菅首相は安倍〝身内政治〟の直系の継承者、身内政治の主役は「首相夫人」から「首相長男」へバトンタッチ、菅内閣と野党共闘の行方(22)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その247)

 事の発端は、『週刊文春』が「菅首相長男 高級官僚を違法接待」と題して報じた 2021年2月18日号の記事 だった。2020年10月から12月にかけ、総務省の許認可を受けて衛星放送を運営する東北新社の部長職にある菅首相長男が、総務省ナンバー2で菅政権の看板政策「携帯値下げ」のキーマンである総務審議官らを高級料亭で接待していたと報じたのだ。このとき接待を受けていたのは、もう一人の総務審議官、衛星放送の許認可にかかわる情報流通行政局長。部下の官房審議官などだった。彼らは高額な飲食代を奢ってもらったうえに、タクシーチケットや手土産なども受け取ったと言う。

 

 菅首相は、長男の総務省幹部接待問題が明るみに出てからというものは、これをなんとか「対岸の火事」にするべく腐心を重ねてきた。私は、前回の拙ブログで「もはや菅首相は火だるま状態」と書いたが、その時点ではメディアはまだ「火種を抱えた状態」だと見なしていた。たしかに「火だるま状態」とは言い過ぎだったかもしれないが、しかし菅首相の周囲にはこの他にも数々の不祥事が「野火」のように広がり、身辺に迫りつつあったことは事実なのだ。

 

 それにしても『週刊文春』の取材力は空恐ろしい。今週号(2021年2月25日号)の続編トップ記事は、「菅首相長男『ウソ答弁』証拠音声を公開する」だった。私はいつも『週刊文春』を愛読しているが(京阪電車丹波橋駅構内の本屋で立ち読みする)、記事には「その日、秋本氏の入店を確認した小誌記者は店内に複数の客として入店し、“密談”の一部始終を目撃、付近の席で音声をメモ代わりに録音していた」「音声記録には他の客の会話や雑音も多かったが、専門業者にノイズ除去を依頼して解析を進めると、あの夜の会話が次々に明らかになった。公益に資するため証拠音声の公開に踏み切ることにした」とある。

 

 これまで数々のスクープをものにしてきた『週刊文春』の記事は、フリージャーナリストの「持ち込みネタ」が多いと聞いていた。ところが今回のスクープ記事は、文春記者たちの直接取材によるもので、事前に総務省幹部らが菅首相長男らと会食することを把握したうえで客として隣室に張り込み、会話を録音したというのである。この情報網は「文春恐るべし」と言うほかないが、しかし裏を返せば、菅首相長男らの行動はそれほど露骨だったのであり、警戒心もなかったということだ。菅氏の威光を笠に着ることで長年甘い汁を吸ってきた長男は、父親が総務相に就任するや否や25歳の若さで大臣秘書官に抜擢され、それ以来営々と総務省幹部との人脈を築いてきた。長男は父親の威光で東北新社の部長となり、総務省からの許認可にかかわる子会社の取締役も兼任し、総務省の幹部と毎年、酒を酌み交わすような親密な間柄(確認されているだけで12回)になった。今回の違法接待問題は、間違いなくその延長線上で起きたことなのである。

 

長男の違法接待問題を国会予算委員会で追及された菅首相は、終始「他人事」のようにシラを切り続けてきた。「長男は民間人」「私とは別人格」「長男にもプライバシーがある」「私自身は全く承知していない」などなど、誰が聞いても噴飯ものの言い訳を並べるだけで、頑として事実を認めようとはしない。しかし、こんな子供だましの言い訳が長く続くはずがない。音声録音を当の長男が「自分の声」だと認め、同席していた衛星放送子会社の社長も同様の確認をしたことで、もはや申し開きできなくなったのである。

 

一方、接待で会食費やタクシー代の提供を受けていた局長は、これまで「要望を受けた記憶はない」「衛星放送の話題は記憶にない」など恥知らずの答弁を繰り返してきたが、こちらの方も一転して放送に絡む話題を認めざるを得なくなり、首相長男についても「利害関係者だ」と明言するところまで追い詰められた。国家公務員法の倫理規程に反して利害関係者の接待を受け、許認可権を持つ放送行政に絡む意見を交わしたことは事実だったのであり、これまでの答弁が「虚偽答弁」だったことが明らかになったのだ。当該局長ら2人は「通常人事」という名目で即刻更迭され、大臣官房付となった。

 

 菅首相は目指すべき社会像の筆頭に「自助」を謳い、「既得権益の打破」が自らの政治信条だと明言してきた。また、世襲議員が多い自民党内で「たたき上げの苦労人」と自称し、「世襲打破」のスローガンも掲げてきた。その本人が政治力を駆使して無職の長男を公金で大臣秘書官に雇い(これぞ世襲的人事)、多数の総務官僚との接点を持たせて酒食を共にする関係を築かせ、既得権益を活用する行動に出た。そればかりではない。菅首相は東北新社の創業者親子から2018年までに計500万円の個人献金を受けており、数回にわたって会食もしている。親子ぐるみで東北新社との親密な関係を持ち、長男が大臣秘書官を退職してからは同社への就職の尽力までしている。「既得権益の打破」どころか、まさしく「既得権益のフル活用」ではないか。

 

 20年前の大蔵官僚接待問題すなわち大手銀行MOF担(大蔵省担当)による〝ノーパンしゃぶしゃぶ事件〟は、国家官僚と金融資本の醜悪な癒着関係を象徴するおぞましい事件として国民の激しい怒りを買った。国家公務員倫理規程ができたのはそれからのことであり、利害関係者との接触は厳しく禁じられてきたはずだった。それが安倍政権による身内政治の横行によっていつの間にかなし崩し状態となり、加えて安倍首相自身の100回を超える虚偽答弁が常態化するに及んで、官僚が「記憶にございません」と言い続ければ追及から逃げられるような風潮を生んだ。

 

「首相夫人」が主役だった安倍政権の身内政治に対して、今度は「首相長男」が主役を演じる菅政権の身内政治が登場した。「首相夫人」のお友達に対して財務省幹部が国家財産を法外な安値で払い下げ、そのための証拠書類を隠蔽改ざんし、それに抗議する近畿財務局職員が自ら命を絶つといった悲劇の記憶が新しいいま、今度は「首相長男」が菅首相の「天領」といわれる総務省へのロビー活動に乗り出し、放送行政の利権を獲得するために総務省幹部を接待漬けにするという事件が発生したのである。主役は「首相夫人」から「首相長男」に交代したが、首相の威光を官僚が忖度し、法を曲げた身内政治が罷り通ると言う事態は変わらない。

 

2月22日から国会予算委員会において本格的な議論が始まる。菅首相はこの事態に対して如何に答弁するか、武田総務相はどこまで調査内容を明らかにするか、国民は固唾を呑んでその行方を見守っている。(つづく)