総選挙は間近か、緊急事態宣言と緊急経済対策の打ち出しで都知事選同時選挙の可能性高まる、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(33)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その210)

 

 安倍首相は4月6日、新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言を7日にも東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に出す意向を明らかにした。期間は5月6日までの1カ月、7日に正式に決定する。特措法に基づく緊急事態宣言は今回が初めてで、感染拡大防止に必要な措置を実際に講じるのは対象区域の都道府県知事だ。住民への不要不急の外出の自粛要請や、学校や劇場、百貨店、体育館といった施設の使用停止、イベントの開催制限の要請・指示など私権の制限を伴う措置がとれる。

 

 「都市封鎖を行うことはない、する必要もない」と安倍首相が度々言明しているように、今回の緊急事態宣言が罰則を設けて外出制限などを行う海外の「ロックダウン」(都市封鎖)と異なるのであれば、首相はなぜ緊急事態宣言の発令にこだわるのか。公共交通機関の運行や食料品店の営業などの経済社会活動は可能な限り維持するというのだから、小池都知事や吉村府知事が外出自粛要請していることで十分ではないか。

 

 安倍首相はまた同日6日、新型コロナの感染拡大に伴う緊急経済対策の民間支出も含めた事業規模を総額108兆円にすると表明した。家計や中小企業などに総額約6兆円の現金給付を行うほか、法人税や社会保険料約26兆円の支払いを猶予するという。今年2~6月のいずれかの月に世帯主の収入が半分以下に減り、年収に換算した場合に住民税が非課税となる水準の2倍以下であれば30万円を給付することも強調した。今回の緊急経済対策の規模はGDPの約2割に当たり、これまで最大だったリーマン・ショック時の約56兆8千億円の2倍近い規模となる。政府は7日2020年度補正予算案とともに閣議決定する。

 

 私は安倍首相のこれらの発表を聞いて、総選挙が間近いことを直感した。緊急事態宣言発令で国民の心理を極度に委縮させて政府への依存心を高め、緊急経済対策でそれ相応の救済策を打ち出して利益供与の機会をつくるのだから、これほど大掛かりな総選挙の仕掛けはない。コロナ危機を最大限活用したショック・ドクトリン政策がいままさに展開されようとしているのである。

 

 加えて、共産党の小池書記局長が4月6日の記者会見で批判したように、与党が新型コロナウイルス感染拡大を受け、緊急事態下の国会の在り方を議論する衆院憲法審査会開催を提案したことも気にかかる。自民党は4月3日、2020年度予算の成立を受け、今国会初の憲法審を9日に開催するよう野党側に提案したのである(共同通信4月6日)。自民党は憲法改正案4項目で「緊急事態条項」の新設を掲げており、今回の緊急事態宣言を「前ならし」にして憲法改正の道筋を付けようとしているのだろう。

 

 小池都知事が再選を狙う東京都知事選挙は7月5日(日)が投開票日だ。小池氏が安倍首相と同種の人物であることはこれまでもよく知られている。小池氏が政府に緊急事態宣言発令を懇請し、安倍首相がそれに応えたことは、両者の思惑が一致していることを示している。小池都知事も安倍首相も緊急事態下の選挙が自分にとって最も有利であることを熟知しており、またそれだからこそ緊急事態宣言の発令にこだわったのである。

 

 アメリカ大統領の民主党予備選でも明らかなように、新型コロナウイルスの感染拡大につれて、サンダース候補の選挙運動がみるみるうちに失速した。若者たちの熱烈な運動に支えられて有権者に直接訴えかけるサンダース氏の選挙戦術は、自由な選挙集会や街頭演説が強力な武器であることは言うまでもない。新型コロナの感染拡大で選挙集会や街頭演説が封じられると、権力を持たない野党陣営は手足をもがれたのも同然の状態になる。最近「れいわ」の影が薄くなったと言われるのも、山本代表の街頭演説ができなくなったからだと聞いている。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大は簡単に収まらない。人口も経済も東京一極集中している日本では、新型コロナも東京一極集中する可能性が高い。政府の緊急事態宣言は当面1カ月だというが、感染拡大が収まらなければ2カ月、3ヶ月と延長されることは否定できない。この間、選挙運動らしい運動ができなければ、現職が圧倒的に有利となり、野党候補は戦う術もなく出番を失うことにもなりかねない。

 

 このことは総選挙でも同じことだ。立憲民主党の枝野代表や国民民主党の玉木代表は、政府の緊急事態宣言の発令が遅すぎると批判しているようだが、発令後の事態がどのように展開するかについてはまったく予想していない。東京五輪開催が予定通り行われると観測されていた時期には、東京五輪後に総選挙があることも考えて野党間の話し合いも進めていたというが、最近ではそんな話も聞かなくなった。東京五輪延期のあおりを食って、総選挙も先延ばしになったと考えているのだろうが、それは大間違いだ。

 

 私は東京都知事選が行われる7月5日に総選挙も同時に行われると予想している。理由は、緊急事態宣言状態が続く中での都知事選と総選挙の同時選挙が圧倒的に与党有利だと安倍首相も小池都知事も考えているからだ。都議会と東京選挙区で自民党が圧勝すれば、憲法改正への道も開ける。安倍首相は次の総選挙の公約に憲法への「緊急事態条項」の導入を掲げるだろう。緊急事態宣言で委縮した国民心理がこの状況にどれだけ抵抗できるか、国民投票で果たして反対できるか、それを確信できる根拠が薄らいできているのである。

 

 新型コロナ対応を巡っては、野党は政府・与党と「連絡協議会」で意見交換を重ねてきた。それを野党が政権担当能力を示したとして評価する向きもあるが、こんな考え方は余りにも甘すぎると言わなければならない。野党にとっての緊急事態宣言の発令容認は、自らの存在を埋没させ、次の総選挙での安倍政権圧勝への贈り物になるかもしれない。野党はもう一度原点に返って情勢を見直してほしい。(つづく)