大阪府都市開発株式会社(OTK)売却の優先交渉者選定は“出来レース”だった、泉北高速鉄道外資(米投資ファンド)売却議案否決の波紋(その2)、ポスト堺市長選の政治分析(18)

 泉北高速鉄道の米投資ファンド売却議案が否決されたというニュースは瞬く間に関西一円を駆け巡ったが、各紙の関心は維新派議員の造反による「否決」という表側の政治イッシュ―に集中していて、その前段階の優先交渉者の選定結果に注目した記事は皆無に等しかった。僅かに優先交渉者第2位の南海電鉄が乗り継ぎ運賃の80円割引、通学定期25%割引を提案していたにもかかわらず、なぜ10円割引、12.5%割引の米投資ファンドが優先交渉者第1位に選定されたのかといった「疑問」が取り上げられていたにすぎない。

 だがこの問題は、この程度の「疑問」には止まらない“深い闇”に包まれている。いずれ時が来れば、敏腕の経済記者やフリージャーナリストたちが真相を解明してくれるであろうが、そこに垣間見える利権構図は底知れぬ深みを感じさせる。なぜ「ハゲタカファンド」ともいうべき米投資ファンドが優先交渉者第1位に選定されたのか、その選定過程は“出来レース”ではなかったのか、誰が“出来レース”の首謀者であり、誰が騎手だったのかなどなど、次から次へと浮かび上がってくる疑問を押さえることができない。

 大阪府都市開発株式会社(OTK)の民営化すなわち府民財産の売却方針は、橋下前知事が旗を振り、松井知事が引き継いだ橋下維新の“コア”ともいうべき基本政策だ。おそらくこの基本政策は、マッキンゼー流の経営理念を府市特別顧問あたりから吹き込まれたことで出てきたものであろうが、そこには府民の財産(公共資産)を出来るだけ高く売り、その売却益を彼らの意図するベイエリ開発や北部開発のインフラ整備に振り向けようとする橋下行政の本質が露骨にあらわれている。要するに橋下維新の基本政策は、公共事業の民営化が府民・市民の日常生活にどれだけネガティブな影響を与えるかといったことは一切眼中になく、ただ行政財産を使って民間大企業の成長をいかに活性化させるかということだけを徹頭徹尾追求する「資本の論理」を忠実に実行することなのである。

 言うまでもないことだが、大阪府都市開発株式会社(OTK)の民営化問題に関しては、まず何よりも府民の福祉や日常生活の改善・向上が第一義の目的に据えられなければならないのは当然だ。泉北高速鉄道の運賃がこれまでも私鉄運賃に比べて著しく割高であり、そのことが沿線住民や沿線の大学に通う学生たちの苦情の的になっていた。その意味で泉北高速鉄道の運賃値下げ問題は沿線住民の「悲願」といってよいぐらいの切実なニーズであり、開業以来の最大の懸案だったといってもよい。とりわけ泉北ニュータウン住民にとっては通勤・通学費の家計負担が大きく、ニュータウン住民の転出率が高いのはそのためだとも言われていた。今回の売却問題においても公共交通機関を売却することの是非に関わる根本議論と並んで、交通サービスがどれほど改善されるかが沿線住民のもうひとつの大きな関心の的になっていたのである。

 第一、運賃問題がどれほど市民・住民の大きな関心事であるかは橋下氏自身が一番よく知っていることではないか。そのことは、現に大阪市営地下鉄の民営化議案が市議会で棚上げされていることに業を煮やした橋下市長が、初乗り運賃の「値下げ」を餌にして事態を打開しようとしていることひとつをとってみても明らかだろう。橋下市長が内部(交通局長)の反対を押し切って一方的に来春から運賃値下げ(議会の同意を必要としない程度の額)を宣言し、市議会が民営化議案に同意しなければ「再値上げ」するという“姑息な戦術”がそれだ。

 そこには、市民は地下鉄運賃の再値上げには必ず反対する、交通局が再値上げするのは地下鉄が民営化されないためだ、地下鉄民営化を阻んでいるのは市議会だという3段論法で市民の批判を市議会に向けさせ、その圧力で市議会を屈服させて何としても地下鉄民営化を実現したいという(浅はかな)思惑が透けて見える。こんなことで騙されるほど市民や議会は馬鹿ではないと思うが、橋下市長が運賃問題に敏感な市民感情を利用しようとしていることは間違いない。

 ならば、泉北高速鉄道の売却案件に関して松井知事や維新幹部はなににも増して運賃問題を重視すべきであったが、にもかかわらず全く考慮しなかったのはなぜか。理由は簡単だ。彼らの意図は府民の財産を出来るだけ高く売り、その売却益を大企業向けの開発投資(インフラ整備)に振り向けたかっただけのことだ。民間企業でいえば、そこで働いていた従業員や家族、関係自治体にどれだけの犠牲が生じても、収益の出なくなった工場やオフィスは情け容赦なく閉鎖して財産を処分し、外国などの新規投資の資金源として活用するという「後は野となれ山となれ」の経営方針と基本的に変わるところがないのである。

 しかしこの基本政策を実現するには、さすがの橋下維新も表向きはそういうわけにはいかない。そこで持ち出されてきたのが、「胴元」の維新幹部が定めた「価格点(70点)と提案点(30点)との合計(100点)により総合評価」するという“出来レース”のルールを定めた審査方針であり、経営学の大学教授や公認会計士・弁護士など「学識経験者」による株式売価先選定委員会の設置である。そこでは、厳正中立の立場で公正な審査に当たるという「騎手」たちが“出来レース”のルール通り走るという約束が取り交わされているのである。(つづく)