維新得票率は“市政不満度”と強い相関関係がある、泉北ニュータウンはいつまでも「ニュータウン」のままでよいのか、堺市長選の分析(その26)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(56)

 今年の参院選堺市長選は、僅か2ヶ月余りしか離れていない。また得票総数は、参院選34万7千票、市長選33万9千票だから、国政選挙と首長選挙の性格の違いはあるが、ほぼ似た規模と構造を持った選挙だと見なすことができる。それに市長選は維新候補と反維新(現職)候補の一騎打ちになり、しかも政策的には有権者の態度が「大阪都構想賛成=維新支持」、「大阪都構想反対=現職支持」に明確に分かれたので、各行政区別の維新票の比較分析によって維新支持層の輪郭をある程度描き出すことが可能だ。

 両選挙における維新得票率の分布傾向をざっと眺めてみると、大きくは旧市民区(堺区・東区・西区・北区:戦前からの市民が相対的に多い行政区)と新市民区(南区・中区:高度成長期に開発された泉北ニュータウン一帯の行政区)および合併区(美原区:2005年に堺市編入された旧美原町)の3つに分類することができる。この3分類にもとづいて参院選と市長選の維新得票率を比較しよう。

     旧市民区(堺・東・西・北)  新市民区(南・中)  合併区(美原)
 参院選  61232票(28.1%)     34931票(30.8%)   4882票(30.4%)
 市長選  82039票(38.5%)     52171票(45.3%)   6359票(41.7%)
  差   20807票(10.4%)     17240票(14.5%)   1477票(11.3%)

 これらの数字から言えることは、第1に、維新得票率が全体として3割(参院選)から4割(市長選)と非常に高いこと、第2に、維新得票率の順位が両選挙とも新市民区>合併区>旧市民区の順で変わらないこと、第3に、市長選での維新得票率の増え方が同じく新市民区>合併区>旧市民区の順であること、の3点である。つまり新市民区は、維新得票率の高さにおいても市長選の維新得票増加率においても最も高く、旧市民区は相対的に低く、合併区はその中間に位置しているということだ。

 私は、参院選における大阪維新票の全体傾向から、維新支持層は自治体行政全般に対して“割り切れない不信感”を持つ中間層・ミドルクラスだと分析したが、この傾向は堺市にはより一層当てはまるように思う。つまり、新市民区には市政に対する不信・不満が持つ中間層が相対的に多く、次に合併にともなうトラブルがいまだ尾を引きずっている合併区の人たちがそれに次ぎ、旧市民区には市政に対する不信・不満が相対的に少ないという傾向が、維新得票率すなわち維新支持層の分布と強く相関しているように思われるのである。

 新聞社の出口調査では、通常「どの政党(候補)に投票しましたか」と言う質問が中心となり、今回の市長選では「大阪都構想に賛成ですか、反対ですか」という政策に関する賛否が付け加えられた。あとは投票者の基本属性(性別、年齢など)があれば、出口調査はほぼ完成する。でも首長選挙の場合は、「現在の市政を信頼していますか、いませんか」、「現在の市政に不満がありますか、ありませんか」と言う質問が必要だと思う。もし今回の市長選でこの種の質問があれば、維新得票率と高い相関度を示したと考えるからだ。

 大都市の住民は、職場や住居の関係でこれまで転出入を繰り返して定住性が低かった。その受け皿になったのが郊外の「ベッドタウン」であり、とりわけ賃貸住宅を主とする「団地」である。高度成長政策を担う労働力対策として造られた団地は、地方から大都市に流入する若者やカップルの受け皿になり、同時に大都市内を移動する流動人口の中継地となった。その集大成が「ニュータウン」と言われる大規模団地であり、堺市では「泉北ニュータウン」が大阪大都市圏で2番目のニュータウンとして存在感を発揮してきた。

 ニュータウン住民の特徴は、意識の点でもライフスタイルの点でも「地元意識」が薄いことだ。転出入の多い賃貸住宅では特にそうである。これは、ニュータウンが既成市街地から離れた丘陵部に開発されたことと大いに関係している(大規模な開発用地は丘陵部しかなかった)。だから定住性が強い分譲住宅住民の間でも、自分たちは「ニュータウン住民」であって「市民」だと思っている人が少ない。千里ニュータウンでは「吹田市民」「豊中市民」とは言わず、「千里の住民」だと言う人が多いのはそのためだ。

 率直に言って、堺市政はこれまで「ニュータウン住民」を堺市民にする努力を怠ってきたのではないか。ニュータウンは環境にも恵まれ、インフラも整備されている。だから文句があるはずがないと決めつけて、住民を“市民化”する有効な対策を講じてこなかったのだ。地元意識が低く、転出入を繰り返し、それでいて市政に批判的な中間層を相手にするよりも、地付きの人たちを相手にして行政運営する方がよほど楽であり、対応マニュアルも出来上がっているからだ。

 だが、ニュータウンの「オールドタウン化」といわれるように、開発から半世紀を経たニュータウン(の社会構造)はいま恐ろしい勢いで変化しつつある。その変化に追いつけない矛盾が「市政不信」「行政不満」と言う形で噴出し、それが橋下維新のいう「グレートリセット」(大改革)の掛け声に結び付いて高い維新得票率となってあらわれたというわけだ。次はその具体的な問題点を指摘しよう。(つづく)