保守層取り込みを目指す立憲民主党の参院選公約は成功するか、岸田内閣と野党共闘(その18)

参院選が近づくにつれて、全国注目の京都選挙区では最近、各党の宣伝カーがしきりに走るようになった。私が住む衆院選京都3区(京都市伏見区)では、昨年の衆院選で共産が不可解にも候補擁立を見送り、立憲の泉健太氏が楽々と当選した。聞けば、京都1区での立憲の候補擁立の見送りと引き換えに、共産が一方的に候補を降ろして選挙協力したと噂されている。「裏取引」か「バーター取引」か知らないが、こんな水面下の不透明な政治取引は許せないとして、多くの有権者が棄権した(私もその1人)。泉健太氏がとても「野党統一候補」にふさわしい人物だとは見なされていなかったからである。

 

ところがその後、泉氏は立憲代表に選出されることになり、京都3区の有権者は「立憲にはそれほど人材がいないのか!」と呆れかえった。可もなく不可もなく、個性もオーラもない政治リーダーとしては最も不向きの人物が「野党第1党」の党首になったのだから、みんなが驚いたのも無理はない。泉氏が立憲代表に就任してから半年、地元の京都新聞は「生活者目線も党内不安、立民・泉氏 代表就任半年」「政策立案型アピール 支持率伸び悩み」と題する記事を掲載した(5月31日、要約)。

――立憲民主党の泉健太代表は、昨年11月の代表就任から30日で半年となった。「政策立案型政党」を打ち出し、夏に迫る参院選に向け党勢回復を目指す姿勢をアピールしてきた。ただ政党支持率は伸び悩んだまま、党内からは「野党は政策で支持を伸ばすのは難しい」(改選の参院議員)との不安が漏れる。岸田文雄首相と対決した26日の衆院予算委員会では、生活安全保障を前面に押し出し、生活者目線を大切にする姿勢を際立たせようと腐心した。だが党ベテランは「政権を追求する視点が不足している」と不満を吐露する。

――21,22日両日の世論調査で立民の支持率は8・7%、就任直後の昨年12月の11・6%から減らし、上昇気流はつかめていない。参院選改選1人区で立民が共産、国民民主両党に呼びかける候補者調整も難航中だ。党中堅は「決戦は近づくが、等に勢いが感じられない」と危機感を募らせる。

 

今国会は6月15日で会期末を終えるが、6月1日の衆院予算委員会の集中審議では、野党は対立軸を示そうと岸田文雄首相を追求した(朝日新聞6月2日、要約)。

――昨秋の衆院選敗北後、泉氏は「『批判ばかり』のイメージの転換」を訴えて代表に就任。国会論戦も「提案型」を掲げて臨んだが、党内でも「考えがよく見えない」「埋没している」などの指摘が相次いだ。今国会は野党第1党として存在感を発揮できず、岸田政権の高支持率を許してきた。その泉氏が5月26日の衆院予算委員会に続き、質問に立ったのは「焦りの裏返し」(中堅)でもある。党国会対策委員会幹部によると、泉氏が「再登板」を申し出たという。参院選前の最後の「党首対決」となる可能性が高く、政権との対決姿勢を打ち出すのに腐心した。

 

それにしても、5月3日の憲法記念日に公表された朝日新聞の大型世論調査(全国有権者3000人を対象にした3月15日~4月25日の郵送法による調査、有効回収率は63%)では、注目すべき結果が出ている。

(1)今夏参院選の比例区投票先を昨秋の衆院選比例区の投票先と比較すると、自民43%(昨秋衆院選)→43%(今夏参院選、以下同じ),立憲17%→14%、維新6%→17%、公明5%→5%、国民3%→3%、共産5%→4%などとなって、維新の勢いが増している。

(2)立憲が今夏の参院選で共産との選挙協力を進めるべきかについては、「進めるべきだ」24%、「進めるべきではない」62%と大差がついた。立憲支持層でも「進めるべきだ」32%、「進めるべきではない」60%と、ほぼ同様の結果だった。無党派層では26%対53%で、「進めるべきではない」が多かった。

 

こんな世論動向に押されたのか、立憲は6月3日、今夏の参院選の「右寄り」の選挙公約を発表した。翌日6月4日の朝日新聞は「立憲公約 防衛力を強調」「『鬼門』の安全保障 路線転換」、毎日新聞は「保守層取り込み 未知数」「立憲公約『生活安保』党内不満も」との見出しで、その特徴を解説している(要約)。

 

《朝日新聞》

――立憲民主党は3日、参院選の公約を発表した。公約の柱で「着実な安全保障」を掲げ、ウクライナ情勢で関心が高まる防衛力の整備を強調。これまで主張してきた安全保障法制の「違憲部分の廃止」は公約の末尾で触れるにとどまった。立憲は昨年の衆院選で敗北。従来路線からの転換を図る泉健太代表の意向が反映された形だ。

――安全保障分野は党内で立ち位置が幅広く、防衛力強化に慎重な議員も多い。こうした中、防衛費についても、泉氏は会見で「真に必要な防衛力を整備する結果、当然増えることもある」と踏み込んだ。一方、「野党共闘」の原点だった安保法制の「違憲部分の廃止」は、公約末尾の「主な政策提言」に小さく盛り込むだけとなった。小川淳也政調会長は「国防の充実、強化に矛盾するととられかねず、わざわざ重点政策に掲げることは控えた」と明かす。「鬼門」(党関係者)とされてきた安全保障で、これまでの姿勢からの転換を図る背景には、参院選を控え「保守層の票を取らないと勝てない」(中堅)との思いがある。

 

《毎日新聞》

 ――立憲民主党が3日に発表した参院選公約は、生活目線から政権と対峙する姿勢を強調する一方、物価高騰対策や防衛体制の整備に重点をおき、キャッチフレーズ「生活安全保障」を前面に出して保守層の取り込みを狙うものだ。ただし、作成過程では党内のリベラル系議員から異論も出ており、泉健太代表のもとでの初の大規模国政選挙で、公約をどれだけ浸透させられるかは未知数だ。

 ――こうした主張の背景には、2021年衆院選で保守層への浸透が不十分だったとの反省がある。立憲には旧希望の党から旧国民民主党を経て多くの議員が合流したが、旧立憲が17年の衆院選比例代表で獲得した票(約1100万票)から40万票しか増やせなかった。旧希望は17年衆院選比例代表で約970万票を獲得しており、立憲幹部は「参院選で票を増やすためには旧希望の票を取りに行かないといけない。保守層にウイングを伸ばすのは当然だ」と公約の狙いを解説する。

