも言っていいということにはならないが、それでも政治家ではないのだから多少は大目に見られていたのだろう。橋下氏の発言は、ゴシップ記事の類として時々紙面の片隅に載る程度の扱いだった。

 

ところが前回の拙ブログでも紹介したように、産経紙は竹山堺市長の辞職表明後堰を切ったように大阪維新の支援に乗り出し、堺市長選関係の大型記事を連打している。そればかりではない。今度は大阪を舞台にした政治再編劇のシナリオライターとして橋下氏を表舞台に再登場させ、改憲の旗振り役としての活躍の場を与えるところにまで踏み切ったのだ。橋下氏の政界復帰に関しては話題に事欠かないが、産経紙がここまで肩入れするとなると、あながち「フェイクニュース」だとは言い切れなくなってきた。まずは、産経紙の解説記事を紹介しよう(要約)。

 

「日本維新の会の創設者で、政界引退後も同党に大きな影響力を持つ橋下徹元大阪市長が産経新聞の単独インタビューに応じ、2025年大阪・関西万博の誘致なので安倍晋三政権の協力を得てきた維新に対し、『安倍首相が実現したいと強く願っている憲法改正に協力するための行動を起こすべきだ』と訴えた。橋下氏は憲法改正の妨げになっているのは公明党と、選挙で同党の支援を受ける自民党の国会議員だと強調。4月の大阪府知事・市長のダブル選挙を制した維新を率いる大阪市の松井一郎市長を『首相に匹敵する改憲論者』とした上で、『ダブル選挙の勢いに乗じて、公明を潰しにいくことを考えている』との認識を示した」

「公明党が大阪府知事・市長のダブル選で維新に大敗した余波で苦境に立たされた。(略)公明は、支持母体の創価学会に改憲への抵抗がなおあり、改憲論議に距離を置いてきた。一昨年の衆院選で議席を減らしたことも懸念材料にあり、『参院選で改憲が争点になることは避けたい』(党幹部)のが本音だ。そうした公明の急所を突くように、橋下氏はインタビューで『改憲を阻んでいるのは公明』と断じた。改憲で安倍政権に協力すると強調して公明を揺さぶり、都構想で協力を引き出す狙いがある」

 

橋下氏の手法はトランプ大統領とよく似ている。相手を極限まで脅かして屈服させ、譲歩を勝ち取るという「恫喝的ディール」の手法だ。この手法は脅かす側に力がないと足元を見られて成功しないが、今回の大阪ダブル選挙における維新の圧勝によって一気に現実味を増してきた。「ここが勝負!」とばかり橋下氏が張り切っているのは、その政治力学の効用を骨の髄まで知っているからだろう。

 

橋下氏の恫喝は大阪自民に対しても向けられている。自民市議の離反と維新への協力を呼び掛けているのもそれなら、現職の自民国会議員の選挙区に対抗馬を立てると喧伝しているのもその一つだ。背景には、「旧い自民」を潰して「新しい自民」をつくろうとする維新戦略があるのだろう。事実、大阪維新は「仮の名称」であり、全国的に通用する政党名だとは思っていないのである。

 

 「旧い自民」を潰して「新しい自民」つくろうとする動きは、統一地方選前半の各地の知事選にもあらわれている。福岡県知事選では自民党公認候補が大差で負け、安倍政権を支える麻生副総理の求心力が目に見えて低下した。島根県知事選でも中堅・若手県議が推す保守候補が自民党公認候補を破り、青木元参院議員会長が仕切ってきた竹下王国の崩壊が囁かれている。政権中枢につながる派閥領袖の地元であるにもかかわらず、その意向に従わない動きが公然化しているのである。一方、北海道知事選では、菅官房長官が大学の後輩である鈴木前夕張市長を「新しい自民」を代表する候補として担ぎ、野党統一候補を破って当選させた。

 

