立憲民主党と共産党の党首合意は「対等平等・相互尊重」の原則からは程遠い、これが〝野党連合政権〟だと言えるのか(その2)、菅内閣と野党共闘の行方(最終回)

 立憲民主党と共産党の党首合意について、メディア各紙の評価が低い原因と背景を考えてみたい。最大の要因は、党首合意に同意した立憲枝野代表に対する政治家としての信頼度が著しく低いことだ。一般的に、枝野氏は「発信力がない、乏しい」などと言われているが、それはコミュニケーション能力の問題ではなく、「言うことが信頼できない」という政治家の本質に関わることなのである。

 

枝野氏はこれまで事あるごとに、共産党と「連立政権は組まない」と明言してきた。共産党との連立など根本的に「考えられない」と言明してきたのである。ただその一方、選挙協力だけは進めると言い、「共有する政策でのパーシャル(部分的)な連携や(衆院選の)候補者一本化に努力したい」とは言っていた。共産に立憲の票を取られたくないので、部分的な政策連携で共産に候補者擁立を断念させ、その票を掠め取ろうとする身勝手極まりない党利党略戦術だ。

 

政権の枠組みについてはこれまで協議に上ったこともなかった。政権交代など「夢のまた夢」でそんなことを考える必要がなかったからだろう。「野党第1党」としての地位だけはとにもかくも確保したい、そのためには「パーシャルな連携」を進めてできるだけ多くの議席を確保する、しかし選挙後は活動の自由を束縛されたくないので政権枠組みの話は一切しない――、これが枝野氏の政治戦略であり、政治ビジョンとされてきた。こんな不当な要求に屈して、事実上の「下駄の雪」になってきたどこかの政党も情けないこと限りない。

 

それが一転して、今回は立憲・共産間で「限定的な閣外からの協力」の党首合意が成立した。菅首相の突然の退陣表明で世論状況がガラリと変わり、枝野氏が描いていたタナボタ式の〝立憲単独過半数〟の夢が一瞬にして崩れたからだ。もともと「保守本流」を自称する枝野氏には、自公政権に代わる政策転換のモチベーションが働かない。「旧自民」に代わる「新保守」の政策は、日米安保体制や天皇制など「国のかたち」を基本的に継承することが使命であり、これに少し改革的な要素を付け加えれば「それでよし」と考えてきたからだ。枝野氏ら少数幹部が政策づくりを独占し、立憲全体の政策論争を許さないのはそのためだ。

 

だが、菅首相の退陣表明を契機に情勢は一変した。自民が総力を挙げて「新政権」づくりを演出するため自民党総裁選挙の大キャンペーンに乗り出し、マスメディアが挙げて支援する一大イベントとなった。自民党内の「コップの嵐」を「巨大台風」並みに仕立て上げ、全国民を巻き込んで次期総選挙に雪崩れ込むという策謀が、見事大成功を収めたのである。この大嵐の中で「野党第1党」の立憲の姿は見えなくなった。そして、枝野代表の姿も見えなくなったのである。

 

慌てたのは、これまで「野党第1党」の座に胡坐をかいていた枝野代表だ。このままでは次期総選挙で立憲は埋没する、今更のごとく「新政策」を打ち上げても自民党の1派閥程度にしか扱われない、怒涛の如く襲い掛かる自民総裁選の前では何を言っても相手にされない――、こんな追い詰められた状況のなかでたどり着いたのが〝党首合意〟だったというわけだ。

 

立憲内部では野党共闘に踏み切らない枝野代表への批判が高まり、このまま枝野氏が既成路線に固執して総選挙で敗北した場合、代表の座を失うとまで言われている。「新保守政党」の設立を目指す枝野氏にとっては、その踏み台としての「立憲」を去ることは避けなければならない。あくまでの代表の座にとどまり、「次の次」あるいは「次の次の次」を狙うためには、その土台を失うわけにはいかないのである。これが、志位委員長が「枝野代表の決断に心から敬意を表する」と皮肉った立憲の内幕であろう。

 

だが、今回の党首合意に関するメディア各紙の評価が低いのはそればかりではない。「限定的な閣外からの協力」が果たして新政権で機能するかどうか、その確信が得られていないからだ。合意第2項では、「立憲民主党と日本共産党は、『新政権』において市民連合と合意した政策を着実に推進するために協力する。その際、日本共産党は合意した政策を実現する範囲での限定的な閣外からの協力とする」となっているが、ここには枝野代表の二重三重の罠が仕掛けられている。次期総選挙で自公政権が勝利することは確実なので、「新政権」は現実の課題にならないこと、また「閣外からの協力」は政権運営のチエックは果たせてもその原動力にはなり得ないからだ。

 

こんなことは、おそらく共産も「百も承知」のことだろう。しかし、共産にも「限定的な閣外からの協力」に応じざるを得ない内部事情がある。それは、志位委員長が「自共対決」から「野党共闘」に舵を切ってから以降も党勢の後退が依然として止まらないことだ。この党勢後退は人口学的な法則に基づくもので、必ずしも政治路線上の誤りを意味するものではない。しかし、1960年から70年代にかけて入党した党員が半世紀後のいま一斉に引退しており、赤旗の死亡欄には連日数名を下らない人たちの経歴が紹介されている。一方、党勢拡大の方は時々報告されるだけでその数も知れている。年間千数百名を下らない党員が死亡しているにもかかわらず、それに見合う新しい党員の拡大は進んでいないのである。

 

共産党には「前衛党」意識がまだ払拭されていない。我こそが日本の革命を担う先進分子であるとの「前衛意識」がその活動を支えているのであろうが、その前衛意識が国内政治勢力の「少数部分」であるにもかかわらず、過大な政治使命(例えば比例投票数800万票目標など)を実現しようとするため政治活動の自由を奪っている。志位委員長を筆頭とする幹部の固定化と高齢化(90歳を越える幹部もいる)、「使命」ばかりを強調されて日々疲労困憊していく高齢党員、共産の周囲にはいまや〝死屍累々〟ともいうべき状況が積みあがってきている。

 

今回の党首合意は、かねてから共産が主張してきた「対等平等」「相互尊重」からは程遠いものだ。しかし、共産がもはや「弱小政党」に過ぎないという現実を見つめなおし、それに見合う自由で活発な政治活動を展開するのであれば、「限定的な閣外からの協力」も党再生の1つのきっかけになるかもしれない。(つづく)