 

 しかし立憲の支持率は、政策を「右寄り」にすれば伸びるというものではあるまい。政策を「右寄り」にすればするほど与党と変わらなくなり、ますます野党としての存在感を失うことになる。それを象徴するのが、泉代表の主張する「提案型政策」「提案型政党」の体たらくだ。今日6月5日の朝日新聞は、「注目の京都 早くも論戦」「立憲の『牙城』、維新が攻勢『最重点区』」「自民・共産も党首級が続々」と伝えた。

 ――参院選の公示日が有力視される22日が約半月後に迫り、各党が重視する京都選挙区(改選数2)で4日、党幹部らによる論戦が事実上始まった。同選挙区は自民党新顔、立憲民主党現職、共産党新顔に加え、国民民主党の推す日本維新の会新顔らが立候補する予定で激戦が予想される。国民の前原誠司選対委員長(衆院京都2区)が、維新の擁立する楠井裕子氏と並び、「勝たせていただきたい」と訴えた。「維新と改革のスピリットを共有しながら日本を変えたいと思っていた」とも述べた。

 ――維新は昨秋の衆院選で躍進し、参院選で17選挙区に18人を擁立する予定。中でも衆院選で一定の比例票を獲得した大阪、京都、兵庫、東京、神奈川、愛知を最重点区に指定。特に「最最最最最重点選挙区」(藤田文武幹事長)として京都に力を入れる。維新幹部は「全国的に『維新は大阪の政党』というイメージがいまだに強い。京都で立憲を破って当選する意味は、1議席以上に大きい」と語る

 

 事実、京都3区の東山区や左京区を歩くと、至る所に維新候補と前原氏のツーショットポスターが貼られている。立憲の要職(幹事長)を長年務めてきた福山氏がもし敗れるようなことがあれば、地元の泉健太代表(衆院京都3区)にとっても執行部の責任問題に直結する。昨日も今日も福山・泉の立憲宣伝カーが市内を走り回っているのは、その危機感を物語っている。果たして、立憲の保守票狙いの「右寄り」の選挙公約が成功するのか、それとも野党としての存在感を失った立憲が維新や国民との狭間に埋没するのか、参院選の結果が待たれる。(つづく)

参院選公示まで1カ月、自民にすり寄る国民民主、分裂を促進する連合、進まぬ野党共闘、岸田内閣と野党共闘(その17)

2020年参院選公示まで1カ月、日経新聞(5月22日)は「1人区、野党競合3分の2」「調整不調、維新も台頭」との見出しのもとに、次のような情勢を伝えた。

――参院選の公示日となる見通しの6月22日まで1カ月に迫った。全国32ある改選定数1の「1人区」のおよそ3分の2で複数の野党系候補が出馬する見通しだ。1人区全てで野党候補が競合しなかった2019年の前回選挙までと状況が変わった。

 

5月21日時点の日経新聞の集計によると、複数の野党系候補が競合しているのは21選挙区(うち3選挙区は立民・国民がともに公認候補擁立)、競合していないのは11選挙区(うち2選挙区は共産のみ)となっている。競合区が多いのは、立憲民主、共産、国民民主の間で候補者調整が進まなかったこと、維新が7人の候補を擁立していること(前回はゼロ)、などである。

 

野党系候補は1人区で2016年は11勝、2019年は10勝を挙げたが、今回はこれらの選挙区でも競合する選挙区が多い。2019年に勝利した10選挙区のうち6選挙区で競合。前回、前々回ともに野党が半数以上の選挙区を制した東北地方でも、宮城、秋田、山形では競合する見込みだという(日経新聞5月22日)。

 

本予算で賛成票を投じ、補正予算でも賛成予定の国民民主は、いまや〝与党寄り路線〟へまっしぐらというところだ。5月20日に発表した選挙公約でも、総合的な安全保障政策を推進するとして、「自分の国は自分で守る」項目には、「自衛のための打撃力(反撃力)の整備」「専守防衛に徹しつつ、必要な防衛費を増額」「安全基準を満たした原発の再稼働および次世代炉への建て替え」など、自民の公約かと見紛うような軍備・エネルギー増強政策の満載だ(毎日新聞5月21日)。

 

「与党寄り」の政治行動を繰り返し、自公連立政権入りを模索しているのではとの憶測も呼ぶ国民民主党・玉木代表は、朝日新聞のインタビューに対して次のように語っている(5月12日)。

――昨秋の衆院選を機に、国民民主の動きが変わった。

「対決より解決」を訴えて議席を増やした。解決策を求める民意が野党にも向けられていると強く実感した。その民意に沿う判断として政府予算に賛成した。

――野党の立場と言いつつ与党と連携するのは、有権者も理解しにくいのでは。

そこは発想を変えてほしい。有権者は「与党・野党」で政党を選ばなくなっていると思う。有権者は与党か野党ではなく、「何をやろうとしているのか」に関心が向いている。政権交代の可能性が低いなかで、訴えるべきことは「政策実現のリアル」。野党第1党は色々言うが、何も実現していない。スピード感をもって具体的な成果を示していかないと、既存の支援者さえつなぎとめることができない。

――野党が一つの塊となって、選挙で与党に挑むべきという考えもある。

野党が一緒になって選挙に勝てるのであればいいが、勝てないのに一緒になっても有権者から選択肢を奪うだけだ。戦術的な連携は否定しないが、どれほどそんな選挙区があるのか疑問だ。

 

 ここまで国民民主の与党寄り路線がはっきりしてくると、さすがの連合も立憲民主との候補者調整は諦めざるを得ない。というよりは、立憲民主を国民民主の側の労使協調路線に引き寄せ、自民とも仲良くやっていくというのが連合の基本姿勢だから、5月19日の中央執行委員会は、立憲民主、国民民主両党の候補者が改選数1の「1人区」(32選挙区)では、「比例票の底上げを念頭に、1人区で両党の候補者を支持・支援するとの(地方組織の)判断を理解する」と明記し、両党の競合を容認することを決定したのである(毎日新聞5月20日)。

 

