学内教職員意向調査において過半数に満たない湊氏(4割)がなぜ次期京大総長に選考されたのか、山極壽一京大総長の虚像と実像(その3)

 京都大学は2020年7月21日、山極寿一総長(68歳)が9月30日で任期満了になるに伴い、次期(第27代)総長に湊長博理事(69歳)を選考した。総長選考会議(学内委員6名、学外委員6名、計12名)が2020年5月29日に公示した日程は、以下の通りである。

 

(1)2020年5月29日~6月26日、総長選考会議による学外候補者の推薦期間

(2)6月12日、学内予備投票(教育研究評議会による予備候補者の推薦)

 ・学内予備投票の候補者資格は理事又は専任教授。投票資格者は理事及び学内教職員(有期教職員を除く)であり、投票は単記投票で行う。投票結果は公表されず。

   ・学内予備投票は教育研究評議会が管理し、得票多数の15名を総長予備候補者とする。教育研究評議会は、京都大学の教育研究に関する重要事項を審議するため全学機関であり、総長が議長を務め、総長が指名する理事・教育担当副学長、各研究科科長などの評議員から構成される(国立大学法人京都大学の組織に関する規程、第8条)。

(3)7月3日、第一次選考(総長選考会議による第一次候補者の選考)

    ・第一次総長候補者は、総長選考会議の定める者6名とする。

(4)7月20日、意向調査

 ・意向調査は、1人1票の単記無記名投票で行う。投票資格者は教授、准教授又は講師、事務・技術・教務職員のうち課長補佐担当職以上の者。

   ・意向調査は、教育研究評議会が管理する。

(5)7月21日、第二次選考①(総長選考会議による面接対象者、再意向調査の要否検討)、第二次選考②(総長選考会議による面接、総長候補者の最終選考)

 

 7月21日、第一次総長候補者6人に対する意向調査の結果が発表され、湊長博(理事・副学長)640票、寶 馨(総合生存館長)398票、大嶋正裕(工学研究科長)364票、 時任宣博(化学研究所・教授)171票、北野正雄(理事・副学長)117票、村中孝史(法学研究科・教授)41票の順だった。

 

第27代京都大学総長の選考結果は、「京都大学総長選考会議は、候補者より提出された所信表明書等の書面その他当該者に係る事項を総合的に勘案して、第一次総長候補者を選考した。その後、第一次候補者について、学内の意向の調査並びに総長選考会議所定の面接調査を実施し、慎重な審議を重ねた結果、次の者を第27代京都大学総長候補者として決定した」として、湊長博氏(理事・副学長)を選考したとある。

 

その理由は、「同氏は、京都大学における教育・研究及び運営に関する豊富な経験に基づき、京都大学の強みである圧倒的な多様性に基づく独創的な研究開拓精神を活かし、教員・学生がもつポテンシャルを最も有効に発揮するための施策を部局と連携しながら進めることを表明している。京都大学の基本理念を鮮明に掲げることにより、全国、さらに世界の大学をリードしていくことが期待される。また、学内構成員の信頼も得ており、総長選考会議が策定した「望まれる総長像」に掲げている世界をリードする大学としての地位を確立するトップリーダーにふさわしいと判断し、第27代京都大学総長候補者として決定した」というものである。

 

 私は学外者なので京大内部の詳しい事情はわからないが、それでも意向調査1731票のうち640票(40.0%)しか得票できなかった湊氏が、なぜ再意向調査もせずにそのまま総長候補者に選考された理由がよくわからない。「国立大学法人京都大学総長選考規程」には、「第6条、総長選考会議は、意向調査の結果その他第一次総長候補者に関する事項を総合的に判断して、総長候補者を選考する」「前項の規定にかかわらず、総長選考会議は意向調査の結果を踏まえ、必要と認めるときは意向調査で得票上位の者について学内の意向の再調査を行う」とあるように、総長選考会議が必要と認めれば再意向調査が可能だからである。

 

 ちなみに6年前の第26代総長選考においては、学内予備投票では第1位の湊氏(約600票)が第2位の山極氏(約400票)に大差をつけていたが、意向調査になると山極氏が41%で湊氏26%を逆転し、再意向調査(上位2人の決選投票)では山極氏が61%を獲得して総長に選考されている。この経過については、京都大学新聞7月16日号、「総長選を考える/総長選から考える、前編:京大を取り巻く状況の変化」の中で次のような解説がある。

 「山極氏は、2011年度から2012年度まで理学研究科長を務め、理事や副学長の経験はなかったものの、学内予備投票で湊長博氏に次いで学内2位の得票数を得て、第1次総長候補者の6名に選ばれた。後に本人が明かしているように、執行部や理事の経験がなかった山極氏には総長を引き受けることにためらいがあった。しかし、周囲の後押しもあり、『京大は学生が主役になるべき』、『京大は多様な価値観を許容する自由な学問の場であるべき』といった所信を表明すると、職員組合の支持を受けるなど学内に支持が広まり、意向調査において、投票者の約41%の得票で、同26%の湊氏を上回った。湊氏との決戦投票では、投票者の61%の得票で、意向調査第1位となり、総長選考会議から総長候補者に選ばれ就任に至った。就任記者会見では、前任の松本氏の改革を踏まえつつ、ボトムアップでの合意形成や情報公開を進めると語った。また、『京大のアクターは学生』と強調した」

 

 このように前回の総長選考意向調査では、6人の候補者のうち過半数を得票した者がいなかったので、41%得票の山極氏と26%得票の湊氏の間で「再意向調査」(決選投票)が行われた。したがって、今回の意向調査でも40%得票の湊氏、23%の寳氏、21%の大島氏の3人の間で「再意向調査」が行われてもおかしくなかった。にもかかわらず、再意向調査なしで湊氏がそのまま総長候補者に選考されているのは前例に照らしても不思議というほかはない。再意向調査をすれば、本命視されていた湊氏が逆転されることを恐れてのことだろうか。

 

 湊氏は、国立大学法人京都大学の理事7名のうちの1人であり、かつ2017年に新設された「プロボスト」の要職にある。国立大学法人京都大学の組織に関する規程によれば、「第3条の2 総長が指名する理事は、法人及び京都大学の将来構想、組織改革等に関する包括的又は組織横断的課題について、戦略を立案するとともに、策定された戦略の推進に向け、調整を図るものとする」「2 前項の理事をプロボストと称する」「3 プロボストに関し必要な事項は総長が定める」とある。「プロボスト」は、事実上の筆頭副学長と言ってもいい巨大な権限を与えられ、学内諸組織を陣頭指揮する立場にあったのである。

 

 その所為か、湊氏は選考後の記者会見では冷静沈着、「予定通り」との態度で会見に応じていた。総長選考会議では早くから湊氏が本命視され、例え意向調査で過半数が取れなくても相対的多数を得票すれば、おそらく再意向調査なしに総長候補者に選考することが予め決まっていたのだろう。しかし、ここに至る事態が生じたのは、山極総長の致命的な大学ガバナンス能力の欠如にあった。次回はその背景を分析しよう。(つづく)