「誰一人取り残さない社会」を政治理念に掲げる門川氏が「大切な京都に共産党の市長は『NO』」を信条とする「オール京都・ワンチーム」に支えられて京都市長に当選した、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(23)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その200)

 

 京都市長選2月2日の翌日、各紙のニュースを読み比べてみた。地元紙の京都新聞が特大の紙面を割いて詳細に報道したほかは、あまり見るべき記事がなかった....というのが率直な感想だ。これから本格的な論評記事が出て来るのかもしれないが、投開票翌日の各紙は選挙結果だけの報道になり、掘り下げた分析がほとんどなかったのである。担当記者やデスクが勉強不足でレベルダウンしているのか、リストラで取材陣がやせ細っていてネタを集められないのか、とにかく物足りないことおびただしい。

 

 そんな中で目を引いたのが、「現職への批判 2人に分散」とする朝日新聞の解説だ。短いコメントだが、簡にして要を得ている。そのまま再録しよう。

 ―現職の4選による「安定」を選ぶのかが問われた京都市長選。投票率は前回から約5ポイント上がった。安定ではなく「停滞」ととらえた有権者が、批判票を投じた結果だろう。門川氏に対する厚い信任とは言い難い。現職への批判票が新顔2人に分散したことが、門川氏の最大の勝因だ。これまでの京都市長選は「非共産対共産」といった党派の動きを中心に語られることが多かったが、今回は「現職支持対現職批判」の票の奪い合いだったお位置づけられそうだ―

 ―門川市政3期12年の間に京都の街は大きく変わった。観光は京都の大きな魅力だが、足元では「観光公害」と呼ばれる問題が顕在化している。歴史ある景観を含む観光資源と、住民の暮らしをどう調和させるのか。少子高齢化や厳しい財政事情にも対応が必要だ。門川氏は「オール京都で京都を前へ前へと進めていく」と唱え続けた。「オール」にどれだけの市民を巻き込むことができるのか。4期目の「挑戦と改革」の真価が問われる―

 

 私は、朝日解説の中の「現職」を「現体制」と読み替えれば、今回の京都市長選の全てが理解できると思う。「現職=門川市長」は「現体制=オール京都=国政与野党5党相乗り」の単なる利益代表にすぎず、有権者の一部が「オール京都」の代表と錯覚しているだけの存在なのだ。事実、今回の市長選における現職候補得票数21万640票は、有効投票数46万7117票の45%に過ぎず、対立2候補の得票数25万6477票を4万5837票も下回っている。現職支持票よりも現職批判票の方が多いのであり、しかも現職批判票が過半数を占めているではないか。

 

この点で、「現職への批判票が新顔2人に分散したことが、門川氏の最大の勝因」だとする、大貫記者の指摘は鋭く的を射ている。また、これまでの京都市長選が「非共産対共産」といった党派的文脈で語られることが多かったのに対して、今回の市長選の対決軸は「現職支持対現職批判」だとする分析視角も優れている。このような分析視角でなければ、なぜ立憲民主支持層の24.4%(4分の1)、国民民主支持層の34.8%(3分の1)しか現職候補に投票しなかったのか(京都新聞出口調査)、その理由を解明できないからだ。要するに、福山立憲幹事長や前原国民京都府連代表がいくら「非共産対共産」の文脈で反共ムードを煽ろうとしても、支持者たちは「現職支持対現職批判」の視点すなわち「現体制=オール京都=国政与野党5党相乗り批判」の立場から投票したのだと言えよう。

 

 この傾向を最もビビッドに示す選挙結果を2例示そう。1つは左京区、もう1つは東山区である。左京区は従来から現体制批判票の多いことで知られるが、今回の市長選では投票率が前回2016年市長選39.49%よりも8.7ポイント上昇して48.21%になり、市内最高を記録した。得票数は、福山候補が2万2558票でトップ、門川候補が1万9159表で2位、村山候補が1万8091票で3位となった(京都新聞)。支持政党別投票先のデータはないが、この得票数分布からして立憲・国民支持増のほとんどが福山・村山候補に投票したことはほぼ間違いない。

 

 東山区はどうか。ここでも投票率が前回35.24%から41.77%へ6.53ポイント上昇し、門川候補の5093票に対して福山候補は4493票と肉薄した。また、福山・村山票7128票は門川票5093票を大きく上回っている。東山区の市会議員は自民と国民民主の2人で共産党はいない。2人の市議に応援される門川候補が圧倒的得票をしていいにもかかわらず、なぜ福山候補がこれほどの差にまで詰め寄ったのか。言うまでもなくその理由は、東山区全体を覆うオーバツーリズム(観光公害)に対して門川市政が取るべき対策を取らず、「子育て日本一」を自画自賛する門川市政のもとで、東山区の出生率が〝全国最下位0.77〟(1人の女性が生涯0.77人の子どもしか産まない)の状態から脱出できないからだ。

 

 門川市長は4期目を「挑戦と改革」の気概で乗り切ると表明した。だが、門川市政の前途には観光公害ならぬ「観光地獄」が待ち構えている。自らが煽りに煽った市内の宿泊施設拡大政策が、いまや「飽和状態」から「過剰状態」に劇的に変化しつつあるからだ。わけても中国新型コロナウイルス肺炎の影響は大きく、市内外国人宿泊客の3分の1を占めていた中国人観光客の激減は宿泊施設過剰問題にさらに拍車をかけるだろう。「ゴーストビル」ならぬ「ゴーストホテル」が林立しないことを祈るばかりだ。

 

 また、「非自民非共産」と言いながら「非共産」に徹する前原国民民主党京都府連代表(衆院議員)も大きな打撃を受けるだろう。前原氏の選挙区は、左京区・東山区・山科区の3区にわたるが、その大票田の左京区で門川票が沈んだ影響は大きい。レームダックと化した4期目の門川市長と前原衆院議員が権力の座から滑り落ちる日はそう遠くないのである。(つづく)