大阪都構想にブレーキが掛かった、堺市長選の大接戦が次の展望を切り開いた、大阪維新のこれから(8)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その160)

 全国注視の中で堺市長選が2019年6月9日(日)に投開票された。翌10日(月)は新聞休刊日なのでどうしようかと思っていたら、当日深夜に「堺からのアピール・市民1000人委員会」から選挙結果についてのメールが送られてきた。6月11日(火)の各紙朝刊と読み比べてみても、内容は正確であり、かつ分析も的確なので以下に再録したい。

 「堺市長選へのご支援ありがとうございました。得票が確定しました。維新・永藤137,862票(得票率49.5%)、無所属・野村123,771票(得票率44.4%)、諸派・立花14,110票(得票率5.1%)、投票総数278,808票(投票率40.8%)でした」

「当初はダブルスコアの差を付けられていた野村が、選挙戦での論戦を通じて猛追。大阪ダブル選挙での維新圧勝、堺市議選での維新陣営の3万の得票増、竹山問題での維新のアドバンデージ、候補者擁立の決定的遅れ(永藤は大型連休前4月末に擁立決定、野村は5月17日出馬表明)など、維新が得票を大きく上積みするのではないかと思われましたが、結果は、維新は前々回の市長選で140,569票(得票率41.5%)、前回が139,930票(得票率46.2%)、今回が137,862票(得票率49.5%)と票を減らし続けています。よく言って頭打ちです。維新支持者は強固ですが広がっていません」

「他方、我々側は候補擁立の出遅れや政治不信の蔓延、選挙疲れなどで得票率を上げることができませんでした。一時は30%台まで落ちるかもと懸念されたものの、選挙が熱気を帯びる中で何とか40%台を確保しました。しかし橋下が堺に襲い掛かってきた前々回の51%、前回の44%には及びませんでした。維新を落とすためには投票率が決定的です。もう一歩足りませんでした」

「論戦では維新が都構想論議を隠し、抽象的な『府市一体の成長』を叫び、あとは政治とカネなどで様々なフェイクをばらまき、こちら側への口汚い攻撃に終始したのに対して、野村・チーム堺側は地道で細やかな政策をこれまでの成果と今後の見通しを提起し、そのためにも政令市維持が必要だと愚直に訴え続けました」

「選挙態勢でも共産党も加わる『住みよい堺市をつくる会』の活動や『1000人委員会』など市民グループの創意を包み込み連携する態勢が作られました。『1000人委員会』では若い人の立ち上がりと下からの創意工夫、自発性も育ちました。私たちはこれから4年間の維新・永藤市政と対峙し、市民生活破壊は許さない陣形をさらに強化していきます。とりあえず急ぎのご報告とお礼に変えます」

 

立派な総括なのでもはやこれ以上付け加えることもないが、マスメディア関連の記事も含めて多少の感想を述べてみたい。まず、大手紙の見出しと記事はいずれも得票数の「僅差」や選挙戦における両陣営の「接戦」を強調するもので、とりわけ反維新陣営の「猛追」に注目した記事が多かった。例えば...

 

〇産経新聞

―「反維新のとりで」とも呼ばれた前市長の竹山修身氏が「政治とカネ」の問題で失脚。追及の先頭に立ってきた維新に追い風が吹く中で迎えた選挙戦だったが、蓋を開けてみれば次点候補に1万4千票差という「薄氷」の勝利だった。この結果について維新代表の松井一郎・大阪市長は、「やはり都構想への拒否感ではないか。これを解消できなかったのは、われわれの力不足だ」と反省を口にした。そのうえで、大阪市のみを廃止・再編する現状の都構想の取りまとめに集中したい」と述べた。

