馬鹿に付ける薬はない、安倍政権における末期症状、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(29)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その206)

 

 東京在住のジャーナリストたちでつくっている「リベラル21」という同人ブログがある。新聞・テレビ・通信社ОBが中心となり、その他諸々の職種の方々が参加している個性的かつアクティブなブログ集団だ。共通しているのはメンバーがシニアだということ、それも相当なレベルに達しているシニアだということだ。なぜか縁あって、私も十数年前から寄稿者の中に入れてもらっているが、それ以降、関西からのニュースを中心に書いている。

 

 今回の拙ブログは安倍政権をめぐる最近の動向をまとめたもので、「リベラル21」寄稿文の再録である。「馬鹿に付ける薬はない」というタイトルは、私の心情をそのまま表したもので、これ以外のタイトルは思いつかなかった。それにしても、最近の安倍首相の醜態は目に余る。先日の記者会見といい、昨日の参議院予算委員会での答弁といい、「これが一国の首相か」と嘆息することばかりだ。野党質問にはまともに答えず(答えられず)抽象的な答弁を繰り返すだけの首相、基本的な数字さえ持ち合わせていない関係閣僚、閣僚の後ろで右往左往しながらメモを書く官僚など見苦しいこと限りない。昨日の国会は審議が度々中断し、挙句の果ては「休憩」となる始末、政権末期の姿そのものだった。以下は本文である。

 

 「馬鹿に付ける薬はない」という格言がある。落語の世界でよく出て来る言葉だが、これが政治の世界とりわけ政権中枢の話となると笑ってばかりはいられない。そんなことを痛感したのが、安倍首相が独断で打ち出した2月27日の全国小中高の臨時休校方針(要請)をめぐるドタバタ劇だった。

 

毎日新聞(大阪本社版)は2月29日、1面トップで「全国休校 首相独断、新型肺炎禍 強いリーダー固執、『側近』文科相の直言もソデ」と大見出しで伝え、続いて3面では「唐突通告 身内も困惑、麻生氏『共働きはどうなる』、与党『1日で準備 めちゃくちゃ』、専門家『科学的根拠ない』」と連打し、社説では「『全国休校』を通知、説明不足が混乱を拡げる」「新年度予算案が通過、安倍首相も瀬戸際にある」と論じた。

 

それにしても、新型肺炎対策をめぐる安倍政権のこの間の迷走ぶりは目に余るものがある。加藤厚労相は2月25日、政府の基本方針として「イベント開催について全国一律の自粛要請はしない」「学校の臨時休校などの適切な実施については都道府県から設置者に要請する」と発表したばかりだった。ところがその翌日の26日、安倍首相が一転して「多数の人が集まる大規模なイベントは今後2週間、中止・延期または規模縮小を要請する」と基本方針を覆し、さらに27日には「全国の小中高校、特別支援学校には来週3月2日から春休みまで臨時休校するよう要請する」と追い打ちをかけた。その結果、28日には全国自治体や学校現場で混乱が広がり、首相や関係閣僚は釈明に追われることになったのである。

 

各紙報道では、この異例の方針を首相に進言したのは今井首相補佐官とされ、菅官房長官も発表直前まで知らされていなかったという。側近の萩生田文科相の反対を押し切ってまで「見切り発車」した安倍首相の意図はいったいどこにあったのか、朝日新聞(2月29日)は次のように解説している。「(自民党幹部らは)今回の判断の背景のひとつに、政権批判に対する首相の危機感があったと指摘する。政府の対応をめぐっては、船内で感染が拡大した大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の問題に海外メディアからも批判が集中。国内でもネット上などで政府批判があふれる。さらに感染が拡大するようなことになれば、首相が『世界中に感動を与える最高の機会に』と期待する東京五輪・パラリンピックへの影響も現実のものとなりかねない」。

 

この点については、毎日新聞(同上)も同様の見方をしている。「首相や首相サイドが『強いメッセージ』にこだわるのは、桜を見る会や東京高検検事長の定年延長の問題で報道各社の内閣支持率が下落した状況の中、ウイルスの感染拡大で野党から『対策が後手に回った』との批判を浴び、『首相の顔が見えない』(国民民主党・玉木代表)と指導力不足を指摘されたためだ。こうした批判を払拭しようと焦った首相による『強いメッセージ』は、かえって政権の混乱ぶりを浮き彫りにした。省庁から『一斉休校しても支持率は下げ止まらないのでは』との不安が広がる。『政権末期を見ているようだ』。与党関係者は声を潜めた」。

 

 安倍首相の突然の方針転換は、年度末でもあり教育現場に及ぼす影響は極めて深刻だ。折角の卒業式や終業式ができない、思い出をつくるための一番大事な最後の機会が奪われる、年間に必要な授業時数は確保できるのか、学習に遅れは出ないのか、母子家庭や共働き世帯などでは低学年生の世話を誰が見るのかなどなど、学校や家庭に大きな混乱が広がっている。学童保育や保育所は閉鎖しないというが、こちらの方が濃厚接触の危険性が高いのではないかとも言われている。

