国民投票法改正案への対応でわかる野党共闘への本気度、菅内閣と野党共闘の行方(32)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その257)

 

毎日新聞は4月28日、「国民投票法改正案、自民・公明が5月6日採決、11日衆院通過へ」と報じた。自民・公明両党は憲法改正手続きに関する国民投票法改正案を5月6日に衆院憲法審査会で採決し、11日に衆院を通過させる方針を固めたという。改正案は2018年に自民、公明、日本維新の会などが提出したが、野党側の抵抗で実質的な質疑が進んでいなかった。

 

しかし昨年12月、自民・立民両幹事長が今国会で「何らかの結論を得る」と合意したことから、国民投票法改正案審議の外堀は事実上埋められたと言ってもいい。立憲民主党は表向き国民投票法改正法案に反対するだろうが、結果として改正案の成立に手を貸したことは間違いない。菅首相が「改憲への第一歩」と位置づける改正案が成立すれば、改憲へのロードマップ(進行表)は敷かれたのも同然だからである。

 

偶然かどうか知らないが、自民党の安倍前首相は憲法記念日5月3日の夜、BSフジ番組で次の党総裁選で菅氏が続投すべきだとの考えを表明し、「継続して首相の職を続けるべきだろう」と述べた。菅首相の党総裁任期は今年9月末に満了するが、安倍氏は「総裁選は昨年やったばかりで、1年後にまた総裁を代えるのか。自民党員であれば常識をもって考えるべきだ」とも語った。安倍氏は菅首相が無投票で再選されるべきかを問われ、総裁選より前に衆院選を実施して自民党が勝った場合は、無投票が望ましいとの認識を示したという(日経新聞5月4日)。

 

 私は、安倍前首相がわざわざ憲法記念日に菅支持を打ち出したことは、「政権を維持したければ、改憲に取り組め」との強力な政治メッセージ(指令)を送ったと考えている。同日、改憲右翼の櫻井よしこ氏が憲法改正について「ぐずぐずしている暇は一瞬たりともない!」と檄を飛ばし、それがNHKのトップニュースで伝えられるなど、今年の憲法記念日は異常な雰囲気に包まれている。コロナ禍に紛れて改憲実現を疎かにしてきた菅政権に活を入れ、政権支持を餌(エサ)に一気に改憲を具体化しようとする動きが始まった―と見るべきだろう。

 

 そういえば、野党のなかでも改憲に関する立憲民主党の態度がいっこうにはっきりしない。5月3日憲法記念日の談話において、共産党は「コロナ危機に乗じた国民投票法の『改正』強行に断固反対する」と強調したのに対して、立憲民主党は改憲の是非を明確にしなかった。国民民主党は「現行憲法の足らざる点を補強することが求められている」として改正案審議には積極的なので、最終的には国民民主党と歩調を揃える可能性もなしとはしない。

 

国民投票法改正案への対応にとどまらず、エネルギー政策においても立民・国民両党の間では政策理念が曖昧模糊としている。昨年8月27日、立民、国民両党と連合は、新型コロナウイルス禍を踏まえた新たな社会像に関する共有理念を発表し、連合傘下の民間労組が反発する「原発ゼロ」の明記は避けた。原発政策は「純国産エネルギーの確保など低炭素なエネルギーシステムを確立する。二項対立的思考に陥ることなく、科学的知見に依拠する」との表現にとどめ、福山立民幹事長は記者会見で「原子力産業で働いている人や電力の安定供給について忘れてはならない」と語った。立民が2018年に国会提出した「原発ゼロ基本法案」については、新党結成後に党内で議論する考えを示したのである(日経新聞)。

 

しかし今年3月27日、立民が去年9月に合流新党として結党して以来検討してきた基本政策の最終案に「原発ゼロ社会」の実現を掲げると、今度は神津連合会長が嚙みついた。神津氏は4月15日の記者会見で、立憲民主党が次期衆院選公約の土台となる基本政策に「原発ゼロ社会を一日も早く実現する」と盛り込んだことに苦言を呈し、「原発ゼロという言葉自体が、その分野で働く人の気持ちを傷つける。残念だ」と述べた(NHKニュースWEB)。

 

4月25日投開票の衆参3選挙では野党候補の勝利に終わったが、枝野立民代表はその後4月27日、玉木国民代表と会談して次期衆院選の選挙区で候補者の原則一本化を図ることで一致した。玉木氏によると、立民と国民が連合と個別に政策協定を結んだ上で衆院選に臨むことで合意し、現在候補が競合している3つの選挙区で一本化に向けて調整を進めることも確認したという(産経新聞4月28日)。

 

立民は野党共闘で政権交代を目指すが、立民・国民両党の支持母体である連合神津会長は、「(共産が掲げる)野党連合政権は目指す国家像が違う以上あり得ない」と明言している。玉木氏はこの会談で「連立政権となった場合、共産が入っているのかどうか。選挙で訴える政策も変わってくるのでどこかの段階で明確に示してもらうことが必要だ」とクギを刺したという。玉木氏によると、枝野氏から今後の共産との関係について「具体的な話はなかった」というが(同上)、立民がいつまでもそのような「ヌエ的態度」を取り続けることは、不信を買うばかりだ。

 

国民は、参院長野選挙区補欠選挙で立民の新人が日米同盟是正を盛り込む政策協定を共産などと結んだことを受け、推薦を一時取り下げた。それを立民が新たな政策協定を国民・連合との間で「上書きする」という裏技で曖昧化し、何とか候補一本化にこぎ着けた。しかし、こんな芸当が総選挙では通じるはずがない。総選挙が近づくにつれて世論の監視は厳しくなり、立民の野党共闘への本気度が試されることになるからだ。

 

 立民は連合や国民の反発を防ぐため、共産とは一定の距離を取る一方で、立民の候補者に一本化した選挙区では共産支持者の票を獲得するため、共産との関係も維持したい考えだとされる。玉木氏との会談の約3時間後、枝野氏は国会内の同じ部屋で共産の志位委員長と党首会談を開いた。両氏は衆参3選挙で野党の候補者一本化が成果を上げたとの認識で一致し、衆院選での両党の協力に向けた協議を始めることを確認したというが、その後、具体的な話はいっこうに聞こえてこない。このまま事態が推移すれば、立民の政権構想は票集めの看板だとして「ボロ屑」のように見捨てられるだろう。「言うこと」と「すること」が違うような政党が信頼されるはずがないからである。

 

 しかし、影響は単に立民にとどまらない。そんな立民といつまでも付き合うような共産党も「同じ穴の狢(むじな)」とのそしりを受けかねないからだ。「自共対決一本槍」から、ある日突然(さしたる説明もなく)「野党共闘推進」に豹変した共産党は、その後も野党間の矛盾に目をつぶって猛進している。だが野党共闘の現実性は、間もなく立民の国民投票法改正案への対応をめぐって明らかになるかもしれない。そのとき、これまで野党共闘を真摯に追求してきた市民団体など革新勢力がどんな反応を示すのか、それが次の新しい政治局面を切り開く可能性を秘めている。(つづく)