希望の党、風と共に去りぬ、明確な対抗軸を持たない野党は消えるのみ、国民世論は安倍内閣を拒否し始めた(15)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その87)

 今回の衆院選はいったい何だったのだろうか。各紙の中盤戦から終盤戦の情勢分析によれば、森友・加計疑惑隠しのため「大義なき解散」に打って出た安倍政権が300議席に迫ると伝えられる一方、野党共闘の要になってきた共産党が現状維持もままならない厳しい情勢に曝されているという。また、当初は日の出の勢いだった希望の党が失速し、代わって立憲民主党が窮鼠猫を噛む勢いで急伸している。いずれも予想外の事態の展開で有権者の多くは戸惑いを隠せないのではないか。

 しかし、こんな錯綜した選挙情勢の中でも、浮かび上がってきた幾つかの明らかな兆候がある。それは、自民党政権に対抗するには野党に明確な対抗軸が必要とされること、および野党共闘を組まなければ自民党の対抗勢力になれないことの2点である。この点を中心にして目下の選挙情勢を読み解いてみたい。

 まず第1の与党に対する明確な対抗軸の必要性に関しては、希望の党と維新の会が失速したことで揺るがぬ原則となった。「右でも左でもなく前へ」といったあいまいな中道路線を掲げていた希望の党と維新の会が脆くも失速したことは、これら両党が与党の対抗勢力ではなく補完勢力であることが選挙戦のなかで判明したからである。選挙戦は激しい言論合戦を通して相手側の素顔を容赦なく暴き出す。希望の党と維新の会はよく似た選挙公約と東京・大阪の「すみわけ協力(取引)」によって、自民補完勢力としての素性をありのままさらけ出すことになった。

 第2の要点である野党共闘の必要性は、前原・小池両氏の策謀によって野党共闘が分断されたことで却ってその存在意義が明らかになった。自民党の優勢を伝える各紙の情勢分析は、その原因を自民党が支持されているというよりも野党乱立の「敵失」に因るものだと指摘している。つまり野党共闘が分断されることによって自民党は相対的に優勢になったのであり、そうでなければ野党優位の情勢が展開していたということだ。そして今回の衆院選の最大の波乱要因は、民進党解党に伴う野党共闘分断にあったのであり、その意味では希望の党野党共闘分断に成功したが、自民党の対抗勢力になることには失敗したと言えるだろう。つまり前原・小池両氏は「身を切る改革」で民進党を解体したが、それに代わる対抗勢力になれなかったということだ。

 このような情勢が明らかになるにつれて、終盤戦の模様はますます流動性を深めている。野党共闘候補が存続した北海道や新潟の選挙区では野党統一候補の健闘が伝えられている反面、東京や大阪の大都市選挙区では希望の党や維新の会が苦戦している。小池氏の地元・東京選挙区では、希望の党創立メンバーの若狭氏や長島氏の落選可能性が濃くなってきているというし、大阪では維新の会幹事長の馬場氏も危うい情勢だ。これら大物議員の当落は、議席数の行方を含めて選挙後の政治情勢に多大の影響を及ぼす。この点でも希望の党と維新の会の先行きは明るいとは言えないだろう。

 終盤戦の焦点は、立憲民主党がどれだけ伸びるか、共産党が現状維持した上で議席を果たして伸ばせるかどうかにある。共産党立憲民主党の選挙区では多くの候補者を降ろして野党共闘に協力しているが、それに見合うだけの選挙協力を相手側から得ていないという「ギブ・アンド・ギブ」の関係にあると言われている。このことが野党共闘の勢いを鈍らせ、延いては立憲民主党の伸び悩みと共産党議席後退につながらないかが懸念される。

 とはいえ選挙戦は後1日、勝敗は最後の3日間で決まるといわれるが、現在においてもいまだ立憲民主党共産党の明確な「ギブ・アンド・テイク」関係が見えてこない。立憲民主党に望まれることは、枝野氏が「右でも左でもない前へ」といった希望の党や維新の会と同じようなあいまいなことを言わないで、明確に野党共闘の旗を掲げることだ。これを京都選挙区の例で言えば、立憲民主党の福山幹事長が希望の党の泉氏や山井氏の応援演説をするようなあいまいな態度を改めるということである。枝野代表が希望の党の応援に入らないように、公党の幹事長である福山氏は共産党との野党共闘を推進する責任があるはずだ。それが共産党と対決している希望の党候補、泉・山井氏の応援演説をするというのは政党間の信義に悖る行動ではないか。福山氏には希望の党に対する筋を通した明確な行動を求めたい。

最後に、前原氏の去就についても触れたい。前原氏はいま「こんなはずではなかった!」という心境にあるというが、どうやら「自分が間違っていた」とは死んでも言わないらしい。それは政治家としての当然のとるべき態度であり、自分が蒔いた種は自分で刈り取らなければならない。

おそらく前原氏は選挙後の民進党議員総会で代表解任の憂き目にあうだろうが、希望の党ではどんなポストに就くかまだ決まっていないのだという。場合によっては、小池代表が選挙戦の責任を追及されて辞任に追い込まれるという話もあり、その時に前原氏が代表になれるかというと必ずしもそうではないらしい。敗戦の共同責任を追及されてリーダーシップを失うと言うことも十分考えられるのだ。

 京都では、希望の党に走った泉氏や山井氏が選挙後は民進党に復帰する、あるいは立憲民主党に参加する可能性も囁かれている。ひょっとすると、福山氏の両氏に対する応援はその先ぶれかもしれない。しかし、選挙は小池氏の踏み絵を踏んで希望の党で戦い、選挙後は希望の党を捨てるといった選挙民を愚弄するようなことは許されない。希望の党に走った両氏の行方を京都の有権者は鋭く見つめている。(つづく)