立憲民主党と共産党は「限定的な閣外からの協力」で合意、これが〝野党連合政権〟だと言えるのか(その1)、菅内閣と野党共闘の行方(46)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(271)

2021年10月1日の「しんぶん赤旗」は、1面トップで「政権協力で合意、共産・志位委員長と立民・枝野代表が会談」と大きく報じた。2面でもほぼ全紙を使って、志位委員長の記者会見を特集している。この記者会見の小見出しを拾ってみると、共産党が「限定的な閣外からの協力」をどう評価しているかがわかる仕組みになっている。以下は小見出しとその内容である(要約)。

 

(1)枝野代表から総裁選にのぞむ基本的立場についての提案

 冒頭、枝野代表からどういう形で総選挙に臨むかについて提案があった。その基本的内容は以下の3点である。

 ①次の総裁選において自公政権を倒し、新しい政治を実現する。

 ②立憲民主党と日本共産党は、「新政権」において市民連合と合意した政策を着実に推進するために協力する。その際、日本共産党は合意した政策を実現する範囲での限定的な閣外からの協力とする。

 ③次の総選挙において、両党で候補者を一本化した選挙区については双方の立場や事情の違いを互いに理解・尊重しながら、小選挙区での勝利を目指す。

 

(2)市民と野党の共闘を大きく発展させる画期的な内容

 志位委員長は、この提案に対して「全面的に賛同する」「枝野代表の決断に敬意を表する」と述べ、野党が協力して新しい政権へ向かう大きな一歩を踏み出す合意が得られたことを歓迎し、この合意を力に協力して選挙に勝ち、政権交代を実現し、新しい政権をつくるために全力を挙げると決意表明した。

 

(3)首相指名選挙、臨時国会での予算委開催でも協力を確認

 枝野代表の要請に応じて、共産党は10月4日に行われる首相指名選挙では枝野代表に投票する。臨時国会では本会議での代表質問にとどめず、予算委員会で国政の争点を議論していくことにも賛成する。

 

(4)選挙協力をどのように進めていくのか

 次の総選挙で、両党が候補者一本化で合意した選挙区において勝つために協力するという合意が成立したことは、選挙協力の上でも非常な前進だ。一本化する選挙区を増やしていくための協議にも積極的に取り組んでいく。

 

(5)「新政権」における協力の中身――「市民連合と合意」した政策と具体的に確認

 市民連合と合意した政策にもとづき政治の中身を変えることが一番大事で、協力の形は閣内でも閣外でも構わない。今回は協議の結果、「限定的な閣外協力」ということになった。これで十分に満足している。

 

(6)画期的とはどういう意味か――政権協力の合意ははじめてのこと

 市民連合とは共通政策を「共有して戦い」、その政策を実行する「政権の実現をめざす」ことを合意した。しかし、新政権のもとで日本共産党の協力がどういう形態になるかについての合意はなかった。画期的ということは、日本共産党も協力する新しい政権をめざすことで合意した点にある。

 

(7)「新政権」ができた場合の日本共産党の対応はどうなるのか

 市民連合と合意した政策以外の法案や政策については、党独自の判断にもとづき協力できるものは最大限協力する。

 

(8)候補者の一本化――与野党が競り合っているところを中心に行う

 候補者の一本化については、全ての選挙区で一本化しようというのではなく、与野党が競り合っている選挙区、一本化すれば勝てる選挙区を中心に一本化しようというのが合意だ。

 

(9)今回の党首合意と野党連合政権について

 今回合意された内容は、日本共産党が提唱してきた野党連合政権の一つの形態だと考えている。これまでは立憲民主党に対して政権構想のあり方を明らかにすることが選挙協力の条件だと言ってきたが、今回の党首合意をもって政権協力についての前向きの合意が得られたと考えている。

 

 以上が立憲民主党と日本共産党の党首会談に関する志位委員長の見解だが、次に、メディア各紙(2021年10月1日)がどのように論評しているかを見よう。

読売新聞は、「立共『限定的な閣外協力』、『連合政権』共産取り下げ」との見出しで、「限定的な閣外協力=野党連合政権の共産取り下げ」との見方を示した。

「立憲民主党の枝野代表は30日、共産党の志位委員長と国会内で会談し、次期衆院選で政権交代が実現した場合の枠組みについて、共産は『限定的な閣外協力』とすることなどで合意した。共産は『野党連合政権』の合意要求を事実上取り下げた。『政権を獲得できた場合の共産との枠組みはこれで明確になった』。枝野氏は会談後、記者団を前に胸を張った。(略)共産との協力に対しては、立民の最大の支持団体の連合や、同様に連合の支持を受ける国民民主党が強く反発していた。枝野氏としては、共産党との『連合政権』構想を否定することで、懸念を払拭する思惑がある」

 

産経新聞は、枝野氏の提案は、立民、共産、社民、れいわの4党が「市民連合」と合意した共通政策の実現に協力するのは当然のことにすぎないとして、これを「画期的だ」とする志位委員長の発言を冷ややかに見ている。

「立憲民主党の枝野幸男代表と共産党の志位和夫委員長は30日、国会内で会談し、立民が次期衆院選で政権交代を実現した場合、両党が安全保障関連法廃止を求めるグループ『市民連合』と結んだ共通政策を推進するため、共産が限定的に閣外から協力することで合意した。枝野氏は会談後、国会内で記者団に共産との協力について『限定的』『閣外から』と強調。志位氏は記者団に『政策実現のための協力が合意された意義は大変大きいと考えると(会談で)表明した』と語った」

 

朝日新聞は、「立憲と共産が党首会談、政権枠組み初の合意、あいまいさ残るも折り合い」との見出しで、党首合意が両党の言葉のうえで折り合った妥協の産物であることを示唆している。

「立憲民主党と共産党が9月30日の党首会談で、立憲が衆院選で政権を取った場合、『限定的な閣外からの協力』をめざすことで一致した。『野党共闘』で選挙後の政権の枠組みに関して、野党第1党と共産が合意して戦うのは初めて。ただ、両者の思惑の違いもあり、あいまいな表現で折り合った面もあるようだ。(略)枝野氏は今年6月、連合会長との会談後、『共産党との関係は、理念が違っている部分があるので連立政権は考えていない』と記者団に明言した。立憲の赤松広隆衆院副議長も志位氏らと会談を重ね、『共産がどうしても賛成できない法案もある。《連立与党》ではなく《協力勢力》になり、納得できない法案は党の理念から反対することがあってもいい』など説得。両党幹部が調整し、『限定的』『からの』という言葉を盛り込んで折り合った形だ。ただ、『限定的な閣外からの協力』にはあいまいさも残る。具体的なイメージを問われた枝野氏は『まさに文字通りの合意をさせていただいたということだ』と述べるにとどめた」

