選挙は結果がすべて、政党の思惑で有権者の審判を歪曲することはできない、大阪維新はなぜかくも強いのか(4)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その152)

 

 前回でも指摘したが、衆院補選大阪12区の結果に関する共産党の総括には驚くばかりだ。それも選挙翌日の志位委員長の記者会見、中央委員会常任幹部会の声明、大阪府委員会の声明までほとんど同じ内容で統一されている。4月22日から25日にかけて、『赤旗』に掲載された補選関係の声明や記事を追ってみよう。

 

〇4月22日、「大阪12区で宮本岳志候補が及ばなかったのは残念ですが、宮本候補を先頭とするたたかいは、今後に生きる大きな財産をつくったと思います。宮本候補の勇気ある決断をうけて、自由党・小沢代表、立憲民主党・枝野代表、国民民主党・玉木代表をはじめ、6野党・会派から合計で49人もの国会議員―元議員も含めて―が応援・激励に入っていただきました。各界の文化人・知識人からも応援・激励がつぎつぎと広がりました。本当に心強いことでした。市民連合のよびかけにもこたえて、大阪と全国から1000人以上のボランティアのみなさんが、ともに肩をならべてたたかったことも、たいへんうれしいことでした。これれは、市民と野党の共闘の発展にとって、大きな財産をつくったと確信するものです」(志位委員長記者会見、「沖縄と大阪での衆院補選の結果について」)

〇4月23日、「大阪12区では、宮本岳志前衆院議員が無所属で立候補し、市民と野党の統一候補として奮闘しました。宮本岳志候補が及ばなかったのは残念ですが、このたたかいは、市民と野党の共闘の今後の発展にとって大きな財産をつくりました。自由党、立憲民主党、国民民主党の代表をはじめ、6野党・会派から49人もの国会議員や元議員が応援に入り、大阪と全国から1千人を超えるボランティアのみなさんが肩をならべてたたかいました。この二つの選挙で日本共産党が献身的に奮闘したことは、双方で自民党候補を敗北に追い込むうえでも大きな貢献になりました」(日本共産党中央委員会常任幹部会、「衆院補選と統一地方選挙後半戦の結果について」)

〇4月25日、『赤旗』3面全紙を使って特集記事掲載。見出しは、「『安倍政治サヨナラ』へ、市民と野党の共闘〝展望見えた〟衆院大阪12区補選 宮本氏の決断でみんなが結集」、「全野党の代表 事務所激励」、「『やったるで』市民が共同作業」、「マニフェストで団結 本気の共闘へ第一歩」、「たたかってこそ勝運は開かれる」というもの。最後の一節は、「宮本氏が会見でも発言したように『歴史上のどんな偉大なたたかいも、あらかじめ勝算があってはじめられたものではない。たたかう中でこそ、勝機はひらかれる』。そのことを浮き彫りにした3週間のたたかいでした」で括られている。

 

 いずれもが国会議員の議席を投げ打って無所属で立候補した宮本氏の勇気ある決断を称え、今回補選が市民と野党の共闘の先駆例になったとの評価一色で染められているのが特徴だ。これが編集方針なのだろう。『赤旗』はこれまでも選挙結果については勝敗抜きに「善戦」「健闘」と言った言葉で候補者や運動員をねぎらう傾向が強かった。今回もまたその繰り返しだと思えばいいのかもしれないが、しかしこれはあくまでも「身内の論理」であって、一般社会では到底通用するものではない。

 

 いまさら言うまでもないが、政治権力は「数は力」と言われるように選挙を通して確立されるのであり、したがって「選挙は結果がすべて」なのである。だから、選挙総括はなによりも選挙結果についての冷厳な分析を土台にするものでなければならず、数字の分析を伴わないような選挙総括などおよそあり得ない。それは、せいぜい選挙事務所での「よく頑張ったね」といった程度の慰めの言葉に過ぎず、およそ活字にするような代物ではないのである。

 

