党勢拡大から〝党勢持続〟への戦略的転換が必要だ、京都で2019年参院選の結果を巡る討論会があった(7)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その172)

赤旗掲載死亡者1646人の基本属性を見よう。まず男女比は2:1となり、根強い男社会の中にあって女性が3分の1を占めている。入党時期とクロス集計をすれば時代時代によって男女比が変わる様子が分かると思うが、残念ながらその余裕がないのでこれ以上は分析できない。しかし、若い女性が続々と入党していた頃は、党組織は活気に満ちていたのではないか。各党と比較すれば女性比率が高いことは明らかであり、それが共産党の際立った特色になっていた。

 

一番驚いたのは、平均死亡年齢が80歳を超えていることだ。10歳刻みの死亡年齢の分布を取って見たが、70歳未満は12%しかなく、70歳代(26%)と80歳代(39%)を合わせると全体の3分の2を占める。90歳以上も2割強(22%)で、最高年齢は106歳だった。若い頃から身体を酷使して活動を続けてきた人たちがかくも長命だったことに驚くと同時に、共産党がこのような「元気高齢者」たちによって支えられてきたことを改めて実感した。

 

最大の特徴は、入党時期が大衆運動の高揚した1960年代と70年代の20年間で全体の過半数(55%)を占めていることだ。戦前は非合法団体だった共産党が戦後合法化され、戦後の民主化運動の中で入党した人たちも2割近く(18%)いる。こうした人たちと60年代から70年代にかけて大量入党したベビーブーマーが、戦後の政党運動の中核となり原動力となって日本の政治革新を支えてきた。しかし、戦後75年に差しかかろうとする現在、それらの人たちが一斉に平均寿命を終える時期が到来したのである。

 

この他注目されるのは、2000年以降に入党した高齢者グループが2割弱(17%)もいることだ。これは、党勢拡大を迫られた下部組織が党員の親など高齢家族を入党させることで数を埋め合わせた結果と言えるが、高齢化している組織が高齢者を迎えるとなると、組織はさらに超高齢化する。こうして、共産党は総人口よりも半世紀早く高齢化の道を走ってきたのである。

 

死亡者の全国分布は、関東(31%)、近畿(23%)、中部(15%)の大都市圏で7割を占め、残りを北海道・東北(15%)、中国・四国・九州・沖縄(16%)で2分している。地方によって死亡率がそれほど違わないことを思えば、これは現状の縮図とも言える。ただし、これは大分けなので都道府県単位で見れば大きな格差がある。

 

以上の実態を基礎にして、共産党が今後どのような行方をたどるのかを考えてみたい。そのためには好むと好まざるにかかわらず、もはや党勢拡大は不可能だという「現実」を受け入れることが重要だ。なぜなら共産党は、党員数が現在30万人とされているものの実働部隊は25万人程度であり、しかも65歳以上比率が40%近くに達するという〝超高齢組織〟だからである。

 

この年齢構成に見合う年間死亡率は18(‰)、年間死亡者数は4500人(25万人×18.0‰=4500人)となり、しかも高齢化率が上がるにつれて死亡率も上昇するので死亡者数は毎年増加する。その数は毎年数千人、10年間で(少なくとも)5万人以上に達するものと予測され、党勢の衰退を防ぐためには死亡者数を上回る新入党員を確保しなければならない。だがこれが不可能なことは、党組織の実情を知るものなら誰でも分かることだ。

 

 事実、赤旗の党勢拡大欄を見れば、記事はもっぱら地域活動に限定されていて、職場や学校などの話題はほとんど出てこない。このことはもはや職場や学校での拡大が(事実上)不可能になっていることを示すものであり、残された活動の場は地域(だけ)になっていることを示している。深刻なのは、この地域を担う活動家が日に日に高齢化しており、遠からず活動を停止する運命にあることだろう。

 

機関紙読者数もこの2年間で7万5千部の減少だから、このままで推移すれば10年後には60万部(4割減)程度になり、これでは日刊紙・日曜版2本立ての発行は財政上困難となる。日曜版だけでも維持しようとすれば、発行部数の少ない日刊紙の大幅値上げは不可避となる。しかし、全国紙といえども発行部数が急減している現在、一般紙の月額購読料を上回る価格設定は事実上不可能だろう。値上げして読者数が激減すれば発行停止に直結する以上、「引き金」になるようなことはできるだけ避けなければならないからだ。考えられる方法としては、紙媒体から「(有料)電子版」へ移行して印刷費や発送費を思い切って節約することだが、そんなことが検討されているとは思えない。

 

これまでは党員数と機関紙読者数が党勢拡大の基本指標であり、選挙戦における得票数・得票率の目安となってきた。選挙戦で議席数を伸ばすためには、その前提となる党員数と機関紙読者数をまず拡大しなければならないという「鉄則」があり、いまでもその方針は忠実に受け継がれている。議席を確保するにはこれだけの票が必要との目標が提起され、その目標に見合う党勢拡大が提起されるのである。

 

このような目標先行型の方針は、党勢の拡大局面では有効だが、現在のような後退局面では逆に作用する。超高齢組織に幾らムチを入れても「老馬は走らない(走れない)」からであり、立ちすくむほかないからである。それどころか「850万票・16%」という途方もない目標は背負い切れないほどの重荷となり、叫べば叫ぶほど、組織はますます疲弊していく。その光景は、インパール作戦の「死の行軍」を想起させるといっても過言ではない。

 

政権を目指す政党組織にとって党勢拡大は至上命令だった。党勢拡大しなければ、政権は取れないと考えられてきたからである。つい最近まで共産党が「自共対決」を掲げてきたのは、党勢拡大によって党組織を強大にすれば、共産党を中心とした「民主連合政府」を樹立できると考えていたからだろう。ところが、それがある日突然「野党・市民共闘」路線に方針転換されたのである。転換に至った経緯がキチンと説明されていないので真相はわからないが、おそらくその背景には党勢の凄まじい後退があり、もはや共産単独の「自共対決」路線では戦えないとの判断があったものと思われる。

 

とすれば、方針転換とともに「野党・市民共闘」路線にふさわしい活動スタイルが提起されてもおかしくなかったが、こちらの方はその後も百年一日の如き党勢拡大方針が踏襲されていていっこうに変わる様子がない。これでは「野党・市民共闘」は一時的な戦術レベルの転換であり、党勢が回復すればまた「元の姿」に戻るとの疑念が生じても不思議ではない。

 

しかし、共産党はもう元の姿には戻れないだろう。なぜなら上部機関の指示通りに動く党勢拡大エネルギーは(高齢化によって)枯渇しており、しかもその傾向は今後ますます加速するからである。毎年、党員数千人と機関紙数万部が構造的に減少するという後退局面においては、採るべき戦術は「進軍」ではなくして「陣地再編」であり、党勢拡大から〝党勢持続〟への戦略転換ではないだろうか。(つづく)