 

毎日新聞は今回の党首会談をそれほど大きく取り上げず、見出しも「立憲、共産と連携強化、政権交代時『閣外から協力』」と控えめだ。要するに、今回の党首合意を「連携強化」レベルで見ているということだろう。

「立憲民主党の枝野幸男代表は30日、国会内で共産党の志位和夫委員長と会談し、次期衆院選で政権交代が実現した場合、共産が連立に入らず、『限定的な閣外から協力』をする方針で一致した。自民党の岸田文雄総裁の選出を受け、野党が結束して対抗する狙いがある。両党が将来的な閣外協力で合意するのは初めて。共産は立憲と競合する小選挙区で候補者を取り下げるなど候補者調整を進める方針。立憲はこれまで、共産が連立に入ることはないと説明し、共産は『閣内・閣外協力ともにありうる』と述べるなど、政権交代後の枠組みが不明確だった。立憲の支持団体の連合の神津里季生会長は、共産の閣外協力への反対を表明しているが、枝野30日、『神津氏は、あらゆる法案の事前審査や内閣提出法案への賛成を前提とした狭い意味の閣外協力を言っており、それとはまったく違う』と理解を求めた」

 

 以上、今回の立憲・共産の党首合意に関するメディア各紙の評価は、共産党のまるで「鬼の首でも取った」喜び方に比べて著しく冷めている。なぜ、これほどの落差が生じるのか。次回はその分析をしよう。(つづく)

立憲民主党枝野代表の野党共闘に対する態度は本気なのか、京都1区への対応がその試金石だ、菅内閣と野党共闘の行方(45)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(270)

 今年9月6日の京都新聞は、「衆院選京都1区、独自候補か 野党共闘か、立民、あいまい態度」との見出しで次のように伝えている。

「次期衆院選で野党共闘の成否が注目を集める京都1区で、立憲民主党が独自候補の擁立を巡り、あいまいな態度を続けている。『最終決定権は党本部だが、京都府連などとよく相談して最終的な判断をしないといけない。(候補を)立てないという方針を決めているわけではない』。枝野幸男代表は8月31日の定例記者会見で京都1区の対応を問われ、『白紙』と説明した」

「京都1区は、これまで多くの当選を重ねてきた自民党の伊吹文明元衆院議長が今期限りで引退を表明し、新人で元総務官僚の勝目康氏(47)が議席継承を狙う。日本維新の会も新人の堀場幸子氏(42)が立候補を予定。京都1区初勝利へ意気上がる共産党は、10選を目指す穀田氏を野党統一候補とするよう立民などに求めている」

「小選挙区制となった1996年以降の計8回の衆院選で、京都1区に旧民主党系の候補が立たなかったのは2014年だけ。立民の福山哲郎幹事長(参院京都選挙区)は、旧民主系が非自民・非共産のスタンスで存在感を発揮してきた京都の事情を踏まえ、『共闘は難しい』とするが、独自候補の擁立や野党共闘については言葉を濁す。立民に共闘を呼びかける共産は早期の協議開始を求める」

 

京都1区では、これまで伊吹文明氏が安定した得票で議席を獲得してきたこともあって、共産党の穀田恵二国対委員長(74)=比例近畿=は、常に次点に甘んじてきた。両氏の票差はおよそ2万票余りでそれほど大きな差ではないが、穀田氏はどうしても伊吹氏の厚い壁を破れなかった。それが今回、伊吹氏の引退で大きなチャンスが訪れたというわけだ。ちなみに過去2回の京都1区での得票数は以下の通りである。

    〇第47回衆院選(2014年) 伊吹文明73684票 穀田恵時53353票

    〇第48回衆院選(2017年) 伊吹文明88106票 穀田恵二61938票

 

京都1区のような固定票が大半を占める市内激戦区では、新人候補が大量得票することは極めて難しい。勝目氏が伊吹氏の後継候補であり、伊吹氏が全力を挙げて支援することは間違いないが、それでもこれまで伊吹氏との個人的つながりで投票してきた多くの有権者をそのまま引き留めることはできない。かなりの票が浮動票となり、これを誰が獲得するかが勝負の分かれ目になるとみられている。

 

立憲民主党枝野代表は、菅首相の退任でタナボタの「単独過半数」の夢が消え、目下自民党総裁選の波間でもがいている。今頃になって連日「新政策」を打ち出してももう遅いが、それでも諦めきれないのかメディアに露出することに懸命だ。立憲民主党が自民党総裁選の中に埋没してしまうことへの危機感から、野党共闘に向かって地道な努力を続けることなどは眼中になく(ほったらかしにして)、とにもかくにも立憲民主党が目立つことだけに終始している有様は見苦しいことこの上ない。

 

9月8日に野党共闘に関する政策合意が成立して以来、実質的な選挙協力は全国レベルでは何も進んでいない。それどころか、京都では野党共闘に逆行する動きが強まっている。福山幹事長は、野党共闘の政策合意を誠実に実行しなければならない党の要職にあるにもかかわらず、「京都は共産党と共闘できるような地域情勢ではない」と言い切る有様だ(産経7月30日)。京都は「独立王国」であり、公党間の約束が通用しない「無番地」とでも思っているのであろうか。

 

京都1区での立憲民主党に残された道はただ1つしかない。それは穀田氏を野党統一候補と認めて選挙協力することであり、それがどうしても嫌だというのなら、せめても独自候補の擁立を見送り、自由投票にして実質的に穀田氏を支援することだ。しかし、そうはすんなりといかないところに、謀略が渦巻く「千年の古都・京都」特有の複雑な政治事情がある。ならば、立憲民主党が独自候補の擁立に踏み切った場合のことを考えてみよう。

 

およそ当選の見込みのない立憲民主党の独自候補を擁立することは、自民党勝目氏と共産党穀田氏の一騎打ち戦において穀田票を削ることを意味する。僅差で勝負が決まる接戦において「第3候補」を擁立することは、選挙戦の常識では「敵の回し者」とみられ、この場合は事実上勝目氏の「別働隊」としての役割を果たすことになる。しかし、このことは不思議でもなんでもない。これまでの京都での数多くの選挙では、旧民主系政党が自民など保守系政党と強固な連合軍を組み、共産党の進出を阻んできた長い歴史があるからだ。

 

