側近から身内へ不祥事の連鎖広がる、〝火だるま〟になった菅首相はこれからどうする、菅内閣と野党共闘の行方(21)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その246)

 

 このところ、菅首相の身辺がにわかに慌ただしくなってきた。総裁選で菅氏の懐刀として活躍した吉川元農相が収賄事件で議員辞職そして在宅起訴、参院広島選挙区で菅官房長官(当時)が肝いり候補として応援した河合案里議員が公職選挙法違反(買収)で有罪判決そして議員辞職などなど、菅首相側近議員の悪質極まる政治犯罪が相次いでいるからだ。彼・彼女らが次から次へと議員辞職に追い込まれるなか、今度は放送事業会社に勤務する菅首相の長男が放送事業所管の総務省幹部を接待し、食事代、手土産、タクシー代などを会社で負担していた不祥事が発覚したのである。

 

 国家公務員が所管する事業の利害関係者から接待を受けることは、国家公務員倫理法に基づく明白な倫理規程違反であり、処分を免れない重大事だ。衆院予算委員会の審議でこの疑惑を追及された菅首相は、例によって「長男は別の人格、一民間人であって国会で答弁することではない」と突っぱねたが、国民の目にはそうは映らない。総務相を務めた菅首相にとって総務省は古巣のようなものであり、長男は大臣秘書官だった。菅首相が、現在においても総務省に対して絶大な影響力を維持していることは周知の事実であり、同省関係者は「首相の息子に誘われたら、断れないだろう」と語っている(毎日2月5日)。菅首相の長男は安倍前首相の昭恵夫人と同じく、首相の権威を笠に着て総務省幹部に接近したことは誰の目にも明らかなのだ。

 

 安倍前首相や昭恵夫人の知り合いが政府から特別待遇を受け、それが森友学園問題や加計学園問題の不祥事につながったことは記憶に新しい。文科省や財務省の官僚から特別の便宜を図ってもらって国政を私物化したことの弊害は、この間の最大の政治スキャンダルとして国民の脳裏に固く刻み込まれている。それが、またぞろ菅政権においても繰り返されるようなことになると、国民の政治不信は決定的なものになり、コロナ対策で失策を重ねてきた菅政権にとって致命傷になること間違いなしだ。

 

 そうでなくても、最近の菅政権を取り巻く政治環境は厳しさを増している。「この首相ありてこの与党議員あり――」ともいうべき事件が頻発しており、国民は「いい加減にしてほしい!」と憤っているからだ。自民党幹部議員や文科省副大臣の要職にある若手議員が、非常事態宣言の最中に銀座の高級クラブを深夜までハシゴするとか、公明党幹部議員が「これに負けじ」とばかり深夜の銀座に出没するとか、とかく国民を愚弄した振る舞いが絶えない。菅首相は副大臣を更迭し、自民党はこれら議員の離党を勧告したというが、菅氏自身が二階幹事長らと「ステーキ会食」をして自粛無視の口火を切った張本人だけに、その威信は地に堕ちている。国民から政治不信を突き付けられている人物が、何を言っても信用されないのは当然と言うべきだろう。

 

 菅首相が政治生命を懸ける政策課題についても暗雲が垂れ込めている。表看板に「デジタル革命」を掲げたものの、その適用第一例である新型コロナ感染者との接触を確認するスマホアプリ「COCOA」が故障状態のままで4カ月も放置され、利用者には何一つ知らされていなかったという(信じられないような)事態が続いていたのである。アプリ利用者が非通知状態を故障ではなく「感染していない」と錯覚すれば、感染者が自覚のないままに感染拡大のインフルエンサーとなり、多くの国民を生命の危機に曝す可能性が高まる。恐るべき事態だと言うべきだろう。

 

 加えて、東京五輪組織委員会の森会長(元首相)の女性差別発言が飛び出した。ご当人からすれば、日頃の思いを率直に言っただけのことだろうが、タイミングが悪すぎた。コロナ禍のなかで東京五輪が中止の瀬戸際に追い込まれているその時、五輪憲章が掲げる男女平等原則を真っ向から否定するような森発言は、予想を超えた国内外世論の大きな反発を招いたからだ。ご本人は辞任するつもりはいっこうにないようだが、居座れば居座るほど世論が厳しさを増すことは避け難い。遠からずして森会長は辞任に追い込まれ、菅首相が命運を懸ける東京五輪の中止を求める内外世論はさらに高まるだろう。

 

 この他、私にとっても見過ごせないことがある。それは、菅首相が日本学術会議会員6名を任命拒否するにあたって、「年10億円」の国費が学術会議に投じられていることを理由に、首相としての任命権限があると主張したことだ。ところが、先日の小池共産党書記局長の国会質問によって、安倍首相や菅官房長官が第2次安倍内閣の7年間で「内閣官房機密費(報償費)」86億円を使い、そのうち領収書不要の「政策推進費」が78億円に上ることが明らかになったことだ。自分は「年11億円」もの国費を密室で自由に使いながら、210人の学術会議会員と2000人の連携会員が手弁当で活動している学術会議予算の「年10億円」(それも7割が職員給与など事務局経費)をさも過大であるかのように主張する...こんな理不尽なことが許されていいわけがない。

 

 菅首相は周辺や身内の不祥事の連続によって、もはや〝火だるま〟状態にあると言ってもいいだろう。燃え上がった炎を消すことはもう不可能だ。菅首相には退陣する道しか残されていないのである。(つづく)