要するにこのことは、連合にとっては立憲民主と国民民主の政策の違いなどはどうでもよく、自民とさえ仲良くやっていれば大企業労組の利益を維持できるとの思惑を露骨に示すものだ。国民民主を先遣隊として立憲民主も労使協調路線に引きずり込み、政治的には「対決より解決」のスローガンの下に野党を無力化して翼賛体制を完成させる――これが連合に与えられた政治的役割であり、その操り人形として起用されたのが芳野会長だったというわけだ。

 

一方、立憲民主と共産の関係はどうなっているのか。両党は5月9日、全国32の1人区で野党候補の勝利が見込まれる選挙区を優先して候補者調整を進める方針を確認したが、各党首が署名する形での「政策合意」は見送られることになったという(各紙5月10日)。しかし、これでは「野党共闘」は単なる〝口約束〟でしかないことになり、有権者には「野党共闘はこの程度のものか」との印象を与えることになる。

 

京都選挙区(改選数2)の激戦を伝えた共産の機関紙赤旗(5月12日)は、京都選挙区での国民民主と維新の選挙協力を、「『非自民・非共産』や改憲など『共通の価値観』は強調するものの、政策協定などは交わさないとしており、『野合』そのものです」と批判している。しかし、その直前の5月9日の立憲民主と共産の話し合いにおいて、党首署名の政策協定が見送られたことについては一言も触れていない。これは明白なダブルスタンダードであり、「天に唾する」行為だと思われても仕方がない。

 

昨年9月8日、総選挙を前に市民連合と立憲民主、共産、社会民主、れいわ各党の党首が一堂に会して野党共通政策に合意し、署名調印した。共産はこの選挙を「党の歴史で初めて、政権交代、新しい政権の実現に挑戦する選挙」と位置づけ、全党に決起を呼び掛けた(赤旗2021年9月9日)。それから1年も経たない現在、「野党共闘」は立憲民主と共産の単なる〝口約束〟に化してしまったのである。その彼我の差は余りにも大きく、有権者は付いていけず激しい政治不信に陥っている。この間の事情を丁寧に説明することなく、百年一日の如く票集めに駆り立てるだけの野党各党は、昨年総選挙にも増して厳しい有権者の審判を受けることになる。(つづく)

毎日新聞連載記事〝労組分断〟が明らかにしたもの、「女性」「中小企業」「高卒」がトレードマークの芳野友子連合会長の役割と行き着く先、岸田内閣と野党共闘(その16)

 マスメディアの注目を一身に集めた連合初の女性会長、芳野友子氏の素顔が次第に明らかになってきている。毎日新聞の大型連載記事(5月4~7日)〝労組分断〟は、大手紙では初めて本格的な調査報道に基づく政治記事であり、芳野氏が起用された背景とその後の行動を詳しく分析している。なかでも印象的なのは、連合の歴史に詳しい労働問題の専門家、高木郁郎日本女子大名誉教授の発言だろう(連載第4回)。

 

高木氏は、「昨秋、連合の会長に芳野友子氏が選出された時、どんな印象を抱きましたか」とのインタビューに答えて、こんな発言をしている。

――期待がありました。初の女性、初の中小企業を中心とした産業別組合の出身です。事務局長に選ばれた清水秀行氏も、初の官公労系。これまで大企業の労働組合が中心だった連合に、いっぷう違った存在感をもたらせると思いました。地域共闘、中小共闘、ジェンダー共闘といった弱い立場の労働者の連帯を作り出す可能性を感じました。

 

長年、労働組合との付き合いが深い高木氏でさえがこんな期待を抱いたのだから、これまで大企業経営者と公然と馴れ合う連合幹部を苦々しい思いで見つめてきた者にとっては、それ以上の期待を持ったとしても不思議ではない。連合は変わるかもしれない、変わらなければならないと思ったのは、決して私一人ではなかったのである。

 

 だが、高木氏が「ところが、まだ期待した方向には行っていません。これまでの大企業中小の視点から抜け出せていません」と続けたように、その後の芳野会長の行動は真逆の方向に走っている。今年2月の小淵優子自民党組織本部長との会食を皮切りに、3月には麻生太郎自民党副総裁とは酒食の席をともにするまでにエスカレートした。麻生氏の側近から「芳野氏は日本酒好き」と聞いた麻生副総裁が会談を呼び掛け、春闘のヤマ場の「集中回答日」だったにもかかわらず、芳野氏がそれに応じたのだという(連載第1回)。

 

 呆れるのは、芳野会長ばかりでなく清水事務局長(日教組出身)までが行動を共にしていることだ。連合内部には「参院選までは自民党幹部との会食は控えるべき」と自重を促した幹部もいるようだが、清水事務局長は芳野会長と二階幹事長(当時)との会食を計画するなど、いっこうに自重する気配がない。二階幹事長との会食は結局取りやめになったというが、事程左様に連合と自民幹部との濃厚な接触が常態化しているということだろう。

 

 なぜ、連合は芳野氏を会長に選出したのか。連合の会長にはこれまで、政治的な影響力や労使交渉をリードする力を期待される電機や鉄鋼などの大企業労組の会長経験者が就任してきた。なのに、なぜ芳野氏が抜擢されたのか。毎日新聞はこの点を次のように解説している(連載第1回)。

 ――神津前会長は「女性」「中小企業」「高卒」が芳野氏を選んだポイントだったと明かす。だが、連合会長という「火中の栗」を拾う人がいない中で、「初の女性会長という話題性で乗り切ろうとした」(関係者)という見方は根強い。

 

 この指摘は実に鋭い。「女性」「中小企業」「高卒」というトレードマークは、高木氏が言うように一見「弱い者の味方」のように映る。連合幹部の特権的イメージを象徴する「男性」「大企業」「大卒」に代わって、これとは逆のイメージを兼ね備えた芳野氏が起用されたのは、確かに話題性に富む。だが、これで世間を乗り切れるなんて思うのはいささか甘すぎるというものだ。このイメージはあくまでも〝外形標準〟的なものであって、中身をあらわすものではない。事実、芳野氏は相当な強か者で、「誰もが初の女性会長を引きずり下ろす悪者になりたくない」のをよくわかっていて、「好き勝手にやっている」と言われている(連載第1回)。

 

 連合の自民への接近は、全国的にも広がっている。日刊ゲンダイ(4月27日デジタル)は、「5.12新潟知事選で『自公国』+連合がタッグ…“同じ構図”が今後の選挙の定番に?」と次のように報じた。