しかし、「今回は別だ」という見方もある。それは立憲民主党が野党共闘の旗を掲げて衆院選に臨むことを公約している以上、それに反する行動をとったときは公党としての存在意義を疑われることになるからである。枝野代表が「最終決定権は党本部にある」と言っている以上、これ以上のあいまいな態度は許されない。「京都府連などとよく相談して最終的な判断をする」ということになれば、立憲民主党は地域政党の連合体となり、政権政党としての資格を失う。枝野・福山ラインは最終的にどんな決定を下すのだろう。京都の有権者のみならず多くの国民がその決定を見守っている。(つづく)

 

 

「政策協定」はするが「連立政権」は組まない、立憲民主党枝野代表の思惑はいったどこにあるのか(その2)、菅内閣と野党共闘の行方(44)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(269)

 

立憲民主党枝野代表の連立政権否定論の本質は、9月1日の共同通信インタビューや9月9日の日経新聞インタビューにもよくあらわれている。キーワードは「考えられない」という言葉だろう。枝野氏は、共産党との連立政権は「考えられない」と何度も明言している。「考えられない」という言葉を類語辞典で引いてみると、「全くありそうもない」「想像不可能」「あり得ない」「とんでもない」と言った意味が並んでいる。要するに、枝野氏は共産党との連立政権を原理的に否定しているわけで「考える余地はない」というものである。交渉用語でいえば、いわゆる「ゼロ回答」だということだ。

 

意味深長なのは、枝野氏が「考えられない」という言葉に続いて、「この点は共産党も理解いただいていると思う」と言っていることだろう。「と思う」という表現は、枝野氏の個人的意向をあらわすものだが、言わんとするところは「共産党もこの点は分かっているはずだ」ということだ。言い換えれば、連立政権は原理的に無理だから、「いくら言っても無駄ですよ!」と念を押しているのである。これが「最終的には選挙までに説明する」ことの意味であり、政策協定によって「パーシャル(部分的な)な連携」はするが、連立政権は絶対に組まないと宣言しているのである。

 

枝野氏は「本物の保守」「保守本流」だと自称しているように、おそらくは革新勢力とは縁もゆかりもない人物なのだろう。「非自民・非共産」を掲げる日本新党に参加したことが政治家としての出発点だったように、枝野氏の「非共産」は遺伝子レベルの体質であり〝母斑〟と言ってもいい。一方、枝野氏にとって「非自民」は必ずしも「非保守」を意味しない。現在の自民党のような古い体質の「旧保守」は批判の対象になるが、「新保守」に生まれ変われば、明日にでも手を組む相手になると考えているのである。枝野氏自身も最終的には「保守新党」の結成を目指しているように、現在の立憲民主党は「仮の宿」にすぎない。

 

一方、共産党の方はどうか。『AERA』2021年9月13日号に掲載された志位委員長のインタビュー記事の概要は以下の通りだ(AERAdot.9月12日、抜粋)。

――衆院選では、共産党は「野党共闘」を強くアピールしています。特に立憲民主党にはかねて「野党連合政権」を呼び掛けてきました。菅自公政権への批判が国民からこれだけ広がっていたわけですから、野党の姿勢も問われていると思います。

 「わが党は、新自由主義からの転換、気候危機の打開、ジェンダー平等、憲法9条を生かした平和外交、立憲主義の回復などを争点として訴えていきます。他の野党とかなりの部分で方向性は一致すると思います」

── 一致できない部分はどうしますか。特に日米安保条約に関しては共産党は「廃棄」ですが、立憲民主党は「日米同盟を外交の基本」としています。天皇制についても共産党は「天皇制のない民主共和制」を目指し、一方の立憲民主党は「象徴天皇の維持」を掲げています。

 「政党が違うのだから、政策が異なるのは当たり前です。不一致点は共闘には持ち込みません。共闘は一致点を大切にして前進させるという立場を堅持します。天皇の制度については、天皇条項も含め『現憲法の前文をふくむ全条項を守る』ということがわが党の立場であり、この点では一致するでしょう。野党が共通で掲げる政策を大切にしながら、党独自の政策も大いに訴えていく。二段構えで進むというイメージです」

──政権交代をしたら、共産党は連立政権に加わりますか。

「『閣内協力』か『閣外協力』か、どちらもありうると一貫して言ってきました。話しあって決めていけばいいと思っています」

──それにしても、2009年に民主党が野党から与党になった時、ここまで共産党は柔軟な姿勢ではなかったと思います。

 「私たちが変わったことは間違いありません。今までは独自の道をゆくやり方でやっていましたから。しかしそれでは、あまりにひどくなった今の政治に対応できないと考えました。特に15年の安保法制の強行成立は、日本の政治にとって非常に大きな分水嶺でした。憲法9条のもとでは集団的自衛権は行使できないという憲法解釈を一夜にしてひっくり返し、自衛隊を米軍と一緒に海外で戦争できるようにするという、立憲主義の根本からの破壊でした。破壊された立憲主義を回復することは、国政一般の問題とは違う次元の問題として捉え、この年に共闘路線に舵を切ったのです」

──とは言え、立憲民主党は「保守」を自認しています。その保守と「筋金入りのリベラル」の共産党とが共闘を組むのは水と油のようにも映ります。

 「1960年代から70年代の統一戦線は、共産党と社会党の統一戦線、革新統一戦線でした。今回は保守の方々と共産党との共闘が当たり前になっている。これは現政権がまともな保守ともよべない反動政権に堕していることを示していると思います」

──野党共闘で戦う上で不安材料はないのでしょうか。

 「共闘を成功させるには、『対等平等』『相互尊重』が大事だと考えています。今年4月に広島、北海道、長野で行われた国政選挙でも、8月の横浜市長選でも勝利を勝ち取ったことは大きな成果ですが、『対等平等』『相互尊重』は今後の課題となりました。衆院選は、この二つの基本姿勢をしっかり踏まえてこそ一番力ある共闘になるし、成功すると考えています」

──対等平等でもなく相互尊重もされていなかったら、共闘はやめるのでしょうか。

 「そう単純なものじゃありません。ただ、本当に力を出すには『対等平等』『相互尊重』はどうしても必要だということです」

──枝野代表との信頼関係は。

 「私は信頼感を持っています」

 

志位委員長の発言の核心部分を要約すると、以下のような注目すべき内容が浮かび上がる。

(1)2015年の安保法制の強行成立による立憲主義破壊(集団的自衛権は行使できないという憲法9条の解釈変更)を、国政一般の問題とは違う次元の問題として捉え、この年に(自共対決路線から)野党共闘路線に舵を切った。

