小池東京都知事・吉村大阪府知事が突出する中で沈没する野党共闘、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(35)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その212)

小池東京都知事・吉村大阪府知事が突出する中で沈没する野党共闘、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(35)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その212)

 

 連日、新型コロナウイルスの感染者数や死者数の報道を聞かされ、気が滅入ることおびただしい。それに外出自粛のアナウンスまでが加わるのだから、閉塞感が深まるばかりだ。日本全体がまるで「規制社会」「自粛社会」「監視社会」になってしまったような気がする。

 

 テレビでは、小池都知事や吉村府知事がワンマンショーよろしく連日大奮闘だ。御両人が日本の首都と第2自治体の首長であることには間違いないが、まるで上御一人か司令官気取りで振舞っているのはいただけない。この緊急事態を乗り切れるのは自分一人、全ての権限が自分に委ねられていると言わんばかりだ。

 

 代わって安倍首相はどうか。1人10万円一律支給で暫らくは時を稼いだのはいいが、その後、世論受けのする政策がいっこうに打ち出せない。内閣支持率が上がらないのは、アベノマスクや星野源とのコラボ動画に象徴されるような小手先のパフォーマンスが国民の嘲笑を買っているからだが、それ以上に安倍首相の稚拙な行動様式に対する国民の批判が高まってきていることがある。大局的判断が不得意で、その場の思い付きで施策を乱発する。身内やお友達の話は聞くが、それ以外の人の意見には耳を傾けない。政策への批判には「ご飯論法」でごまかすなど、「反アベチャンムード」が次第にそして着実に内閣支持率の足を引っ張るようになってきているのである。

 

 こんな情勢の下で4月26日、衆院静岡4区補選が行われた。選挙は、自民公認候補に対して野党4党の統一候補が挑むという構図。本来ならばもっと関心を集めてよいはずだが、「コロナ・コロナ」の大合唱に消されて、ほとんどメディアからの報道がなかった。毎日新聞(4月28日)によれば、野党は今回の補選を「勝てない選挙ではない」とみていたという。2017年衆院選の静岡4区は自民公認候補が当選したが、比例票は野党4党で8万4910票、自民公明両党で7万9684票となり、野党票が上回っていたからだ。

 

 ところが蓋を開けてみると、自民候補は6万6881票、野党統一候補は3万8566票というダブルスコアに近い大敗、野党各党は声も出なかった。立憲民主党の福山幹事長は27日、記者団に対して「野党統一候補で戦えたことは一定の成果があった」、「より有効な選挙ができるように分析する。各党で反省も良かった点も共有していきたい」と中身のない感想を述べたという(毎日同上)。

 

朝日新聞(4月28日)は、福山幹事長の「新型コロナの状況のなかで、まして(自民前衆院議員の)弔い合戦。非常にやりにくい状況だった」との敗因分析を紹介した上で、立憲の枝野代表や国民の玉木代表が現地入りせず、野党連携をアピールして政権への批判票を吸い上げることができなかったとの解説を加えている。だがそこには、なぜ枝野代表や玉木代表が現地入りしなかったのかの解説はない。

 

 一方、共産党の小池書記局長は例の如く「大奮闘・大健闘」と評価し、「今回の補選を安倍政治を転換するための野党共闘の前進の貴重な地歩とする」と総括している(赤旗4月28日)。しかし、幾ら大敗しても百年一日の如く「大奮闘・大健闘」というのでは、選挙に対する分析能力が疑われる。こんな総括では野党共闘も前進しないし、選挙にも勝てないこと間違いなしだ。

 

 今回の補選に対する野党各党の姿勢をみると、とても本気で選挙戦を戦ったとは思われない。野党各党の幹部が選挙戦中に現地入りしないなど普通では考えられないし、各党バラバラの選対体制では効果的な集票活動もできない。要するに、野党共闘に対する各党の温度差が激しく、野党統一候補を担いだ選挙戦には力が入らないのである。

 

 こんな政治状況を見て、どこかで見たような紙芝居をもう一度やってみようとする御仁があらわれた。ダイアモンドオンラインに「経済・政治 上久保誠人のクリティカル・アナリティクス」と題する連載を続けている大久保氏である。氏は小池都知事や吉村府知事を天まで持ち上げ、彼らを中心に新党結成を提起する。小池氏が民進党代表の前原氏と結託し、希望の党を結成しようとした時と瓜二つのシナリオだ。

 

紙芝居の見出しは、「小池都知事らが安倍首相のお株を奪う今こそ『地方主権で政権交代』の好機」というもの。中身は以下の内容に尽きる。

 「新型コロナウイルス対策を巡って、さまざまな地方自治体が中央政府の方針を破り、独自の対策を打ち出す事例が増えている。そして安倍晋三首相のお株を奪うかたちで、東京都の小池百合子知事や大阪府の吉村洋文知事、北海道の鈴木直道知事ら多くの都道府県知事が存在感を高めてきた。そんな今こそ、『小異を捨てて大同につく』ことで『地方主権』を掲げた新党を立ち上げ、新型コロナウイルス感染拡大の終息後の政権交代を目指すべきだ」

 「彼らは、17年の総選挙時の『希望の党』を巡ってゴタゴタした因縁があるが、そんなものは乗り越えて共闘すべきである。いわゆる『野党共闘』がうまくいかないことに対して『小異を捨てて大同につけ』と言われるが、共産党との共闘などに未来はないので捨てるべきだ。地方勢力の共闘こそ『大同につく』価値がある、真の野党共闘である」

「新型コロナウイルスとの闘いに勝利するために、そしてその後の新しい日本を創るためにも提案したいのが、『地方主権』を推進する勢力の『共闘』だ。あえて大胆に提言すれば、新型コロナウイルスの感染拡大の『第一波』が収まったときか、それ以外でもどこかいいタイミングで、小池都知事、鈴木道知事、大村県知事らと、吉村府知事が副代表の日本維新の会、そして玉木雄一郎代表率いる国民民主党が、『地方主権』を掲げた新党を立ち上げてはどうだろうか」

 

 この紙芝居を笑い飛ばすことはたやすい。しかし「瓢箪から駒が出る」ということもある。安倍政権の危機はそれほど深刻なのだ。野党共闘が低迷し、次の時代を切り開く展望を示せない現在、悪夢がよみがえる可能性があることは覚悟しておかなければならない。(つづく)