 首長選挙において権力争いのため保守が分裂するのは、分裂しても勝てるほど野党勢力が弱いから...というのが通り相場になっている。だが、実態はそうではないだろう。野党勢力の弱体化にともなって保守の中に「改革」を唱える勢力が生まれ、既得権益にあぐらをかいている旧来保守との間で激しい党内闘争が生じているからだ。このような「旧い自民」と「新しい自民」との争いが、大阪では維新と自民の対決となり、それが公明にまで波及していると見るべきなのだ。

 

 橋下氏はインタビューの中で、「最近、『ポスト安倍』の候補として菅さんが注目されていますが、大阪にとっては大変ハッピーな話。維新を率いる松井一郎大阪市長は菅さんと良好な関係を築いており、菅さんからは引き続き大阪のために力を貸してもらえると思います」と明け透けに語っている。北海道知事選の勝利で力をつけた菅官房長官と大阪維新の動きは、いずれも「新しい自民」をつくる政治再編の萌芽として注目する必要があるだろう。

 

 5月7日、大阪維新推薦の堺市長選候補者が出馬会見を行った。次回はその公約の分析を中心に筆を進めたい。(つづく)

堺市長選がいよいよスタート、産経新聞が総力をあげて維新支援に乗り出した、大阪維新のこれから(1)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その153)

 

10連休最後の5月6日午後、堺市産業振興センター(南海・地下鉄御堂筋線、中百舌鳥駅の近く)で「市政を刷新し清潔な堺市政を取り戻す市民1000人委員会、スタートの集い」が開かれた。会場は100人規模程度のセミナー室だったが、倍以上の市民が詰めかけたため立錐の余地もない大混雑となった。私もNPО関係の知人から知らせを受けて様子を見るため参加したが、なにしろ席がない人たちが周り一面に立っていたので、司会者や講演者の顔も見えない始末、声だけを聴くような有様だ。

 

中百舌鳥駅といえば、昔は総合運動競技場「なかもずグラウンド」の最寄り駅でよく通った駅だ(私は大阪府立高校時代、陸上競技部に属していた)。だが、もう半世紀以上の前のことだから、駅周辺の光景もすっかり変わってしまって様子が全くわからない。しばらく周辺を歩いてみたが、さっぱり記憶が戻らないので会場に戻った。堺市が大都市に変貌していることを改めて実感した次第だ。

 

前置きはさておき、この市民集会の様子をどのように書くかでかなり悩んだ。市民集会の後で主催者側の方々と懇談の時間を持ったのだが、短い時間だったので選挙情勢がよくわからない。とにかく維新側はイケイケドンドンの調子で勢いが凄いとのこと、それに比べて反維新側は候補者もなかなか決まらず立ち遅れていることだけが分かったくらいだ。

 

これでは話にならないので、この間の情勢についてマスメディアがどのように伝えているかを調べてみた。私は4紙を定期購読しているが、読売・産経紙は取っていない。必要なときには近くのコンビニに買いに行ったり、図書館で調べることにしている。そんなことで今回は大学図書館で念入りに調べてみたところ、驚いたことには他紙とは比較にならないほど産経新聞(大阪本社版)が大々的に(しかも系統的に)堺市長選を取り上げているではないか。朝日・毎日・日経などは通り一遍の事実経過を書いているだけなので選挙構図がよく分からないが、産経紙を読んでみるとその意図がよく分かる。4月後半からの主だった記事の見出しを並べてみよう。

 

〇4月23日(火)1面トップ、「竹山・堺市長が辞職願、6月にも市長選、政治資金不記載 維新『候補擁立』」

〇同上、27面トップ、社会面特集「激流、1強の衝撃(上)」、「堺市長辞職願、2.3億円不記載 自公が引導」「強気一転 竹山氏謝罪、『納税者の感覚ない』松井氏が批判」