(2)1960年代から70年代の統一戦線は、共産党と社会党の統一戦線すなわち「革新統一戦線」だったが、今回の野党共闘は反動政権に対する「保革連携戦線」ともいうべきものであり、「保守」を自認する立憲民主党との共闘に違和感はない。

(3)野党共闘を成功させるには「対等平等」「相互尊重」が大事だが、それが無視されたからと言って共闘を止めるほど政治は単純なものではない。枝野代表には信頼感を持っている。

 

志位発言をどう分析するか、残念なことに私にはそれだけの蓄積がない。国民一般(共産党支持者を含めて)の印象から言えば、これだけ立憲民主党にコケにされながら、なぜ共産党はおめおめと付いていくのか――といったことになるが、志位発言がこのような国民の素朴な疑問に対して納得できる回答になっているかどうか、私には判断できないのである。とはいえ、私なりの幾つかの感想を述べれば、次のようなことになる。

(1)2015年の安保法制の強行成立による立憲主義破壊を契機にして「野党共闘路線」に転換したとあるが、すでにそれ以前から「独自の道を行くやり方」(自共対決路線)は国民感覚から遊離しており、破綻していたのではないか。弱小政党の共産党が幾ら自民党批判を試みても国民の共感を呼ぶことができず、政治的実行力を伴わない政治批判は宙を舞うだけだった。

(2)1960年代、70年代の「革新統一戦線」の相手である社会党が消滅したことも大きかった。社会党が「自社さ連立政権」を組むことで革新統一戦線から離脱した結果、国民の前から国政革新勢力の姿が見えなくなった。加えて、革新統一戦線の中核を担った世代の高齢化が進み、その後の世代交代が進まなかったこともあって、共産党が独自で事態を打開していく力も衰えた。小なりといえども共産党が政治的存在感を発揮するには、反動政権に対する「保守連携戦線」を構築する以外に道がなかったのだろう。

(3)野党共闘における「対等平等」「相互尊重」を強調しながらも、立憲民主党がそれを守らなかった場合の対応があいまいなのは、野党共闘から決別した場合の痛手が大きいからだ。この曖昧さは、曖昧な妥協を重ねるしかない弱小政党の共産党の苦しい内部事情を反映している。機関紙「しんぶん赤旗」では、連日悲鳴とも聞こえる読者拡大、党勢拡大の掛け声が続いているが、私の周辺では「もはや身体が動かない」支持者が多数派となっている。こんな旧態依然のやり方では、党勢拡大の掛け声が宙に舞うだけで共産党の再生は難しい。

(4)志位委員長が党首に就任してからはや20年余を数えるが、この間、党首交代は一度も実現していない。そして、日を増すごとに志位委員長の一言で党の方針が決まるような傾向が強まっている(そう見える)。自民党が総裁選で華々しく党首を選んでいるにもかかわらず、共産党は党員や支持者による党首直接選挙を一度も実施していない。これではどちらが国民に「開かれた政党」なのか、一目瞭然ではないか。国民は敏感だ。国民の前で共産党幹部が党首選挙をめぐって論争する――、こんな光景が日常的に展開するようにならなければ、共産党がどんな政策や方針を出しても国民には信頼されない。透明性のあるプロセスのなかで政策や方針が議論され、決定されていくのでなければ国民は政党を信頼しないのである。共産党の政党支持率が数パーセントを越えないのは、このあたりに根本原因があるのではないか。

 (5)野党共闘の「政策合意」を「政権協力」「選挙協力」にステップアップする道は限りなく遠い――、これが私の率直な感想だ。しかし、志位委員長は「枝野代表には信頼感を持っている」のだそうだ。信頼感は個人的な好き嫌いで生まれるものではない。政党間の信頼関係は「約束を守る」という政党間の行動によって担保される。枝野代表が共産党との「連立政権は考えられない」と言っているにもかかわらず、志位委員長が枝野代表に「信頼感」を持つのはいったいどうしてなのか、志位氏はその根拠を示さなければならない。そうでなければ、志位委員長は国民や党支持者には「ウソ」の情報を流したことになり、その政治責任を問われることになる。(つづく)

「政策協定」はするが「連立政権」は組まない、立憲民主党枝野代表の思惑はいったどこにあるのか(その1)、菅内閣と野党共闘の行方(43)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(268)

立憲民主党枝野代表の共産党との連立政権否定論は筋金入りだ。枝野氏は、事あるごとに共産党との「連立政権は組まない」と言明してきた。にもかかわらず、共産党の方は志位委員長が「よく話し合っていきたい」「門戸が閉ざされたと考えていない」などと曖昧な反応を繰り返し、いっこうに態度をはっきりさせない。この背景にはいったいどんな思惑が渦巻いているのか。まずは、枝野発言の流れと共産党の反応をみよう。

 

〇2021年6月17日(朝日デジタル)

 立憲民主党の枝野幸男代表は今年6月17日、最大の支持団体「連合」の幹部会合に出席した席上で、次期衆院選で政権交代を実現した場合でも、共産党とは「(日米安保廃棄や自衛隊解消など)理念に違う部分があり、連立政権は考えていない」と明言した。ただし選挙協力などは進めると言い、「共有する政策でのパーシャル(部分的)な連携や(衆院選の)候補者一本化に努力したい」とした。連合は「共産党の政権入り」に絶対反対の立場で、国民民主党の玉木雄一郎代表も「共産党が入る政権であれば(連立政権に)入れない」と、関係を明確にするよう枝野氏に要求していた。

連合神津会長は記者会見で「連合の立場としては、もともと立憲民主党と共産党との連立政権はないと思っていたが、疑義が生じないように枝野代表があえて踏み込んで明確に発言したことは、積極的に受け止めたい。立憲民主党と国民民主党が連立政権の構想を打ち出すことになれば、多くの有権者の期待に応えうると思う」と述べた。会合では、立憲民主党と国民民主党それに連合の3者で、衆議院選挙に向けた政策協議や候補者調整などを加速させることで一致した。

一方、共産党の志位和夫委員長は、これまで立憲民主党との選挙協力(野党共闘)について、自身が提唱する「野党連合政権」樹立に合意するのが条件という趣旨の発信をしてきたが、17日の記者会見では「よく話し合っていきたい」「門戸が閉ざされたと考えていない」と述べ、野党共闘に含みを残した。

 

〇2021年8月28日(日経電子版)