――新潟県知事選(5月12日告示、29日投開票)で自民・公明両党が推す現職の花角英世知事(63)について、国民民主と連合新潟も「支持」することを決めた。新潟には世界最大規模の柏崎刈羽原発がある。知事選の大きな争点が原発再稼働問題だ。「自公国連」の枠組みは、強力に原発再稼働を推し進めていく原動力になる。これに対し、野党第1党の立憲民主党は、なんと独自候補を擁立できなかった。新潟は本来、野党系が強い地域なのに不戦敗というのだ。脱原発派では、新潟経済同友会副代表幹事で新人の片桐奈保美氏(72)も立候補を表明。共産党と社民党はすぐに推薦を決めたが、ここでも立憲は及び腰だ。

 

新潟知事選挙の構図については、私も柏崎刈羽原発の再稼働問題を審議する有識者会議のメンバーから別の場所で同じことを聞いた。現職知事は再稼働問題に関する審議が進むことには極めて消極的で、審議は実質的に休止状態にある。その一方、知事選に勝利すれば、県民の承認が得られたものと見なして「ゴーサイン」を出す魂胆だそうだ。関係者の間では、「2期目を狙う現職に自公だけでなく連合までついてしまったら勝ち目がない」ので、立憲は情けないことに自主投票になると言われている。

 

京都でも、別の形で立憲の苦戦が際立っている。5月7日の各紙は、「国民、『立憲と決別』決定的」(毎日新聞)、「京都選挙区、推薦維持で決着、参院選、維新と国民民主」(朝日新聞)など、維新と国民が中央レベルでは相互推薦を撤回したにもかかわらず、京都選挙区では国民が維新候補を推薦することが決まったと伝えている。両紙は、5月6日の日本維新の会の馬場伸幸共同代表と国民民主党の前原誠司選挙対策委員長の記者会見の模様を以下のように伝えている。

――ただ、馬場氏と前原氏はこの日の会見で「非自民・非共産」の重要性を強調するばかり。文書での政策協定は交わさないといい、「日本の課題と処方箋を議論し、問題意識もほぼ共有する」(前原氏)などと口頭での一致にとどまった(朝日新聞)。

――京都での維新候補の推薦については、前原、馬場両氏が中心となり、国会内で政策勉強会重ねてきたことを挙げ、前原氏は「維新とは共通のベースがある」と説明。馬場氏も「紙は交わさず、互いの信頼関係で国民民主の力を拝借する」と語った(毎日新聞)。

 

国政選挙での政党間の候補推薦が、明文化された政策協定も結ばず、口約束で決まるというのは極めて異例のことだ。維新はかねがね立憲や共産などの野党共闘を「野合」だと批判してきたが、口約束だけで国民の推薦を受けるのは、そこに明文化できない何某かの「裏取り引き」があるからだろう。巷間の噂によれば、前原氏は自民との連携に走る玉木雄一郎代表との路線対立から、「第二保守党」の設立を目指す維新との連携に踏み切ったと言われている。国民民主の前原一派と維新が「第二保守党」を設立するためには、まず立憲を「野党第一党」の座から引きずり降ろさなければならない。そして、その第一歩が参院選京都選挙区での議席獲得というわけだ。

 

京都は、立憲代表の泉健太氏(衆院京都3区)、前幹事長の福山哲郎氏(参院京都選挙区)の〝牙城〟だ。これまで幾多の対立を含みながらも、連合京都の仲立ちで辛うじて分裂を免れてきた立憲と国民がここにきて遂に袂を分かつことになった。勢いのある維新と前原一派が合流すれば、選挙結果はどちらに転ぶかわからない。立憲は、連合と国民の両方から刻々と足元を崩されている。これに維新が加わるとなると、日本の政局は一気に流動化する。(つづく)

維新と国民が京都・静岡の参院選両選挙区で相互推薦、連合推薦の(共産を除く)野党共闘は崩壊に向かう、岸田内閣と野党共闘(その15)

参院選京都選挙区にある私の家には、このところ維新のビラがよく入るようになった。これに危機感を覚えたのか、立憲公認候補の福山哲郎参院議員のビラも時々入るようになった。これに対して自民と共産のビラやチラシはあまり目につかない。各政党の運動量を反映しているのだろうか。

 

このことを象徴するような選挙が最近あった。4月10日投開票の京都府知事選と府議補選(京都市北区)だ。知事選は、長年の慣行となっている「オール京都=共産を除く自民・公明・立憲・国民の相乗り選挙」から推薦された西脇隆俊知事が、前回選挙から10万票余り上乗せして50万5千票(得票率67%)で圧勝した。共産推薦の梶川憲氏(総評議長)は、府民との「草の根共闘」を旗印に戦ったが、6万6千票減らして25万1千票(得票率33%)で半分にも届かなかった。

 

しかし、京都府民の関心が集まったのは、京都市北区で行われた府議補選(被選挙数1、候補者数4)の選挙結果だった。知事選の方は選挙前から勝敗が決まっているとあって関心はそれほど高くなかったが、自民、立憲、共産、維新の4党が候補を立てた府議補選は激しい戦いとなり、注目を集めていた。結果は、維新新顔が1万1千票で当選、自民新顔が9千400票、共産新顔が8千100票、立憲元職が6千300票の順となった。

 

立憲元職候補は、福山参院議員の元秘書を務めた女性候補で最有力候補だった。選挙中は福山氏が全面支援し、衆院京都3区選出の泉衆院議員(立憲代表)や知名度の高い蓮舫参院議員、辻本元衆院議員なども応援に入った。それでいて4人中最下位に沈み、維新の半分余りしか得票できなかった。私は、維新候補がトップになり、立憲元職が最下位になったのは、前原氏が府連会長を務める国民が維新支持にまわったからだとみている。そうでなければ、これほど立憲票が減り、維新票が伸びた理由の説明がつかない。知事選と同時に行われた府議補選は、事実上参院選の前哨戦として戦われ、「維新・国民連合」が勝利を収めたのである。この模様を、産経新聞(4月12日)は次のように伝えている。

