コロナ対策の失敗で失脚するか、トランプ大統領の後を追う菅首相、菅内閣と野党共闘の行方(11)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その236)

 アメリカ大統領選挙も漸く決着がつきそうな気配だ。それを象徴するのが、ペンシルベニア州の連邦地裁がトランプ陣営に対して下した呵責ない判決だろう。同地裁は11月21日、トランプ大統領の陣営が大統領選で、民主党のジョー・バイデン前副大統領が制した州の開票結果の認定差し止めを求めた訴訟を巡り、トランプ陣営の訴えを棄却した。

 

その判決理由が振るっている。郵便投票に関する手続きに一貫性がないなどとするトランプ氏側の主張について、判事は「法的根拠がなく、推測による訴えだ」と退け、加えて「フランケンシュタインの怪物のようにでたらめに縫い合わされたものだ」とも指摘した(読売11月22日電子版)。

 

 このコメントには、でたらめなウソ発言を何万回も性懲りもなく繰り返し、民主政治の基本である選挙制度を辱めてきたトランプ大統領に対する、司法関係者の激しい怒りが込められている。まさにトランプ大統領は現代の「怪物・フランケンシュタイン」そのものであり、こんな怪物はこの世から一刻も早く消えてもらわなくてはならない。「よくぞ言ってくれた!」と、遠くアメリカのペンシルベニア州にエールを送りたいと思うぐらいだ。

 

 このことに関連して思い出したのは、作家・辺見庸氏が菅首相をして「特高顔」だと評した毎日新聞の10月28日付夕刊のインタビュー記事のことだ。私はこの記事を読んで「さすが辺見庸だ」と唸ったが、ご当人の菅首相の反応は違ったらしい。様子を伝えた『週刊現代』(永田町インサイドレポート、11月9日)によると、この記事を読んだ菅首相は激怒したという。その一節を再録しよう。

 

 「最近、官邸の『ガースー』こと、菅義偉総理が大いに怒った件がある。『なんだこの見出しは!』、菅が内閣官房の職員を呼びつけ『この記事を読んでみろ!』と怒鳴ったのは、毎日新聞の10月28日付夕刊に載った作家・辺見庸氏のインタビュー記事のことだった。〈この国はどこへ コロナの時代に 作家 辺見庸さん 首相の「特高顔」が怖い〉、コロナ禍の中、世に閉塞感が蔓延し、日本が『排除型社会』に陥りつつあるという辺見氏の懸念を伝える記事である。その中で、同氏は菅を『怖い』と語る。〈彼は昔の特高(戦中の特別高等警察)の仕事をしてると思うんだよね〉〈日本学術会議の人選で容赦なく6人を外すっていうのがそうでしょ〉〈菅さんの場合は機密という意味のインテリジェンスはあっても、総合的な知性という意味でのインテリジェンスがないと思うんです。だから、この人は好かんな、怖いなというイメージがあります〉〈菅さんっていうのはやっぱり公安顔、特高顔なんだよね。昔の映画に出てくる特高はああいう顔ですよ〉。菅はカッとなった。『こいつ(辺見氏)はいったい誰だ!』、慌てた周囲が『著名なジャーナリストです』と説明して宥めようとしても、怒りが収まらない様子だったという」。

 

 菅首相が、任命を拒否した学術会議会員候補者6人のうち、5人までの名前も研究業績も知らなかったというのは有名な話だが、作家・辺見庸氏の名前ぐらいは知っていると思っていたらそうではなかった。この人物にとっては芥川賞など眼中になく、これまで一度も文芸誌に目を通したことがないのではないか。新聞も文芸欄や書評欄などは読んだことがなく、また関心もないのだろう。彼にとっては政治面、経済面が全てであり、それ以外は目に入らないのかもしれない。まさに、辺見氏が「機密という意味のインテリジェンスはあっても、総合的な知性という意味でのインテリジェンスがない」と言ったのは図星なのだ。

 

 そう言えば、トランプ大統領も本や書類といったものは滅多に読まないのだという。口から出まかせにツイッターに書きまくるのも、知的センスや思考能力が完全に欠落していることの反映だ。この点、菅首相は本を読まなくてもまだ「聞き学問」するだけましだといわれる。早朝から何人ものブレーンと会って意見を聴く、その範囲で自分に役立つ知識を吸収する、気に入ったものはそのまま政策や方針に採用する、そのときのコメントは誰かが言ったフレーズを拝借する――こんなことを繰り返して「叩き上げ人生」を這いあがってきたのである。

 

 だが、そんな偏った勉強で一国の宰相にふさわしいインテリジェンスが形成されるわけがない。先日、オーストラリア首相が訪日し、菅首相と会見した模様をテレビニュースで見たが、菅首相は1対1の対面で言葉を交わすのに1節ごとにメモを見ていた。テレビの大写し画面では、彼がいちいち下目になってメモを確認する有様が手に取るようにわかるのだ。外交会見でメモを見なければ話せないような人物は、使い物にならないとされている。自分の考えを自分の言葉で語れないような人物は、宰相はおろか一政治家としても失格なのである。

 

 菅氏は、安倍政権を忠実に継承するとして首相の地位を射止めた。だが、安倍首相のインテリジェンスの無さを受け継いでもらっては困る。「低学力」「無教養」といわれても仕方がないような紋切り型答弁や、誰かから借りたフレーズを繰り返す施政演説しかできないようでは、この先が思いやられるというものだ。

 

 目下、焦眉の課題であるコロナ対策一つを取って見ても、菅首相の対応はトランプ大統領と重なる面が多い。トランプ大統領は、新型コロナウイルスが極めて危険なウイルスであることを忠告されながら、それを無視して取るべき対策を講じなかった。菅首相は口先では「万全の対応を取る」と言いながら、実のところは感染症専門家の意見をまったく無視している。両者とも「非科学主義」「反知性主義」という点では恐ろしいほど共通しており、コロナ対策においてそれが最も顕著にあらわれているのである。

 

 トランプ大統領はコロナ対策の失敗が原因で失脚した。菅首相もその後を追う可能性が極めて高い。新型コロナウイルスの本格的な第3波の襲来を目前にしながら、「この3週間が勝負!」などと能天気に言える人物はそれほど多くない。怪物・フランケンシュタインと同様に、トランプ大統領も菅首相も一刻も早く消えてもらわなければ国民の声明が危ないのである。(つづく)