高度成長型党組織に容赦なく襲う〝団塊世代高齢化〟の大波、京都で2019年参院選の結果を巡る討論会があった(5)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その170)

いかなる組織ももはや「自然法則」とも言える少子高齢化の波を避けることができないだろう。少子高齢化は経済社会的要因(例えば、低賃金非正規労働者の激増による非婚率上昇と出生率低下など)によって引き起こされるが、その結果は既存組織における高齢者比率の上昇となって組織活動の低下をもたらし、構成員のリタイアや死亡によって組織縮小につながる(放置すれば滅亡に至る)。これは「自然(生物学的)法則」ともいえる呵責のない動きであり、如何なる組織もその影響から免れることはできない。日本の人口構造はそれほど急速に高齢化しており、今後も半世紀以上にわたって人口再生基準を遥かに下回る低出生率が続くのである。とりわけ、戦後のベビーブーム時代に生まれた団塊世代の与える影響が大きく、2020年以降は後期高齢者の数と比率が飛躍的に増大する。

 

高度成長時代に急成長した(団塊世代中心の)共産党もその例に漏れない。というよりは、1960年安保闘争を契機に急成長した党組織は、数ある組織のなかでも高齢化の影響を最も受けやすい体質を有していると言わなければならない。党勢の指標である正確な機関紙読者数と党員数は公表されていないが(これが問題)、その時々の党大会で断片的に公表されてきた数字を拾うと、以下のような趨勢が読み取れる。

 

1960年代当初、機関紙読者30万部・党員8万人程度だった共産党組織は、10年後の1970年には、ベトナム反戦運動、公害闘争、革新自治体運動などの大衆運動の盛り上がりを背景に、その中心的役割を担った共産支持のうねりによって、180万部(6倍)・28万人(3.5倍)に急成長した。さらに20年後の1980年には、革新自治体の増加と発展、ユーロコミュニズムの台頭などによって「共産アレルギー」が薄まり、355万部(70年比2倍)、43万人(同1.5倍)の巨大組織に到達した。「民主連合政府」の樹立が現実の課題として語られたのもこの頃である。

 

しかし、1980年をピークにして機関紙読者数が徐々に下降し始め、党員数も以前のような勢いで増加しなくなった。その原因は、1970年代末になって革新自治体の中枢ともいうべき京都府政、東京都政、大阪府政が(革新陣営の内部分裂によって)相次いで崩壊したことがある。1978年の京都府知事選、79年の東京都・大阪府知事選において革新知事が相次いで敗北したことは、政権与党の一角を占めていた共産に大打撃を与え、全国的にもその否定的影響が広がった。党員数は40万人半ばを維持したものの、これまで拡大一途をたどってきた機関紙読者数は、1990年になって290万部(2割減)と初めて減少した。

 

問題はそれだけに止まらなかった。1989年から91年にかけて決定的とも言える世界史的な大事件が起ったのである。言うまでもそれは、1989年の「天安門事件」とベルリンの壁崩壊に称される「東欧革命」であり、その必然的結果としての1991年の「ソ連崩壊」だった。これらの世界史的な大政変は、共産支持の思想的基盤となっていた社会的進歩史観に破壊的な影響を及ぼすことになり、シンパサイザーが激減した。社会主義体制の「現実モデル」だったソ連が崩壊し、中国が共産独裁の強権国家であることが目の前で明らかになったからである。

 

社会主義理論に詳しい専門家ならともかく、一般大衆には「日本共産党はソ連や中国とは違う!」などと言ってもそうは通らない。これまで社会体制の理想像として描いてきた社会主義国家が目の前で崩壊し、あるいは強権国家として姿に変質したのだから、共産支持者の少なくない部分が「夢も希望もなくなった」と感じたのも無理はない。結果として、2000年の機関紙読者数は200万部を割り、党員数も40万人を割った。この10年間で共産は読者数が半分近く減るという大打撃を受け、党員数も初めて減少に転じたのである。

 

それからというものは(20世紀に入ってからの)党勢は後退の一方だ。2017年党大会で志位委員長が明らかにした党勢は、機関紙読者数110万部・党員30万人というもので、2000年当初と比べて見ても読者数は半分程度、党員数は4分の3に減少している。しかも、直近の発表によれば、2017年総選挙以降、党員7300人減、日刊紙1万5千人減、日曜版7万7千人減(8月段階で合計100万部を割った)というのだから、その勢いはまったく止まっていない。

 

日刊紙(本紙)と日曜版の割合は公表されていないが、概ね2割と8割の比率とされており、これまでは日曜版の「黒字」で日刊紙の「赤字」を埋めてきたとされてきた。しかし、日刊紙の赤字は2010年代前半において既に月2億円、年20数億円に達していると伝えられており、もはや日曜版の黒字で補填できない巨額に達しているという。その結果が、8月29日付の財務責任者の「赤旗は発行の危機に直面している」という悲痛な訴えになったのであろう。

 

原因は明らかだろう。呵責のない高齢化の進行によって党員の多数が自然減状態(死亡数の増加)に陥り、活動力(体力)の低下によって機関紙拡大はもとより配達・集金などの日常業務が維持できなくなってきているのである。高齢者組織にいくら叱咤激励したところで機関紙読者数が回復できない―、こんなことは分かっているのに、百年一日の如く「拡大」を連呼するのは悲しいことだ。いくら言われても「身体が動かない」からである。

 

本来ならば、党本部が組織実態を明らかにし、窮状をどう打開するかについて大討論を起こすべきと思うが、本部が「組織防衛」を口実に一切情報公開をしないで、ただ「大変だ!大変だ!」と言うだけでは誰も付いてこないだろう。実態を知らせないでいくら「進軍」「突撃」を命じても兵士は動かない、ただ死ぬのを待っているだけ、というのが『失敗の本質~日本軍の組織論的研究~』(中公文庫)の教えるところだからである。

 

そんなことで、私は党員の「自然減状態=死亡数」の実態を調べてみようと思い立った。赤旗日刊紙に掲載される死亡告知欄の人数や基本属性を集計することで、高齢化の現状がいかに凄まじいものであり、これまでの活動方針のままではどうすることもできない現状を解明しようと考えたのである。2018年1月1日から集計作業を始めて、すでに1年半を超えた。取りあえず次回は、2018年1年分の集計結果を示し、「事実」を基にした議論をしてみたい。(つづく)