――立民は昨年の衆院選比例代表で、府内の得票が自民、維新に次ぐ3位にとどまった。今回は自民元府議が公職選挙法違反事件で辞職したことに伴う補選だったにもかかわらず後れを取った。参院選京都選挙区もこの4党による対決が予想されており、立民の危機感は強い。関係者は「維新が勢いづき、自民と共産にも負けた。党の先行きを示すような衝撃的な惨敗だ」と強調。ベテラン議員も「ショックもショック、大ショックだ。これはもう補選レベルの話ではない」と嘆いた。

 

それから10日後の4月20日、国民の前原誠司代表代行と維新の馬場伸幸共同代表が国会内で会談し、夏の参院選を巡り京都選挙区(改選数2)と静岡選挙区(改選数2)で双方の候補者を「相互推薦」することで(予定通り)合意した。維新の馬場代表は「身を切る改革にご同意いただいて一緒にやっていこうということになった。京都と静岡両方で当選することにわが党も全力を挙げる」と話し、前原氏は「(選挙協力は)基本的な価値観、基本政策が一致していないとだめ。権力は勝ち取るもの。京都と静岡の推薦は政権交代の基盤をつくるその第一歩」と話した。維新は京都選挙区を「最重点選挙区」と位置付け、4月15日には大阪ガス社員の擁立を発表。一方、静岡では独自候補を立てず、国民会派に所属する無所属現職を推薦する(京都新聞4月21日)。

 

これに対して、哀れなことに泉立憲代表はなすところを知らない。泉氏は4月15日の記者会見で、「全国的にみても国民が維新を応援するケースはどこにもない。京都だけというのはかなり考えにくい選択ではないか」と述べていたばかりだ(京都新聞4月16日)。だが、こんなノーテンキな発言で前原氏の動きを止められるはずがない(もし本気でそう思っているとしたら、これは「政治オンチ」とい言いようがない)。実際のところ、泉氏には「打つ手」もなければ事態を打開する知恵も決意もなかったのだろう。毎日新聞(4月21日)は、立憲の動揺ぶりを次のように伝えている。

――国民民主党と日本維新の会は20日、夏の参院選京都選挙区(改選数2)と静岡選挙区(同)について、候補者の相互推薦に合意した。京都では国民民主が維新新人を推薦する。京都は立憲民主党の泉健太代表の地元。福山哲郎前幹事長が守る議席の維持に向け、国民民主の支援を当て込んでいた立憲内には衝撃が走り、他の選挙区での連携にも暗雲が垂れこめた。泉氏は15日の記者会見で国民民主について「長く、京都でも中央でも連携してきた経過がある。最大限生かしたい」と話していただけにショックは大きい。20日、記者団に「長い間一緒に歩んできた。対応が分かれるのは残念だ」と戸惑いを隠さなかった。21年の静岡選挙区補選では無所属候補が立憲、国民民主両党の推薦を得たが、今夏の参院選では立憲県連が推薦見送りを決め、既に足並みは乱れている。国民民主は、21年衆院選で議席を伸ばした維新の勢いを取り込みたい考えだ。立憲は独自候補を擁立するかが焦点になる。国民民主と維新は、他の選挙区で相互に推薦することについては否定的だ。ただ、立憲内からは「国民民主からの宣戦布告だと捉えた」との声が漏れ、両党の連携に影響が広がる可能性がある。

 

 一方、連合の芳野友子会長は着々と自民との連携を深めている。自民は18日、党本部で開いた「人生100年時代戦略本部」に芳野会長を招き、社会保障政策に関する意見を聞いた。芳野氏は女性や非正規雇用の労働環境の改善を訴えたというが、そもそも男女賃金格差を容認し、非正規雇用を激増させてきた自民に対していったい何をお願いするというのか。聞いて呆れるほかないが、ご本人は「お呼びいただければ(今後も)意見交換していきたい」と臆面もなく語ったという。毎日新聞(4月19日)は、その背景を次のように解説する。

 ――再配分を重視する岸田政権の「新しい資本主義」と連合の基本方針は親和性が高く、賃上げなど具体的な施策実現に向け、(連合が)与党とも連携を強化する狙いがある。自民側も連合への接近を強める。芳野氏は昨年10月の会長就任後、衆院選で共産党と選挙協力した立憲の批判を続けており、自民中堅は「連合の中は既に割れている。票を引きはがすチャンスだ」と話す。麻生氏は17日、福岡市内の講演で「連合に『政策を実現するのは自民党が一番でしょう』と、正面から申し上げている」と述べ、自信をのぞかせた。連合幹部は、芳野氏の会合出席について「目的はあくまで自民に連合の政策を訴えることだ」と語り、政権交代可能な政治体制を目指す従来の方針と変わったわけではないと強調する。

 

 連合幹部がこんな子供だましの言い分をいけしゃあしゃあと述べ、芳野会長がそれに輪をかけたマンガもどきの行動を続けていることを、立憲はいったいどうみているのだろうか。泉代表は翌日19日、芳野会長と会談して意見を交わしたというが、会談後、芳野会長は記者団に例によって「立民、国民民主党と連携して戦っていく」との決まり文句を強調したという(日経新聞4月20日)。だが、維新と国民の相互支援体制が広がり、政策的な連携が深まるようになると、連合推薦の「野党共闘」は崩壊する。夏の参院選の結果は、自民圧勝、維新・国民連合の躍進、立憲・共産の惨敗で終わる公算が大きい。さて、泉代表はどうする。このまま迷走を続けて自滅するのか、それとも一念発起して路線変更に踏み切るのか――。地元京都では「愛想つかし」「期待薄」の声が強いがもう少し様子を見ることにしよう。(つづく)

自民・国民の連携が進む一方、野党共闘は依然として膠着状態、このままでは野党は参院選を戦えない、岸田内閣と野党共闘(その14)

 ロシアによるウクライナ侵攻が日々加速する中で、メディア空間はウクライナ一色に染まったままだ。連日連夜ウクライナの惨状が目の前に映し出されれば、誰もが不安にさいなまれ焦燥感に駆られるのは当然のことだ。しかし、安倍元首相のように情勢に付け込んで「核共有」を打ち上げ、「敵地攻撃力」を拡大解釈し、この際改憲と軍備拡張を一挙に実現しようとする右派勢力の動きも活発化している。注目すべきは、岸田政権がこんな緊迫した情勢の下で「新しい資本主義」など国策の基本課題について何らの具体策を示さないまま、コロナ対策とウクライナ支援を軸に高支持率を維持していることだ。この間の状況を伝える各紙記事を分析しよう。

