新型肺炎の感染拡大にともなう大阪・京都におけるインバウンド市場の縮小予測、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(26)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その203)

 

日銀京都支店は2月10日、『管内金融経済状況』を発表し、「観光は、足もと、中国での新型肺炎の拡大の影響により弱めの動きとなっている。主要宿泊施設の宿泊客数および主要観光施設等への入込客数をみると、1月までは堅調に推移していたものの、足もとは中国での新型肺炎の拡大の影響により弱めの動きとなっている」と解説している。

 

図表編では、京都市内の主要ホテルの月別客室稼働率グラフ(2017~19年)が掲載されている。ここ3年は最低の月でも例年70%以上の稼働率を維持してきたが、全体傾向として年ごとに稼働率が低下してきている。これは2016年からホテル建設ラッシュが始まり、客室が1万室以上も増えたことが原因だ。一般的にホテル経営の採算ラインを維持するための稼働率は最低60%程度とされるが、この水準ではビジネスホテルでも経営が苦しくなり、設備の整った都市ホテルでは75%以上の稼働率を安定的にキープしないとやっていけないと言われている。新型肺炎の感染拡大が本格化する今年2月以降、市内主要ホテルの客室稼働率がいったいどんなカーブを描くか、その動向が注目される。

 

これに引き続いて日銀大阪支店は4月18日、『関西経済金融動向』を発表した。慎重な言い回しながらも新型コロナウイルス肺炎の感染拡大に対して大きな懸念を示しており、関西経済に与える影響の大きさを予測させる。本文よりも記者会見説明の方がわかりやすいので、簡単に紹介する。 

「今回、関西の景気については、『基調としては緩やかな拡大を続けているものの、足もとでは新型コロナウイルス感染症の影響がみられている』と判断しています。感染症拡大の影響については、1月以降、中国人客を中心に、当地を訪れるインバウンド客が減少しており、旅行のキャンセルの動きも広がっています。中国便の欠航も続いており、当地におけるインバウンド消費は、今後の感染の状況に左右されますが、目先、弱めの動きになることが見込まれます」

「インバウンド消費についてですが、当地のインバウンド消費における中国人客のウエイトは大きく、中国の春節期間は例年インバウンド消費が大きく伸びる時期ですが、今年は春節期間の免税売上げが大きめに減少したほか、足もとにかけて免税売上の減少幅が大きくなっているとの声も聞かれているところです。当地を訪れる中国便の欠航の動きも広がっており、小売りや宿泊業などインバウンド関連業種からは、飲食の回復は新型コロナウイルス感染症の終息次第との声も聞かれているところです。問題の終息に至る過程など、インバウンド消費の動向については今後ともよく見ていきたいと思います」

 

一方、民間調査機関(シンクタンク)の方はもっと突っ込んだ予測をしている。りそな総合研究所の研究レポート、『新型肺炎がインバウンド市場に与える影響』(2月12日)は、2002~03年にかけて世界流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)を参考に、関西2府4県の影響額をズバリ推計している。この推計によれば、訪日客の減少にともなう影響額は、全国6244億円、関東(1都6県)2181億円、関西(2府4県)1905億円となっており、うち大阪府936億円、京都府590億円、計1526億円と全国の4分の1、関西の8割を占めている。京都府における影響額の費目別内訳は、百貨店やドラッグストアなどの物販230億円(全体の39%)が一番大きく、宿泊161億円(同27%)、飲食121億円(同21%)、交通57億円(同10%)、サービス22億円(同4%)と続く。

 

問題は「りそなレポート」が注意を喚起しているように、今回の新型肺炎がSARSの時のように半年余りで収まるかどうかだ。各紙の報道では、新型肺炎はSARSよりも症状はやや穏やかとみられるが、感染力はSARSよりも強くて封じ込めはかなり難しいとされている。SARSの場合、2002年11月に中国広東省で最初の症例が発生したが、中国政府が情報を隠蔽するなかで香港、台湾、カナダなど世界各地域に拡大し、2003年7月にWHOから終息宣言が出されるまで8カ月にわたって流行が続いた。WHOの発表によると、その規模は感染者数8096人、死者数(37カ国)774人に上る。

