野党共闘の大義と党勢後退の狭間に揺れる共産党のジレンマ、野党共闘と党勢拡大は両立するか(2)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その119)

 京都新聞(2017年1月19日)は、共産党第27回大会における「野党共闘」への傾斜を党存立の基盤である財政面から分析している。「共闘への傾斜には、党員減少や財政難に直面する苦しい台所事情がちらつく」というのが分析視点だ。理由は、「党員数は約30万人で、この20年間で約7万人減少。収入の柱である機関紙『赤旗』の発行部数(日刊紙と日曜版の合計)も20年前に比べると半減した。党員の高齢化も進み、運動員の確保も課題となるほか、衆議院の265小選挙区全てに公認候補を立てるのに必要な9億円近い供託金の工面も重荷になっている」というもの。つまり「自共対決」を掲げて全選挙区で候補者を立てて戦うことはもはや財政的にも難しく、コスト・パフォーマンスが余りにも悪すぎるというのである。

 正確な数字は読み取れないが、記事の中に掲載されている党員数と機関紙読者数のグラフからその推移をみると、日刊紙と日曜版を合わせた読者数は、1979年(第15大会)の350万人をピークに2017年(第27回大会)には110万人、実に3割の水準にまで落ち込んでいる。また、党員数は1987年(第18大会)の50万人をピークに2017年では30万人へと6割に減少している。民間企業で言えば、売上高が7割減、従業員数が4割減という数字は「経営危機」そのものだ。「破産寸前」と言ってもいいが、共産の台所事情は案外それに近いのかもしれない。いずれも組織の存続にかかわる深刻な事態であり、共産の危機感は並大抵のものではないだろう。

一般的に言って、政党支持率は「固い支持」と「柔らかい支持」および「気まぐれな支持」の合計としてあらわされる。「固い支持」は如何なる政治情勢においても当該政党を支持する党員・シンパ層の支持、「柔らかい支持」は当該政党に好感を抱く無党派層の支持、「気まぐれな支持」はその時々の空気で動く浮動層の支持である。共産の党勢拡大方針は「固い支持」の回復を追求し、野党共闘路線の推進は「柔らかい支持」の拡大を目指すものと言える。問題は、野党共闘が本格化しない現情勢の下でそれらが両立するかということだ。

まず、党員と機関紙を増やす党勢拡大は、党本部の𠮟咤激励にもかかわらず分厚い壁にぶつかってなかなか進まないのが実態だ(却って後退している)。党綱領の正しさを説き、共産党を「丸ごと」理解してもらおうとする「昔さながら」の活動方針は、組織内部と外部環境の両面からブレーキがかかってなかなか進まないのが現実なのである。このような現実を直視しないでいくら号令を(上から)繰り返しても、効果が上がらないことは目に見えている。

内部組織の問題としては、党員の高齢化によって活動力が著しく低下していることも周知の事実だ。集会にしても選挙運動にしても見かけるのが高齢者ばかり―、こんな光景が最近ではごく普通のことになっている。しかしそれ以上に深刻なのは、これまで「固い支持」を支えてきた党員・シンパ層がいま急速に減少しつつあることだろう。党員の年齢構成が公表されていないので正確な数字はわからないが、党員数30万人、65歳以上6割(あるいはそれ以上)、活動停止年齢80歳と仮定すると、15年後には18万人(年平均1万2千人)が第一線から物理的に退くことになる。党員30万人の現状を維持するには(離党者による目減り分は別としても)毎年少なくとも1万2千人以上(月平均千人以上)の入党者を迎えなければならない。しかし現実は厳しく、今年1月からの党勢拡大月間の入党者数は月平均300〜350人程度に止まり、その水準には程遠い。このような状態が継続すれば、共産が遠からず党員10万人規模(現在の3分の1)の少数政党に縮小することは避け難い。