〇4月24日(水)、1面トップ、「大阪府市と堺 成長戦略共有、堺市長選 維新の公約に、松井市長『都市圏に』、吉村知事は特区構想」

同上、27面トップ、社会面特集「激流、1強の衝撃(中)」、「橋下氏の宿敵 突然自滅、『都構想』に立ちはだかり10年」

〇4月25日(木)、27面トップ、社会面特集、「激流、1強の衝撃(下)」、「浮上する『大大阪』、都構想の発展型、堺市長選にらみ議論活発化」

〇4月27日(土)、3面トップ、「堺市長選、維新 永藤氏軸に調整、竹山氏の辞職 議会同意、反維新勢力 出足鈍く」

〇5月4日(土)、1面トップ、「橋下氏『公明 改憲の妨げ』、首相への協力 維新に促す」「公明苦境、大阪都構想めぐり溝、衆院選で維新対抗馬」

〇同上、4面トップ、「単刀直言」、「橋下徹 元大阪市長、改憲の運命 大阪が握る、公明が都構想協力なら矛収める」

 

産経紙が今回の堺市長選に対してどれだけ力を入れているかは、この間の見出しを見ただけでも明らかだろう。出るという記事が全て1面トップ、関連記事もトップ扱いだから力の入れ様が凄まじい。おまけに、竹山市長の辞職表明直後から大型特集を組み、3回にわたってその背景を詳しく解説している。この特集記事は維新側の選挙戦略に関する解説記事とも言えるもので、その抜粋を読んだだけでも狙いがよくわかる。以下、該当する部分を抜粋しよう。

 

「竹山は、大阪維新の会反対派の急先鋒として知られる。前回、前々回の市長選では維新の看板政策『大阪都構想』反対を掲げ、自民など『反維新勢力』からの支援を受けて維新候補を退けた。大阪で府知事、大阪市長ポストを維新に押さえられた自民にとり、堺市長は『最後のとりで』だった」(激流、上)

「『松井・吉村体制は、都構想実現のため堺市長を取りに行く』。22日、堺市長の竹山修身の辞職が報じられると、大阪維新の会前代表の橋下徹は早速ツイッターに立て続けに投稿。維新の次のターゲットを『宣言』した。竹山は橋下の『宿敵』だ。10年前、不政策企画部長だった竹山を堺市長選に担いだのは、府知事だった橋下と府議だった松井。竹山は絶大な橋下人気を追い風に初当選したが、翌年、橋下が大阪市や堺市を再編する『大阪都構想』を打ち出すと、『堺に二重行政はない』と反対に回り、たもとをわかった。橋下は『裏切り者』と竹山を激しく攻撃したが、『堺はひとつ』を唱えた竹山は『反都構想』を旗印に結集した自民、民主(当時)、共産各党の支援を受け、平成25年の市長選では維新候補が敗北。大阪での『維新不敗神話』が初めて崩壊した」(激流、中)

「竹山さんは『堺のことは堺でやる』と言っていたが、これからは堺も含めて府域全体が成長する形を、新市長のもとで一緒につくっていきたい。大阪市長の松井一郎は24日、記者団にこんな展望を語った。『堺も含む成長モデル』は、大阪府市と堺の3自治体で広域行政を連携して行う――という意味にとどまらない。視線の先にあるのは大阪都構想の発展型『グレーター大阪』の青写真だ。維新前代表の橋下徹が提唱した当初の大阪都構想は、まず府と大阪市、堺市を統合し、次の段階で周辺市を特別区に再編するものだった。面積、財政とも拡張し、東京23区に対抗しうる大都市とする最終形態を大ロンドン市(グレーターロンドン)にならい、グレーター大阪と呼んだ」(激流、下)

 

大阪都構想はもとより「グレーター大阪」も夢ではない――、こんな大阪維新の大それた野望の解説記事を読むと背筋が寒くなるが、問題はそれに止まらないことだろう。それは、5月になって新たに登場した橋下徹氏の「公明は改憲の妨げ」と題するインタビュー記事の紹介だ。(つづく)

選挙は結果がすべて、政党の思惑で有権者の審判を歪曲することはできない、大阪維新はなぜかくも強いのか(4)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その152)