立憲民主党の枝野幸男代表は8月28日放送のラジオ日本番組で、次期衆院選を巡り「十分に政権が代わる可能性がある」と述べた。同党による情勢調査の結果に触れ「ちゃんと地域で活動している仲間には追い風が間違いなく吹いている」と強調した。立憲民主党を中心とする野党候補の一本化について、全ての小選挙区ではできないと説明し、選挙区のすみ分けなど共産党との事実上の協力体制に関し「地域ごとの事情がある。47都道府県の3分の2くらいはほぼできつつある」と話した。

 

〇2021年9月2日(共同通信)

 立憲民主党の枝野幸男代表は9月1日、共同通信のインタビューに応じ、次期衆院選について「単独過半数の獲得を目指す」と述べ、政権交代の実現に意欲を示した。目指す政権の在り方として「共産党とは日米安全保障条約や天皇制といった長期的に目指す社会像に違いがあり、連立政権は考えられない」と明言。「どういう連携ができるか公示までに具体的に示したい」とした。289ある選挙区での野党共闘について「共産との競合区は約70しかない。200を超える選挙区で野党候補は一本化されており、与野党一騎打ちの構図が事実上できている。既に大きな到達点を越えている」と語った。

 

〇2021年9月9日(朝日、毎日)

 立憲民主、共産、社民、れいわ新選組の野党4党と共闘を支援する市民連合は9月8日、国会内で衆院選に向けた政策に合意した。立憲枝野代表は市民連合に対し、「網羅的かつ重要な政策テーマについて、市民連合のみなさんの尽力によって各党とも共有できたことを大変うれしく思っている」と感謝の言葉を述べた。枝野代表は記者団に「事実上一本化が進んでいるところは加速し、それ以外も努力を重ねていきたい」と述べて候補者調整の加速に意欲を示した。共産が求めている政権構想を含めた政党間合意についても「選挙が始まるまでには必ず皆さんに安心してもらえる形をお示しできる」と自信を見せた。

 共産の志位委員長は、「この政策を高く掲げ、結束して選挙を戦い、選挙に勝ち、新しい政権をつくるために頑張りぬくことを約束したい」と調印式で力を込めた。この後、次期衆院選の方針を決める党中央委員会総会で、志位氏は「政党間の協議を速やかに行い、政権協力、選挙協力について前向きの合意を作り上げ、本気の共闘の体制をつくる」「政権を争う総選挙で選挙協力を行う以上、政権協力についての合意は不可欠だ」と演説した。

 

〇2021年9月10日(日経電子版)

立憲民主党の枝野幸男代表は9月9日、日本経済新聞のインタビューにおいて、次期衆院選で勝利した場合、共産党と連立政権を組む可能性について「考えられない」と再び否定した。以下は、具体的な発言内容である。

「(問)15日に新しい立憲民主党が誕生して1年になります。(枝野)次期衆院選の候補者の数が小選挙区で210強とほぼ過半数になった。比例代表まで合わせれば間違いなく総定数(465議席)の半分の候補者を立てられる状況になった。合流と時間の効果だ」

「(問)衆院選に勝利した場合、共産党との関係はどうなりますか。(枝野)連立政権は考えられない。この点は共産党も理解いただいていると思う。最終的には選挙までに説明する」

「(問)立民が衆院選で勝っても衆参で多数派の異なる『ねじれ国会』になります。(枝野)ねじれ国会は私自身が官房長官として経験した。ねじれの現実を踏まえ、想定しながら政権政策も作っている」

 

枝野発言の一連の流れをたどると、9月1日の共同通信インタビューまでは、枝野氏は衆院選で立憲が「単独過半数」を取れると本気で考えていたことがわかる。8月28日のラジオ番組で党独自の情勢調査分析を示し、情勢が極めて有利に展開していることを誇示していたからだ。菅政権の失政続きで内閣支持率が20%台に落ち込み、このまま衆院選に突入すれば野党第一党の立憲に票が自動的に集まると確信していたのである。

 

しかし、菅首相が9月3日、突如退陣を表明したことで情勢はガラリと変わった。菅政権の「敵失」で議席を伸ばそうとする枝野氏の戦略が根元から崩れた瞬間だった。朝日新聞(9月8日)は、その背景を次のように分析している。

――4日前に菅首相が自民党総裁選への不出馬を表明し、自民党総裁選一色の報道になり、党内では動揺が広がっている。立憲幹部の一人は「自民党が河野太郎首相、石破茂幹事長になったら、発信力のない枝野氏では全く太刀打ちできない。立憲は壊滅だ」と危機感を募らせる。若手からも「『次の内閣』(ネキストキャビネット)をつくり、党執行部に新しい人を入れないとまずい」と「刷新」を求める声が上がる。

――立憲は昨年9月、国民民主党の一部と合流して衆参約150人規模の政党になったが、直近の朝日新聞の世論調査でも政党支持率は6%と低迷している。枝野氏はこれまで、「日本のバイデンをめざす」と周囲に語ってきた。昨年の米大統領選挙で民主党のバイデン氏が共和党のトランプ大統領(当時)を破ったのは、「バイデン人気」ではなく、「トランプ不人気」という見立てからだ。コロナ対策で国民から批判を受ける菅政権の「敵失」を待ち続け、「批判の受け皿」となって立憲の議席数を伸ばすという戦略を描いてきた。枝野氏は、国民に向けて政権を取ったら何をするのか、というビジョンや政策を丁寧に説明してきたとは言いがたい。

――選挙を控えた衆院議員の秘書はこうこぼす。「枝野氏はこれまで『待ち』の戦略で曲りなりにうまくやってきたが、菅氏の退陣ですべてが逆回転している。自民党総裁選で政策的にも埋没していくだろう。一気に右往左往している感じだ。

 

この分析は的を射ている。立憲民主党が衆参約150人の議員を擁する野党第一党になったことで胡坐(あぐら)をかき、枝野氏らが菅政権の「敵失」でやがて政権が転がり込むとの甘い夢に浸っていた情景が活写されている。枝野氏の傲慢ともいえる言動はその象徴であり、野党共闘に対する不誠実極まりない対応もそのあらわれであろう。だが、事態は変わり、枝野氏も野党間の政策協定に応じざるを得なくなった。それでも枝野氏の連立政権否定論は変わらない。なぜかくも枝野氏は頑なに連立政権を拒むのか、次回はその意図について考えてみたい。(つづく)