 

日経新聞(2022年4月3日)は次のように言う。「岸田文雄政権が発足してから4月4日で半年を迎える。内閣支持率は一貫して5割超を維持してきた。新型コロナウイルスの『第6波』で緊急事態宣言を回避し、ロシアのウクライナ侵攻で危機対応に注目が向かう。感染再拡大の懸念や具体的な経済政策を示すことが夏の参院選に向けた関門になる」。主な内容は以下のようなものだ。

(1)コロナ下では感染者数の増減と政権の支持率が連動する傾向がある。菅政権は感染拡大に伴い緊急事態宣言を数多く発令したが、岸田政権では「蔓延防止等重点措置」を適用して宣言を回避した。記者団の取材に対しても丁寧に対応するスタイルを前面に出す。

(2)ロシアによるウクライナ侵攻への対応も支持率が上向く要因になった。主要7か国(G7)をみると、英国やフランス、ドイツの首脳も支持率が上昇傾向にある。ウクライナ侵攻を巡る外交や安保政策の積極姿勢に関心が集まる。有事にはリーダーの決断が前面に出て、内政への批判に矛先が向かいにくい。

(3)3カ月後には7月10日投開票を見込む参院選が控える。乗り越えれば大型国政選挙が最長で2025年までない。首相が選挙を気にせずに政権運営でまとまった時間を手にできる可能性がある。

 

言葉を選ばずに言えば、岸田政権は基本的な政策を打ち出すことなく小出しに施策を並べ、批判を受ければその都度修正を繰り返し、「その場任せ」「その場限り」の対応に終始しているだけだ。それにもかかわらず、高支持率を維持しているのは、ロシアによるウクライナ侵攻を〝漁夫の利〟として利用しているからなのである。しかしこの間、国内政治は野党共闘の分断に向かってその勢いを増しつつある。

 

毎日新聞(4月2日)は、これを裏付けるかのように「自民党が、夏の参院選山形選挙区(改選数1)で独自候補の擁立を見送る調整に入ったことで、2022年度当初予算案に賛成するなど与党への接近を図る国民民主党との事実上の選挙協力が進むことになる」と報じた。同選挙区は、2016年の前回選挙で舟山康江氏が「山形方式」といわれる非自民勢力の結集に成功し、自民候補に12万票差で大勝した選挙区だ。2021年も知事選でも野党系無所属候補が勝利した。今回、舟山氏は国民民主から現職として立候補予定だというが、自民幹部は「渡りに船」として独自候補の擁立を断念したという。「国民民主とは、共に予算に賛成し政策協議もしている関係。選挙だけは別で戦うと、と言えるのか」というのがその理由だそうだ。

 

一方、朝日新聞(4月2日)は、国民民主党の動きを次のように伝えている。「夏の参院選へ国民民主党は4月1日、小池百合子東京都知事が特別顧問の地域政党『都民ファーストの会』と候補者を『相互推薦』する覚書を交わした。国民民主は、都民ファの荒木千陽代表を参院東京選挙区で推薦する。東京で2人を擁立する立憲民主党への影響は大きいとみられる。他の選挙区でも国民民主と立憲の候補者調整は見通せず、互いに不信感を強めている」。国民民主はなぜ都民ファーストと連携するのか。その背後には連合の影が見え隠れする。

(1)国民民主は、最大の支持団体である連合の民間産別内候補4人が比例区で立候補予定だが、支持率低迷で全員当選は見通せない。玉木雄一郎代表は「小池人気」にあやかって「東京で比例100万票を目標にしたい」と意気込む。4人が都民ファーストの推薦を得れば比例票の上積みが期待できるからだ。

(2)都民ファーストは、国民民主と共闘し連合の支援を受けられれば「前回参院選で立憲民主に入った票が半分以上入ってくる」ともくろむ。そうすれば、悲願の国政進出が実現するからだ。

(3)これに対して、東京選挙区で2人擁立を続ける立憲にとっては、国民民主と都民ファーストの相互推薦は「連合の支援が股裂きになり2人目の当選は厳しくなる」との観測だ。

 

連合は、表向きは立憲と国民民主の共闘を求めているが、本音は自民や都民ファーストとの連携で立憲の政治基盤を切り崩すことにある。そのためには、維新と手を組むことも十分あり得ると考えられている。国民民主の前原誠司選対委員長は、朝日新聞のインタビューに答えて次のように言う(朝日同上)。

――維新をどう評価しているのですか。

「維新も野党勢力だ。私は維新ともよく話をするが、彼らは政権交代で自民に代わるものをつくろうという意思を非常に強く持っている。より協力を密にしていきたいと思っている」

――連合内にも異論があるが。

「連合にとって大切な労働法制に対する感覚は違う部分がある。だが、それさえ議論して一致点を見出せればいい。連合は維新を敵だとは言っていない」

 

前原氏は、自らが国民民主の府連会長を務める京都選挙区においても、京都新聞のインタビューで維新との連携を匂わせている(京都3月9日)。

――参院選京都選挙区には、旧民主党や旧民進党で一緒だった立憲民主党の福山哲郎氏が立候補を予定している。

「過去は過去。繰り返すが、複数区は原則擁立するということでやっている。ただ、都民ファーストの会と協力する東京のようなこともありうる」

――京都では日本維新の会と連携するのか。

「国会では共同で法案を出し、憲法審査会では共同歩調を取るなどかなり協力関係を深めている。参院選についても意見交換しているが、何か具体的に決まったことがあるわけではない。ただ、『中道保守改革勢力』の力を合わせていくことになれば、日本維新の会は同じ範疇に入る。虚心坦懐に話し合いをしているところだ」

 

このところ、日本維新の会は意気軒昂だ。3月27日は大阪市内で党大会を開き、夏の参院選で改選6議席からの倍増以上を目指す活動方針を採択した。また政権交代に向け、次期衆院選で「野党第1党」を獲得する目標も掲げた。松井代表は党大会に先立つ常任役員会で、参院比例選の獲得議席で立憲民主党を上回る目標を確認し、馬場伸幸共同代表は記者会見で「比例票で立民を上回れば、国民の多くが『野党のリーダーに維新がなってほしい』という意思表示だ」と強調した(読売3月28日)。

 

