安倍経産内閣の堕ち行くところ、新型コロナ対策補正予算にみる究極の腐敗構造、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(40)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その217)

 

 安倍内閣が、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として打ち出した1次補正予算および2次補正予算案をめぐって国会が紛糾している。「Go To キャンペーン委託費最大3095億円」「持続化給付金委委託費769億円」「予備費10兆円」が3大テーマだ。いずれもコロナ危機に乗じて巨額の予算を組み、その執行を経産官僚が仕切り、経産省関連企業や関係外郭団体に膨大な事務委託費や事業費を流すという〝税金私物化事業〟が国会の俎上に上がっているのである。

 

 安倍内閣は、かねてより官邸官僚(経産官僚)が支配する独断専決内閣として知られてきたが、それが「モリカケ問題」や「桜を見る会」などの国政私物化につながり、今度はコロナ危機に乗じた〝税金私物化〟にまで発展してきたのだから、その腐敗ぶりは止めを知らない。しかも、その規模が半端なものではなく、「Go To キャンペーン事業(1次補正)」は1兆7千億円、「持続化給付金(1次補正+2次補正)」は4兆2千億円、「予備費(1次補正+2次補正)」はなんと11兆5千億円に上るのである。

 

 6月9日の衆院予算委員会の国会中継を見たが、知れば知るほど疑惑が増し、腹立たしさを抑えることができない。中小企業などへ国が最大200万円を支給する持続化給付金事業769億円を受諾したのは、経産省が便宜を図って電通やパソナなどが2016年に設立した名もない「トンネル組織」の社団法人だ。社団法人のオフィスはビルの一角の誰もいない小部屋で、明かりも点いていなければ電話も通じない。聞けば、社員は「リモートワーク」で仕事をしているのでオフィスには居ないのだという。社団法人の代表役員は「私は飾りですよ」と言って即座に辞任したが、そんな幽霊組織が769億円もの持続化給付金事業を受託し、差額20億円を「中抜き」して電通にそのまま「丸投げ」(749億円で再委託)したのだから、まるで三文小説張りの絵に描いたような話ではないか。

 

 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の中に、「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」という項目で計上された観光や飲食の喚起策、「〝Go To″キャンペーン事業」に至っては、まさに経産省肝いりの生々しい(毒々しい)〝税金私物化事業〟そのものだろう。6月4日の毎日新聞は、この点に鋭く切り込んでいる。本来、今回の事業が観光行政を担う国交省ではなく、経産省が所管しているのはなぜかということについて、野党からは「どうして経産省なのか?」との質問が相次いだが、経産省担当者は「いろいろな業種がかかわるので経産省で一括して計上した」と訳のわからない説明を繰り返すばかり。赤羽国交相も「経産省の言う通り」と追随し、観光業の支援策が中心となる巨額事業を経産省が取り仕切ることになった経緯ははっきりしなかった――と結んでいる。

 

 しかしその回答は、経産省が「Go Toキャンペーン事業」の運営事務局となる事業者への委託費を最大3095億円と見積もっていることにある。赤羽国交相は巨額の委託費の算出根拠について「経産省が18%ぐらいの想定をした」(毎日、6月4日)と答弁していることから、経産省が事業費の2割にも上る巨額の予算を最初から計上し、それらを経産省の関係企業や関係団体に流すことを意図していることは明らかだろう。すでに委託先は公募が始まっており(5月26日~6月8日)、専門家ら6人の有識者でつくる第三者委員会で事業者の提案内容を審査して選定するのだという。ところが、野党から第三者委員会のメンバーや議事録を公開すべきだと求められたところ、経産省の担当者は「個別事業の採択を選定する審査会のため、公表は考えていない」と拒否した。これでは、第三者委員会が「身内専門家」で構成されることも可能になるし、3095億円もの巨額委託事業の選定過程が「個別事業」ということで、談合や取引の実態はすっかり隠されてしまうことになる。要するに「Go Toキャンペーン事業」は、「Go To=イケイケドンドン」という名の通り経産省の「やりたい放題事業」であり、安倍経産内閣における経産官僚の驕りと専制支配を示す生々しい(毒々しい)〝税金私物化事業〟なのである。

 

さすがに、こんな露骨極まりない事業は(そのまま)通らない。轟々たる批判の声が沸き起こるなかで政府は6月5日、「Go Toキャンペーン事業」の事務局を委託する事業者の公募を中止し、やり直すと発表した。見直しの肝は経産省が一手に仕切っていた事業者の選定を(当たり前のことだが)観光支援は国交省、飲食支援は農水省、商店街とイベント支援は経産省に各々事業分野ごとに分けることにある。「安倍経産内閣」の一角が崩れた瞬間だ。「Go Toキャンペーン事業」の旨味を経産省が独占できなくなり、国交省や農水省にも応分の「分け前」を与えることになったのである。だが、それでも経産省は引き下がらない。菅官房長官は6月8日の記者会見で、野党が「税金の無駄」と批判している最大3095億円の事務委託費について、「過去の類似事業を参考に計上したもので、減額は考えていない。予算の範囲内で極力、効率的に執行することが重要だ」と述べた(時事ドットコム、6月8日)。赤羽国交相が「説明責任が尽くせるよう可能な限り縮小する」と6月3日の衆院国交委員会で言明したにもかかわらず(毎日、6月4日)それを真っ向から否定する見解だ。背後にはあくまでも3095億円の委託費を死守しようとする経産官僚の暗躍があるのであろうが、もはやこんな態度は維持できないだろう。早晩、何らかの形で委託費減額の措置に踏み切らざるを得ないに違いない。