安部政治のコピーでは日本は救われない、自民党総裁選の候補者は「拡大コピー」(高市早苗)と「縮小コピー」(岸田文雄、河野太郎)ばかりだ、菅内閣と野党共闘の行方(42)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(267)

 「菅おろし」が一段落したと思ったら、今度は自民党総裁選の前宣伝が始まった。テレビ各社は総裁選に名乗りを上げた候補者を連日露出させ、これでもかこれでもかとばかり退屈な画像を流し続けている。最近ではもう言うことがなくなったのか、同じことを二度三度繰り返すようになった。そのうち飽きられて視聴率も激減することだろう。

 

 それにしても一から十まで安倍前首相のお膳立てで出馬した高市氏は、「国の究極の使命は国民の生命と財産を守り抜くこと。領土、領海、領空、資源を守り抜くこと。そして国家の主権と名誉を守り抜くことだ」と(戦闘)右翼丸出しの勇ましい決意表明となった。安部政治の「拡大コピー」を標榜することで、自民右派票を総ざらえする魂胆だ。掲げた政策も、軍事予算拡大、敵基地攻撃を可能にするための法改正など、憲法9条などまるで眼中にない進撃ぶりだ。無人機や極超音速兵器の登場に危機感を示し、「迅速に敵基地を無力化するということを早くできた国が、自分の国を守れると思う。安倍内閣では敵基地先制攻撃と呼ばれていたが、私は迅速な敵基地の無力化と呼ぶ。これをするためにも法整備が必要だ」とまで踏み込んでいる(各紙9月9日)。

 

勇ましい安保・防衛政策に比べて、高市氏の経済政策は貧弱の一言に尽きる。実態は失敗続きのアベノミクスの名前を変えただけで(サナエノミクス?)、表紙を変えれば景気浮揚が図れるとでも思っているらしい。経済音痴もいいところだが、豪華政策はズラリと並んでいる「選択制夫婦別姓制度反対」「男系天皇制死守」「靖国神社参拝」など戦前復古型の保守政策だ。一方では、国際情勢の変化を強調して軍事費増大や兵器近代化などを叫びながら、他方では世界的なジェンダーフリーの流れなどは無視して戦前からの家族制度を死守するというのだから、ご都合主義も甚だしい。要するに、この人物は安倍前首相の影響力を維持するためのマシーンの1つに過ぎないのである。

 

 高市氏の出馬で慌てたのが岸田氏だ。安倍前首相にただひたすら従うことで政権移譲を期待してきた岸田氏は、「トンビに油揚げをさらわれる」事態に直面して目下右往左往している。当初は「新自由主義経済政策の再検討」などと耳障りのいいことを言っていたが、アベノミクスのどこをどう変えるのか――具体的なことは何一つ言わないのでいっこうに人気が出ない。それに、安部政治のアキレス腱である「森友・桜の会」については、当初は国民が求めれば説明が必要だと言明していたにもかかわらず、安倍前首相が高市氏を担ぎ出すと、今度は「再調査はしない」と突如態度を豹変させた。国民の声には耳を傾けず、権力欲しさに安倍前首相にゴマをするだけの小心者ではないか――、岸田氏にはいま、こんな風評が広まっている。

 

これまでの政治経験によれば、新政権は前政権の批判の上に成り立つものと相場が決まっている。前政権に問題がなければ政権交代の必要もなければ、新政権の出番もない。菅首相が退陣表明をしたのは、自らも片棒を担いできた安部政治に対する国民の批判に耐えられなくなったためであり、コロナ対策の不備だけではないだろう。安倍前首相が「持病」を理由に政権を投げ出し、後始末をまかされた菅暫定政権は安倍政権とは一心同体であり、安部政治を批判することは「天に唾(つば)する」ことになるので不可能だった。菅政権は安倍政権を継承するだけで一切の批判を許されず、退場する以外に道がなかったのである。

 

安倍政権を正面から批判できない岸田氏は、今後どのような戦略で総裁選に臨むのか見当がつかない。保守右派の高市氏には付いていけない保守層をまとめるだけでは当選の道はおぼつかない。安部政治の「縮小コピー」路線では、自民保守派の支持を得ることもできないし、国民世論の支持を得ることもできない。安倍前首相に対して果たして「反旗」を翻すことができるのか、それともこのまま野垂れ死にするのか、岸田氏の選択肢は限られている。

 

一方、何に対しての「実行力」か「突破力」かわからないが、それが〝持ち前〟だとされてきた河野氏はどうか。河野氏は9月10日、総裁選への出馬を表明した記者会見の席上で、「脱原発」や「女性・女系天皇の検討」などこれまでの持論を封印して次のように述べた。エネルギー政策については、「将来原発ゼロにするにしてもカーボンニュートラル政策を実行するためには、安全が確認された原発の再稼働が現実的だ」との認識を示し、皇位継承問題に関しては「日本を日本たらしめているのは、長い歴史と文化に裏付けられた皇室と日本語だ。そういうものに何かを加えるのが保守主義だ」とわけのわからない言葉を並べ、「現皇室で男系を維持していくにはかなりのリスクがあると言わざるを得ない(女性・女系天皇の検討が必要)」(2020年8月)との考えを撤回した。おまけに、森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざん問題の再調査に関しては、「必要ない」と否定するサービスぶりだ(毎日9月11日)。

 

どうやら、「原発再稼働容認」「女性・女系天皇否定」「森友問題再調査拒否」が安倍前首相の支持を得るための三本柱らしい。河野氏がこれまで「改革者」としての実行力や突破力を売り物にしてきたのは、これらの問題について(多少なりとも)改革方向の発言をしてきたからだ。だが今となっては、それらは総裁選に勝つ見込みのない時代のデモンストレーションでありパフォーマンスに過ぎなかったことが明らかになった。河野氏にとっては、それらは権力の座が近くなればいとも簡単に投げ捨ててしまう「キャッチコピー」の類にすぎないのだろう。河野氏もまた、安部政治の「縮小コピー」(現実主義者)となったのである。

 

日経新聞は菅首相の退陣表明を受けて9月9~11日、緊急世論調査を実施した。自民党総裁に「ふさわしい人」(自民党の政治家10人から1人だけの選択)は、河野27%、石破17%、岸田14%、高市7%の順番だった。次の自民党総裁に求める資質(8つの選択肢から複数回答)は、「国民への説明能力がある」51%、「指導力がある」49%、「国際感覚がある」32%、「人柄が信頼できる」「政策に理解がある」が26%だった。上位2回答はいずれも菅首相に欠けていたものであり、国民世論は次の指導者に菅首相とは対照的な資質を求めていることがわかる。高市、岸田、河野3候補がいずれも安部政治のコピーにすぎないことが分かったとき、国民世論はいったいどんな反応を示すのだろうか。