いずれにしても、維新が国民民主や都民ファーストと組んで「野党第1党」の座を目指していることは本当だろう。維新や国民民主が「野党」を名乗り、「第1党」の座を占めるようなことになれば、立憲民主党の姿は見えなくなり事実上消滅する。野党共闘はいま、「風前の灯」となりつつある。(つづく)

〝連合の将棋のコマ、泉立憲代表〟のままでは、野党は参院選を戦えない、岸田内閣と野党共闘(その13)

 2022年度当初予算が3月22日に成立した。一般会計の歳出規模は過去最大の107兆円超、それでいてほとんど論戦らしい論戦もないままに戦後4番目の速さでの成立となった。野党第1党の立憲民主党が予算追及のイニシアチィブを取れず、しかも「盟友」の国民民主党が賛成に回ったからだ。毎日新聞(3月23日)は、「自民に近づく国民民主、もはや野党とは言えない」とする社説を掲げた。論旨は以下のようなものだ。

 (1)国民民主は立憲民主と同様に旧民主党を源流に持つ。自民に代わり政権を担える2大政党制を目指してきたはずだ。昨年の衆院選は一部選挙区で他の野党と候補者調整を行い、野党陣営の一角だった。それが半年も経たずに与党に接近するのは、投票した有権者への裏切りではないか。政権に全面的に協力しながら、野党を名乗るのは理解できない。

 (2)国民民主は衆院に続き、参院でも新年度当初予算に賛成した。当初予算は全ての施策の裏付けとなるのだから、賛成票を投じることは政権運営全体を認めたに等しい。また、政策協議という形で事前審査に加わることは国会審議の形骸化に手を貸すことになり、政権監視という野党の役割を果たせない。もはや閣外からの協力に舵を切ったと言うほかない。

 (3)自民が国民民主との協議に応じる背景に、今夏の参院選に向けて野党を分断する狙いがあるのは明白だ。玉木代表は「我々は明確に野党だ」と繰り返すが、実際の行動はその言葉からかけ離れている。

 (4)参院選は32の1人区が全体の勝敗を左右する。野党が候補者を一本化し、自民と1対1の構図をつくることが重要だ。国民民主の姿勢が変わらないのであれば、立憲は関係を見直すべきであろう。

 

 明確な論説だ。当然、泉代表をはじめ立憲幹部もこのような批判が寄せられていることは百も承知だろう。それでいて、泉代表は明確な立場をいっこうに表明しない。朝日新聞(3月23日)は、その背景を次のように解説する。

 ――2ケ月間の予算審議は与党ペースで進んだ。政権を追い込むどころか、衆院採決で賛成に回った国民民主党が与党と政策協議も始め、野党の分裂ばかりが際立つことになった。(略)ただ、予算案に賛成した国民民主を批判し、夏の参院選での連携見直しにも言及してきた立憲の泉健太代表はこの日、公の場でのあいさつで国民民主について一切触れなかった。

――泉氏は21日の報道陣の取材に「国民民主は繰り返し『自分たちは野党である』と述べている」と態度を軟化させた。国民民主との参院選1人区での候補者一本化について「実現に全力を尽くしたい」と語り、協力を継続する意向を示した。「国民民主とは協力しないといけないところもある。どちらにもできるようにということ」。立憲執行部の一人は、態度が軟化した背景を解説する。

 

その一方で泉立憲代表は3月18日、共産、れいわ、社民の3党首と国会内で個別に会談し、参院選1人区での候補者調整を申し入れている。ただし、この日の記者会見で、市民連合を介した共通政策合意について問われた泉氏は、「共通政策を作るかどうかは両方の考えがあるという状況で進めていく」と明言を避けた。こうした状況を踏まえのか、志位共産党委員長はこれまで主張してきた共通政策や政権枠組み合意についての話題は避けたという(朝日3月19日)。これではまるで、「キツネとタヌキのだまし合い」のような会談ではないか。

 

片や芳野友子連合会長の方は、相変わらず「進軍ラッパ」を吹き続けている。毎日新聞のインタビュー(3月15日)では言いたい放題で、「前会長の神津里季生氏と同じことしか言っていない。そもそも連合の労働運動は、自由で民主的な労働運動を強化、拡大していくということから始まっている。その点で共産とは考え方が違い、相いれない。共産と共闘するかしないかは政党が判断すべきことであるが、共産と共闘する候補については推薦できない、あるいは支援できないということもあり得る。連合本部としては『共産との共闘はできない』ことは譲れない一線だ」と意気軒昂だ。また、与党と連合との関係については、「連合はこれまでも、共産を除く主要政党との間で政策・制度に関する意見交換や要請を行っている。政策を実現するためには、自民党、公明党を含め、政党に協力を求めることは当然だ。神津前会長と同様、私も是々非々でやっていく」と公言している。

 

「政策を実現する」ためか、芳野会長は3月16日夜、麻生自民党副総裁の招きで日教組出身の清水事務局長とともに会食の席に連なり、「今後の連携」について意見交換したという(産経3月17日)。こんな振る舞いは連合内部での批判を受けないのだろうか。日教組出身の事務局長までが同席しているのだから「構わない」というのだろうか。志位共産党委員長もまた、これまで「連合にもいろいろある」として連合への批判は一切口にしていないが、自民最高幹部と酒席をともにするような会長と事務局長が率いる連合に不信を抱かないのであろうか。

 

参院選を3か月後に控えて、野党共闘の雰囲気はいっこうに盛り上がらない。おそらく立憲民主は、国民民主との手を切ることなくこのままズルズルと関係を続けていくのだろう。〝連合の将棋のコマ〟と化した泉代表に国民民主との関係を清算する決断を求めるのは「森に入って魚を求める」のと同じことだ。その一方、内閣支持率はウクライナ情勢の影響を受けて上昇傾向にある。このままでいけば、「政策協定もアイマイ」「政権協力もアイマイ」で「アイマイづくし」の野党共闘は、有権者から見捨てられること確実だろう。誰もが馴れ合う野党共闘なんて存在しない。筋を通さない政党が必ず消えていくように、野党共闘もいまその岐路に立っている。(つづく)

〝国家レベルの労使協調路線〟が着実に加速している、連合初の女性会長起用の裏にあるもの、岸田内閣と野党共闘(その12)