 

 最大の問題は、31兆9千億円の2次補正予算案の中に約3分の1に当たる10兆円もの巨額予備費が計上されていることだ。日経新聞(6月3日)は、「予備費10兆円 異例の巨額」の中でこう書いていている。「政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受けた2020年度第2次補正予算案で10兆円の予備費を計上した。過去20年の平均予備費と比べると20倍近い異例の規模で、新型コロナの感染が再拡大するリスクに備える。巨額の使い道は政府の裁量が大きく、国会の監視が届かない危険性がある」。だが、日経記事には決定的に見落としている点がある。それは「新型コロナ再拡大のリスクに備える」という政府口上をそのまま信じるのなら話は別だが、通常ならば10兆円という巨額予備費に中に、何か政府が実現を担う「隠し予算」が含まれていると考えるのが自然ではないか。

 

前回の拙ブログでも紹介したように、日本の「成長戦略の司令塔」である未来投資会議においては、〝ショックドクトリン=惨事便乗資本主義〟のセオリーに忠実な政策形成が行われている。国民がコロナ恐怖におののき、外出自粛はもとより生活様式に至るまで国家の管理下に置かれようとしているいま、マイナンバーカードのひも付けなど長年の国家的懸案を一気に実現しようとする絶好の機会と把握されているからだ。実際、コロナ危機に乗じてデジタル政策を推進しようとする財界の勢いには凄まじいものがある。4月当初に生まれたばかりの「新たな日常」というキーワードが、5月には早くも国際共通語の〝ニューノーマル〟と改名され、「ポストコロナ時代に目指すべき社会像」として定立された(知的財産戦略本部会合、5月27日、首相官邸HP)。5月に策定されたばかりの「知的財産推進計画2020~新型コロナ後の『ニューノーマル』に向けた知財戦略~」では、知的財産戦略本部がこれまで検討を進めてきたデジタル社会への知財戦略が、新型コロナによって一気に実現できる「千載一遇の機会」が訪れたとの認識が示されている。少し長い引用になるが、政府の基本認識を紹介しよう(「知的財産推進計画2020」、同概要、2020年5月、首相官邸HP)。

 

「今般の新型コロナの世界的蔓延は、経済社会システムの在り方自体に不可逆的な大きな変革をもたらすものであり、その流行が沈静化して緊急時モードが解除された後においても、世界は『元に戻る』のではなく、経済社会の多くの側面で『新型コロナ以前』の常識が『ニューノーマル(新たな日常)』に取って代わられるであろう。その認識を広く共有することが肝要であると同時に、世界がニューノーマルへと動く中で、我が国はむしろその変革を先頭に立ってリードすべく、官民を挙げて必要な取組を加速すべきである」

 

 「新型コロナ以前の段階においては、知財戦略を検討する上での指針となる我が国が目指すべき社会像として、『価値デザイン社会』と『Society 5.0』が示されていた。知的財産戦略本部・構想委員会では、2019年10月以降、これらの社会像の実現に向けた知財戦略の検討を行ってきたが、その過程でコロナ・パンデミックが発生した。平時においては『価値デザイン社会』や『Society 5.0』に向けた変化は連続的であったが、新型コロナは劇的に社会全体のリモート化・オンライン化や人々の行動変容、さらには変化に対する高い受容性をもたらし、『価値デザイン社会』と『Society 5.0』を一気に実現させる非連続的な社会変革が可能な千載一遇の機会が訪れている。我が国は、こうした社会変革を達成した姿としてのニューノーマルを目指すべきであり、その実現のための知財戦略が求められている」

 

 就任3年目を迎えた経団連の中西会長も共同通信などインタビューに応えて、感染収束後の「新たな成長」を実現するため、デジタル化を梃子に社会構造改革に取り組む意気込みを示している。デジタル革新への投資を加速させ、大幅に悪化した経済の回復を目指す考えだ。また、新型コロナ問題への対応では、「政府や行政の電子化の遅れを皆が感じた。企業だったら潰れている」と危機感を示し、医療や教育、産業などさまざまな分野での徹底した規制改革とデジタル化・データ共有化の推進が重要だと訴えた(京都新聞、6月2日)。

 

こうした情勢をみるに、総額11兆5千億円に上る巨額予備費のなかに「新たな成長=デジタル革新=ニューノーマル社会(新たな日常)」を実現するための「隠し予算」が含まれていると考えない方がおかしい。安倍経産内閣が計上する巨額予備費は、二波三波の新型コロナウイルスに備えると称して、その実は「ニューノーマル社会」を実現するための予備費であることが明らかなのである。(つづく)