安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(5)、内閣支持率と自民支持率が両方とも下がった、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その182)

 

時事通信が2019年12月6~9日に実施した世論調査によると、安倍内閣支持率は前月比7.9ポイント減の40.6%、不支持率は5.9ポイント増の35.3%となった。同時期に実施されたNHK世論調査では、内閣支持率45%、不支持率37%だから相当な開きがある。具体的な質問の読み上げ方が表示されていないのでよくわからないが、この差は電話調査(NHK)と個別面接調査(時事通信)の違いと理解しておきたい(個別面接調査になると、質問の趣旨に対する回答者の理解度が上がるので調査精度が高いと言われている)。

 

時事通信調査の時系列でみると、今回の内閣支持率の下落幅の大きさは2018年3月(9.4ポイント減)以来のことだ。首相主催の「桜を見る会」をめぐり、安倍首相が多数の後援会関係者を招いていたことや、マルチ商法を展開したジャパンライフの元会長も招待されていたことなどが批判を浴び、支持率に影響したとみられる―と同社は分析している。前回は、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する財務省の決裁文書改ざん問題が国会の焦点となっていた時のことで、支持率は40%割れの39.3%(9.4ポイント減)、不支持率は40.4%(8.5ポイント増)と支持・不支持が逆転した。いずれも安倍首相絡みの不正隠しを与党・官僚が総ぐるみで行ったことが背景となっている。今回は支持・不支持が逆転するまでに至っていないが、それでも下落幅の大きさは注目に値する。

 

今回の調査のもう1つの大きな特徴は、自民支持率が前月比で23.0%(7.1ポイント減)と大幅に下落したことだ。2018年3月の自民支持率は25.2%(3.3ポイント減)だから、下落幅は前回よりも大きいことになる。与党総ぐるみで安倍首相の不正を隠し、野党の真相解明を妨げるために国会審議を拒否したことが国民から激しく批判されているのだ。安倍首相はもはや「死に体」と見なされているので、今後の政治情勢にとっては自民支持率の下落の影響の方が大きいのではないか。次の総裁を誰に代えても自民党支持率が下落していれば、選挙戦は著しく困難になるからである。

 

これに対して野党支持率はいっこうに伸びていない。立憲3.8%、共産2.0%、れいわ0.7%、国民0.6%、社民0.2%、足しても僅か7.3%でほとんど動きがないのである。だが、注目されるのは今回の6割にも及ぶ「支持政党なし」の急増ぶりだ。「支持政党なし」は61.1%(5.6ポイント増)で、今年3月以来の60%台に乗った。これは、自民離れ層が「支持政党なし」に移行したものと思われ、今後の政治情勢が極めて流動化していることを物語っている。野党各党がどれだけ「政党支持なし層」を取り込めるか、そこに安倍内閣打倒の全てが掛かっている。

 

これまで安倍政権が比較的安泰だったのは、野党が弱体化している一方、自民支持層が岩盤のように分厚いからだと言われてきた。いかなる政治状況においても自民を支持する強固な保守層が常に3割台を占め、野党の進出を許してこなかったからだ。ところが、安倍政権の長期化による腐敗の極みが「身内政治=国政の私物化」という形で顕わになり、それが官僚機構まで巻き込んで国の統治機構の根幹が侵される事態にまで発展してきた。この期に及んでも与党内に亀裂が入らないのは自民全体の腐食が進んでいるとも言えるが、その土台である保守層の「自民離れ」が顕著になってきたことは、彼らの心胆を脅かさずにはおかないだろう。

 

 安倍内閣と自民党の支持率が今年最大の下げ幅となったことに関して、時事通信は次のように分析している。

「政権内では、なおくすぶる首相主催『桜を見る会』をめぐる問題が直撃したとの見方は強く、反転へのきっかけがつかめない状況に危機感がにじむ。首相官邸幹部は13日、支持急落に関し『ずいぶん下がった』と深刻に語った。自民党幹部は『やはり桜が大きかった』と指摘した。11月8日に国会で取り上げられて以降、『桜』問題は拡大を続けた。首相後援会や首相夫人の昭恵氏の関与、共産党が名簿提出を求めた日の廃棄、反社会的勢力とされる人物の参加などが相次いで指摘された。10月に2閣僚が辞任しても支持率は堅調だったが、『桜』問題は野党が連日追及、メディアも大きく取り上げたことが響いたとみられる。別の自民党幹部は『桜ももちろんだが、長期政権のおごりが原因だ。緊張感がない』と述べ、政権の緩みに警鐘を鳴らした」

  

「自民党内には、支持率低下は『今が底』(参院幹部)、『3割台にならなければ大丈夫』(中堅議員)と強がる声もある。ただ、内閣支持率に連動して自民党支持率が大きく下落したのは今年初めてのケースだ。党関係者は『解散は当分できない。これでやれば自爆だ』と語る。一方、世論調査では『支持する政党はない』が前月比5.6ポイント増の61.1%に上った。野党各党の支持率は横ばいで、自民党から離れた支持は野党に向かわなかったとみられる。立憲民主党の福山哲郎幹事長は『無党派層の支持を得るような発信をしていく』と強調した。公明党からは『(支持急落は)桜が響いているが、またすぐ上がるだろう。野党も全然伸びていない』(幹部)との楽観論も出ている」

 

これが現時点における与党内全体の空気であることは間違いない。彼らの危機意識がこのままで終わるのか、それとも新たな動きを起こさない限り国民から見捨てられると判断するのか、今後の世論の動きが極めて重要だ。引き続くメディア各社の世論調査がどのような結果を導くか、注目(期待)することしきりである。(つづく)