番外編、神戸市長が「市役所に亡霊が徘徊している」と市職労本部役員を批判、身辺雑話(4)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その127)

久元神戸市長は9月18日、市職労本部役員の「ヤミ専従」問題を解明する第三者委員会(弁護士6人で構成)の初会合で大胆な言葉を放った。神戸新聞はその内容を次のように伝えている(2018年9月19日)。

 「冒頭に久元喜造市長は、ヤミ専従について『市役所に亡霊が徘徊しているような状況。消え去ってもらわないといけない』と述べ、調査の徹底と不適切な労使慣行の有無など実態調査を求めた。久元市長は『ヤミ専従は労使の癒着の中で生まれたと推認される。調査には市職員は一切介在させない』と強調。また『ヤミ専従のような違法行為は、どこの自治体でも既に解消されているのが常識だった。亡霊のようなものが存在し、実態を明らかにする必要がある』と指摘した」

 私はこれまで長年にわたって神戸市のズブズブの労使関係を目の当たりに見てきただけに、市長のこの踏み込んだ発言には心底驚いた。市職労(現業関係の市労連を含む)はこれまで一貫して助役(副市長)上がりの庁内候補を担いで市長選を戦い、その論功行賞によって本部役員はヤミ専従の黙認はもとより、退職後は市外郭団体の役員に就任するなど市幹部職員に匹敵する特権待遇を享受してきたからである。

 事実、久元市長が副市長から出馬した2013年市長選においても市職労は選対組織の中核部隊として奮闘した。「助役上がりの市長は要らない」との公約を掲げた対抗馬の市民候補に僅か数千票の差まで追い詰められたとはいえ、最後まで頑張りぬいて勝利を手中にしたのは、彼らの組織力のお陰だと言ってもいいだろう。13年市長選は、久元候補が一時は敗戦談話を考えたほどの大接戦であり、市役所一家体制(労使癒着体制)に対する市民有権者の批判はそれほど大きかったのである。

 4年後の17年市長選においても市職労は選対組織の中核を担い、久元市長は過去最多得票で再選を果たした。市職労本部役員たちはその論功行賞として今まで通りの待遇を期待し、これまで通りのヤミ専生活を送れるものと思っていた。ところがある日突然、労使一体で当選したはずの久元市長が一転して市職労に矛先を向けたのである。市職労側からすれば、「殿ご乱心!」というべき事態の発生であろうが、市長からすれば練りに練った作戦を実行に移したまでのこと―と言われている。

 神戸市関係の事情通から聞いた話によれば、久元市長は副市長時代から「ヤミ専問題」を熟知しており(彼はもともと自治体のヤミ専問題を監督する立場にある総務省官僚だった)、何時か大掃除しなければならないと考えていたという。しかし、最初の市長選が辛勝だっただけに本部役員を切るだけの力がなく、再選後まで待つほかなかった。今回の措置は満を持しての行動であり、以下のような手順で準備されたという。
(1)今年4月、市長室の腹心を「公正な職務の執行の推進、職員の人事・給与・研修」などを所管する行財政局に移動させた。同じく8月末には、担当副市長を任期途中で解任・更迭した。
(2)この間、ヤミ専問題を調査する第三者委員会を市職労の妨害を避けるため弁護士グループだけで内密に組織し、本部役員と関係の深い市職員や審議会関係の学者などは排除した。
(3)9月に入ってから関係ニュースを一斉に流す体制が整い、報道合戦が切って落とされた。9月28日の神戸新聞記事・「神戸市ゆがんだ労使協調」は、その核心を伝える内容である。
「神戸市職員労働組合(市職労)のヤミ専従問題に関連し、神戸市は27日、過去の労組役員の10人に対し、専従期間の法定上限7年を超える違法専従許可を出し、退職金の不当な過払いがあったと発表した。同日夕の会見では、違法な退職金算定を市当局で長年引き継いできたことも認めた。市の積極的な関与が明らかになる事態となり、不適切な労使関係の闇が一層深まった。会見した市行財政局の遠藤卓男局長は、不適切な労使慣行の背景について『阪神・淡路大震災以降の労使協調路線』と釈明した。『震災後、労使協調で財政危機を乗り越えてきた。その中で組合活動をしやすいようにと配慮があった。なれ合いと言っても過言ではない。心からおわび申し上げる』と頭を下げた」
 「神戸市は1995年1月の震災で市役所が倒壊するなどの被害を受けた。復興と財政危機を乗り切るため、全国平均の2倍となる3割以上の職員削減や給与カットを断行。労組側にも協力を求めてきた。一方で市長選になれば、元副市長の組織内候補を組合側が応援する構図が続いてきた。市幹部OBの一人は「市長選挙で労組が現職を支持し、市のトップが人事なども労組の意向を気にするようになった。不適切な関係は最初からやるべきではなかった」と声を落とした。ゆがんだ“協調路線”の流れは、元副市長ながら総務省官僚出身の久元喜造市長が就任したことによって変わった、とする幹部職員も多い。17年の再選で得た史上最多得票を背に『政策にスピード感を求めるようになり、組合とのなれ合いをなくしたかったのでは』と推し量る」
 「『不適切な運用は一掃したい』。会見で声を絞り出した遠藤局長。一方で労組関係者は『住民サービスの充実にも協力してきた。当局側も役員の組合活動の実態は知っていたはず。なぜ今になって切ろうとするのか』と戸惑いを隠せないでいる。 追及を強める市会からは厳しい声が上がる。この日の市会決算特別委員会では、市議から『退職金の過払いは不当利得。市民の血税だ。絶対返還しないといけない』『誰が関わったかはすぐ分かる。第三者委の調査を待たずに内部で調べるべきだ』などの指摘が上がった」(つづく)