安倍政権、病気を理由にした引退劇の演出で「負の遺産」をチャラに、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(46)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その223)

 

 安倍首相の辞任後、各社の世論調査で内閣支持率が軒並み上昇していることに驚いている。共同通信(8月29、30日実施)の内閣支持率は56.9%、僅か1週間前調査(8月22、23日実施)の36.0%から20.9ポイント急上昇した。読売新聞(9月4~6日実施)も52%と前回調査(8月7~9日)の37%から15ポイント上昇し、不支持率は38%へ16ポイント低下した。

 

政党支持率も読売調査では自民党が41%(前回33%)に上昇し、立憲民主党は4%(同5%)にとどまった。また、総裁選に立候補表明した3氏のうち次の首相にふさわしい人としては菅官房長官が46%でトップとなり、石破元幹事長が33%、岸田政調会長が9%となった。自民党は政党支持率が好調なことから、党内では早期の衆院解散論も浮上しており、菅官房長官も早期解散を否定していない。

 

 それにしてもあれほどまで支持率が低下し、末期的症状を呈していた安倍内閣がなぜいま思い出したように支持されるのか。読売調査の男女別集計によれば、男性56%(前回44%)、女性49%(同31%)となり、とくに女性の上昇幅が18ポイントと大きい。年代別でも全ての年代で支持が不支持を上回ったという。男女、年代を問わず支持率がこれほど高いのはなぜだろうか。読売はその理由を、安倍内閣の7年8カ月の実績を「評価する」74%が「評価しない」24%を大きく上回ったことを挙げているが、私は必ずしもそうは思わない。

 

 いろんな解釈が可能だと思うが、私は安倍首相が持病の難病悪化を前面に出して〝引退劇〟を演出したことがその基本的な原因だと見ている。情緒的雰囲気に弱い日本人の国民性が安倍首相への個人的な同情心を掻き立て、長期政権に対する評価を冷静に分析することなく「負の遺産」も含めて全てを水に流してしまったのである。持病の難病を押して「国家国民のため全身全霊を傾けてきた」という言葉がメディアを通して増幅され、「ご苦労様」とのねぎらいの感情が全国的に広がったのであろう。そうでなければ、男女、年代を問わずこれだけの高い支持率が出るはずがない。

 

 この〝引退劇〟の演出は、後継者レースにも決定的な影響を与えている。自民党総裁選挙で目下独走中の菅官房長官は、これまではほとんど新人に近い存在で知名度もそれほど高くなかった。昨年9月から今年8月までの8回の読売世論調査は、自民党の中から「次の首相に相応しい人」を選んでいるが、菅氏の支持はいつも3~5%程度で石破氏や小泉氏を大きく下回っていた。それが今回の調査では、菅氏46%、石破氏33%、岸田氏9%となり、あっという間に次期首相候補のトップに躍り出たのである。

 

 菅官房長官は安倍政権の主軸として数々の汚れ仕事をこなし、「負の遺産」を一手に引き受けてきた前政権の責任者であることは誰もが知っている。にもかかわらず、なぜ菅氏が次期首相候補の一番手となり、しかも安倍政権の政策をそのまま継承すると言えるのか訳が分からない。しかし、これも安倍首相が「志半ば」にして引退するとの演出が功を奏して、安倍政権のやり残した政策課題を継ぐのは首相を支えてきた菅氏が一番との「大義名分」がつくられたと思えば、納得がいく。

 

 ただ、菅内閣が安倍政権とは何ら変わらないというのでは、さすがに新味が出せずに短命内閣で終わることになる。そこで打ち出されたのが「菅=たたき上げの政治家」というキャッチコピーだ。漢字もろくに読めない人物や官僚作文をなぞるだけの人物が、ただ世襲政治家というだけで首相になることの弊害については多くの国民が実感(痛感)している。だからこそ菅氏が「安倍3代」に代表される世襲政治から脱却するためには、政策が変えられない以上、当分は「たたき上げ」の泥臭いイメージで勝負するほかはない。

 

しかし、菅氏の本質は冷酷極まりない権力政治が真骨頂であり、遠からずしてその本性は遺憾なく発揮されるだろう。安倍政権以上に官僚政治が徹底され、国会と国民を軽視する権威主義が政府全体に貫徹されるだろう。衆院解散は間近いのではないか。菅内閣の本性が暴露される前に本格政権を構築したい―、これが菅氏の政治戦略だからである。(つづく)