安倍政権の要職、官房長官と幹事長が連携して次期政権抗争の先陣を切る構え、立憲民主・国民民主の合流新党は国民の期待に応えられるか、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(42)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その219)

 安倍政権の要職にある菅官房長官と二階自民党幹事長が安倍政権に見切りをつけて連携し、先陣を切って次期政権抗争に乗り出した。時事通信は8月15日、「二階、菅氏の接近鮮明=自民総裁選で連携か」との最新ニュースを次のように伝えている。

「自民党の二階俊博幹事長と菅義偉官房長官の接近ぶりが目立ってきた。互いに政治家としての手腕を高く評価する発言を繰り返し、地方創生を掲げ9月に発足する議員連盟の呼び掛け人に共に名を連ねた。党と内閣の要をそれぞれ担う実力者は、安倍晋三首相の後継を選ぶ次期総裁選での連携を視野に入れているとの見方も出ている」

「両氏の利害が重要局面で一致したのが、昨年9月の自民党役員人事だ。首相は早くから自身の『後継』と見定めていた岸田文雄政調会長を二階氏に代えて幹事長に据えようとしたが、二階氏側が反発。二階氏の「政権の重し」としての役割を重視する菅氏もこの人事案に反対し、最終的に二階氏続投で落ち着いた経緯がある。 首相の総裁任期は残り1年余りとなり、石破茂元幹事長と岸田氏の争いが前哨戦の様相を呈しているが、いずれも支持に広がりを欠く。こうした中、菅氏は『第3の候補』として存在感を増しつつある。実際、二階派議員は菅氏が後継争いに名乗りを上げれば二階氏が支持に回るとの見方を示し、〈『菅首相』なら二階氏は幹事長続投だ〉と期待を隠さない」

 また、毎日新聞はかねてから菅・二階両氏の動向について注目していたが、最近になって両氏の接近が次期政権抗争に絡んだものとの観測記事を連打している。「『令和おじさん』でポスト安倍候補、菅氏 再び存在感、Go To 主導し浮上」(8月7日)及び「菅・二階氏 互いに活用、『ポスト安倍』候補再浮上、幹事長続投狙い後押し」(8月22日)の記事がそれである。

周知の如く、菅氏は安倍政権の成長戦略である観光立国政策の推進に深くかかわり、その進行管理の責任を負うポストにある。コロナ危機によってインバウンド需要があっけなく蒸発し、IR(カジノリゾート)誘致もほぼ絶望となった現在、Go To キャンペーン事業が中止になったり不発に終われば、菅氏の政治生命はそこで終わりかねない。だからこそ、菅氏は何を差し置いてもGo To キャンペーン事業の先頭に立たなければならず、事業推進を諦めるわけにはいかないのである。

一方、二階氏は海部内閣の運輸政務次官時代に観光業界と太いコネを築き、それ以来全国5600の旅行会社が加盟する全国旅行業協会(ANTA)の会長を30年近くも務めている業界の「ドン」である。同氏は自民党観光立国調査会最高顧問でもあり、観光業界は二階氏の強力な支持基盤となっている。Go To キャンペーン事業は、次期首班を目指す菅氏と幹事長続投を狙う二階氏の政治的結節点となっており、両氏は「Go To同盟」の固い絆で結ばれている。毎日新聞は、菅・二階両者の関係を次のように解説している。

「8月24日に連続日数が歴代最長となる安倍政権で、菅義偉官房長官(71)の存在感が再び高まっている。2019年秋以降、側近の不祥事などで影が薄まり、安倍晋三首相との『不仲説』もささやかれていたが、ここに来て『ポスト安倍』のキーマンとして再び注目を集めている。『観光業が瀕死の状況にある中で、感染対策をしっかり講じているホテル・旅館を中心に支援を行うものだ』。菅氏は6日の記者会見で、政府の旅行需要喚起策『Go To トラベル』事業の意義を強調した。(略)「菅氏自身はポスト安倍は『全く考えていない』とけむに巻き、岸田文雄政調会長や石破茂元幹事長ら有力候補とは一定の距離を置く。一方で今春以降、麻生氏や二階俊博幹事長と会食を重ね、二階氏には『とにかく政局観がずば抜けている。本当に頼りになる幹事長だ』と最大級の賛辞を贈る。秋の内閣改造や党役員人事に向けて、残留を期す二階氏と良好な関係を維持する狙いもあるとみられる」(8月7日)。

「自民党の二階俊博幹事長と菅義偉官房長官が間合いを詰め合っている。7月以降、互いをたたえる発言を繰り返し、8月20日には東京・永田町の日本料理店で会食した。安倍晋三首相の意中の人とされる岸田文雄政調会長、世論調査で人気が高い石破茂元幹事長に次ぐ第3の『ポスト安倍』有力候補に、菅氏が取りざたされ始めた。(略)コロナ対策で存在感を発揮できない岸田氏への党内評価は低迷しており、首相周辺からは『岸田氏では勝てない』との懸念も出始めた。その中で首相サイドの『次善の策』として再浮上したのが菅氏だ。『政局の読みにたけている』と定評がある二階氏も、幹事長ポスト争いを巡る岸田氏のけん制を兼ね、菅氏との距離をさらに縮めたとみられる」(8月22日)。

安倍首相を手玉に取り、政局を巧みに操る二階幹事長の行動様式は実にわかりやすい。同氏には政治哲学や政策理念など政治家として語るべき識見は皆無に近いが、自民党政権の政治基盤である観光業界や土建業界に強固な根を張っている点では群を抜いている。自民党には「惨事便乗型予算分捕り主義」ともいうべき根強い伝統があり、それを地で行く代表的人物が二階氏なのである。

二階氏の行動原則は、いったん大災害・大惨事が起れば族議員として莫大な公共事業予算を獲得し、関係業界に潤沢な資金を流すというものだ。そして、その見返りに業界から大量の票と政治資金を集め、派閥領袖としての政治力を発揮するのである。この種の政治活動はいわゆる「バラマキ政治」「利権政治」とも言われており、同氏の最も得意とする分野であることは言を俟たない。二階氏は今年6月29日、地元和歌山県御坊市においてコロナ対策についての記者会見を行い、自信たっぷりに次のような見解を披露した(紀伊民報、日高新報2020年6月29日)。

「新型コロナウイルスについては1次補正予算の組み換えで国民の皆さまに一律10万円の給付が実現したが、正しい判断だった。2次補正ではより国民の命と経済を守る具体的な政策を提示した。コロナへの対応には十分な自信を持っている。観光振興のGo Toキャンペーンをできる限り早期に実施する。全国で旅行を楽しみたいという思いは高まっている。コロナの騒動が収束すれば一挙に出掛けるはず。観光産業の先行きは心配していない」

 

菅・二階両氏が率いる「Go To同盟」がポスト安倍・次期首班のイニシアティブを握れるかどうか、目下のところはよくわからない。しかし、コロナ危機にもかかわらず(というよりはそれに便乗して)、Go To キャンペーン事業のように巨額の公金を全国にばら撒き、それを自分たちの権力基盤の増強に繋げようとするような政治勢力に政権を委ねるわけにはいかない。野党勢力が与党内の政権抗争を指をくわえて見ているようでは、国民から永久に見放される。いったい立憲民主・国民民主の合流新党はどんな政策を打ち出すのか、一刻も早い新鮮な政権構想の提起が求められる。(つづく)