“ふるさとを守り郷土を育てる”という使命感と復興理念を見失った雄勝地区高台移転計画の愚かさ、平成大合併がもたらした石巻市の悲劇(番外編9)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その60)

雄勝支所の高台移転担当者および大学アドバイザーは、2011年9月末で高台移転事業が「復興まち協」で合意され、地区会長会(区長会)でも確認されたという“報告”を市役所本庁(基盤整備課)に提出(さえ)すれば、後は一部住民の異論があったとしても高台移転計画は粛々と進むはずだと高をくくっていたのであろう。また、こうした態度が『雄勝地区住宅高台移転に伴う意向調査』(2011年10月)の重大な結果を無視することにもつながったと思われる。

結果は、調査票を発送した1211世帯のうち「雄勝地区に住みたい」と表明したのは全世帯の僅か1/4強(347世帯、26.7%)に過ぎず、残りは「雄勝地区外」2割、「未定」「無回答」5割強という恐るべきものだった。大多数の被災者が「故郷を捨てるかもしれない」という現実を目前にしながら、“ふるさとを守り郷土を育てる”という使命感と復興理念(計画コンセプト)を見失った彼らには、そのことへの危機感が何ら見られなかったのである。

合併前の雄勝町なら、こうした事態はまさに“自治体の存廃”にかかわる危機だとして、役場挙げての取り組みが始まったにちがいない。だが、もはや石巻市の「周辺地域」と化した雄勝地区では、支所職員のほとんどが被災を契機に他地区に移り住み、高台移転担当者に至っては、被災者に対して「移転した方が賢明、住めば都ですよ」と放言するまでに落ちぶれていた。平成大合併が自治体の団体自治と住民自治を奪い、被災地域を滅ぼしていく有様がこれほど典型的(露骨)にあらわれている事例は全国でも少ないだろう。

10月末に開かれた石巻市復興推進本部会議においては、市基盤整備課から提出された資料に、(1)これまでの建築制限の経緯、(2)都市基盤整備復興計画の推移、(3)今後の整備手法(方針)、の3点が以下のように記されていた(『鮎川・雄勝地区の建築制限について』、2011年10月30日)。

(1)「鮎川地区(約32ha)、雄勝地区(約62ha)については、「東日本大震災により甚大な被害を受けた市街地における建築制現の特例に関する法律」の規定に基づき、建築制限区域の指定を行っているところであるが、制限期間が平成23年11月11日までとなっており、今後のまちづくりとしては住家の高台移転を基本とした地域住民との意見交換を進めて行くなかで、合意形成が図られた区域から防災集団移転促進事業の実施、及び従前地の建築基準法第39条の規定による「災害危険区域」の指定を進めて行くこととしたい。」

(2)「鮎川・雄勝両地区の市街地復興にあたり、現位置で再構築する手法として土地区画整理事業等が考えられるため、両地区に関して都市計画区域の指定を視野に入れたうえで、建築制限の区域を指定したものである。しかし、去る9月9日に宮城県沿岸域現地連絡調整会議において、今後十年から百数十年に1回程度発生すると想定される津波の高さを対象とした海岸保全施設の計画高が示された。これに基づき今後想定される最大級の津波に対してまちづくりを検討した場合、両地区の既成市街地の大部分において浸水リスクが高い結果となった。」

(3)「鮎川・雄勝地区については、既成市街地が津波による浸水リスクが高いため、防災集団移転促進事業により住家の高台移転を促進することとし、従前地の土地利用については非可住地を前提とした漁業・観光施設や業務系の利用計画を基軸として、地元住民や関係機関との協議を進めるものとする。」

 この文書には、石巻市の震災復興計画が宮城県(土木部)の言うままに進められていく状況が余すところなくあらわれている。その方針とは、①百数十年の頻度で発生する「レベル1」の津波高に対応する防潮堤計画高の想定する、②浸水地域を予測する(ハザードマップの作製)、③浸水リスク(程度)が高い場合は当該地域を「災害危険区域」に指定して非可住地化する、④当該地域住民を高台移転させる、というものだ。

 この“土木工事至上主義”ともいうべき単純(粗暴)極まりない復興方針は、これまでも繰り返し批判してきたように、「歴史的に形成されてきた最も豊かな居住空間である沿岸地域を百数十年に1度といった発生確率の津波のために放棄する」ものであり、「盥の水とともに赤子を流す」如き“世紀の愚行”だといわなければならない。もしこのような方針を国土全体に適用するとなれば、近いうちに襲来が予想される南海トラフ巨大地震の沿岸地域では、その全てを「災害危険区域」に指定し、非可住地化しなければいけないことになる(数千万人にも達する沿岸地域住民をいったいどこの高台に移転させると言うのか!)。

 こんな馬鹿げた復興方針は、防災計画としても(コスト面で)実現不可能であると同時に、土地利用計画としても“海洋国日本”の国のあり方を根本から否定するものだ。日本の美しい国土は海洋と一体になって形成されたものであり、沿岸地域は陸と海が接することで生まれる最も豊かな生活空間に他ならない。この沿岸地域を非可住地化して住民を(高台に)追い出すことなど、国土計画・地域計画としては「あってはならない」ことであり、都市計画・農漁村計画のあり方としても決定的に間違っている。

“ふるさとを守り郷土を育てる”という使命感と復興理念を見失った雄勝地区高台移転計画は愚かそのものだ。そしてこのような愚行を推進する県や石巻市の土木官僚、これに追随する支所担当者や大学アドバイザーの姿はもっと愚かで哀れだ。(つづく)