 

 前回でも指摘したが、衆院補選大阪12区の結果に関する共産党の総括には驚くばかりだ。それも選挙翌日の志位委員長の記者会見、中央委員会常任幹部会の声明、大阪府委員会の声明までほとんど同じ内容で統一されている。4月22日から25日にかけて、『赤旗』に掲載された補選関係の声明や記事を追ってみよう。

 

〇4月22日、「大阪12区で宮本岳志候補が及ばなかったのは残念ですが、宮本候補を先頭とするたたかいは、今後に生きる大きな財産をつくったと思います。宮本候補の勇気ある決断をうけて、自由党・小沢代表、立憲民主党・枝野代表、国民民主党・玉木代表をはじめ、6野党・会派から合計で49人もの国会議員―元議員も含めて―が応援・激励に入っていただきました。各界の文化人・知識人からも応援・激励がつぎつぎと広がりました。本当に心強いことでした。市民連合のよびかけにもこたえて、大阪と全国から1000人以上のボランティアのみなさんが、ともに肩をならべてたたかったことも、たいへんうれしいことでした。これれは、市民と野党の共闘の発展にとって、大きな財産をつくったと確信するものです」(志位委員長記者会見、「沖縄と大阪での衆院補選の結果について」)

〇4月23日、「大阪12区では、宮本岳志前衆院議員が無所属で立候補し、市民と野党の統一候補として奮闘しました。宮本岳志候補が及ばなかったのは残念ですが、このたたかいは、市民と野党の共闘の今後の発展にとって大きな財産をつくりました。自由党、立憲民主党、国民民主党の代表をはじめ、6野党・会派から49人もの国会議員や元議員が応援に入り、大阪と全国から1千人を超えるボランティアのみなさんが肩をならべてたたかいました。この二つの選挙で日本共産党が献身的に奮闘したことは、双方で自民党候補を敗北に追い込むうえでも大きな貢献になりました」(日本共産党中央委員会常任幹部会、「衆院補選と統一地方選挙後半戦の結果について」)

〇4月25日、『赤旗』3面全紙を使って特集記事掲載。見出しは、「『安倍政治サヨナラ』へ、市民と野党の共闘〝展望見えた〟衆院大阪12区補選 宮本氏の決断でみんなが結集」、「全野党の代表 事務所激励」、「『やったるで』市民が共同作業」、「マニフェストで団結 本気の共闘へ第一歩」、「たたかってこそ勝運は開かれる」というもの。最後の一節は、「宮本氏が会見でも発言したように『歴史上のどんな偉大なたたかいも、あらかじめ勝算があってはじめられたものではない。たたかう中でこそ、勝機はひらかれる』。そのことを浮き彫りにした3週間のたたかいでした」で括られている。

 

 いずれもが国会議員の議席を投げ打って無所属で立候補した宮本氏の勇気ある決断を称え、今回補選が市民と野党の共闘の先駆例になったとの評価一色で染められているのが特徴だ。これが編集方針なのだろう。『赤旗』はこれまでも選挙結果については勝敗抜きに「善戦」「健闘」と言った言葉で候補者や運動員をねぎらう傾向が強かった。今回もまたその繰り返しだと思えばいいのかもしれないが、しかしこれはあくまでも「身内の論理」であって、一般社会では到底通用するものではない。

 

 いまさら言うまでもないが、政治権力は「数は力」と言われるように選挙を通して確立されるのであり、したがって「選挙は結果がすべて」なのである。だから、選挙総括はなによりも選挙結果についての冷厳な分析を土台にするものでなければならず、数字の分析を伴わないような選挙総括などおよそあり得ない。それは、せいぜい選挙事務所での「よく頑張ったね」といった程度の慰めの言葉に過ぎず、およそ活字にするような代物ではないのである。

 

