安倍政権終焉の時が間近に迫った、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(10)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その187)

憲政史上最長の首相在任期間を記録し、第2次安倍内閣の発足から8年目を迎えた安倍政権が、遂にその終焉を迎えるときががやってきたようだ。後世の歴史家は「平成最後の首相は令和の訪れとともに去った」と書くに違いない。そしてまた、「史上最長の首相は史上最悪の首相だった」とも書き添えるだろう。

 

安倍政権を直撃している「桜を見る会」疑惑と「IR・カジノリゾート汚職」は、この政権の終幕を飾るにふさわしい見苦しい事件だ。身内政治による国政私物化の象徴ともいうべき「桜を見る会」、そして成長戦略の中軸となる「カジノリゾート」がその舞台であり、主役はもちろん安倍首相と菅官房長官の二人である。しかし、これまで「言い訳」と「言い逃れ」を繰り返し、その場を切り抜けてきた二人のセリフも最近はだんだんロレツが回らなくなってきた。発音不明瞭、意味不明の発言があまりにも目立つようになってきたのである。

 

「桜を見る会」疑惑がもはや首相案件であることは周知の事実となっているが、「カジノリゾート汚職事件」の方はいよいよこれから幕を開ける。東京地検特捜部が安倍首相に忖度して「泰山鳴動してネズミ一匹」程度に収めるのか、それとも「疑獄事件」に至るまでの全容を視野に入れて追及するのか、国民全体がその一挙手一投足に注視している。

 

まさかそうならないと思うが、汚職摘発の結末が秋元容疑者のような「小物・尻尾切り」の終わるようであれば、日本政財界のモラルハザード(倫理規律崩壊)は野放し状態になり、収集がつかなくなること間違いなしだ。一方では、関西電力・日本郵政のような腐敗した経営陣が企業体質を根元から劣化・腐食させ、他方では跋扈する官邸官僚が官僚機構全体を機能不全に陥れるなど、国家統治機構の崩壊が拡大再生産されるだけだ。日本資本主義の支配体制と統治機構がいま音を立てて崩壊している――と言っていいほど事態は深刻なのだ。

 

今回のカジノリゾート汚職は、安倍政権の中枢部を直撃する重大事件だ。なかでも菅官房長官に与えた打撃は計り知れないほど大きなものがある。菅官房長官は内閣運営の要であると同時に、安倍政権の成長戦略すなわち「観光立国政策」の仕切り役としても知られる。菅官房長官は、安倍首相が議長を務める「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」を立ち上げ、「2020年外国人観光客4000万人、消費額8兆円」「2030年6000万人、15兆円」という途方もない目標を掲げた。その主たる舞台がカジノリゾートなのである。

 

菅官房長官は、政界では「観光大臣」と言われるほど観光関連業界との関係が深く、国内3カ所といわれるIR候補地の選定も全て「菅案件」とされている。菅官房長官は、安倍政権の観光立国政策のキーパーソンであり、トランプ大統領絡みのカジノリゾートの推進者でもある。今年9月に発行された『週刊東洋経済(爆熱・観光立国)』(2019年9月7日号)の「キーマン対談、菅義偉×デービッド・アトキンソン」での発言は次のようなものだ。相手は、菅官房長官のブレインとなり、国の観光ビジョン構想会議委員となったデービッド・アトキンソン氏(元国際金融資本ゴールドマンサックス・アナリストで『新・観光立国論』の著者)である。

 

――観光を国の政策として進めた背景には何があったのですか。

【菅】第2次安倍晋三内閣が2012年に発足して以降、政府は一貫して日本経済の再生を最優先課題として取り組んできた。その中で、地方の所得を引き上げ、日本全体の活力を上げることを目的とした「地方創生」を掲げた。(略)安倍首相は12年に政権復帰して最初の施政方針演説で、外国人を呼び込んで産業を振興する「観光立国」を宣言した。私も前から観光について勉強していたが、12年に韓国を訪れた旅行者が1100万人超だったのに対して、同じ東アジア圏の日本は836万人と後塵を拝していることがわかった。そこで、13年からビザ(査証)の発給要件を緩和していった。(略)昨年、安倍首相が国賓として中国を訪問し、来年の早い時期には習近平国家主席を日本に招く予定だ。こういった動きも追い風になり、今年に入っても中国人訪日客数は10数%程度の伸びを維持している。中国人訪日客はどんどん増えるだろう」、

――20年の東京五輪を終えてから、観光産業が持続成長するためのカギは何でしょうか。【菅】統合型リゾートやスキー場の整備がカギを握る。これを改善するだけで年間1000万人は訪日客が増えるとも言われている。

 

統合型リゾート施設(IR)とは、「カジノ」を中核とする超巨大エンターテインメント施設のことだ。今年9月4日に発表された政府の「統合型リゾート施設(IR)の整備に関する基本方針」は、「国内最大3カ所」とされるIRの立地区域選定基準として、「日本を代表する観光施設にふさわしいこれまでにないスケール」(前例のない規模)が明記された。この基本方針は、カジノリゾートを中核とする観光立国政策が「地方創生」とは縁もゆかりもない代物であることを物語っている。カジノリゾートの高収益を確保するには、立地地域を大都市に限定(3カ所)することが不可欠であり、「地方」など始めから問題外なのである。この時点で、東京都、横浜市、大阪市以外の地域は事実上候補地から外されたと言ってもいい。

 

菅官房長官は、おおさか維新の会を手なずける策略の手段として万博を口実とするIR誘致を唆したばかりか、自らの選挙地盤である横浜へは(林文子市長を屈服させて)トランプ大統領の最大支持者であるアメリカのカジノ企業最大手を誘致することでトランプ大統領と取引(ディール)し、「ポスト安倍」の地位さえ手に入れようとしている。IR担当の元副大臣が逮捕されているにもかかわらず、菅官房長官がカジノリゾートの立地手続きを予定通り進めると強弁しているのはそのためだ。

 

だが、利権と汚職にまみれたカジノリゾートの設置がこのまま進むなどと考えるのは見当違いも甚だしい。大阪市や横浜市では反対運動が勢いを増し、国民世論も今回の汚職事件をきっかけに風向きが変わった。安倍首相の「桜を見る会」疑惑に加えて「菅案件」のカジノリゾート立地が頓挫すれば、安倍政権の終焉は来年早々にも早まるかもしれない。「平成とともに安倍政権は去る」しかないのである。

 

みなさま、よいお年をお迎えください。広原 拝