 

日経世論調査のなかで、私が最も注目したのは次期衆院選で投票したい政党についての結果だった。首位は自民党53%(前回8月調査から10ポイント上昇)、2位は立憲民主党12%(2ポイント減)、3位は共産党5%(1ポイント減)、4位は日本維新の会4%(2ポイント減)だった。自民党総裁選の前宣伝は次期衆院選の「事前運動」として着実に効果を挙げている。これに対して立憲民主党など野党各党の方は悲惨だ(日経9月12日)。

 

枝野立憲民主党代表は9月9日、市民と野党共闘の政策協定を結んだばかりの翌日、日経新聞の単独インタビューに応じ、次期衆院選で勝利した場合、共産党との関係について「連立政権は考えられない。この点は共産党も理解いただいていると思う。最終的には選挙までに説明する」と明確に否定した(日経9月11日)。共産党の方は政策協定を「本物の政権協力」につなげると息巻いているが、その谷間は底知れず深い。枝野氏の思惑はいったいどこにあるのか、次回はその意図について考えてみたい。(つづく)

最後の最後まで「わけのわからない」首相だった、退陣理由も意味不明なら、コロナ対策への「専念」を「せんにん」としか読めない情景も哀れだった、菅内閣と野党共闘の行方(41)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(266)

 昨日9月3日、菅首相が突如、自民総裁選に出馬しないと表明した。咄嗟に四面楚歌、八方塞がり、雪隠詰め...などの四文字熟語が頭に浮かんだが、その退陣理由を聞いてさらに驚いた。「コロナ対策に『せんにん(専念)』したいので退陣する」というのである。新型コロナ対策は、世界の専門家の誰もが「長期戦」になると言明している。WHO(世界保健機関)もCDC(米疾病対策センター)も、これまでに経験したことのないようなパンデミック(世界的大流行)だと認識しているからだ。

 

 しかし、菅氏の言い分は「総裁選に莫大なエネルギーを必要とするので、出馬するとコロナ対策が疎かになる(両立しない)」「国民への公約を果たすため、コロナ対策に専念する」というものだ。新型コロナがこの1ヶ月で収束する見通しがあるのであればまだしも、9月明けの緊急事態宣言解除の見通しもないなかで「コロナ対策に専念する」といっても国民には何のことかさっぱりわからない。菅氏が自民総裁選への出馬を止め、首相の座から退いても新型コロナをめぐる感染状況は何も変わらないからだ。こんな意味不明の理由で退陣表明する菅氏の頭の構造はいったいどうなっているのか、いつもテレビ出演している「脳科学者」に聞いてみたいものだ。

 

 メディアはこれから自民総裁選一色に染まるだろう。情報もなく政局分析もできない私には、その報道の行方を見守る以外に術(すべ)がない。ただし、申し訳程度に出てくる枝野立憲民主党代表などの野党の動きに関しては、少しばかりコメントしなければならないと思う。自公政治を倒して「政権交代」を実現することが野党共闘の大義名分だったからであり、この政変に臨んで野党各党がどのような戦略戦術で対応するかが注目されるからだ。

 

 日頃から意見交換している神戸のジャーナリストが昨夜、こんなメールを送ってきた。

「それにしても、一番驚いたのは枝野や共産党ではないでしょうか。『敵失選挙』による『勝利』を見込んでいたのが崩れ、総裁選後の『ご祝儀相場』の支持率で選挙になり、選挙結果は様変わりでしょう。まあ野党惨敗とはいかないまでも、河野や大穴の石破で自民が意外と持ち直し、野党の目論見が崩れるのは必至でしょう。この1年、無策の政権が感染爆発をもたらし、亡くなった人や後遺症を引きずる人たち、廃業、失業、貧困のどん底に押しやられた人たちが犠牲になりました。 せめて家族や遺族、150万を超える罹患者は、その恨みの一票を投じることになりませんかね」

 

 全く同感だ。菅退陣など予想もできなかった枝野代表は9月1日、共同通信のインタビューに応じ、次のように語っていた。重要な発言なので、共同通信の配信記事をそのまま再掲しよう(共同9月1日)。

「(枝野代表は)次期衆院選について『単独過半数の獲得を目指す』と述べ、政権交代の実現に意欲を示した。目指す政権の在り方として『共産党とは日米安全保障条約や天皇制といった長期的に目指す社会像に違いがあり、連立政権は考えられない』と明言。『どういう連携ができるか公示までに具体的に示したい』とした。289ある小選挙区での野党共闘について『共産との競合区は約70しかない。200を超える選挙区で野党候補は一本化されており、与野党一騎打ちの構図が事実上できている。既に大きな到達点を越えている』と語った」

 

 ここで枝野氏が言っていることは、共産党との間におけるこれまでの野党共闘の話し合いや取り決めをすべて〝ご破算〟にするということだ。立憲民主党が単独で過半数を目指すのであれば、そもそも選挙協力の必要もなければ、政策協定の必要もない。すでに200を超える選挙区で野党候補(国民民主党など)が一本化されているので、与野党一騎打ちの構図はすでに出来上がっている。共産党との競合区70などは問題にならず、それぞれの選挙区の情勢に応じて水面下の裏取引をすればいいというのである。枝野氏は菅内閣の継続を前提に政局を読み、立憲民主党の「単独過半数」も不可能ではないとの見通しの下で、本性をあらわして強気に出たのである。

 

 これに対して、共産党は依然として沈黙を強いられている。志位委員長が百年一日のごとく「政権交代」の必要性を声高に叫んでいるだけで、枝野発言に対しては一言も反論していない。しかし、情勢は激変している。それは自民党内部のことだけではなく、野党各陣営の間でも情勢は激変したことを意味する。自民内部の政変はもはや「コップの中の嵐」などではなく、野党間も含めて「バケツの水をぶちまける」ような台風並みの大嵐になったと考えなければならない。

 

野党各党はこの期に及んでいかに戦うのか。これまで「市民と野党の共闘」に真摯に努力してきた人たちを含めて、心ある国民の多くが注目している。野党のふりをしながら「保守新党」を目指すような政党は「化けの皮」が剝がれてもいい。いまこそ「本物の革新」をめざす野党がイニシアティブを取るべき時なのである。(つづく)