〝コロナパニック〟の引き金を引いた安倍首相のイベント自粛指示、全国小中高一斉休校要請宣言、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(30)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その207)

 

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。朝日新聞(3月4日)によると、3月3日現在、感染者は世界70カ国・地域で9万1892人、死者数は3130人に上り、依然として勢いが衰えない。2002~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)は29カ国・地域で約8千人が感染し、774人が死亡した。2012年に発見された中東呼吸器症候群(MARS)は27カ国・地域で感染者約2500人、死者約850人だったというから、今回はすでに感染者数でSARSの11倍を超え、死者数でも4倍を超えている。終息するまでどれほどの感染者数、死者数が出るか、いまは想像もできない。

 

 日本国内でも3月4日現在、新型肺炎の感染者数1035人、死者数12人となり、感染者数は初めて千人を超えた。首都圏や北海道での感染が全国に飛び火し、大阪のライブハウスにおけるクラスター(集団)感染を機に、関西でも一気に広がる気配になってきた。先日神戸で開催予定だった研究会が突如中止になったのも、それが原因だった。研究会メンバーの1人、神戸で診療所を開いている医師のもとへ2人の患者が別々に訪れ、発熱を訴えたので診断したところ、新型肺炎の疑いありとして検体検査の措置を取ったのだという。当該医師から「最悪の場合、自分も感染している恐れがあるので欠席する」との緊急連絡があり、主催者の判断で研究会も急きょ中止になったのだ。

 

 私は京都・伏見に在住しているが、隣接する南区(JR京都駅周辺・南部)で最近感染者が発生したというから安心できない。京都南部は大阪と京阪電車で密接に結ばれており、クラスター感染の拠点となった大阪のライブハウスは京阪電車京橋駅から最寄りの場所なのである。中之島図書館をはじめ大阪へはほとんど京阪電車を利用する私にとって、京橋周辺はJR環状線への乗り換えも含めて日頃頻繁に通る地域なので、不安は人一倍だ(私自身が感染すれば重症化しやすい後期高齢者だということもある)。

 

 私事はさておき、今回の新型コロナウイルスの感染拡大が、日本経済や地域経済に及ぼす影響の大きさも次第に明らかになりつつある。毎日新聞経済版(3月3日)はその特集版ともう言うべきもので、日本経済の急激な後退は、「百貨店 売上高大幅減、2月大手4社、各地で休業、時短営業開始」「旅館宿泊 予約45%減、37都道府県155万人」「新車 5ヶ月連続減、2月の国内販売」との見出しでも明らかだ。これに対して黒田日銀総裁は3月2日、「潤沢な資金供給と金融市場の安定に努めていく」との談話を発表し、国債購入と株式市場に大量の資金を投入すると表明したが、これがどれだけの効果を見せるかはまだ見通せていない。

 

 安倍首相は2月26日、大規模イベントの開催を2週間中止・延期するよう突然指示し、翌27日には独断で全国小中高の一斉休校の要請(指示)に踏み切った。「強いメッセージ」を出すことで「桜を見る会」など一連の失地回復を図り、内閣支持率の低下を食い止めるのが狙いだったというが、その背景には新型コロナウイルスを奇禍として「緊急事態法」を制定し、自民党の懸案である「緊急事態条項」を憲法に盛り込みたいとする意図もあったと思われる。彼の念頭には、7月の東京五輪開催を睨んで3月中は国内活動を全て自粛させ、5月には新型肺炎の収束に持ち込み、東京五輪後は解散総選挙に打って出るとのスケジュールが描かれているのであろう。

 

 だが安倍首相の誤算は、一連の強硬措置が社会不安を増幅させ、「コロナパニック」ともいうべき社会経済の機能不全状態を生み出してしまったことだ。全国一斉のイベント開催中止要請はサービス経済を予想以上に萎縮させ、小中高一斉休校は子どもを持つ親たちを極度の心理不安状態に陥れた。結果は、GDPの6割を占める個人消費が冷え込んで国内消費が一挙に落ち込み、日本経済の不況感が一段と高まった。社会が不安状態に陥った時はそれを和らげることが鉄則なのに、安倍首相はそれを乗り切るための「強い指導者像」を政治的に演出しようとして、大局判断を誤ったのである。

 

 このところ、日経新聞は連日の如く全国各地の景気不況について報道している。3月3日朝刊は1面トップで、「動けぬ個人 冷える消費、新型コロナ 自粛の影響懸念」との見出しを掲げ、問題の本質が国内消費の冷え込みにあることを指摘している。関西の主要百貨店4社が3月2日に発表した2月売上高は、9店全てが2桁減だった。驚いたことは、新装開店したばかりの大丸心斎橋店が前年同月比▲45.5%と半減したことだ。高島屋の旗艦点である大阪店が▲25.6%、阪急うめだ本店も▲18.1%の落ち込みだから、訪日客の減少に加えて「日本人客も来店を控えた」ことが大きく影響しているという。

 

 3月5日朝刊は、鉄道や旅行業界にも大きな影響が出ており、JR東日本では2月の新幹線利用客数が前年比1割減、3月指定席券の予約状況は前年比5割減になったことを伝えている。観光バスも2月はインバウンド向けのキャンセルが目立ったが、3月はそれが国内観光ツアーや企業イベントにも広がっているという。また、宿泊業関係では日本旅行業協会が主要7社の個人旅行の予約状況を調べたところ、2月末時点では前年同月比3割減だが、4月は5割減と減少幅が拡大している。

 

 急ピッチで国内景気が悪化している現在、安倍政権はいったいどのような対策を打ち出すのだろうか。一斉休校にともなう損失補償にしても自営業やフリーランスは除外だというし、何よりも経済同友会代表幹事から予算額全体が「しょぼすぎる」と批判されるほど少ない。これでは自らが撒いた〝コロナパニック〟を鎮めることができないし、景気回復の見通しもおぼつかない。そんな中で大手紙の中でも正面切って安倍首相の退陣を求める主張が出てきた。今後の各紙の引き続く健筆に期待したい(朝日3月4日、「多事奏論」)。

 「安倍さんは2017年に『国難突破解散』と銘打ち総選挙に打って出た。しかし『先手先手』と言いながら実態は『後手後手』で、死者が出続けるほどに感染症は蔓延し、全国の小、中学校などに休校を要請する事態に追い込まれた。休校を言い出す前夜も公邸で経済人らと御会食されるような宰相を担いだことこそ国難である。7年は長すぎた。もはや退くときではないか」(つづく)