 こうした観点から上記の一連の「選挙総括」を読んでみると、夏の参院選あるいは衆参同日選挙が迫っているにもかかわらず、いっこうに進展しない野党共闘に弾みをつけるため宮本氏が立候補した個人的動機はよく分かるが、その結果がなぜあれほどの〝惨敗〟になったのかという選挙の最も肝心な部分がすっぽりと抜け落ちているのである。「よく頑張った」「みんな協力した」と言うのであれば、それにもかかわらず「こんな惨めな結果になった」ことの説明がなければ、真面な運動員や支持者が納得できるわけがない。こんな選挙総括に対して「はい、わかりました」と言うような運動員や支持者であれば、政治情勢も選挙情勢も何一つ分析できない「お人好し集団」でしかない。「選挙ごっこ」で遊んでいるつもりならそれまでだが、こんな調子では有権者に対しても満足できる報告一つできないだろう。

 

 衆院大阪12区の選挙結果について、今回補選と前回2017年総選挙をくらべてみよう。 

        【2019年補選】         【2017年総選挙】

   藤田文武 維新 60,341(38.5%)  北川知克 自前 71,614(45.0%) 

   北川晋平 自新 47,025(30.0%)  藤田文武 維新 64,530(40.6%)

   樽床伸二 無前 35,358(22.6%)  松尾正利 共新 22,858(14.4%)

   宮本岳志 無前 14,027( 8.9%)   合計      159,002( 100%) 

   合計      156,751( 100%)

 

 2017年総選挙の候補者数は3人、2019年補選は4人という違いはあるが、前回総選挙では無名の共産新人候補(地区委員長)が2万2858票、得票率14.4%を獲得しているのに対して、今回補選では現職の国会議員である宮本候補が僅か1万4027票、得票率8.9%しか獲得できなかった。同じ現職の国会議員である樽床候補が相当数の票を獲得した影響があるとはいえ、『赤旗』がいうように「6野党・会派から49人もの国会議員が応援に入った」のであれば、こんな結果になるはずがないからである。

 

 選挙結果は、候補者に対する有権者(投票者)の冷厳な審判の結果である。市民と野党の共闘の旗を高く掲げながら、宮本候補が前回総選挙の共産票から8800票余り(4割弱)も減らして惨敗したことは、その旗が有権者に額面通りには受け入れられなかったことを示すものだ。宮本陣営は、今回補選の戦略として「野党共闘を進め、無党派層でも支持拡大を狙う」としていた。陣営幹部は「無党派層の票が集まらなければ勝ち目はない」と分析しており、陣営内には「野党共闘」や「安倍政権を倒す」だけでは若年層や無党派層に響かないとの意見もあったという(朝日19年4月17日)。だが、無党派層の大半は宮本候補にソッポを向いたのである。

 

 とすれば、今回補選の選挙結果は、無党派層がソッポ向くような「安倍政権打倒」といった宙を舞うようなスローガンだけではダメであり、野党共闘の枠組みを形式的に整えるだけではダメであることをあからさまに示すものと言える。世論動向を鋭く読み、選挙情勢を的確に分析し、有権者の心を掴むような政策や選挙戦術を生み出さないことには選挙に勝てないことがはっきりしたのである。問題は、このような柔軟な政治センスが共産陣営から少なからず失われてしまっていることだろう。上御一人の一言一句に左右され、上から降りてくる指示や政策をそのままコピペして連呼するような画一的スタイルから組織内を支配し、有権者の支持が選挙ごとに低下してきているからだ。

 

 そのことは、統一選挙前半戦の結果(非改選を除く)を見てもよくわかる。道府議選における共産の得票数・得票率は、前回249万9千票(8.4%)から206万1千票(7.5%)へ減少し、議席数は前回111から99へ後退した。政令市議選では、前回の107万4千票(12.9%)から89万7千票(11.0%)へ減少し、議席数は136から115へ後退した。こうした構造的な衰退傾向を形式的な野党共闘で挽回しようとしてもそうはいかない。自らの体質を抜本的に改善しないことには、野党共闘すらもうまくいかないことがはっきりしたのである。

