大阪ダブル選をめぐる自民党の複雑怪奇な「ねじれ」、維新2勝0敗=首相官邸、反維新2勝0敗=自民大阪府連、維新・反維新1勝1敗=自民党本部――どれが本音かわからない「ねじれ選挙」のなかで有権者は大いに戸惑っている、大阪ダブル選挙の行方を考える(その9)

私が聞いたなんば高島屋前の谷垣自民党幹事長の応援演説はそれなりに「まっとう」なものだった。「大阪都構想は5月の住民投票でもう終わった。憎しみと対立はもうやめにしよう。大阪は(都構想で)大阪市を廃止するのでなく、他都市と連携して目標を決め、そのリーダーとして頑張ってほしい。自民党は本気だ。石にかじりついてでも必ず勝利に結び付けるよう全力を挙げる」と栗原・柳本両氏の前で声を大にして叫んだのである。この演説だけを聞くと、自民党本部は両候補に(本気で)肩入れしているようにも見える。

谷垣幹事長はまた11月10日の党国会議員あての文書でも、「党本部も持てる全ての力を大阪に投入する」と各議員に支援を要請した。この文書を見た大阪市議団幹部は「自民党支持層を固める効果があった」と語ったという(朝日新聞11月15日)。

だが、事態はそれほど単純ではない。一刻も早く候補を決めたいと焦る自民大阪府連の要請を無視して散々手こずらせたのは、ほかならぬ谷垣氏が指揮を執る自民党本部だった。そして漸く安倍首相(自民党総裁)が両候補に推薦状を手渡したのは、大阪ダブル選の投開票日11月22日の僅か1か月前、10月20日のことである。大阪ダブル選のような重要な首長選で1か月前にしか候補者が決まらないなど、通常の政治感覚では理解できない。そこには表面には表れない複雑怪奇な内部事情(党内政治闘争)があったとみるのが自然だろう。

以前にも書いたが、実はこの間、自民党本部では橋下氏らと大阪ダブル選で「政治取引」することが公然と話し合われていたという。朝日新聞はそのことを「自民党谷垣禎一幹事長は(10月)27日、11月の大阪府知事大阪市長のダブル選の対策を協議する党内の会合で、党執行部内で一時、橋下徹大阪市長側との協力を探ったことを明らかにした。『市長選は我々の候補者、知事選は向こう、という分担を模索された向きもなきにしもあらずだった』と語った」(10月28日)と報じている。

毎日新聞もまた自民党大阪府連幹部の言葉として、「党本部は『ダブル選は市長選だけでいいのではないか』と言っていた。『松井知事はつぶすな』という官邸の意向だろう」(10月29日)と伝えている。自民党本部では首相官邸の意思を忖度(そんたく)して、橋下氏らと自民党が手打ちする可能性すらあったのであり、そんな複雑怪奇な「ねじれ」が候補者決定を遅らせ、とりわけ知名度のない栗原候補が決定的に不利な情勢に置かれたのである。

このような経過をたどって漸く反維新の両候補が決まったものの、その後の経過はさらに思わしくない。今年5月の都構想住民投票を「オール大阪」で戦った竹本大阪府連会長がなぜか超タカ派中山泰秀氏に取って代わられた。府連会長に就いた中山氏は開口一番、「5月の『大阪都構想』の住民投票のように、イデオロギーが相反する政党と一緒に街宣活動をしてはコアなフアンを失う」と反共主義丸出しの姿勢をあらわにした。

中山氏は、どうやら都構想住民投票が「首の皮一枚」を残した薄氷の勝利だったことを忘れているようだ。住民投票は文字通り政党を超えた「オール大阪」の市民運動として展開された。それでも僅差でしか勝てなかったのは橋下氏らの影響力が大きく、いまだ政治勢力としての力が衰えていないからだ。しかも今回のダブル選は、党派を超えて「オール大阪」で戦った住民投票とはわけが違う。無所属とはいえ栗原・柳本両候補はれっきとした「自民党推薦」であり、他党派は勝手連的な支援活動しかできない。大阪ダブル選は都構想住民投票の時よりもはるかに党派性が強く、それだけ自民党嫌いの無党派層や革新支持層の支援は減ると考えた方がよい。

もし自民党本部や大阪府連が本当に大阪ダブル選に勝利したいのであれば、現在の選挙体制を根本から変えなければならない。自民党だけが選挙カーを独占していくら「反維新」を叫んでも、自民党嫌いの有権者はそっぽ向くだけだ。逆に稲田氏や荻生田氏など安倍首相側近の幹部が来れば来るほど、革新無党派層の票は逃げていくと考えた方がいい。中山氏の言う「イデオロギーが相反する政党と一緒に街宣活動をしてはコアなフアンを失う」という情勢分析は決定的に誤りで、それとは逆に「イデオロギーが相反する政党と一緒に街宣活動をしなければダブル選には勝てない」のである。

11月22日の投開票日まであと僅か1週間しか残されていない。栗原・柳本両陣営が本当に勝利したいと思うのであれば、「オール大阪」体制に戻るほかはない。いまこそ都構想住民投票の教訓に学ぶべき時なのである。(つづく)