菅政権は「ババ抜きゲーム」で自滅する、菅首相は所詮〝捨て駒〟にすぎなかった。菅内閣と野党共闘の行方(26)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その251)

 今日3月16日は、菅政権が発足してから半年になるのだと言う。半年と言えばあっという間の時間のようにも感じられるが、菅政権の半年間は随分長いような気がする。政権を取り巻く情勢が厳しく、政策展開が思うように進まず、何をやってもうまく行かないからだ。国民感情もじりじりしていて、爆発寸前というところまで来ているのではないか。

 

それにしても、このところ菅政権を取り巻く情勢は出口のない迷路のような様相を呈している。何しろ「新型コロナ危機」という未曽有の危機的状況の中にあって、なすこと全てが後手後手となっているからだ。安倍前首相が政権を投げ出したのは健康問題でも何でもなく、要するにこれからの事態が自分の手に負えないと思ったからにほかならない。長期政権末期に新型コロナ・パンデミックという世界史的危機に遭遇し、もはや自分もこれまでと思ったからではないか。

 

 そうとは知らず、利権と権力の裏世界に生きてきた二階幹事長と菅官房長官が「棚からぼたもち」とばかりにタッグを組み、安倍政権の後継者として名乗りを上げ、首尾よく政権の座をもぎ取った。その時は「してやったり!」ということだったのだろうが、問題はそれからだ。「携帯電話の値下げ」や「GoToトラベル」といった目先の政策では対応できない嵐に巻き込まれ、右往左往する有様は見苦しいことこのうえない。

 

 おまけに、長年培ってきた政治手法がすべて裏目に出ている。人事支配を通して睨みを利かせてきた官僚統制が組織の劣化を招き、上目遣いの忖度行政となって国民受けのする政策一つ出せない。極め付きは、菅首相の「天領」と言われる総務省の接待漬け問題だ。放送・通信行政の許認可権を一手に握る総務官僚がことあるごとに業者の接待漬けに遭い、勤労者世帯1か月分の食糧費に相当する高額接待を満喫する――こんな情景がごく普通のこととしてまかり通ってきたのである。

 

 ハイライトは、菅首相の長男が総務官僚の「接待要員」として東北新社に雇われていたことだろう。彼は「令和おじさん」の物真似が得意で座を沸かせ、やんややんやの喝采を浴びていたという。官僚たちはその陰に本物の「令和おじさん」の姿を重ねていたのか、いつも上から威圧されている鬱憤を晴らし、溜飲を下げていたに違いない。最高権力者の長男から土下座せんばかりの下にも置かぬもてなしを受け、手土産とタクシーチケットを持たされて見送られれば、誰も悪い気はしない。「お返し」をしなければ――と思うのが人情というものだ。

 

 

 官僚だけではない。歴代の総務大臣も通信業界最大手のNTTから「専用施設」で大盤振る舞いを受けていたことが(NTT関係者の内部通報によって)判明した。高級料亭やレストラン、クラブなどはとかく目につきやすい。NTT専用の会員クラブなら出入りは限られているので秘密が守れると安心していたのが、裏目に出たというわけだ。それに会員企業には高額会費に見合うだけの特別割引があるので、表向きの接待費用も低く抑えられる。1本10万円近いシャンパンを開けても問題ないということだったらしい。

 

 NTTからは、菅首相お気に入りの高市早苗氏、二階幹事長お抱えの野田聖子氏など歴代の総務大臣が軒並み接待を受けており、武田総務大臣も接待を否定していない。「国民の疑念を招くような接待は受けていない」というのだから、「疑惑を招かないような接待」は受けていたということだ。しかも、疑惑を招くかどうかは自分で判断すると言うのだから、これでは幾ら接待を受けても「疑惑を招かないような接待」になる。それに、彼・彼女らは揃いも揃って「放送行政に関する話は出なかった」と口裏を合わせているが、論音音声がないので幾らでもウソは付ける。底なしの腐敗とはこのことだろう。

 

 それでは菅首相本人はどうか。国会参考人として出てきたNTT社長は、例の如く「個別の会食については答弁を差し控える」として、本当のことを決して明かさない。菅首相も全く同じ答弁をしているので、こちらの方も厳重な下打ち合わせが行われているのだろう。参考人ではなく証人喚問するほかないが、こちらの方は自公両党が守ってくれると言うので安心しているのである。

 

 だが、こんなウソはいつまでも通用するとは限らない。「菅降ろし」が本格化する時が来ると、必ず内部通者があらわれる。こういう内部通報を「決め打ち」というが、これまでの虚偽答弁が一挙に覆される瞬間が必ずやってくる。すでにその時は刻々と近づいてきている。首都圏の緊急事態宣言の解除が目下の話題であるが、この程度で問題が終わらないことは誰もが知っている。ヨーロッパで猛威を振るっている変異ウイルスがすでに「市中感染」のレベルに達しており、日本国中に広がりつつあるからだ。

 

 3月25日から東京五輪の聖火リレーが始まると言うが、これとて日本一周するまでにいつ中止に追い込まれるとも限らない。東京五輪が中心になれば、コロナパンデミックの危険を無視して遮二無二準備を強行してきた菅政権は厳しく責任を追求される。また、例え無観客の東京五輪を開催しても開催中に感染が拡大すれば、取り返しのつかない失態として責任を問われる。いずれにしても、菅政権の未来は限りなく暗い。

 

 結局、菅首相は「ババ抜きゲーム」の「ババ」を引いたということだ。それを知っていた有力政治家たちが、菅首相を〝捨て駒〟として利用したということだろう。こんな前代未聞の非常事態には誰が政治をやってもうまく行かない、ならば菅でもやらせるか――と言ったところが本音ではないか。所詮、「令和おじさん」は元号が代わるまでの存在だった。それが令和になってからも表舞台に立ち続けようとしたことが、ボタンのかけ違いだった。

 

 問題は、それに代わる野党共闘の代表がいっこうに表舞台に登場しないことだ。主役抜きの田舎芝居がいつまで続くのか、もう国民は飽き飽きしながら次の幕開けを待っている。(つづく)