「ガースー」発言と銀座高級ステーキレストランでの「多人数忘年会」が物語るもの、薄っぺらな「たたき上げ宰相」の本性が底まで見えた、菅内閣と野党共闘の行方(14)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その239)

 

「皆さん、こんにちは。ガースーです...」。12月11日、菅首相が出演した「ニコニコ生放送」の冒頭の場面のことだ。翌日、この様子を報じたテレビニュースを見てのけ反ったのは私一人ではないだろう。日頃はロボットのような無機的表情しか見せない首相が、見たこともないような薄笑いを浮かべてインタビューに応じているではないか。私は一部メディアが菅首相のことを「ガースー」と呼んでいることは知っていたが、こんな呼び方は失礼だと思って今まで言葉を慎んできた。それが本人の口から出たので唖然としたのである。

 

普段滅多に笑わない人物が笑う時は、何かしら不気味さを感じさせる。権力者になればなるほどそう思うのが世の常、何か底意があるのではないか、下心が隠されているのではないかとつい疑ってしまうのだ。ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏のような天真爛漫な笑顔でなくても、普通の場合、笑顔は他人に安心感を与えるサインとなる。ところが、「ガースーです」と言った時に菅首相が浮かべた笑顔は、「庶民派宰相」のイメージを作ろうとする下心があまりにも露骨過ぎて、得も言われぬ不快感を与えた。

 

医療従事者が命懸けでコロナ対応に当たり、国民がコロナ禍の恐怖に直面しているいま、首相に求められるのは真摯な態度でコロナ対策に当たり、国民を安心させるメッセージを発することだ。それがヘラヘラした笑顔とは裏腹に、「『Go To トラベル』の一時停止は考えていない」「感染症対策分科会から『移動』については感染との関連性が低いという提言をいただいている」と従来の主張を繰り返すだけでは、とても国民の信頼は得られない。

 

 この「ガースー」発言が、12月12日実施の毎日新聞世論調査に影響を与えたことはまず間違いない。菅内閣の支持率は前回11月7日調査の57%から一気に17ポイント急落して40%になり、不支持率は49%(前回36%)で、菅内閣発足後初めて不支持率が支持率を上回ったのである。支持率急落の原因は、菅政権のコロナ対策への国民の不信感がピークに達していることに尽きるだろう。菅政権のコロナ対策については、「評価する」が前回の34%から20ポイント下がって14%、「評価しない」は前回27%から35ポイント上昇して62%となった。いずれも菅内閣に対する評価の劇的変化であり、「ガースー」発言を契機に世論は一気に変わったのである。

 

 これに輪をかけたのが、12月14日の銀座高級ステーキレストランでの「多人数忘年会」である。この日、菅首相は支持率急落に歯止めを掛けるため、従来の態度を一変して「Go To トラベル」の年末年始一時停止を発表したばかりだった。首相は、新型コロナの感染拡大防止を呼びかけた「勝負の3週間」の最終日を迎えた現状について、「3千人を超える感染者があり、高止まりの状況を真摯に受け止めている」と述べ、官邸を去る際、「年末年始は静かにお過ごしいただきたい」と国民に慎重な行動を促している。ところがこの日の夜、首相は都内ホテルの宴会場で10数人の経済人と会食し、その後、二階幹事長が芸能人やタレント、プロ野球ОBなどを招いて開いた恒例の忘年会(8人以上)に駆け付けたのである。

 

聞けば、菅首相が突如「Go Toトラベル」の一時停止を決めたことに対し、自民党二階派が激怒したという。二階幹事長は、旅行業界の団体「全国旅行業協会」の会長をつとめる観光族の〝ドン〟であり、観光産業は二階氏にとっての大きな利権とされている。Go To停止は二階派の利権に直結するだけに、寝耳に水だった二階派幹部は「なんで急に中止なんだ。どうなっているんだ!」「勝手なことをしやがって」と声を荒らげ、「誰のおかげで総理になれたんだ」「もう次はないぞ」など、強硬意見も飛び出しているという(日刊ゲンダイ12月16日)。

 

菅首相は、国民に対しては5人以上の会食自粛を呼びかけ、食事中においても会話の際は「マスク」をつけることを求めている。それが二階幹事長の「多人数忘年会」には国民へのメッセージは横に置いて駆け付けるのだから、首相にとっては自分の地位を維持することの方が「国民の生命と暮らしを守る」ことよりも遥かに重要なのだろう。また、二階派の顔色に戦々恐々としなければならないほど、菅政権の政治基盤は脆弱なのだろう。

 

「ガースー」発言に引き続く菅首相の「多人数忘年会」への参加は、世論の大きな怒りを巻き起こした。国会でも与野党を問わず批判が高まる中で、菅首相は12月16日、「国民の誤解を招くという意味で真摯に反省している」との弁を述べた。だが、国民は「誤解」などしていない。菅首相の本性を見抜いているからこそ「不支持」を表明しているだけのことだ。国民へのメッセージと自らの行動が一致しない政治家は「二枚舌=ダブルスタンダード」だと言われる。まして、一国の宰相が二枚舌とあっては、国民は何を信じていいかわからなくなる。政治不信の根源は菅政権の二枚舌に根ざしているのである。

 

しかし、「懲りない」とはこのことを言うのだろう。菅首相は16日の「真摯な反省」を表明した直後に、今度は都内の日本料亭で銀行関係者2人、さらにフランスレストランでメディア関係者3人(その中にはテレビ常連の田崎氏も含まれている)と「はしご会食」している。18日のテレビトークショー(毎日テレビ)では、首相は就任3カ月で150回を超える会食をこなし、うち10数回は5人以上の「多人数会食」だったという。そして17日の夜、「会食」を取りやめたのは、官房長官時代も含めて稀有のことだというのである。

 

「会食」というが、これは形を変えた「宴会政治」ではないか。「人の話を聞くのはいいこと」だと周辺は擁護するが、これは宴会の席上での単なる情報交換にほかならない。本も読まず、勉強もせず、宴会を重ねていては一国の宰相は務まらない。「たたき上げ」政治家は、所詮首相の器ではなかったのである。(つづく)