「反省」だけならサルでもできる、責任を取らないことが問題なのだ、山田内閣広報官7万円接待問題にみる菅政権の腐敗構造、菅内閣と野党共闘の行方(24)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その249)

 2月25日、7万円接待問題に関する国会予算委員会での山田真貴子内閣広報官の答弁を聞いて、瞬間「反省だけなら猿でもできる」というCMを思い出した。猿の調教師が「反省!」と言ったら、猿が目の前の机に片手を付いて首を垂れると言うあのユーモラスなポーズだ。それが如何にもしおらしげに反省しているように見えて、拍手大喝采だった。ゼミの学生たちにも大うけで時々その仕草を真似ていたことを覚えている。それを「猿真似(さるまね)」というのかどうかは知らないが、山田氏の答弁の雰囲気はそれにそっくりだったのである。

 

菅首相長男らから超多額の接待を受けていた山田内閣広報官は、野党議員の追及に対して「国家公務員倫理規程に反した行為でした」「深く反省しています」「心の緩みがありました」などと神妙に繰り返したものの、「責任を取ります」「辞任します」とは絶対に言わなかった。きっと調教師である菅首相から「反省だけ!」と命令され、その通りの「ポーズ」を取っただけのことだろう。山田氏が辞めると自らの任命責任を問われることになるので、菅首相としては辞めさせるわけにはいかなかったのである。

 

 菅首相は24日、山田氏を厳重注意したとした上で、「真摯(しんし)に反省しているので、今後とも女性広報官として職務の中で頑張ってほしい」と語り、続投させる考えを示した。これを受けて加藤官房長官は、25日の記者会見で山田氏が1カ月分給与の10分の6(約70万円)を自主返納し、「東北新社」へは飲食代の返金を申し出たことを明らかにし、これをして「本人は今回のことを深く反省し、職責の重さを十分に踏まえた対応」と受け止め、山田氏には「高い倫理観をもって公正に職務を遂行するよう、いっそう精励してもらいたい」と伝えたという。「反省」して給与の一部を自主返納すれば、万事終わりにするつもりなのだろう。

 

山田内閣広報官は、我々研究者仲間ではつとに有名な人物だ。菅首相が就任直後、学術会議会員候補者6名の任命を拒否し、その後出演したNHK「ニュースウオッチ9」でキャスターからその経緯を問い質された際、「答えられることと答えられないことがある」と言いよどんだ場面があった。要するに、任命拒否の理由は「答えられない」ような理不尽なことだと自分で認めてしまったのである。

 

予定にない突然の質問に激怒した菅首相の意を受け、山田氏が放送翌日にNHKに抗議電話を入れたとするニュースが駆け巡った。当該キャスターは今年3月で番組から降板させられることが決定したこともあって、その信ぴょう性がますます高まっていたのである。ところが、山田氏は25日、野党議員の質問に対して「番組出演後に電話を行ったことはございません」と明確に否定した。

 

ここでまた思い出すのが、加藤厚労相時代に有名になった「ご飯論法」のことだ。「ご飯を食べたか」という質問に対して、パンは食べているのに「ご飯は食べていない」と答える本質を紛らわせる答弁技術のことだ。山田氏の場合は「抗議をしたかどうか」がNHK介入の本質であって、「電話をしたかどうか」は伝達手段の話にすぎない。「電話をしたことはなかった」としても、別の方法で抗議した可能性までを否定しているわけではないのである。

 

ことごとさように、首相官邸による情報操作は極めて複雑で高度化している。しかし、このような目先のテクニックで国民をだませると思ったら大間違いだ。高齢者世帯の1カ月分食事代にも匹敵する高額な接待を、赤坂のホテル内にあるフランス料理店で受けた山田氏が、首相長男を含めてのたった5人の会食で、「長男の顔をよく覚えていない」だとか、「長男に会ったことはそれほど大事なこととは思っていない」だとか、「大した話はしなかった」とか...、そんな噓八百が通じるはずがないのである。

 

内閣広報官に本来求められる資質は、国民に信頼される情報発信者であるかどうかであって、質問する記者の数を制限したり、質問を遮って首相の答弁を助けたりすることではないだろう。これまでは、女性初の内閣広報官だということもあって「ご祝儀相場」が続いてきたが、今回の事件で局面は一気に「乱相場」に突入する。政治ジャーナリストの伊藤惇夫氏は、テレビ番組で「山田さんが広報官として(首相の)会見を仕切っている間はこの問題は幕引きにならないと思います」「山田さんは会見を仕切るだけでなく、政権の政策を広報していくという役割も大きい。従って、山田さんが政策をPRして、果たして国民がそれを信頼するかという問題も出てきます。発信に国民の信頼を得られるかということです」とコメントしている。

 

 菅首相は、本日26日に予定されていた緊急事態宣言の先行解除に伴う記者会見を急きょ見送る方針だという。首相は1月の首都圏への宣言や関西など7府県の追加、2月上旬の10都府県での延長の際にはいずれも会見を開いていた。首相は、宣言を延長した2月2日の会見では「国民にきちんと情報発信し、説明責任を果たしたい」などと語っていたにもかかわらずである。今回は記者会見ではなく、官邸のエントランスホールで首相が記者団の質問を受ける方式を検討するというが、真相は、山田内閣広報官が仕切る記者会見を開けないということだろう。端的に言えば、山田氏はもはや胸を張って国民の前に立てなくなったということだ。

 

 国民の信を失った内閣広報官を続投させることは、菅政権の命運にかかわる大問題だ。山田氏は早晩姿を消すだろう。菅政権の命運を少しでも延ばすために。(つづく)