 

選挙は結果がすべてである。目先の野党共闘に前のめりになる余り、政党の思惑で選挙結果を歪曲して「市民と野党の共闘〝展望見えた〟」などと事実と異なる記事をでっちあげてはいけない。こんな編集方針を続ければ、『赤旗』は遠からずして読者の信頼を失うこと間違いなしである。(つづく)

沖縄・大阪衆院補選における自民2敗は〝予定の行動〟だった、大阪維新はなぜかくも強いのか(3)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その151)

 

 統一地方選後半戦と沖縄・大阪衆院補選の結果が出た。統一地方選の結果については何れ論じるとして、今回は沖縄・大阪の2つの衆院補選に的を絞って考えてみたい。選挙結果についての各紙1面の見出しは「衆院補選 自民2敗(完敗)」というもので、いずれもが夏の参院選に対する影響の大きさを伝える内容だった。具体的には「政権『常勝』に陰り」(朝日)、「自民、参院選へ立て直し」(日経)、「自民完敗 参院選に危機感」(産経)、「自公2敗 安倍政権に打撃」(赤旗)など、かなり与党に厳しい論調となっている。

 

 だが、選挙情勢を深読みすると、安倍政権とりわけ首相官邸にとって今回の衆院補選における2敗は〝予定の行動〟だったと言えるのではないか。沖縄は最初から「負ける選挙」と諦め、大阪は敢えて「負ける選挙」だと位置づけていたので、選挙前から「自民2敗」はすでに織り込み済だったのである。自民党関係者が「今回の補選はそれぞれの地域事情に基づくものであり、夏の参院選にはさほど影響しない」と言うのはそのことを指している。

 

沖縄選挙がもはや利益誘導策では勝てないことは、自民といえどもわかっている。あれだけ民意を踏みにじってきたのだから、今さらどんな利益誘導策も通用しない。沖縄県民の誇りが許さないからだ。一方、大阪は少し事情が込み入っている。安倍政権の政治戦略からすれば、維新とりわけ大阪維新は改憲勢力の「盟友」であり、これを潰すことは絶対にできない。まして、安倍首相と菅官房長官は橋下氏や松井氏と酒食を共にする昵懇の間柄であり、個人的にもきわめて親しい関係にある。首相官邸が創価学会幹部と共謀して大阪都構想住民投票に漕ぎつけたのも、政府の総力を挙げて大阪万博の誘致に取り組んだのも、すべては維新を安倍政権の「手駒」として使うためだ。

 

 日本第2の都市大阪で、知事・市長という手駒を自由に使える政治効果は大きい。野党共闘を分断する上でも公明党を手なずける上でも、維新を自家薬籠中の物にしておくことは首相官邸にとって政権維持のための最重要事項といえる。これに比べると、自民の国会議員1人や2人を失うことなど物の数ではない。安倍首相や菅官房長官が大阪ダブル選挙で自民候補の応援に入らず、また衆院補選では「負ける」ことがわかってから首相(だけ)がアリバイ的に応援演説に入ったのは、すべてこの判断に基づいている。

 

 安倍政権にとって、大阪ダブル選挙や衆院補選で維新が息を吹き返し、野党に流れるかもしれない無党派票を食い止めることができればこれに越したことはない。そのためにも夏の参院選の橋頭堡ともいうべき大阪衆院補選で維新が勝利し、その勢いを強めることができれば「何倍もお釣りが返ってくる」と踏んでいるのである。可哀そうだったのは大阪自民だが、なにしろ「弔い合戦」としか言えないような旧い体質のままだから、こんな連中は切り捨てても仕方がないと思われているのだろう。

 

 ところで、大阪衆院補選にはもう一つ大きな問題がある。それは、共産の議席を投げ打って野党共闘候補として出馬した宮本氏が惨敗したことだ。宮本氏の得票数は1万4千票、得票率は9%で候補者4人中の最下位だった。

 

