安倍内閣支持率の転換点(支持>不支持→不支持>支持)がまもなく訪れようとしている、国民世論の節目が「アベノミクス期待」から「安保法案反対」へ変わり始めた、大阪都構想住民投票後の政治情勢について(3)、橋下維新の策略と手法を考える(その41)

 安倍政権がとりわけ重視する2つのデータがある。日経平均株価内閣支持率だ。一般的に言って、株価が上がり景気が良くなる(と感じる)と有権者の政府に対する評価が高まり、内閣支持率も上がるとされている。だが、実態はそれほど単純ではない。日経平均株価は6月24日、2000年のIT(情報技術)バブル期の高値を上回り18年半ぶりの水準に上昇したが、安倍内閣の支持率は2年前の春がピークであり、それ以来じりじりと下がり続けているからだ。

 日本経済新聞の解説記事『データを読む、世論調査から』(2015年4月25日)は、安倍内閣の支持率はアベノミクスへの「期待」すなわち世論調査における安倍首相の経済政策に「期待できる」とする比率とほぼ軌を一にすると説明している。つまり安倍内閣の支持率は、経済の「実態」(株価など)に対する評価ではなく、主にアベノミクスへの「期待」に依存しており、多少の凸凹はあるが「期待」が下がれば支持率も下がることがグラフで明らかにされているのである。

具体的な数字で言うと、2013年4月の世論調査では、安倍首相の経済政策で日本経済の成長が「期待できる」55%、「期待できない」26%、首相の経済政策が賃金や雇用の増加に「結びつく」45%、「そうは思わない」37%と期待側の数字が大きかったのに対して、2年後の2015年4月の世論調査では、経済成長が「期待できる」36%、「期待できない」40%、賃金や雇用の増加に「結びつく」31%、「そうは思わない」50%と否定側の数字に逆転した。そして、このことが内閣支持率の低下につながったとするのである(日経、同上)。

だが私は、これまでアベノミクスへの「期待」と連動して来た内閣支持率が、安保法案が国会で審議入りした5月下旬頃から別の経路を辿り始めたのではないかと考えている。つまりアベノミクスへの「期待」が薄れてきたことに加えて、安保法案への不安や懸念さらには「反対」への世論の高まりが次第に内閣支持率に大きな影響を与えるようになってきたと感じるからだ。

その先行指標が朝日新聞世論調査の5月調査(16、17日実施)から6月調査(20、21日実施)にかけての大きな(質的)変化だろう。それ以前の内閣支持率はほぼ横ばいで推移してきたが、5月調査から6月調査にかけては「支持する」が45%から39%へ一挙に下落し、「支持しない」が32%から37%へと大幅に増えたのである。
理由は明らかだ。今国会提出の安保法案に「反対」53%が「賛成」29%の2倍近くを占め、今国会で成立させる「必要がない」65%(前月60%)が「必要がある」17%(同23%)を大きく上回り、しかも前月に比べて「必要ない」側にシフトしてきているからだ。安倍首相の法案説明が「丁寧でない」69%、「丁寧だ」12%という数字はもはや説明の必要もないだろう。
日経新聞の6月調査はまだ発表されていないが、5月調査(22〜24日実施)ではすでにその予兆が明確に読み取れる。5月25日の同紙記事は、「集団的自衛権行使に関する法案成立には反対が増えつつある」と分析し、2015年1月から5月にかけて「反対」が49%から55%へ、「賛成」が31%から25%へと反対側に大きくシフトしてきていることをグラフで示している。

また個々の質問項目でも、「安倍首相は安全保障関連法案が成立しても『日本が米国の戦争に巻き込まれることは全くない』と説明しています。あなたはこの説明に納得しますか、納得しませんか」に対しては、「納得しない」73%、「納得する」15%と大差がつき、「あなたは安全保障関連法案に関する政府の説明は十分だと思いますか、思いませんか」については、「不十分だ」80%、「十分だ」8%と10倍の開きもある結果になった。この種の世論調査としては異例の結果だと言って良い。世論は安倍首相の国会答弁に対して完全に「ノー」と言っているのである。

おそらく日経の6月調査でも内閣支持率は大きく下降するのではないか。朝日ほどの劇的な支持率低下はみられなくても、これまでとの比較において相当程度低下することは確実だろう。ただ日経の内閣支持率は、朝日と異なる方法で調査されていることに注意が必要だ。朝日は「安倍内閣を支持しますか。支持しませんか」と2択で尋ねているのに対して、日経は「あなたは安倍内閣を支持しますか、しませんか」とまず質問し、さらに「(『いえない・わからない』と回答した方に)お気持ちに近いのはどちらですか」という追加質問をして、そこでの「支持する」「支持しない」の回答を上乗せして内閣支持率を算出している(日経リサーチ、ホームページ参照)。

丁寧といえば丁寧だが、最初の質問で「いえない、わからない」と回答している人にさらに回答を迫るのだから、ある意味では内閣支持率を高くする意図が働いているのかもしれない。ちなみに日経5月調査の内閣支持率は、2択では「支持する」44%、「支持しない」32%、「いえない、わからない」24%となっていたが、これに追加質問を加えると「支持する」50%、「支持しない」36%、「いえない、わからない」14%になるのだから、支持率が6ポイントも上がることになる。

最初の質問で「いえない、わからない」と答えた回答者24%のうち10%が「支持」6%、「支持しない」4%に分かれ、それぞれが上積みされた結果が日経の内閣支持率として発表されるので、朝日とは大きな差が生まれるというわけだ。記事ではこんな調査方法が説明されることなく「内閣支持率50%」と発表されるので、読者は今後ともその違いを注意して読むことが必要だろう。(つづく)