ОTK売却の配点評価は“橋下錬金術”の方程式、隠されていた“第3のカラクリ”、泉北高速鉄道外資(米投資ファンド)売却議案否決の波紋(その4)、ポスト堺市長選の政治分析(20)

 『大阪府都市開発株式会社売却公募要領』における“第2のカラクリ”は、「本審査項目と配点」だ。審査項目は、「A.経営方針・事業プラン」、「B.鉄道事業の利便性向上」、「C.トラックターミナル等物流事業に関する運営方針」、「(買収)価格」の4項目であり、前半の3項目には以下のような立派な「審査の視点」がズラリと並んでいる。

A.経営方針・事業プラン
 ●鉄道部門・物流部門はもとより(株)パンジョ等関係会社(引用者注:泉北ニュータウン商業施設の運営会社)を含めたОTKグループの事業がこれまで担ってきた役割を踏まえた経営方針となっているか。
 ●長期的な見通しをもったものか。
 ●鉄道や物流施設の安全性の維持・向上について十分留意がなされているか。
 ●雇用条件等に留意しているものとなっているか。
 ●行政を含め地域社会への貢献、協力等を考慮しているか。
 ●事業計画、収支計画、資金計画が合理性や整合性を欠くものとなっていないか。

B、鉄道事業の利便性向上
 ●料金引き下げ等のサービス向上策について具体的な提案がなされているか。
 ●提案内容が地元市の要望を踏まえるなど沿線地域の実情を考慮したものとなっているか。
 ●提案内容の実施時期が明確か。永続性のある内容となっているか。

C.トラックターミナル等物流事業に関する運営方針
 ●長期的で安定的な事業継続を目指したものとなっているか。
 ●多数の利用者の平等・公平な利用に資するものとなっているか。
 ●利便性やサービス向上に向けた具体的な方針、方策を有しているか。
 ●既存利用者について考慮されたものになっているか。

 この「審査の視点」を読めば、OTK売却交渉権者は、長期的で安定的な事業継続を目指し、鉄道や物流施設の安全性の維持・向上について十分留意し、行政を含め地域社会への貢献・協力等を考慮している申込者が優先的に選定されるに違いないと誰もが思うだろう。だが配点の内訳は、“羊頭狗肉”という言葉が真っ青になるほどの酷いもので、「経営方針・事業プラン」10点、「鉄道事業の利便性向上」15点、「トラックターミナル等物流事業に関する運営方針」5点、価格点70点となっており圧倒的に価格点の割合が高い。要するに、事業提案の趣旨や内容はどうあれ、とにかく金さえ積めば優先交渉権者になれるという仕掛けになっているのである。

 この結果、米投資ファンドが第1位、南海電鉄が第2位に選定された。配点内訳は以下の通りである。
 ●米投資ファンド:提案価格781億円、提案点14.4、価格点70.0、合計点84.4
 ●南海電鉄:提案価格720億円、提案点27.4、価格点40.2、合計点67.6

 ここで明らかになったことは、南海電鉄が提案点で米ファンドの倍近い点を取っているにもかかわらず(運賃値下げなど利便性が高い)、価格点では米ファンドの6割弱の配点しか与えられていないことだ。提案価格は米ファンド781億円、南海電鉄720億円だから、提案価格比は720億円/781億円=0.92なのに、なぜ価格点が40.2/70.0=0.57という大差になるのか。

 ここに最高買収価格さえ提案すれば(情報漏えいという形での利権汚職が起りやすいケース)、ほぼ自動的に優先交渉権者になれるという“第3のカラクリ”が隠されていることが『大阪府都市開発株式会社(OTK)株式売却の優先交渉権者の選定結果等について』のなかで明らかになった。それは買収価格点70点の算定式に関する世にも不思議な以下の数式である。

●70点×{1−(最高提案価格−提案価格)/(最高提案価格−最低売却価格)}

 この算定式に関する説明は一切なく、それにもとづいて算定した点数が示されているだけである。したがって算定式の根拠は不明だが、通常はこのような意味不明の算定式が出てくることはまずない。たとえば、独立行政法人都市再生機構(旧住宅公団)が業務施設用地譲受人の公募を行う場合には、事業企画提案評価点と入札価格点を一定比率で分け、その合計点が機構の設定する最低譲渡価格以上であれば高い入札額の者から譲受人を選定する。ここまではOTK売却と同じだが、異なるのは入札価格点の算定式は最高入札価格を満点とし、各入札参加者の入札価格と最高入札価格との乖離差により点数化するという常識的な方式を採っていることである。OTKと比較するため入札額の配点を同じ70点満点にすると、その算定式は以下のようになる。

 ●70点×(入札価格/最高入札価格)

 この算定式を用いて配点すると、米投資ファンド南海電鉄の合計点は次のようになって優先順位は逆転する。
 ●米投資ファンド:提案価格781億円、提案点14.4、価格点70.0、合計点84.4
 ●南海電鉄:提案価格720億円、提案点27.4、価格点64.4、合計点91.8

 また鉄道事業やトラックターミナル事業の公共性・公益性から考えて、提案点と価格点の配分を1:1にすれば、その差はさらに広がる。
 ●米投資ファンド:提案価格781億円、提案点24.0(14.4×0.5/0.3)、価格点50.0(70.0×0.5/0.7)、合計点74.0
 ●南海電鉄:提案価格720億円、提案点45.7(27.4×0.5/0.3)、価格点46.0(64.4×0.5/0.7)、合計点91.7

 ОTK売却にあたっては、経営学専攻の大学教授を委員長とする5人の専門家が選定にあたり、選定後は氏名も公表されている。私のような経営学に素人の者でさえ疑問に思う選定方法や配点方式に関して、彼らの間ではなぜ議論が起こらなかったのだろうか。もしこのような“イカサマ”に気付きながら黙認したのであれば、学者や専門家としての良心や職能(プロフェッション)が問われるし、なによりも大阪府民の財産をハゲタカファンドに叩き売りをしようとした“出来レース”に加担したことになり、社会的にも許されない行為を犯したことになる。また気付かないで電卓を叩いただけなら、これはもう専門家としての名に値しない程度の無能集団だということにならざるを得ない。いずれにしても、彼らは府民の前に選定経過と選定結果についての説明責任を果たすべきだと思うがどうだろうか。(つづく)