【大阪12区衆院補選確定票数】

        60,341(38.5%) 藤田文武 維新  

        47,025(30.0%) 北川晋平 自新、公明推薦

        35,358(22.6%) 樽床伸二 無前

        14,027( 8.9%) 宮本岳志 無前、共産・自由推薦

        156,751( 100%)

 

 毎日新聞と共同通信社などが共同実施した出口調査によると、宮本候補が惨敗した構図があからさまに浮かび上がってくる。以下はその要約である(毎日、京都19年4月22日)。

(1)大阪衆院補選で投票した有権者の政党支持率は、維新31%、自民27%、公明9%、共産5%、立憲民主4%、無党派層21%などである。ここで注目されるのは野党支持率の驚くべき低さであり、共産と立民を合わせても9%、これに数字としては上がってこない国民や自由を加えてもせいぜい10%余りにしかならない。これでは表向き「野党共闘」を掲げても、有権者にとってはせいぜい「弱小政党の集まり=烏合の衆」程度にしか見られないのではないか。

(2)宮本候補への支持政党別投票率は、共産支持層77%は当然としても、立民支持層27%、無党派層9%とあまりに少ない(国民はゼロ)。立民支持層の大半(57%)は樽床氏に流れ、無党派層は樽床41%、藤田37%、北川14%、宮本9%に分散している。つまり、宮本氏は「野党共闘候補」として位置づけられず、泡沫候補レベルの投票しか獲得できなかったのである。

※朝日新聞の出口調査でも、無党派層の投票先は樽床35%、藤田34%、北川22%、宮本9%とほぼ同じ傾向が出ている。また宮本氏は、「夏の参院選で野党共闘を進めるべきだ」と回答した投票者の中の僅か10%しか支持されていない。つまり野党支持者や無党派層の中の共闘推進派の中で、宮本氏はその代表として認識されていないのである(朝日19年4月22日)。

(3)大阪都構想に対する賛否は、藤田投票者が賛成93%:反対4%(以下同じ)、北川投票者42%:52%、樽床投票者53%:38%、宮本投票者34%:62%である。「大阪都構想の実現で大阪を成長させる」「維新はそのための改革の旗手になる」という維新のアピールが広く有権者に浸透し、宮本投票者の3分の1までが大阪都構想に賛成しているという世論状況が形成されているのである。この世論状況を勘案しないで「大阪都構想反対」一本やりの公約を連呼しても、有権者の耳にはなかなか届かない。大阪を元気にする政策提起をともなわない安倍政権批判や大阪都構想批判だけでは、有権者の心を掴むことができなかった――。このことが、維新圧勝の背景であり、宮本氏惨敗の原因である。

 

 これに対して、沖縄衆院補選では名実ともに野党共闘のレベルを超えた「オール沖縄」の共闘体制ができあがっている。そして「オール沖縄」は、普天間飛行場の辺野古移設に反対という強固な世論によって支えられている。屋良投票者の89%が辺野古移設に反対であり、無党派層の76%、公明支持層の31%、自民支持層の18%が屋良候補に投票している(毎日、同上)。無党派層による屋良候補投票76%と宮本候補9%との間には、「天と地の差」があると言ってもいい。

 

 ところが、2つの衆院補選の結果を受けて立憲民主党の長妻選挙対策委員長は、「自民党の失速を感じている。(今後は)野党共闘を強力に進めていきたい」と語ったという(読売19年4月22日)。また、共産党の志位委員長は「宮本候補を先頭とするたたかいは、今後に生きる大きな財産をつくった」と述べている(赤旗19年4月22日)。大阪衆院補選の惨憺たる結果からどうしてこれほどの能天気な総括ができるのか、その真意はいっこうに分からないが、低迷している野党支持率をそのままにして形式的な野党共闘を組んでも結果は目に見えている。沖縄のように無党派層はおろか保守層の一部までも引き寄せることのできる政策を共有することなしには、夏の参院選はおろか衆参同日選挙にも到底対応することはできないだろう。(つづく)