 

専門家からも「科学的根拠がない」との意見が相次いでいる。日本環境感染学会理事長の吉田東京慈恵会医大教授は「政治的な判断だ。科学的な知見に基づいての提言ではない」と述べ、政府専門家会議メンバーの岡部川崎市健康安全研究所長(元国立感染症研究所感染症部長)も「専門家会議でも一斉の休校については諮問されてもおらず、提言もしていない。政治的判断だ」と話している。和田国際医療福祉大学教授は「社会的影響が大きく、是非を議論して社会の納得を得る必要がある。政府は専門家に相談し、効果があるする根拠を示すべきだ」と指摘した(毎日・朝日、同上)。

 

自治体首長の多くは(不甲斐ないことに)「右へならえ」だが、中には独自の姿勢を示す首長もいる。滋賀県湖南市の谷畑市長は28日未明、フェイスブックに「全国の首長に告ぐ」と題して「学校の臨時休業の権限者は設置者である。(中略)総理は責任を負わぬ。大切な事なのでもう一度言う。総理は責任を負わぬ」と投稿した。その数時間前には「内閣総理大臣による地方自治への不当な介入であり、土足による蹂躙(じゅうりん)でもある」「内閣総理大臣は『要請』と言いながら、無批判なマスコミを通じて『事実上の命令』を下したのも同然なのだ」と首相の要請を強く批判した(朝日デジタル、2月28日)。

 

 ウイルス感染の不安に怯える国民の要求に応えることなく新型肺炎検査体制の整備を怠り、やるべきことをやらずして自らの責任を棚に上げ、「先手対策」と称して全国小中高の臨時休校に踏み切る―。こんな本末転倒の「緊急対策」を国民が許すはずがない。私は「最後のあがき」ともいうべきこの措置によって安倍首相はますます窮地に追い込まれ、遠からず政権の座を追われるときがやってくると確信している。直近の世論調査の結果を示そう。

 

今年2月期の各社世論調査で、最後に実施された産経新聞世論調査(2月22、23日実施、25日発表)では、内閣支持率と自民党支持が連動して急落するという結果になった。内閣支持率が前回44.6%から36.2%へ8.4ポイント急落し、不支持率が38.9%から46.7%へ7.8ポイント急増した。その結果、1年7カ月ぶりに不支持が支持を10.5ポイント上回ることになり、安倍政権を震撼させたのである。

 

自民党支持率も39.3%から31.5%へ7.8ポイント下がった。これまでは内閣支持率に変動があっても自民党支持率は高位安定していたが、今回は内閣支持率と連動して急落したことが注目される。このことは、首相の虚偽答弁や辞任閣僚の雲隠れを擁護し続けてきた与党・自民党にも批判の眼が向けられ始めたことを意味する。安倍首相のもとではもはや次期総選挙を戦えないことが、与党・自民党の中でも会派を問わず明らかになってきたのである。

 

いまや、安倍首相の無能・無策ぶりは世界中に知れ渡っている。ロイター通信(東京)は2月25日、「安倍首相はどこにいる?」とのニュースを配信した。歴代最長の在任期間になった安倍首相が、新型ウイルス対応策の代表者として陣頭指揮を執らず、その任務を加藤厚労相に「丸投げ」しているという批判だ。安倍首相は、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部会合では冒頭の短いコメントを読み上げるだけで(いわゆるテレビカメラの頭撮り)、その後はさっさと退席して身内の者との会食に出かけるか、そうでなければ会議運営を全て加藤厚労相に任せて座っているだけなのである。

 

 時事通信(2月29日)は、「臨時休校『日本の対応急変』=五輪控え『政治的計算』の見方も」とのNYタイムズ記事を配信している。ニューヨーク時事によると、2月28日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、安倍政権が新型コロナウイルスの感染防止策として打ち出した小中高校の臨時休校が「これまでの慎重姿勢からの急変」だと報じたという。同紙は、日本での感染状況について韓国などのように急増しているわけではないと指摘し、政府が26日、コンサートなどの大規模イベント自粛を呼び掛けたものの、前日にはこうした自粛対応が不要との見方を示していたと説明している。しかし東京五輪・パラリンピック中止の懸念が浮上する中、安倍晋三首相が指導力発揮に躍起になった結果、7月の五輪開催を控えて科学的な観点よりも政治的な計算が上回ったとするアナリストらの見方を紹介している。また、「子どもはコロナウイルスに感染しにくく、休校は医学的に正当化されない」とする感染症専門家の声も取り上げたという。 

 

 「馬鹿に付ける薬はない」という格言に加えて、「馬鹿は死ななきゃ治らない」というもうひとつの格言がある。安倍首相に対してこの2つの格言の意味をよく説明し、引導を渡す政治家が必要だ。棚の上のボタ餅はなかなか落ちてこないからである。(つづく)