首相辞任会見の一問一答にあらわれた安倍政治の本質、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(45)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その222)

 

朝日、毎日両紙は、総力を挙げた紙面構成となっている。拙ブログのような小論ではとても紹介できるものではないが、それでも印象程度のことは記しておかなければならない。安倍政治に象徴されるような世襲政治および政党政治の劣化に関する本格的な論評は、これから出るものと期待してのことである。

 

朝日の主張は、政策評価のあれこれに関するよりも「この最長政権が政治のあるべき姿という点で『負の遺産』を残した。国民の疑問にきちんと向き合ってきたのかを、冷静に問い直さなければならない」(政治部長発言)、そして「首相在任7年8カ月、『安倍1強』と言われた長期政権の突然の幕切れである。この間、深く傷つけられた日本の民主主義を立て直す一歩としなければならない」(社説)との一節に凝縮されている。社説は、退陣の直接の理由が持病であるにしても、その背景には「長期政権のおごりや緩みから、政治的にも、政策的にも行き詰まり、民心が離れつつあった」ことを指摘し、今回の総裁選では、「安倍政権の政策的評価のみならず、その政治手法、政治姿勢がもたらした弊害もまた厳しく問われなければならない」と提起している。まったく同感だ。

 

毎日も同様の論調で貫かれている。「どんなに長く続いた政権もいずれは終わる。第2次安倍晋三政権の7年8カ月がこの国に何をもたらし、何を失わせたのか。その功罪を受け止め、日本が次に進む道を探るときである」(主筆発言)、「7年8カ月に及んだ長期政権の弊害で際立つのは、『安倍1強』によるゆがみだ。内閣人事局に人事権を掌握された幹部官僚の間では、政権へのおもねりや『忖度』がはびこった。国会を軽視する姿勢も目立つ。野党を敵視し、反対意見には耳を傾けない。民主主義の基盤となる議論の場に真摯に向き合おうとしなかった。長期に権力を維持することには成功したが、政策や政治手法の点では『負の遺産』が積み上がったのが実態だったのではないか」(社説)との指摘だ。いずれも安倍政権の本質を突いた鋭い問題提起だと思う。

 

読売、産経、日経3紙と朝日、毎日両紙の決定的な違いは、安倍首相の記者会見の模様をどう伝えたかにあらわれている。前者3紙は記者会見の要旨を伝えただけで、質疑応答についてはほとんど触れていない。朝日、毎日両紙は、安倍首相の冒頭発言に加えて、質疑応答についても詳しく解説している。とりわけ毎日紙は、冒頭発言および質疑応答の一問一答について全文掲載しており、資料価値は極めて高い。これまで安倍首相は、記者会見を開いても自らの発言に多くの時間を割き、質疑応答については幹事社のサクラ質問に答えるだけで、それ以外の質問にはほとんど対応することがなかった。「次の予定がある」とかの理由で質問を途中で打ち切り、逃げるようにして会場を去るのが常だったのである。しかし、今回は最後の記者会見ということもあったのか、冒頭発言は短く質疑応答にかなりの時間を割いた。もう「次の予定」がないので、逃げるわけにはいかなかったのだろう。

 

私が注目する質疑応答は、「憲法改正」「公文書改ざんと説明責任」「国政私物化」の3点だ。

――(問)最長政権でも憲法改正は実現できなかった。機運が高まらなかった理由は何か。

――(答)残念ながら、まだ国民的な世論が十分に盛り上がらなかったのは事実であり、それなしには進めることはできないのだろうと改めて痛感しているところでございます。

――(問)「安倍1強」の政治状況が続き、官僚の忖度や公文書の廃棄・改ざんなど負の側面が問われた。十分な説明責任を果たせたと考えているか。

――(答)公文書管理についてはですね。安倍政権において、さらなるルールにおいて、徹底していくということにしております。また、国会においては相当長時間にわたって今挙げられた問題について、私も答弁させていただいているところでございます。十分かどうかということについては、これは、国民の皆さまがご判断されるんだろう、と思っております。

――(問)森友学園問題や加計学園問題、桜を見る会の問題などでは、国民の厳しい批判にさらされた。これは政権の私物化という批判だったのではないか。

――(答)政権の私物化はですね、あってはならないことですし、私は政権を私物化したというつもりは全くありませんし、私物化もしておりません。まさに、国家国民のために全力を尽くしてきたつもりでございます。その中でさまざまなご批判もいただきました。またご説明もさせていただきました。その説明ぶりなどについては、反省すべき点もあるかもしれないし、誤解を受けたのであれば、そのことについても反省しなければいけないと思います。私物化したことはないということは申し上げたいと思います。

 

これはもう〝ご飯論法〟どころの騒ぎではない。憲法改正がうまくいかなかったことへの回答を除いては、徹頭徹尾、最後の最後まで事実関係を否認し、自らの責任を回避している。公文書改ざんなど否定できない事実に関してさえ自らの責任を認めず、説明責任を果たさなかったことについても「国民の皆さまがご判断されること」と逃げている。国民の大半が「クロ」だと見なしているモリカケ問題や桜を見る会についても「白(シラ)」を切り、「私は政権を私物化したというつもりは全くありませんし、私物化もしておりません。まさに、国家国民のために全力を尽くしてきたつもりでございます」と公言するのだから、声も出ない。7年8カ月にも及ぶ安倍長期政権は、こうして「ウソと偽り」で塗り固められた記者会見で終わったのである。

 

記者会見の翌日から、各紙の紙面は政局一色となった。8月31日朝刊は、大手5紙が揃って菅官房長官の出馬を伝え、後継レースの本命と目されていた岸田氏や対抗馬の石破氏が、ダークホースの菅氏に一気にかわされそうな形勢を伝えている。朝日新聞電子版(8月31日21時)は、「菅氏優位、細田・麻生両派が支持 総裁選、顔ぶれ固まる 」との見出しで次のように報じた。

 

 「自民党総裁選に立候補する意向を固めた菅義偉官房長官(71)に対し、同党の細田派(98人)と麻生派(54人)は8月31日、菅氏を支持する方針を決めた。二階派(47人)に続き、主要派閥の多くが菅氏支持に傾きつつあり、国会議員票での争いを優位に進められる情勢となっている。石破茂元幹事長(63)や岸田文雄政調会長(63)は9月1日に立候補を表明する。無派閥の菅氏は31日、最大派閥・細田派を率いる細田博之元幹事長、参院自民党や竹下派(54人)に強い影響力を持つ青木幹雄元参院会長と会談。青木氏に「安倍政権の路線を継承する」と述べ、近く立候補を表明する考えを伝えた。現職閣僚を含む初当選同期7人や、自身に近い無派閥議員14人とも会い、立候補要請を受けた」

 

 〝安倍政権の継承〟を約束して主要派閥の支持を取り付けた菅氏では、安倍政治を変えることもできなければ、安倍政治の弊害を打破することはできない。まして利権政治以外に興味がない二階氏が幹事長として影響力を発揮するのだから、菅氏の政治空間はますます狭くなる。菅氏がいったいどんな政権構想を打ち出すのか見ものだが、安倍政権のエピゴーネンでは「暫定政権」の域を出ない。「表紙が違っても中身が同じでは意味がない」として、後継者の席を蹴った気骨ある政治家の言葉を懐かしく思い出す。(つづく)