 小さな記事だったが、2022年2月26日付の日経新聞に〝国家レベルの労使協調路線〟が着々と加速していることを窺わせる記事が載った。「自民、連合との協調明記、運動方針案 参院選にらみ接近」というもの。そこには「自民党と連合をめぐる最近の動き」が時系列で列挙されている。これを見ると、芳野氏の連合会長就任から僅か数カ月足らずで連合が自民党に急接近し、これまでにない〝ハイレベルの協調関係〟が形成されつつあることがわかる。

 

 連合は神津里季生前会長が2017年、小池百合子東京都知事や前原誠司民進党代表と秘密裏に画策して民進党を解体し、「希望の党」(第2保守党)への合流を企てた。しかし、この画策は小池知事の「排除発言」が災いして破綻し、枝野幸男氏らの立憲民主党結成につながった。こんな苦い経験に懲りたのか、今度は「表向き」で政界再編をやろうということで、連合初の女性会長を表に立てて次のステップに乗り出したのである。

 

 芳野氏は高卒で中小企業に入社し、連合の労組幹部になった異色の経歴の持ち主だ。神津前会長など大企業労組出身の大卒男性幹部とは一味違ったイメージを打ち出せるということでトップに抜擢されたのであろうが、その活躍ぶりは連合の「期待」以上のものがある。日経の「連合と自民党をめぐる最近の動き」でその活躍ぶりを見よう。

 

〇2021年10月、連合会長に初の女性会長、芳野友子氏が就任

〇同、衆院愛知11区でトヨタ自動車の労働組合が候補者擁立を見送り(自民党候補を支援)

〇同12月、芳野氏が自民党の茂木敏充幹事長らと会談

〇2022年1月、岸田文雄首相が連合の新年交換会に出席

〇同2月、芳野氏が自民党の小淵優子組織運動本部長らと会食

〇同、国民民主党が2022年度予算案での採決に賛成

 

なおここでは漏れているが、この他にも就任早々(2021年10月)、岸田政権肝いりの「新しい資本主義実現会議」のメンバーにも選ばれている。財界首脳や東大教授らと肩を並べる「ハレの舞台」だから、さだめし「新しい資本主義=労使協調路線による経済政策」実現のために頑張る決意を固めていることだろう。

 

 本題に戻ろう。自民党が2月25日、2022年の運動方針案をまとめたという。それによると、これまで野党の後ろ盾となってきた労働組合の中央組織、連合との関係を〝協調する〟と明記したことが目を引く。方針案は今年の参院選を「最大の政治決戦」と位置づけ、「連合ならびに友好的な労働組合との政策懇談を積極的に進める」「多くの働く人々の共感が得られるよう、わが党の雇用労働政策を引き続きアピールする」と記している。運動方針は3月13日に都内で開く党大会で採択される(日経、同)。

 

 自民党が連合との協調路線に舵を切ったのは、連合が野党共闘分断の前線部隊として動いているからだ。芳野氏はその最前線で野党分断の旗を振り、自民党の期待に応えている。連合は2月17日、夏の参院選の基本方針を発表し、共産党を念頭に「目的や基本政策が大きく異なる政党と連携・協力する候補者を推薦しないという姿勢を明確にする」と明記した(各紙2月18日)。共産党を拒絶する理由は、「連合の労働運動は自由で民主的な労働運動を強化、拡大していくというところから始まっている。その点で共産とは考え方が違い相いれない。現実的にも連合の組合と共産党系の組合は職場、労働運動の現場で日々競合ししのぎを削っている」というものだ(毎日インタビュー2月3日)。

 

芳野氏はまた17日の記者会見で、「参院選は比例代表、選挙区ともに個人名を徹底することが基本だ。人物重視、候補者本位で臨む」「参院選の政策協定について「(連合と立憲、国民の)3者で結ぶのが一番望ましい」「立憲民主党や国民民主党は支援政党として明記しないが、ただし連携はする」としたうえで、自民党と連携する可能性に関しては「ありません」と明確に否定していた。しかし、その舌の根も乾かない17日夜、芳野会長と連合幹部が、自民党で団体との窓口となる部門の責任者を務める小渕組織運動本部長らと東京都内の日本料理店で密談していたことが判明した。岸田政権発足や連合新体制発足に伴う小渕氏と芳野氏の顔合わせが目的だったいうが、「表向き」の行動と併行して「裏取引」も行われていることが明らかになったのである(JNNニュース2月18日)。

 

 国民民主党は2月22日、衆院本会議で野党としては異例の2022年度予算案採決の賛成に踏み切った。ガソリン価格高騰の歯止めをかけるためだというが、こんな些末な理由で100兆円を超える本予算案に賛成するというのだから前代未聞のこと。自民党の方が却って(表向き歓迎しているものの)呆れたに違いない。各党は事実上の「与党入り」だと受け止めているが、驚いたことに芳野会長は2月24日、玉木国民民主党代表と会談し、「連合は予算に反対しているわけではない。理解している」と国民民主党の行動を支持したという(日経2月25日)。要するに、連合と自民党の一連の裏取引ですべてが決定され、それに沿って国民民主党が動くという構図が出来上がっているのである。

 

 さすがに見かねたのか、朝日新聞社説(2月26日)は、「国民民主党 野党の役割捨てるのか」との見出しで厳しい警告を発している。その一部を紹介しよう。

 「先の衆院選で玉木氏は、首相の経済政策は具体性に欠けると指摘。安部・菅政権下の不祥事を念頭に、『ウソやごまかしの横行する政治』を改めようと訴えた。野党共闘とは距離をおいたが、候補者調整に応じ、他党の支援を受けて当選した議員もいる。与党へのすり寄りは、野党としての国民民主に期待して投票した有権者への背信行為というほかない」

 「今年夏の参院選の帰趨を握る1人区で、与党と1対1の構図をつくる野党共闘の行方はますます不透明になった。国民民主には、6年前に野党統一候補として議席を獲得し、今回改選を迎える現職も複数いる。玉木氏は一体、どんな立ち位置で臨むつもりなのか」

 

 国民民主党の予算案採決においてとった行動は、前原国民民主党代表代行のいる京都でも波紋を広げている。国民民主党の選挙対策委員長も兼ねる前原氏は予算本会議でも「体調不良」を理由に欠席した。立憲民主党も「対岸の火事」とは見ていられない党内事情を抱えている。政治は「一寸先は闇」なのである。(つづく)