 こうした観点から上記の一連の「選挙総括」を読んでみると、夏の参院選あるいは衆参同日選挙が迫っているにもかかわらず、いっこうに進展しない野党共闘に弾みをつけるため宮本氏が立候補した個人的動機はよく分かるが、その結果がなぜあれほどの〝惨敗〟になったのかという選挙の最も肝心な部分がすっぽりと抜け落ちているのである。「よく頑張った」「みんな協力した」と言うのであれば、それにもかかわらず「こんな惨めな結果になった」ことの説明がなければ、真面な運動員や支持者が納得できるわけがない。こんな選挙総括に対して「はい、わかりました」と言うような運動員や支持者であれば、政治情勢も選挙情勢も何一つ分析できない「お人好し集団」でしかない。「選挙ごっこ」で遊んでいるつもりならそれまでだが、こんな調子では有権者に対しても満足できる報告一つできないだろう。

 

 衆院大阪12区の選挙結果について、今回補選と前回2017年総選挙をくらべてみよう。 

        【2019年補選】         【2017年総選挙】

   藤田文武 維新 60,341(38.5%)  北川知克 自前 71,614(45.0%) 

   北川晋平 自新 47,025(30.0%)  藤田文武 維新 64,530(40.6%)

   樽床伸二 無前 35,358(22.6%)  松尾正利 共新 22,858(14.4%)

   宮本岳志 無前 14,027( 8.9%)   合計      159,002( 100%) 

   合計      156,751( 100%)

 

 2017年総選挙の候補者数は3人、2019年補選は4人という違いはあるが、前回総選挙では無名の共産新人候補(地区委員長)が2万2858票、得票率14.4%を獲得しているのに対して、今回補選では現職の国会議員である宮本候補が僅か1万4027票、得票率8.9%しか獲得できなかった。同じ現職の国会議員である樽床候補が相当数の票を獲得した影響があるとはいえ、『赤旗』がいうように「6野党・会派から49人もの国会議員が応援に入った」のであれば、こんな結果になるはずがないからである。

 

 選挙結果は、候補者に対する有権者(投票者)の冷厳な審判の結果である。市民と野党の共闘の旗を高く掲げながら、宮本候補が前回総選挙の共産票から8800票余り(4割弱)も減らして惨敗したことは、その旗が有権者に額面通りには受け入れられなかったことを示すものだ。宮本陣営は、今回補選の戦略として「野党共闘を進め、無党派層でも支持拡大を狙う」としていた。陣営幹部は「無党派層の票が集まらなければ勝ち目はない」と分析しており、陣営内には「野党共闘」や「安倍政権を倒す」だけでは若年層や無党派層に響かないとの意見もあったという(朝日19年4月17日)。だが、無党派層の大半は宮本候補にソッポを向いたのである。

 

 とすれば、今回補選の選挙結果は、無党派層がソッポ向くような「安倍政権打倒」といった宙を舞うようなスローガンだけではダメであり、野党共闘の枠組みを形式的に整えるだけではダメであることをあからさまに示すものと言える。世論動向を鋭く読み、選挙情勢を的確に分析し、有権者の心を掴むような政策や選挙戦術を生み出さないことには選挙に勝てないことがはっきりしたのである。問題は、このような柔軟な政治センスが共産陣営から少なからず失われてしまっていることだろう。上御一人の一言一句に左右され、上から降りてくる指示や政策をそのままコピペして連呼するような画一的スタイルから組織内を支配し、有権者の支持が選挙ごとに低下してきているからだ。

 

 そのことは、統一選挙前半戦の結果(非改選を除く)を見てもよくわかる。道府議選における共産の得票数・得票率は、前回249万9千票(8.4%)から206万1千票(7.5%)へ減少し、議席数は前回111から99へ後退した。政令市議選では、前回の107万4千票(12.9%)から89万7千票(11.0%)へ減少し、議席数は136から115へ後退した。こうした構造的な衰退傾向を形式的な野党共闘で挽回しようとしてもそうはいかない。自らの体質を抜本的に改善しないことには、野党共闘すらもうまくいかないことがはっきりしたのである。

 

選挙は結果がすべてである。目先の野党共闘に前のめりになる余り、政党の思惑で選挙結果を歪曲して「市民と野党の共闘〝展望見えた〟」などと事実と異なる記事をでっちあげてはいけない。こんな編集方針を続ければ、『赤旗』は遠からずして読者の信頼を失うこと間違いなしである。(つづく)