民心が読めないガースー首相はコロナ禍とともに去るしかない、菅内閣と野党共闘の行方(17)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その242)

 

 全国で4千人を超えた大晦日の感染者数も衝撃的だったが、1月6日の数字はもっとインパクトが大きく、「感染爆発」の一歩手前まできている印象だ。何しろ1日あたり新型コロナ新規感染者数は、全国6001人、首都圏2887人(東京1591人、神奈川591人、埼玉394人、千葉311人)、愛知364人、大阪560人、福岡316人と、全国および大都市圏都府県の数字を軒並み過去最多を更新したのである(NHK特設サイト)。いまやこれら大都市圏都府県を中心に、コロナ感染が全国に拡大している状況が明らかになった。

 

もはや、国民に「自粛」を呼びかける口先だけのコロナ対策が破綻していることは明らかだろう。政府は昨年11月、他人の褌(ふんどし)で相撲を取るに等しい「勝負の3週間」を仕掛けたが、惨敗に終わったことは記憶に新しい。結果が明らかになった頃に行われた毎日新聞世論調査(12月12日実施)では、内閣支持率が前回調査(11月17日実施)から17ポイント急落して40%に落ち込み、不支持率は49%に急上昇して支持・不支持が逆転した。最大の原因は、菅政権の新型コロナ対策が「評価する」14%、「しない」62%と圧倒的大差で〝NO〟を突き付けられたことにある。この結果に驚愕した菅首相は12月14日、「GoToトラベル」を12月28日から今年1月11日までの間、全国一斉に停止すると発表した。

 

菅首相は、これまで観光支援策「GoToトラベル」がコロナ感染を全国に広げているエビデンスはないと強弁し、「感染対策と経済活動を両立させる」などと称して「GoToトラベル」の継続に固執してきた。自らの政権基盤である二階派との連携を維持するためには、〝観光業界のドン〟といわれる二階幹事長の至上命令に逆らうことは得策でなく、自らもまた「GoToトラベル」を経済政策の要として位置づけてきたからである。

 

ところが「GoToトラベル」の一時停止を発表したその夜、政府が国民に対して「5人以上の会食」は感染リスクが高まると呼びかけている最中に、あろうことか張本人の菅首相が二階幹事長の催した超高齢者8人の忘年会に(「GoToトラベル」一時停止の詫びを入れるためか)参加したのである。「国民の命を守る」といいながら、自らの政権基盤を最優先する首相の政治姿勢は国民の強い批判と反発を招いた。この時を契機にして、菅首相は国民の信を一挙に失った。毎日調査に引き続く各社の世論調査においても、内閣支持率は30%台後半から40%台に急落した。「重ね聞き」(支持・不支持を答えない人に対して更に回答を促して結果を積算する方法、通常の調査より支持率が高めに出る)を用いている日経、読売調査でもこの傾向は変わらない。

 

政府は1月7日、具体的な措置の内容などについて感染症の専門家などでつくる「諮問委員会」に意見を求め、国会に報告(菅首相は出席しない)したうえで対策本部を開いて緊急事態宣言を決定するという。今回の宣言に合わせて政府は、飲食の場での感染リスクの軽減策など限定的な措置を講じる方針らしい。だが、この飲食店中心の限定対策により果たして「感染爆発」寸前の首都圏の感染拡大状況を制御できるかについては、多くの専門家から疑問が出されている。

 

京大の西浦教授(数理疫学、昨年まで北大教授、厚労省専門家組織から離れた)は、1月6日の厚労省会合に提出した東京都の感染者シミュレーションに関する非公開資料において、飲食店への時短営業要請の対策では現在(12月19日時点)の実効再生産指数10%程度減らすぐらいの効果しか期待できず、1日あたりの感染者数は横ばい状態で続くことになるとしている(朝日1月7日)。

 

しかし、その後の情勢は劇的に変化している。東京都は1月7日、新たに2447人(前日より一挙に856人増)の新型コロナウイルス感染が確認されたと発表した。7日現在の重症者は121人と前日から8人増えた。いずれも前日に続き過去最多の人数を更新した。国への報告基準で数えると重症者数は437人となり、都基準の4倍近くになる(ロイター東京、1月7日)。

 

また、今回の非常事態宣言の対象地域が首都圏の1都3県に限定されることについても疑問が出ている。吉村大阪府知事が緊急事態宣言の要請を見送る発言をしたことについて、吉田近大教授(感染症学)は「これ以上増えたら踏ん張りがきかない。現場としては緊急事態宣言を出してほしい」「情報の受け手は自分たちの都合がいいようにとらえてしまう。府民への『もう大丈夫』という誤ったメッセージになりかねない」「小刻みに制限したり緩和したりするのは止めたほうがいい。経済も感染症対策もどっちつかずになる。今は感染者を減らすべき時だ」と訴えている(毎日1月7日)。

 

しかしその後、吉村知事は1月6日に560人の感染者が出たことから、政府に対して緊急事態宣言の発令を「(府として)要請せざるを得ないのではないか」と急きょ態度を変更した。8日に開催する府の対策本部会議で議題に挙げ、専門家の意見や7日の感染状況などを踏まえて最終的に判断するとした(産経デジタル1月7日)。

 

 菅首相は1月7日、記者会見で緊急事態宣言発令に伴う所信表明するというが、それがどんな内容になるか国民は注視している。各紙の社説でも、「首相が緊急事態宣言へ、もっと明確なメッセージを」(毎日1月5日)、「宣言再発出へ、対策の全体像速やかに」(朝日、同)など、政府の明確な方針を求めている。菅首相がここに及んであいまいな態度に終始すれば、民心が一気に離反することは目に見えている。果たして菅政権は国民の期待に応えられるのか、菅首相は剣が峰に立たされている。(つづく)