神戸再生のカギは「まちなか再生」にある、当局主導の「プロジェクト主義」「イベント主義」を抜本転換して「まちなか再生」に重点を移し、市民のまちづくりを支援することなしには神戸は生き返らない、阪神・淡路大震災20年を迎えて(その26)

「輝ける神戸」を再び取り戻すにはどうすればよいのだろうか。結論的に言えば、それは「ハコモノ」が輝く都市ではなく、「ひと」と「まち」が輝く都市に神戸を変えることだ。言い換えれば、もうこれ以上、市役所が主導する巨大プロジェクト(三ノ宮再開発計画など)や巨大コンベンション(2016サミット誘致など)に血道を上げるのではなく、空洞化・衰退化の道を歩んでいる「まちなか」の再生に全力を挙げることだ。

 「まちなか」とは何か。大都市の構造は大きく分けて「都心」(コア、セントラルエリア)、「中心市街地」(インナーエリア)、「郊外」(アウターエリア)の3層構造になっている。「まちなか」は概ね中心市街地に相当するエリアで、高度成長期以前に形成された既成市街地のことだ。長年にわたって歴史的に形成されてきた「まちなか」は一見雑然としている(雑踏といってもよい)。都市計画的に言えば「住商工混合地域」であり、区画整理や再開発の対象となる密集市街地の場合が多い。防災上も「危険地域」と見なされる場合がほとんどで、神戸市が「消滅」させることを目的にして取り組んできた地域だ。

 たしかに密集市街地をそのまま放置することは許されない。建築基準法はもとより消防法に基づく日頃の査察や点検は欠かせないし、建築構造や防火設備の改善についても厳しい指導が求められる。しかし、防災上の観点(だけ)から「まちなか」を消滅させることには賛成できない。比喩的に言えば、それは「たらいの水と一緒に赤子を流す」ようなものだからだ。

高度成長時代に一世を風靡した近代都市計画の原理は、郊外に団地(工業団地も含む)やニュータウンの「受け皿」をつくって既成市街地から住宅や工場の移転を促し、既成市街地の区画整理や再開発を推進するというものだった。いわば「ポンプ」のように市内から人口を吸い上げて郊外に移し、空洞化して跡地となった既成市街地をインフラ整備とともに再開発する。そうすれば街がきれいになり、新しい住民が流入して人口が増え、都市が活性化する――、ざっと言えばこんな感じだった。

人口増加時代にはこんな考え方も必要だった(かもしれない)。絶え間なく都市に流入する膨大な人口圧を受け止め、都市の混雑を防ぐには、郊外に団地やニュータウンをつくって都市容量を拡大し、都心および周辺市街地の混雑拠点を重点的に再開発することが求められていたからだ。しかし都市計画関係者が(私も含めて)見逃していた盲点がひとつあった。それは「まちなか」がその都市の遺伝子(DNA)を蓄積している歴史拠点であり、そこに住み続けてきた住民がこよなく愛している地域であったことだ。

都市計画の専門家の間では、これまで「人口を貼り付ける」という言葉が常用されてきた。増え続ける人口をどこで受け止めるかという議論の中で、「あそこは○○万人」、「ここは○○万人」と計画人口を想定し、それに基づいて団地開発やニュータウン計画が進められた。いまから思えば、まさに都市住民を「人口=量的存在」としか見ない計画テクノクラートの体質が露呈しているとしか言い様がないが、当時はそんなことを気にすることもなく作業は平然と行われていた。

だが、今は違う。都市人口は「ゼロサム」「マイナスサム」状態になり、郊外開発を進めて市内から人口移転すればするほど市内人口の空洞化が避けられなくなった。郊外と市内は互いに「トレーオフ」の関係になり、それどころか最近は郊外団地やニュータウンでも空き地・空き家が目立つようになってきた。大都市はいまや、郊外でも中心市街地でも空洞化が同時並行的に進むようになってきたのである。都市へ流入してくる人口源が国土全体にわたって枯渇し、大都市といえども人口減少時代の影響が避けられなくなったのだ。

 「ポスト成長時代=人口減少時代」の都市問題を象徴するのが「空き地・空き家」問題だろう。戦後の言語を絶する深刻な住宅問題(住宅不足)に取り組んできた私たち世代には信じられないような数字だが、総務省の「2013年住宅・土地統計調査結果」によれば全国の空き家は820万戸にのぼり、総住宅戸数に占める割合が13・5%で過去最高となったことが明らかになった。今後,団塊の世代の高齢化が進めば、空き家の増加がさらに加速する見通しだという。

 神戸市の2013年結果はまだ公表されていないのでわからないが、5年前の2008年時点で、空き家はすでに10万5千戸、空き家率は13.5%で、全国値13.1%、大都市平均12.9% を上回っていた。その趨勢からすると、最新数字が14%を超えることはまず間違いないと思われる。なかでも問題なのは、インナーエリアの空き家率がひときわ高いことだ。すでに5年前の段階で長田区18.3%、兵庫区16.7%、垂水区16.0%に達しているのだから、これらのインナーエリアでは20%に達するのもそれほど遠くないと考えなければならない。5件に1軒の割合で空き家が発生している街がいったいどんな様相を呈するか、考えても恐ろしくなる。 次回は「まちなか再生」の方法を考えてみよう。(つづく)