 

これに対して今回の新型肺炎は、2月19日時点で国内感染者数は705人、死者1人(その後2人増えた)に達しており、クルーズ船「ダイアモン・ドプリンセス」関連の感染者数が毎日100人近い規模で増えていることから、感染者数が今後千人を超えることは確実な情勢となっている。また、中国本土の2月18日時点の感染者数は7万4185人、死者2004人に達しており、この時点で感染者数はSARS時の9倍超、死者数は3倍近くになっていて、先行きは予断を許さない。

 

こうした点から、「りそなレポート」の試算はかなり控えめなもので、影響額は今後拡大する可能性が大きい。理由は以下の通り。

  1. 同レポートは、新型肺炎の感染拡大は今年4月頃まで続き、訪日客の減少は2~5月にかけて進むとしているが、感染拡大は5月以降も終息せず、訪日客の減少は6月以降も続く見通しが大きい。
  2. 中国人客減少率を50%程度(SARSの時は39%減)に見込んでいるが、中国政府の出国規制が今後一層強まることが予想されるので減少率はさらに大きくなると予想される。
  3. SARSの時は韓国人客の減少率が小さく訪日客の早期回復につながったが、今回は日韓関係の悪化が解消されず早期回復は難しい。
  4. 最大の問題は、「インバウンド市場」に限定して訪日客減少による損失額を推計していることであり、「国内市場」が相乗的に縮小することを計算の中に入れていないことだ。日本が中国に次ぐ感染国であることからも、国内外双方の市場を全体として推計しないと意味がない。

『2018年京都観光総合調査』によると、京都市内の観光消費額は日本人9357億円、外国人3725億円、合計1兆3082億円となっている。外国人宿泊客に占める中国人の割合は26%なので観光消費額を単純配分すると970億円になる。今回の新型肺炎による減少率を中国人50%、その他外国人20%とすると、外国人観光消費減少額は中国人485億円、その他外国人550億円、計1035億円となり、りそなレポート590億円の倍近くなる。これは、同レポートが比較的短期(半年程度)の減少額を見込んでいるのに対して、本稿では年単位の減少額を想定しているためである。

 

注意すべきは、日本人観光消費額は9357億円、外国人観光消費額3725億円の2.5倍であることだ。したがって、減少率10%だと減少額935億円、20%だと1870億円の巨額になる。そうなると日本人減少率を10%に抑えても、全体減少額は外国人減少額と合わせて1970億円になり、2018年観光消費額総額1兆3082億円の15%程度の観光消費額が消えることになる。この額は、中国人客およびその他の外国人客の減少率をどの水準に設定するかで大きく変動するので、あくまでも仮定の数字にすぎない。中国人減少率が50%以上になることもあれば、その他外国人減少率が20%以下になることもある。しかし、日本での感染拡大が本格化して「渡航制限国」に指定されるようなことになれば、外国人全体が激減するので決して楽観は許されない。

 

すでにクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス」における危機的状況は世界各国に同時中継されており、日本は中国に次ぐ「新型肺炎感染国」だとする評価が国際的に定着している。米疾病対策センター(CDC)は2月19日、新型コロナウイルスの感染者の増加を踏まえ、日本と香港への渡航に際して注意するよう呼び掛けた。注意レベルは3段階で最も低いレベル1の「通常の注意が必要」で、渡航の中止や延期は勧告していない。CDCは既に中国本土について、最も危険とするレベル3の「不要な渡航は回避」に指定。過去14日以内に中国を訪れた外国人の入国を禁止するとともに、中国から帰国した米国人も14日間の隔離状態に置いている。CDCとは別に国務省も既に中国への渡航中止を勧告している(時事通信2月21日)。