安倍内閣の“風評人気”と主要政策のギャップ”、朝日新聞世論調査結果(「安倍内閣の通信簿」2013年8月25日)から見えるもの(その3)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(30)

 今回の朝日調査は、一言でいえば、安倍内閣の“風評人気”の実態を解剖したものだと言える。その特徴は、安倍首相に対する好感度や仕事ぶりへの全般的評価(「よくやっている」59%)が非常に高いにもかかわらず、17項目にわたる個々の政策に関してはほとんど評価されていないということだ。

 紙面はグラフだけの表示なので政策評価に関する正確な数字はわからないが、17政策のうち「評価できる」が20%を超えたのはアベノミクス関係の4項目(経済成長戦略の策定41%、TPP交渉への参加表明31%、黒田氏の日銀総裁起用23%、大型補正予算の編成22%)だけで、20%前後が4項目(日米同盟強化、尖閣諸島竹島問題、北朝鮮による拉致、東日本大震災からの復興)、それ以外の9項目(財政健全化、社会保障改革、少子化対策、国土強靭化、憲法改正原発・エネルギー問題、教育再生、沖縄米軍基地問題選挙制度改革)は全て20%未満だった。
 しかし不思議なことに、この17政策のなかには国民の最大関心事である「消費税増税問題」が入っていないのはどうしてなのか。前々回のブログでも書いたように、“風評人気”の域を出ないアベノミクスに対して実体経済を揺るがす消費税増税問題は安倍政権のアキレス腱であり、消費税増税を境にして一気に景気悪化に陥る危険性が各方面(安倍内閣参与の浜田教授からも)から指摘されているからである。 
 まさか、朝日新聞が消費税増税推進の論陣を張っているので都合の悪い項目を省いたわけではなかろうが、もし調査項目に入っていないとしたら、もうそれだけで「欠陥調査」ということになるし、調査はしたが紙面で公表しなかったというのであれば「世論操作」というそしりを免れない。「朝日・東大(谷口研究室)共同調査」と大々的に銘打って学術的な装いを凝らしているのだから、朝日も東大谷口研究室もその理由を早急に明らかにすべきだと思うがどうだろうか。
 本題に戻ろう。今回の「安倍内閣の通信簿」の最大の見どころは、憲法改正集団的自衛権原発再稼働の3政策において、衆院選時に安倍内閣の方針を支持した人々が参院選後には少なからず反対方向に意見を変えていることだ。つまり憲法改正集団的自衛権に関しては賛成派が減って反対派が増え、(憲法改正:賛成51%→44%、反対18%→24%)(集団的自衛権:賛成45%→39%、反対18%→20%)、原発再稼働に関しては賛成派が減って反対派が増えている(賛成35%→31%、反対37%→43%)という結果が出たのである。なお、96条改正への賛成はそれらよりもさらに低い31%だった。
 以前からも指摘してきたように、憲法改正に関しては具体的な条文を提示しない一般的質問は意味がないと思うが、それでも「なんとなく改憲派」の比率が低下したことは意味のある傾向だと見なせる。しかも衆院選から参院選までの半年余りの短い期間に数パーセントもの大きな変化(通常の世論調査では滅多に起らない変化)が起ったのであるから、そこには単に量的変化にとどまらない“世論転換”ともいうべき質的変化が生じていると見るのが自然だろう。
 安倍首相に対する好感度が衆院選時よりも参院選後の方が増しているにもかかわらず(好感度49→57、強い好感100、中立50、強い反感0としたときの数値評価)、また仕事ぶりへの全般的評価が非常に高いにもかかわらず(「よくやっている」59%)、なぜかくも安倍首相が推進しようとする憲法改正集団的自衛権原発再稼働に関しては世論が離れていくのだろうか。その理由は、安倍政権の国民的支持基盤(世論)が「アベノミクス」という風評人気(1点人気)に支えられているきわめて脆弱なものであることをうかがわせる。
 一般的に言って、安定政権とは主要政策が国民に支持され、そのピラミッド構造の上に首相人気が形成されているのが普通の姿である。ところが安倍政権の場合は「アベノミクス」という1本傘しか支えるものがなく、その傘の先に国民に不人気な各種政策がぶら下がっているという“不安定構造”そのものでしかない。したがって、「アベノミクス」が風評にすぎない存在であることが判明した瞬間から、安倍政権の劇的な崩壊劇が始まることは十分に予想できる。安倍首相の政治基盤が“風評人気“にすぎず、それも「1点人気=1点支持」の不安定構造であることを図らずも示したのが今回の朝日調査だった。(つづく)