スカイマークの経営破綻と関空・伊丹空港運営権の入札延期で「ダッチロール」状態に陥った神戸空港をどうする、関空・伊丹・神戸3空港の一体運営への移行は果たして可能か、阪神・淡路大震災20年を迎えて(その28)

 ふたたび、神戸空港のことについて語ろう(語らなければならない)。今年1月28日、発着便枠(1日30便)の7割を占めるスカイマークの経営破綻(民事再生法適用)が明らかになって以来、神戸空港は事実上「ダッチロール」状態に陥ったといっても過言ではない。「ダッチロール」とは、飛行機が横揺れと横滑りを繰り返しながら左右に「8の字」蛇行をすることだ。

1985年8月、羽田発伊丹行きの日航ジャンボジエット機が垂直尾翼の破損によってダッチロール状態に陥り、群馬県御巣鷹尾根に墜落した。500人を超える犠牲者(世界最大の航空事故)を出した航空事故は国内に衝撃を与え、以来、ダッチロールは、「事態が悪化し、もはや手の施しようのない状態」を象徴する言葉になった。神戸空港が「そこまで」とは言えないまでも、事態打開の見通しのないままに運行を続けなければならない現状は、ダッチロールする機影の姿とダブってもおかしくない。

スカイマークの負債総額は710億円(うち9割が航空機リース料関連)、欧州エアバスから求められているA380型機の購入違約金7億ドル(最大830億円)、これらの損害賠償など簿外債務を合わせると負債総額は軽く1000億円を超える見通しだという。すでに東京証券取引所スカイマーク株を3月1日付けで上場廃止にすることを発表しており、破綻前317円だった株価は2月2日現在、僅か19円の底値に暴落している(日経、2015年2月3日)。

また、当座の運転資金(航空機のリース料、燃料費、空港使用料、乗務員賃金など)も枯渇して自転車操業に陥っている。投資ファンドインテグラルから90億円の緊急融資を受けることになったものの、国や自治体に支払うべき空港使用料30億円以上が未納になっており、神戸空港の場合は約9400万円が未払いとなっている(赤旗、2月5日)。

しかし問題なのは、一番肝心の「再生計画」の基本方針がはっきりしないことだ。スカイマークが国内第3位の航空会社であったことから、当初の再建方針はあくまでも「第3極」にこだわり、日航全日空など同業者からは支援を受けないというものだった。それがいつの間にか支援受け入れに変わり(朝日、2月3日)、運転資金を融資したインテグラル社長は「第三極にこだわらず、スカイマークの価値が最も高まる支援企業を選ぶ。出資がなくてもいい」と表明するまでになった(朝日、2月6日)。

こうした基本方針の変更は、神戸空港にとっては不安定要素以外の何物でもない。日航神戸空港からあっさり撤退したとき、これに代わって神戸空港を支えると約束したのがスカイマークだった。スカイマークの増便によって神戸空港は辛うじて廃港を免れ、赤字を垂れ流しながらも今日まで運営を続けることができたのである。しかしスカイマークの経営権が事実上支援企業の手に渡るようになると、今までの約束は反故になるかもしれない。また反故にならないまでも大幅な路線削減・便数削減が起こらないとも限らない。これが第1の不安材料である。

第2の不安材料は、神戸市が2億円もの当初予算を組んで神戸空港の運営権を売却するための準備を始めた矢先、売却先の新運営会社設立の雲行きが怪しくなって来たことだ。関空・伊丹両空港の運営権売却のための準備は、これまで順調に進んでいるものと(ばかり)思われていた。日経新聞などは2月3日の時点で、「神戸市、15年度予算案に調査費、3空港一体運営へ指導」といった見出しを掲げ、条件付きながら3空港一体運営への可能性に言及していた。たとえば次のような観測記事は、神戸空港の「発展的解消」に大きな希望を与えるものだっただろう。
「3空港の一体運営については、関空と伊丹を運営する新関西国際空港会社や国交省も前向き。12年に関空と伊丹を統合して以降、訪日外国人の増加などを背景に業績が上向いており、3空港を一体運営すればさらい効率的な運航やコスト削減につながる可能性があるからだ。運営権を握る民間企業が主導すれば、規制緩和に慎重な関空周辺の自治体などとの協議も進みやすいと国土交通省もみている。関空と伊丹の運営権売却を控える新関空会社は、神戸空港も一元運営する可能性が高まれば、3空港内の競合リスクが抑えられ、入札を検討する企業にプラスに働くとみている」(日経、2月3日)

ところが翌日の2月4日、新関空会社は関空・伊丹両空港の運営権を売却するための1次入札の締め切り期限を突如変更し、約3ヶ月延長すると発表した。運営権の対価が2兆2千億円と巨額に上ることや、運営期間が45年の長期にわたることに懸念が生じ、シンジケートを組む有力企業の幾つかが応札を見送る方向に傾いたからだ。その結果、当初の2月16日1次入札の締め切り、6月頃運営権売却先の決定、2016年1月に運営が民間企業に移行という日程が大きく狂うことになった(毎日、2月5日)。

来年1月に新関空会社が発足すると睨んで神戸空港運営権の調査費を予算化した神戸市は、これで大きな「肩透かし」を食ったことになる。また、たとえ関空・伊丹の運営権売却先が決まっても、その企業が神戸空港に関心を示さなければ神戸空港の「発展的解消」につなげることができない。その最大の足かせが、神戸空港建設に伴う巨額の起債額2300億円の償還がほとんど進んでいないことだ。神戸市は表向き1000億円を償還したと言っているが、原資は神戸市の新都市整備事業会計からの借り換えであり、市全体の会計では2150億円の負債額が残っている。これだけの負債を抱えた神戸空港を引き受ける会社など見つけるのは至難の業だ。神戸空港はどこへ行く?(つづく)