 ―一方、永藤氏を猛追した元堺市議、野村友昭氏の反維新陣営も結果に一定の手応えを感じている。野村氏を支援した自民党の岡下昌平衆院議員は取材に「都構想に『ノー』と唱えた野村氏に自民支持層の半数以上が票を投じた」と指摘し、維新への融和を打ち出す渡嘉敷奈緒美会長を牽制。自民の堺市議団を中心に、今後も反都構想の運動が継続されるとの見方を示した。

 

〇日本経済新聞

 ―都構想の賛否を問う住民投票が2020年秋にも実施される見通しの中、永藤氏は都構想の堺市の参加を巡る議論を〝封印〟した選挙戦を展開した。会見でも永藤氏は「まだ堺市では検討もされていない。大阪市の議論を見守りたい」と述べるにとどめた。...「本当に大変な選挙だった。対立候補を応援した人の意見にも耳を傾けながら、堺のために必要なことを進めたい」。9日夜、接戦を制した永藤氏に笑みはなく事務所に集まった支持者らに引き締まった表情で挨拶した。

 ―野村氏を支援してきた自民の岡下昌平衆院議員は、辞職した竹山前市長を自民が支えてきたことに触れ「今回はマイナスからのスタートだった」と振り返る。「当初は大差で敗れるとの予想もあったのに、ここまでやれたのは驚き。都構想に反対するスタンスは一切変わらない」と力を込めた。一方、自民大阪府連の渡嘉敷奈緒美会長は9日夜に記者会見し、「国政で対極にある共産党と連携しているように見えたことが敗因」と分析した。渡嘉敷会長は21日に再開される法定協議会までに都構想に対するスタンスを明確にするとしている。「共産と立ち位置を変えて、住民投票に賛成する立場を明確にする」と述べた。

 

 このように、大阪都構想の実現に肯定的であり、大阪維新を支援している産経、日経両紙でさえが、堺市民に通底する強い「都構想への拒否感」の存在を認めざるを得なかったことは注目に値する。このことは、都構想を封印して選挙争点から逸らし、「政治とカネ」問題に有権者の目を引きつけ、「府市一体の成長」キャンペーンで漠然とした期待を盛り上げるという維新陣営の選挙戦略を根底から突き崩すものとなった。維新候補自身の「大変な選挙だった」との嘆息や、松井代表の「われわれの力不足」といった発言は、この「想定外」の事態に対する彼らなりの反省の弁でもあろう。

 

 ところが笑止千万なのは、渡嘉敷自民大阪府連会長が「(野村氏の)敗戦の理由は共産党と連携しているように見えたこと」と断言し、「共産との連携を断ち切るのが大切だ」と言い放ったことだ(朝日新聞6月11日)。自民大阪府連が反維新陣営の候補を支援せずに傍観したうえ、あまつさえ大阪都構想に反対する市民の連携を非難したことは、この人物をはじめとする大阪自民国会議員の大半が公明と同じく維新の側に立っていることを意味する。まさに反維新陣営は「身内から鉄砲玉が飛んでくる」(毎日新聞6月10日)状況に置かれていたのであり、このことが今後の国政選挙に多大な影響を及ぼすことは避けられないだろう。より具体的に言えば、反維新陣営に非協力的だった自民国会議員は今後地方議員からの支援を受けることが難しくなり、次の国政選挙では呵責のない洗礼を受けると言うことだ。

 

 一方、反維新陣営に結集した会派や市民グループは、次の目標に向かって確かな橋頭堡を築いたと言える。これから激化する市議会での攻防はともかく、次期市長選までの4年間に市民の間でどれだけ「反維新=反都構想」のネットワークを拡げることができるかがカギとなる。僅か3週間で維新陣営と対等の選挙戦を展開するまでに成長した集団なのだ。4年間の月日が経過する中で次々と明らかになってくる大阪都構想の欺瞞と矛盾を暴き出し、大阪市民とも連携して来年秋の都構想住民投票で勝利する体制を整えることが堺での勝利につながる。6月23日には市民レベルの総括集会が開かれると聞くが、その時には来年の大阪市住民投票についても話し合ってほしい。(つづく)