「東京一極集中=世界都市東京」を推進するイデオローグ群像、その活動水準は学者の域を遥かに超えている、安倍政権における目玉政策と経済動向の乖離(4)、「地方創生」キャンペーンの意図と役割を分析する(その13)

 東京一極集中を前提とした「世界都市東京」を喧伝するイデオローグは山ほどいるが、政界、官界、業界、学会、マスメディなど関連分野の全てにわたって大きな影響力を持っている人物はそれほど多くない。通常の場合はそれぞれの得意分野があり、官界に強い影響力を持っている場合もあれば、業界やマスメディアと太いパイプで繋がっている場合もある。また、長年にわたって学会に君臨しているケースも多い。

いずれも平均的な学者・研究者のイメージを超える存在として絶大な権威を誇っているが、そのなかでも「世界都市東京」との関連で言えば、拙ブログでもしばしば批判的に取り上げてきた伊藤滋氏(東大名誉教授、都市工学、1931年生まれ)が突出した存在であることは衆目が一致している。伊藤氏は、都市計画や国土計画の分野では「ボス」「ドン」などと称されるいわゆる「大物」であり、各界に多大の影響力(権力)を及ぼしている人物である。

伊藤氏の肩書きは数十に達するといわれており、80歳を超える今でも大学関係では早稲田・慶応の特命教授や客員教授を兼任している(いったい何を教えているのだろうか)。またこれまで歴任した要職、名誉職は数知れず、主なものを挙げてみるだけでも日本都市計画家協会会長、アジア防災センター・センター長、内閣官房都市再生戦略チーム座長、国土審議会委員、都市計画中央審議会会長など国家レベルの枢要なポストを歴任し、現在は国土計画協会会長、森記念財団理事長、2030年の東京都心市街地像研究会座長、さいたま新都心計画チーフプロデューサー等々を務めている。

これら伊藤氏の華麗なキャリアのなかで私がとりわけ注目するのは、「六本木ヒルズ」開発などで名高い東京の総合デベロッパー・森ビル株式会社が設立した「森記念財団理事長」のポストである。森記念財団は1881年にされた都市開発に関する調査研究のための財団で、設立当初から「国際都市東京」を「世界都市東京」へ発展させるべく、港区を中心にした都心(再)開発構想を精力的に推進してきた。記念財団の初代会長は創業者自らが就任したが、2代目からは都市工学系の学者を据えるようになり、伊藤氏は3代目理事長(1999年〜現在)として十数年この方、豊富な資金力をバックに(学者の域を遥かに超える)影響力を各方面で行使してきた(いる)。

同財団の評議員や役員にも各界のキーパーソンが並んでいる。元東京都副知事や都市計画学会の重鎮はもとより、小泉政権の中核閣僚だった竹中平蔵氏の名前もある。それも単なる名誉職ではなく、同財団の「都市戦略研究所」所長という位置づけだ。また前回のブログでも挙げたように、「世界都市東京」のイデオローグ(第一人者)として活躍している市川宏雄氏(明治大学専門職大学院長)は、財団および都市戦略研究所の業務担当理事という要職に就いている。これら伊藤・竹中・市川各氏が森記念財団の世界都市戦略を推進する情報発信基地(コア)となり、そこからマスメディアを通して全国に「世界都市東京」の情報が拡散されていく仕組みが出来上がっているのである。

竹中氏が所長を務める都市戦略研究所のメーセージは、以下のように単刀直入にして明快だ(要旨)。
 「急速なグローバル化の進展にともない都市を取り巻く環境は現在、大きな変革期にあります。都市戦略研究所では、地球規模で展開される都市間競争時代において将来にわたって世界の都市が持続的に発展していくためにはどのような戦略を展開すべきなのかを探求し、関係各方面に提言を行っています。特に、グローバルな視点で東京にスポットを当て、東京が常に世界のトップランナー都市として、経済面や金融センター機能といった特定の側面だけでなく、環境にも配慮し居住者や訪問者にもやさしい世界の先進都市として成長してゆくための戦略立案や提言を行っています」(森記念財団ホームページから)

 そして、ここでいう「東京が常に世界のトップランナー都市として成長していく」ための広報戦略を具体化したのが、同研究所が2008年から発行を始めた「世界の都市総合力ランキング」である。都市戦略研究所の説明によれば、「世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index, GPCI)は、地球規模で展開される都市間競争下において、より魅力的でクリエイティブな人々や企業を世界中から惹きつける、いわば都市の“磁力”こそが「都市の総合力」であるとの観点に立ち、世界の主要都市の総合力を評価し、順位付けしたものです」ということになっている。

「ランキング」とは言うまでもなく競争社会の中心指標であり、競争社会ではあらゆるものが「ランキング」される。真理を探究するはずの大学さえが論文の数や論文の引用数で「ランキング」され、研究者は論文を製造するためのマシーンとなって働かされている時代である。「世界都市ランキング」とは、本来歴史も性格も異なる都市をグローバル資本にとって都合のよい指標で画一的に評価し、その点数で都市の「格付け」を行って都市間競争を強制する仕組みだといってよい。

 この「世界都市ランキング」によれば、東京は2008年以来7年連続してロンドン、パリ、ニューヨークに次ぐ第4位だというが、それを「トップランナー」に押し上げようとするのが三菱地所三井不動産・森ビルなどの大手不動産・デベロッパーの基本戦略であり、安倍政権が2020年東京オリンピック開催を名目にして「国家戦略特区」を設けた狙いでもある。そして「地方創生」担当相であるはずの石破氏が、「特区を通じて東京を『世界で一番ビジネスをしやすい街』にして世界に肩を並べて競争していく拠点にする」と宣言した背景でもある。

 この狙いを端的に示したのが、最近鹿島出版会から刊行された『たたかう東京、東京計画2030+』だろう。伊藤滋著となっているが、内容は大手不動産・デベロッパーやゼネコンを結集した「2030年の東京都心市街地像研究会」が作成したものだ。次回はその分析を試みたい。(つづく)