大阪出直し市長選は過去最低投票率との戦いになってきた、橋下維新はなす術(すべ)もなく“自滅”するだろう、大阪出直し市長選をめぐって(その10)

 大阪出直し市長選の折り返し日、3月16日のラストサンデーに海遊館(港区)近くの沿道端で開かれたタウンミーティングの現場に行ってみた。この日は堺市泉北ニュータウンで午後から「堺市のまちづくりとニュータウンの再生」に関する講演会があり、そこに行く途中で立ち寄ったのだ。

 午前11時半からの開会に備えて30分ほど前から準備が始まっていたが、そこで動いているのは地元市議のスタッフ十数人程度で、それ以外は例によって物々しい警護陣が見張っているだけだった。やがて午前11時から大型説明版を使って橋下候補の説明が始まり、その後は質疑応答の時間となったが、しかし聴衆の数は百数十人前後でいっこうに増えない。これまでの熱気を帯びた街頭演説会とは打って変わった静かな(さびしい)雰囲気で、およそ維新らしくない選挙風景だった。

 橋下候補が出直し市長選の第一声で「演説はしない」「(大阪都構想の)説明に徹する」と言ったように、今回の維新の選挙重点は「タウンミーティング」と呼ばれる大阪都構想の説明会に置かれている。しかし説明会は1日平均4〜5か所程度の開催が限度だから、2週間しかない選挙期間中に市内24区で説明会をやろうとすれば各区で平均2回余りしか開けない。1会場当たりの参加者を300人程度だとすると、有権者214万人の1%、せいぜい2万人程度しか接触できないことになり、これでは大都市選挙の体をなさないだろう。

 相手が泡沫候補(群)だからこの程度の選挙戦でよいのかもしれないが、もし維新陣営が市民・有権者の民意を本気で掘り起こそうとするのであれば、各党が懸念するぐらいの「好き放題にやる選挙」の態勢をつくらなければならないのではないか。どこに行っても維新派議員や運動員が「大阪都構想」のビラやチラシをまき、政策を訴えて大阪市内が熱気に満ちた空気に包まれる――、これが大都市選挙の普通の姿ではないのだろうか。

 おそらく今回採用された「タウンミーティング」という方法は、維新がもはや大都市選挙をやり切るだけの態勢が作れないことの裏返しの現象だろう。堺市長選のときのように全国から地方議員を動員しようとしても、上から命令するだけの「兵隊型選挙」にはもう議員の誰一人も付いてこない。また街頭で大量のビラ・チラシを撒くにはそれだけの数の運動員が必要となるが、そんな大勢の運動員を組織する体力はいまの維新にはどこを探しても残っていない。つまり橋下維新には、選挙を「好き放題にやる」だけの組織動員がもはや不可能になったのだ。

 こうなると、当然のことながら選挙は盛り上がらない。“盛り上がらなさ”は期日前投票の推移にもあらわれている。告示日翌日の3月10日から期日前投票が始まったが、初日に投票した人の数は947人と前回ダブル選4256人の4分の1にも満たず、市長選単独だった前々回1504人に比べても大幅に下回った。大阪市選挙管理委員会は3月17日、期日前投票を始めた10日から16日までの1週間分の期日前投票の中間発表をしたが、投票者数は3万1980人で前回のダブル選の7万2623人の4割強だった。

 各紙の世論調査でもこの傾向ははっきりと出ている。読売新聞の大阪市内の有権者を対象にした世論調査(3月13〜15日実施、回答率58%)によれば、投票に「必ず行く」と答えた人は41%しかなく、2011年の前回市長選告示後の調査80%から半減した。また、投票に「たぶん行かない」「行かない」はそれぞれ11%、15%だが、その理由(複数回答)は「今回の選挙に意義を感じないから」79%が最も多く、「投票したい候補者がいないから」72%と続いた。

 朝日新聞世論調査(3月15、16日実施、回答率60%)でも、市長選に「大いに関心がある」と答えた人はたった15%で、2011年前回選挙の57%から4分の1近くまで下がった。また「少しは関心がある」52%、「関心はない」32%で、選挙に関心がない人の比率が異常といえるほど高い。これらの数字のいずれもが、出直し市長選の“大義のなさ”を証明しているといえる。

 市選挙管理委員会は、このままでいくと市長選として過去最低の投票率だった1995年の28.5%を下回るかもしれないとの危機感を強めている。過去最低投票率を上回るためには、214.1万人(2014年3月現在の市内有権者数)×0.285=61万人が投票所に足を運ばなければならない。また今回の市長選は泡沫候補が相手だから、橋下候補が9割以上の得票数を獲得してもおかしくない。9割であれば55万票、8割でも49万票を維新が得票しなければ「話にならない」というべきだろう。

 ところが産経新聞(3月16日)によると、維新市議団幹部は驚くべきことに、2005年出直し市長選で再選を果たした関市長の得票数27.9万票が今回選挙の「信任目標ライン」だと言い始めたらしい。ちなみに2005年出直し市長選の投票率は33.9%、有効投票数は68.1万票、市民派弁護士と共産党市議団長という2人の有力対立候補が出たので関市長の得票率は41%だった。

 同じ出直し市長選でも有力対立候補がいる選挙と泡沫候補相手だけの選挙では「月とスッポン」ほど違うことは子供でも知っているからこれ以上言わないが、それでも27.9万票が「信任目標ライン」だというのなら、橋下候補は214万人有権者の僅か13%の得票で「信任」されたことになり、大阪都構想に対する「民意」を得たことになる。

 だが、ヒットラーでも真っ青になるようなこんな詭弁が通用しないことは、橋下候補自身が誰よりもよく知っていることではないか。橋下氏の言う「究極の民主主義」が有権者の1割強の支持で実現できるというのなら、それは9割の民意を否定する「究極の民主主義破壊」に転化する。過去最低投票率との戦いとなった出直し市長選で、橋下維新はなす術(すべ)もなく刻々と“自滅への道”を歩んでいる。(つづく)