橋下(元大阪市長)がつぶやき産経が拡散する政治再編戦略、公明を脅かし改憲ロードへ、大阪維新のこれから(2)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その154)

 

 

5月4日の産経紙を読んでたまげた。橋下氏の単独インタビュー記事が大々的に掲載されているばかりか、その解説記事を1面トップに祭り上げ、真正面から政治再編と改憲を煽っているではないか。橋下氏といえば、大阪市長当時、大阪都構想住民投票に敗れてテレビタレントに転身し、それ以降はツイッターで好き勝手放題のことをつぶやいてきた御仁である。テレタレントだから何でも言っていいということにはならないが、それでも政治家ではないのだから多少は大目に見られていたのだろう。橋下氏の発言は、ゴシップ記事の類として時々紙面の片隅に載る程度の扱いだった。

 

ところが前回の拙ブログでも紹介したように、産経紙は竹山堺市長の辞職表明後堰を切ったように大阪維新の支援に乗り出し、堺市長選関係の大型記事を連打している。そればかりではない。今度は大阪を舞台にした政治再編劇のシナリオライターとして橋下氏を表舞台に再登場させ、改憲の旗振り役としての活躍の場を与えるところにまで踏み切ったのだ。橋下氏の政界復帰に関しては話題に事欠かないが、産経紙がここまで肩入れするとなると、あながち「フェイクニュース」だとは言い切れなくなってきた。まずは、産経紙の解説記事を紹介しよう(要約)。

 

「日本維新の会の創設者で、政界引退後も同党に大きな影響力を持つ橋下徹元大阪市長が産経新聞の単独インタビューに応じ、2025年大阪・関西万博の誘致なので安倍晋三政権の協力を得てきた維新に対し、『安倍首相が実現したいと強く願っている憲法改正に協力するための行動を起こすべきだ』と訴えた。橋下氏は憲法改正の妨げになっているのは公明党と、選挙で同党の支援を受ける自民党の国会議員だと強調。4月の大阪府知事・市長のダブル選挙を制した維新を率いる大阪市の松井一郎市長を『首相に匹敵する改憲論者』とした上で、『ダブル選挙の勢いに乗じて、公明を潰しにいくことを考えている』との認識を示した」

「公明党が大阪府知事・市長のダブル選で維新に大敗した余波で苦境に立たされた。(略)公明は、支持母体の創価学会に改憲への抵抗がなおあり、改憲論議に距離を置いてきた。一昨年の衆院選で議席を減らしたことも懸念材料にあり、『参院選で改憲が争点になることは避けたい』(党幹部)のが本音だ。そうした公明の急所を突くように、橋下氏はインタビューで『改憲を阻んでいるのは公明』と断じた。改憲で安倍政権に協力すると強調して公明を揺さぶり、都構想で協力を引き出す狙いがある」

 

橋下氏の手法はトランプ大統領とよく似ている。相手を極限まで脅かして屈服させ、譲歩を勝ち取るという「恫喝的ディール」の手法だ。この手法は脅かす側に力がないと足元を見られて成功しないが、今回の大阪ダブル選挙における維新の圧勝によって一気に現実味を増してきた。「ここが勝負!」とばかり橋下氏が張り切っているのは、その政治力学の効用を骨の髄まで知っているからだろう。

 

橋下氏の恫喝は大阪自民に対しても向けられている。自民市議の離反と維新への協力を呼び掛けているのもそれなら、現職の自民国会議員の選挙区に対抗馬を立てると喧伝しているのもその一つだ。背景には、「旧い自民」を潰して「新しい自民」をつくろうとする維新戦略があるのだろう。事実、大阪維新は「仮の名称」であり、全国的に通用する政党名だとは思っていないのである。

 

 「旧い自民」を潰して「新しい自民」つくろうとする動きは、統一地方選前半の各地の知事選にもあらわれている。福岡県知事選では自民党公認候補が大差で負け、安倍政権を支える麻生副総理の求心力が目に見えて低下した。島根県知事選でも中堅・若手県議が推す保守候補が自民党公認候補を破り、青木元参院議員会長が仕切ってきた竹下王国の崩壊が囁かれている。政権中枢につながる派閥領袖の地元であるにもかかわらず、その意向に従わない動きが公然化しているのである。一方、北海道知事選では、菅官房長官が大学の後輩である鈴木前夕張市長を「新しい自民」を代表する候補として担ぎ、野党統一候補を破って当選させた。

 

 首長選挙において権力争いのため保守が分裂するのは、分裂しても勝てるほど野党勢力が弱いから...というのが通り相場になっている。だが、実態はそうではないだろう。野党勢力の弱体化にともなって保守の中に「改革」を唱える勢力が生まれ、既得権益にあぐらをかいている旧来保守との間で激しい党内闘争が生じているからだ。このような「旧い自民」と「新しい自民」との争いが、大阪では維新と自民の対決となり、それが公明にまで波及していると見るべきなのだ。

 

 橋下氏はインタビューの中で、「最近、『ポスト安倍』の候補として菅さんが注目されていますが、大阪にとっては大変ハッピーな話。維新を率いる松井一郎大阪市長は菅さんと良好な関係を築いており、菅さんからは引き続き大阪のために力を貸してもらえると思います」と明け透けに語っている。北海道知事選の勝利で力をつけた菅官房長官と大阪維新の動きは、いずれも「新しい自民」をつくる政治再編の萌芽として注目する必要があるだろう。

 

 5月7日、大阪維新推薦の堺市長選候補者が出馬会見を行った。次回はその公約の分析を中心に筆を進めたい。(つづく)