双葉地域の町村合併を目指し、「双葉市」(仮称)の創設を想定した『広野町復興計画』の意図、福島原発周辺地域・自治体の行方をめぐって(その15)、震災1周年の東北地方を訪ねて(86)

ふたたび『広野町復興計画(第一次)』に戻ろう。広野町の復興シナリオに基づく4つの基本方針のなかには、「(1)誰もが安心して暮らせるまちづくり」と「(2)災害に強い都市基盤と心のネットワークによる安全・安心なまちづくり」に加えて、「(3)21世紀の世界を担う新たな産業創出による賑わいのあるまちづくり」と「(4)双葉地域の復興を担うまちづくり」が掲げられている。前段2つの基本方針はさておき、後段の基本方針についてもう少し詳しく紹介したい。私が気になるのは以下の部分だ。

「(前略)また、広野町では原発事故収束や廃炉などに関わる新たな産業創出が期待されています。こうしたチャンスを逃すことなく的確に対応を図り、若者や子どもたちにとっても魅力ある就業先となる産業創出を図っていきます」(基本方針3)

広野町以北の双葉地域は一層強い原発事故の影響を受けています。今後、原発事故収束とともに除染が進むことによって徐々に帰還を果たせる地域が拡大し、原発事故収束の最前線よりも原発に近いところに移動していくことが期待されます。しかしながら現在、原発事故収束のための拠点は広野町にあり、長期的な取組が予想されることから、最前線が移動したとしても拠点としての役割を担い続けることが期待されると考えています。また現在、双葉地域の多くの広域行政組織や公益機能が失われたままとなっています。今後、双葉地域が復興していくためには、これらの代替機能の構築が求められています。こうした双葉地域復興のために期待される広野町の役割について、全町民の総意として積極的に関わっていくこととします」(基本方針4)

そして、これらの基本方針に基づく復興計画施策体系のなかの「産業経済の復興」に関する項目では、全体の目標が「原発事故というピンチをチャンスに変え、「産業」と「雇用」の連動による活力のあるまちをつくります」(2.町民生活復興のための施策)と書かれている。

ここまでくると、“脱原発原発ゼロ”には一切触れない広野町復興計画の意図はもはや明らかだろう。福島県議会および県内59市町村のうち52市町村議会が「福島県内の原発10基すべての廃炉を求める意見書や決議」を可決しているにもかかわらず、広野町はいまだに態度を明確にしていない(廃炉決議には反対なのだ)。したがって復興計画のなかの「廃炉」が意味するものは、あくまでも事故を起こした第1原発の1号機から4号機までの廃炉に限定され、それ以外の5・6号機および第2原発4基の廃炉は含まれていないとみるべきだろう。文中では明言されていないが、いわば残りの原発6基はすべて存続させ、再稼働させることが前提になって復興計画がつくられているのである。

また「双葉地域の復興を担うまちづくり」(基本方針4)の内容も意味深長だ。政府筋ではかねてより原発事故収束と放射性廃棄物の最終処理場の建設のため、原発周辺自治体の広域合併を推進して原発再稼働に道を開きたいと画策してきた。そのためには双葉地域のいずれかの場所に行政拠点を集約し、新しい「双葉市役所」(仮称)を建設しなければならない。広野町復興計画のいう「双葉地域の失われている広域行政組織や公益機能の代替機能の構築」とは、実はこのことを意味していると解することも可能だ。

現在、いわき市に役場機能(出張所など)が設置されている楢葉町富岡町大熊町および近く設置される双葉町は、いずれも「5年あるいはそれ以上」にわたって帰還困難な自治体だとされている。このため「仮の町」構想が議論されているわけだが、率直に言っていわき市内では実現が難しいと言うのが実情だ(と関係者から聞いた)。すでに述べたように、いわき市内では便利な浜通り地区での宅地需要が逼迫しており土地利用が制約されているからである。

となると、遠からず広野町に代替地を求める構想が浮上し、そこに広域行政組織とセットで「仮の町」がつくられる可能性も否定できない。「今後、双葉地域が復興していくためにはこれらの代替機能の構築が求められています。こうした双葉地域復興のために期待される広野町の役割について全町民の総意として積極的に関わっていくこととします」との基本方針は、広野町が双葉地域における町村合併のイニシャチブを取ろうとしたものと考えることもできるのである。

私はこれまで、宮城県石巻市のような住民自治を否定し地域のまちづくり力を奪ってきた市町村合併に対しては批判的な立場をとってきた。そしてそれとは対照的に、小規模自治体でありながら(であるからこそ)原発事故という大災害に懸命に立ち向かう原発周辺自治体の存在に大きな期待を抱いていた。全国的にも大きな発信力を発揮している浪江町川内村を訪れたいと思ったのもその期待からだった。

しかし広野町の場合は若干違った。原発周辺自治体にもいろんな政治スタンスがあり、「原発事故収束や廃炉などに関わる新たな産業創出」に期待をかけ、「こうしたチャンスを逃すことなく的確に対応を図り、若者や子どもたちにとっても魅力ある就業先となる産業創出を図る」という驚くべき発想をもった自治体に出会ったのである。それは端的に言えば、政府や東電など「原子力ムラ」の尖兵としての役割を果たそうとするデベロッパ―の姿であり、原発維持・再稼働を前提とする新たな「開発行政」を展開しようとする原発周辺自治体の姿であった。

次回は、原発事故を「ピンチはチャンス」と捉える復興計画に未来がないことを原理的に指摘して広野町復興計画の分析を終えようと思う。(つづく)