前原民進党解体劇は「名を捨て実も失う」結果に終わる、野党第1党が一夜漬けのポピュリスト政党にのみ込まれる奇怪さ、凄まじさ、国民世論は安倍内閣を拒否し始めた(10)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その82)

 前原代表が推進する民進党解体劇が「名を捨て実も失う」危機に直面している。9月28日の民進党両議員総会で満場一致で決まった「名を捨てて実を取る」シナリオが破綻し、直後から「話が違う」事態が続々と出てきているからだ。なにしろ小池希望党代表が、民進党出身の公認申請者全員を「さらさら受け入れるつもりはない」と公然と断言したのである。

 前原代表が提起した民進党の解体方針は、(1)今回の総選挙における民進党の公認内定は取り消す、(2)民進党の立候補予定者は「希望の党」に公認を申請することとし、「希望の党」との交渉及び当分の間の党務については代表に一任する、(3)民進党は今回の総選挙に候補者を擁立せず、「希望の党」を全力で支援する、というもので、両議員総会では「名を捨てて実を取る」作戦だと説明された。前原代表は、希望党に公認申請をする民進党出身の候補者は全員受け入れられ、党内多数派となって希望党の実権を握れるとでも言ったのだろう。

前原氏の掲げる公約は「オール・フォア・オール=みんながみんなのために」だから、この時点では希望党側がよもや民進党候補者を選別し、安全保障や改憲で政策や価値観が異なるメンバーを排除するとは想定していなかったに違いない。第一、衆参国会議員百数十人を擁する野党第1党の民進党が、極右タカ派から自民・民進脱党組の寄せ集めである一夜漬けのポピュリスト政党などにのみ込まれるはずがないと高を括っていたのである。民進党全体が「みんなで渡れば怖くない」との心理状態に陥っていたのだろう。

だが、前原代表の提起した民進党解体方針を素直に読めば、これは民進党生殺与奪の権を前原代表に一任するという恐るべきもので、いわば「前原独裁」を認めたに等しい。希望党は本質的に「小池独裁」で成り立つ政党だから、これでは前原・小池両氏が独裁権限をもって希望党をつくるシナリオが承認されたことになる。ドイツ国会がナチス総統に全権委任したのと同じようなファシズム的状況が、驚くべきことに21世紀の日本で再現されたのである。

 前原氏の素性についてはこれまでしばしば指摘してきたように、親米右翼の政治家を育てる松下政経塾の出身であり、自民党顔負け(真っ青)の根絡みの保守政治家だ。それがたまたま民進党に席を見つけたまでで、民進党は権力を手に入れるまでの一時の「止まり木」にすぎない。「民進党の名にこだわらない」というのが、元々からの前原氏の信条なのである。

 そんな手合いが多数派を占める民進党で、前原代表が出現するのは時間の問題だった。だがそんな折しも折、安倍首相が国政私物化(森友・加計疑惑)を隠蔽するため「国難突破解散」と言い換えて解散に踏み切り、小池東京都知事が窺っていた新党結成の時期と重なったことは、歴史の偶然というべきか、前原代表の目には権力への階段を駆け上がる「千載一遇のチャンス」と映ったのであろう。こうして神津連合会長が後ろ盾となり、前原・小池両氏が立役者となって「二人芝居」を演じる条件が整ったのである。

 前原代表は、民進党両議員総会で言ったこととその後の事態は「話が違う」として、いま党内からしきりに批判されている。しかしそれは「見当違い」というもので、前原代表はその後の事態を十分予測して「党内一任」を取り付けていたのである。誤解を恐れずに言えば、前原代表は小池氏の言動を利用して党内の「アンチ前原=リベラル派」を粛正しようとしているのであり、希望党への「抱きつき合流作戦」はそのための手段にすぎない。

 だが、前原・小池両氏は国民(有権者)の目を甘く見てはいないか。自らの策謀に熱中するのはよいが、それがいつまで通用するかは今後の情勢次第で決まる。小池希望党代表と松井日本維新の会の駆け引き(東京選挙区と大阪選挙区のすみ分け)によって、大阪選挙区の民進党候補者は全員立候補の権利を奪われた。たった一人の独裁者の思惑で民進党の地方組織が全否定されるという、前代未聞の政治状況が早くも出現したのである。

 しかし、事態はこのまま進まないだろう。小池氏から「排除いたします」と宣言された民進党リベラル派は、希望党への公認申請を拒否し「リベラル新党」の結成に向かって動き始めている。また「野党共闘+市民共同」の流れを継承する共産・社民両党の選挙態勢も整いつつある。これらの流れが選挙前に合流して「リベラル第3極」を形成することになれば、目下日の出の勢いの「新党ブーム」もバブルの如く消え去る可能性も否定できない。

 前原氏と一緒に策謀を練った神津連合会長もまた内部矛盾を抱えている。「原発ゼロ」を掲げる希望党に対して電力総連をはじめとする民間労組は果たして支援するのか、「安保法制推進・憲法改正」を掲げる希望党に対して日教組自治労など官公労組はその存在を容認するのか、民進党の解体は連合の解体につながらないのかなどなど、連合自体にも民進党解体と希望党結成はブーメランのように撥ね返ってくる可能性が大きいからである。

 安倍首相もまた矛盾を抱えている。狙いすました「ご都合解散」が思わぬ野党再編劇を呼び起こし、自民党と瓜二つの保守補完政党が出現することになったからである。「安倍一強体制」に胡坐をかいてきた首相が、党内の対立候補ではなく党外の対立候補に足元を脅かされるとは、本人も予想していなかった事態の展開に違いない。今回の総選挙がテレビのワイドショーで「人気取り選挙」化すればするほど、安倍首相の分は悪くなる。何しろ森友・加計疑惑隠しの張本人だから、「安倍=信頼できない」とのイメージが国民の間に定着しているからである。

 前原代表の民進党解体劇は、安倍首相が最も恐れていた野党共闘を分断するうえで(首相にとっては)歓迎すべき出来事であった。しかし、それが小池希望党代表の出馬につながると、自民党内の反安倍派とも連動した党内権力闘争の火種になる。いずれにしても、安倍首相は「火中の栗」を拾う破目になる。(つづく)