世襲政治と政党劣化の産物だった安倍長期政権がコロナ危機によって遂に命運を断たれた、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(44)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その221)

長期政権の行き詰まりと体調悪化とかで、この間、辞任の噂が駆け巡っていた安倍首相が8月28日、遂に辞任を表明した。安倍首相は、記者会見で新型コロナ対策に今後万全の措置を講じたこと、そして持病悪化を辞任の理由に挙げた。だが、コロナ対策の方は本来取るべき対策を後追い的に列挙したにすぎず、最初からこうした施策を講じていれば、コロナ対策は「アベノマスク」と「自粛要請宣言」だけ――といった不甲斐ない姿を見せることもなかったのである。

 

おそらく辞任の真相は、未曽有の経済不況でアベノミクスが通じなくなり、2021年東京五輪開催も危ぶまれる中、もはや打つ手がなくなって政権を投げ出したということではないか。史上最長の在任期間となった安倍長期政権は、世襲政治と政党劣化の産物以外の何物でもなく、「レガシーがないのが安倍政権のレガシー」だと言われ続けてきた(この点については次回詳述する)。だが、「安倍辞めろ!」の国民の声を平然と無視し続けてきた首相もさすがにコロナ危機には対応できず、もはや退陣するしか道は残されていなかったのである。

 

それにしても安倍首相絡みの報道になると、NHKは必ずと言っていいほどいつもの政治部女性記者を登板させる。安倍首相が外遊する時も必ず随行し、現地からの報道を担当する有名な女性記者だ。今回も首相の辞任表明については何一つ批判的なコメントを加えることなく、ただ会見内容の要約を尤もらしく伝えただけだった。これまでの報道ぶりから考えると、どうやらこの人物のコメントがNHKの公式見解となるらしく、他のニュースキャスターや解説委員はそれ以外の発言ができなくなるように見受けられる。彼女がNHKの事実上の「報道管制官」の役割を果たしているとすれば、恐ろしいことだ。

 

それに、彼女は午後のニュース解説番組にも頻繫に出演しており、「お茶の間の顔」として印象付けようとするNHKの意図があからさまに感じられる。「みなさまのNHK」を「安倍さまのNHK」にしていくためのキーパーソンがこの人物なのであり、安倍政権が長期化するにつれてその役割がますます大きくなってきていた。いつまでこのような状態が続くのか、それとも「安倍と共に去りぬ」の運命を迎えることになるのか、今後のNHKの報道姿勢が注目される。

 

それはさておき、まずは各紙のスタンスを翌8月29日の紙面構成や社説で見よう。読売新聞は「コロナ対策 節目、難病再び 突然の幕」との大見出しにもあるように、辞任表明の基本原因は本人の持病悪化によるものとみなしている。政権評価については、「拉致・五輪 道半ば、急な辞任 戸惑い」と一応の留保をつけているが、基調は「国論二分の課題 挑んだ」(特別編集委員)、「長期政権の功績大きい」(社説)との全面評価で貫かれている。具体的には、「決められない政治」からの脱却、日米同盟の強化、集団自衛権の行使を可能とする安保関連法の成立など、国論を分断して強行した政治姿勢が全面的に肯定されているのである。唯一の失態として指摘されているのは新型コロナへの対応のまずさだが、これとても責任の一端が官邸主導の政治にあるとしながらも、基本的には迅速な政治決定を可能にした官邸主導政治が肯定されている。「危機対処へ政治空白を避けよ、政策遂行には強力な体制が要る」(社説見出し)と結ばれているように、読売の強権主義・強権政治推進論は変わることがない。

 

これに対して産経新聞は、右の立場からの批判に重点を置いた紙面をつくっている。「走り続けた7年8カ月、期待と批判、一身に受け」と長期政権を一応評価しながらも、「首相辞任決断 志半ば」との大見出しのもとに、「憲法=改憲気運盛り上がらず」「外交=重ねた会談、領土進展なく」「経済=見えぬアベノミクス後」「五輪、コロナ対策=追加経費難問」「拉致=被害者帰国果たせぬまま」と安倍政権が実現できなかった政治課題への不満を隠していない。産経とすれば「改憲突破内閣」と位置づけた安倍政権への期待が大きかっただけに、改憲の入口にも立てなかった安倍政権への失望が大きかったのだろう。次期政権に対しては「『安倍政治』を発射台にせよ」(主張=社説)とあるように、安倍政権の果たせなかった政治課題の実現を強く要求し、加えて米中対決を基調とする対中強硬外交への転換を求めている点が注目される。

 

日経新聞は、安倍首相の辞任表明はすでに織り込み済みだったのか、論評にあまり力が入っていない。安倍政権はもはや「過去の存在」だとの認識からか、紙面構成は「次期政権の課題」をメインに編集されている。安倍首相在任中の政策評価に関しても「アベノミクス未完」「次期政権に政策の充実を求める」視点から編集されており、総括にはあまり紙面を割いていない。具体的には「挑んだ課題 道半ば」との見出しの下で、「新型コロナ=経済優先で後手」「女性活躍=育児と両立支援拡充を」「地方創生=観光や防災、支援続けて」「延期の五輪=道筋見えず、コロナ対策・追加経費...課題山積」「森友・加計...晴れぬまま」などとなっている。それを象徴するのが、「誰が次期首相になろうとも日本を取り巻く情勢は厳しく、政策を切れ目なく遂行しなければならない」との政治部長発言だろう。社説でも「円滑な政権移行」がまず強調され、安倍政権の最大の業績は「政治の安定」だったことが述べられている程度だ。むしろ力点は、「ポスト安倍 動き急」「五輪・コロナ・東アジア安保、次期政権に課題山積」の見出しにみられるように今後の政局に移っており、「ポスト安倍」への期待感が滲み出ている。こうした点から考えると、国民の信を失った安倍政権は体制側にとっても「厄介者扱い」だったのであり、早くから与党内での政権交代が望まれていたことをうかがわせる。次回はこの点について考えたい。(つづく)