第7回中央委員会総会決議を読んで思うこと、党勢拡大大運動は「水漏れ状態」にある、京都で2019年参院選の結果を巡る討論会があった(8)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その173)

この連載中に奇しくも共産党の中央委員会総会が9月15日に開かれ、総会決議が翌16日の赤旗紙上に掲載された。主たる内容は、来年1月の第28回党大会開催の決定、及びそれに向けた〝党勢拡大大運動〟の提起である。志位委員長は、冒頭のあいさつで「党勢という面でも、世代的継承という面でも、現状は率直に言って危機的であります」と述べている。党勢面での危機とは、党員数と機関紙読者数が恐ろしい勢いで減っていること、世代的継承の危機とは若手党員が極端に少ないことを指しているのであろう。

 

総会決議は、1980年以降、党勢が後退を続けている主たる原因を「社公合意」(1980年)による共産排除の「壁」に求め、そのことによって職場の党組織、若い世代の中での党建設が困難にさらされたことを挙げている。確かに「社公合意」が社共共闘・革新統一路線を崩壊させ、革新陣営に大きな打撃を与えたことは間違いない。しかし、1990年代後半の自公連立政権の成立によって「社公合意」は崩壊し、自社さ政権への参加によって社会党そのものが消滅した。

 

「社公合意」はすでに過去のものとなっており、その否定的影響はせいぜい20世紀止まりだと言える。だから、21世紀に入ってから現在に至る(20年近い)党勢後退の原因を、外部要因である40年前の「社公合意」に求めるのはいささか筋違いというものではないか。この論法は、内部矛盾を外部要因にすり替えるようなもので説得力がないのである。

 

それはともかく総会決議では、この危機的状況を脱するために「党員拡大でも赤旗読者拡大でも『前大会時(2017年1月)の回復・突破』という〝党勢拡大大運動〟が提起された。だがこの方針は、率直に言って老体にカンフル注射を打つようなもので、本格的な回復には結び付くとは到底思えない。なぜなら、20年以上も続いてきた構造的な後退傾向を、僅か4カ月の「大運動=突撃」で克服できるなどとはとても考えられないからである。

 

2年半前に開かれた第27回党大会時の党勢は、党員30万人、機関紙読者110万部というものだった。それが現時点では党員28万人、機関紙読者100万部というのだから、党員数は2年半で2万人(8千人/年)、機関紙読者数は10万部以上(4万部以上/年)減ったことになる。注目されるのは、毎年8千人もの党員が減っていく中に少なくない離党者が含まれているということだろう。

 

赤旗紙上では「離党者」と言う言葉は滅多にお目にかかれないし、「離党者数」が公表されたこともない。しかし、民主的な政治組織の構成員には参加・脱退の自由が保障されている以上、離党者が出ることは避けられないし、またそれは組織が健全に機能していることを示す証拠でもある(反社会的組織ではなかなか抜けられない)。したがって、政党は堂々と離党者数を公表すべきだと思うが、なぜか実現していない。

 

公表がためらわれる理由として考えられるのは、離党者数が多くなると組織体質に問題があるのではないかと疑われ、政党にマイナスイメージを与えるからであろう。たしかに学生の就活活動を見ても、入社人数より退社人数が多いような会社は「ブラック企業」と見なされ、「ヤバイ会社」として敬遠されることが多い。政党の場合も新入党員より離党者が多いような場合は、若い世代には「将来性がない政党」と映るかもしれない。

 

とはいえ、「危機的状況」と叫ぶだけでその実態を伝える努力をしなければ、組織全体が危機意識を共有できないし、克服するためのエネルギーも湧いてこない。民間企業でも、幹部が社員に対して売上高減少の原因を示さず、もとに戻すためのノルマを課してただ叱咤激励するだけでは誰も付いてこない。原因の所在について製品に問題があるのか、営業方針の拙さにあるのか、広告宣伝の方法にあるのかなど、具体的な指摘をしなければ手の打ちようがないのである。

 

総会決議では、党員と機関紙読者数の減少数という「結果」だけが示され、それを4カ月で回復(突破)するという「目標」が課されただけで、その「中身」はまったく示されていない。党員数の増減に関して言えば、死亡者数と離党者数の合計が新入党員数を上回れば減少し、下回れば増加するのだから、「中身」は死亡者数、離党者数、新入党員数の3つを明らかにするだけでいいのである。しかし、その中身が示されていないので(間違いがあるかもしれないが)、利用できるデータから試算してみよう。

 

まず、新入党員数は「第27回党大会以降、新しい党員を迎えた支部は34%」とあるので、2年半で6800人(2万支部×0.34)、2720人/年増えたことになる。次に推定死亡者数/年は、30万人(現勢・母数)に年死亡率を乗じて得られる。死亡率は年齢構成によって違うが、年齢構成が公表されていないので(実態は65歳以上比率が40%近くに達していると伝えられている)、国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集、『人口の動向、日本と世界』(厚生労働統計協会、2019)から、3つのケースを想定して試算しよう。(1)65歳以上比率30.0%、死亡率12.4‰、推定死亡者数3720人(30万人×12.4‰)の場合、(2)36.8%、15.5‰、4650人(30万人×15.5‰)の場合、(3)38.4%、17.7‰、5310人(30万人×17.7‰)の場合である。

 

計算式は「党員減少数/年=新入党員数/年-推定死亡者数/年-離党者数/年」という簡単なもので、結果は以下のようになる。(1)8000人=2720人-3720人-7000人、(2)8000人=2720人-4650人-6070人、(3)8000人=2720人-5310人-5410人。離党者数が余りにも大きいので計算をやり直してみたが、簡単な足し算と引き算なのでまず間違いないものと思われる。つまり、党員減少数8000人/年の内訳は、2720人/年の新入党員を迎えているにもかかわらず、それをはるかに上回る死亡者数(3720~5310人/年)と離党者数(5410~7000人/年)によって生じているのである。

 

生物である人間には命に限りがあるので、共産党の党組織が超高齢化している以上、死亡者数が当分増え続けることは如何ともしがたいだろう。先に上げた死亡率の異なる3つのケースは、日本人口が2025年、2045年、2065年に到達したときの65歳以上人口比率に基づくもので、30.0%の場合は平均年齢49.0歳、36.8%では51.9歳、38.4%では53.4歳だからそれほど違和感はない。問題は離党者数が死亡者数を上回るレベルに達していることであり、この問題に一言も触れないで〝党勢拡大大運動〟の号令をかけ続けられていることだ。笊(ざる)に幾ら水を注いでも水は溜まらないのだから、まず水漏れを防ぐことが先決ではないか。それは組織活動の原則であり倫理上の問題でもあるからだ。(つづく)