外部環境の変化としては、社会問題や政治問題に関心を持っていても組織に束縛されず自由に活動したいと思う価値観とライフスタイルが社会全体に広がっている現在、党組織について「丸ごと」理解を求め、入党してもらうことは至難の業と言わなければならないだろう。そのような生き方を選択する人はもちろんどの時代にもいるだろうが、それを現在の党勢拡大の「基本方針」に据えるとなると、時代錯誤の感は否めないし組織拡大もままならない。昔さながらの拡大方針は遠からず(今でもすでに)破綻するに違いない。

それでは、志位委員長が「起死回生」の手段と位置づける野党共闘をめぐる情勢についてはどうか。いつも思うことだが、共産の政策は上意下達の体質を反映してか極端に変わることが多い。昨日まで「自共対決」を唱えて他の野党をミソクソにけなしていたかと思うと、ある日突然「野党共闘」に変身して天まで持ち上げる―、そんな繰り返しなのだ。これが衆議一決の結果ならまだしも、「上御一人」のご判断となると誰も異議を唱えられなくなる。野党共闘といってもその形態は地域によって千差万別なのに、日本国中の政治情勢がまるで180度変わったような情勢分析が支配的となり、今度は何が何でも野党共闘を推進すると言うことになる。

その結果、これまで地域で地道に活動してきた候補者が「野党共闘大義」と称して一方的に降ろされることになると、選挙区での活動量が落ちるのは当然のことだ。いくら「主戦場は比例区」だと叫んでみたところで、一般の有権者にはそんな区別はつきにくい。野党共闘を推進すればするほど自らの足元を掘り崩すことになり、結果は「トンビに油揚げをさらわれる」ことにならざるを得ない。

来夏の参院選1人区で候補者を一本化することは野党陣営の共通目標だとしても、野党の思惑は目下千差万別だ。立憲民主をはじめとして「相互支援・共通政策の合意が条件」という共産の申し入れが各野党に到底受け入れられそうにもない以上、野党共闘に過度の期待を掛けることは危険なのではないか。共通政策と相互支援の原則を曖昧にしたままで「候補者の棲み分け」が進めば、有権者には却って野党の姿が見えにくくなる恐れがある。

最近始まった日経新聞の連載に、『世論調査考、安倍内閣 強さともろさ』という興味深いシリーズがある。2回目(2018年6月27日)は「無党派層」の動向に焦点を当てた分析で、次のような一節がある。
無党派層の内閣支持の動向をみる。今月の調査で無党派層内閣支持率は24%、不支持率は63%だった。12年12月の政権発足直後は支持率30%、不支持率45%、無党派層のなかで内閣を支持しない人の割合が5年半で増えた」
「15年4月の無党派層内閣支持率は29%、不支持率は47%、17年11月は支持率が28%、不支持率が50%だ。今月は両調査より不支持率が10ポイント以上高い。以前に比べ、最近は無党派層が不支持をはっきり表明するようになったと考えられる」
「支持率でみても政策への賛否でみても無党派層の政権批判は色濃い。明治大の井田正道教授(計量政治学)は『いま無党派層に残っているのは、安倍1強の自民党政治を批判する野党的な考えを持ちつつ、野党勢力の分断で新しい野党を信頼できない人たちが多いのではないか』と話す。来年夏の参院選で野党は統一候補を模索する。与野党一騎打ちの構図になれば、政権に批判的な無党派層が野党候補に投票する可能性もある。無党派層の野党化が進めば、安倍政権のリスク要因になり得る」

私は井田教授の分析に全面的に賛成だ。安倍政権に批判的な無党派層は「信頼できる新しい野党」を求めているのであって、野党共闘が進めば批判勢力が自動的に大きくなるとは思っていない。すでに支持率が低迷する国民民主党は、立憲民主との違いを際立たせるために独自の行動をとり始めている。昨日6月28日、国民民主は働き方改革法案の審議をめぐって参院厚生労働委員会の委員長解任決議に同調せず、野党共闘から離脱した。今後は自公与党が維新、希望と共に衆院に共同提出した国民投票法改正案を巡っても、国民民主が与党に同調する可能性は大きい。野党共闘は既に「第2幕」に入ったのであり、いつまでも第1幕の余韻に浸っているのは危険すぎる。(つづく)