バイデンにがっかり、バッハとコーツに怒り、ガースーには心底絶望、菅内閣と野党共闘の行方(34)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その259)

 

 この1週間は国内外で緊迫した情勢が続いた。イスラエルとパレスチナでは(どちらが仕掛けたのかわからないが)激しい戦闘が行われ、ガザでは多数の犠牲者が出た。国連をはじめとする国際社会は、イスラエル軍の空爆を止めるため懸命の努力をしているというのに、国連安保理事会は停戦決議一つさえ出すことができなかった。イスラエルと特別の関係にあるアメリカが、停戦決議に強固に反対したからだ。

 

 バイデン米大統領は就任後、トランプ前大統領が壊した国際関係を修復するため、気候変動パリ協定への復帰、WHOへの再加盟、イラン核合意の再交渉など、国際協調への意欲的な姿勢を示してきた。イスラエルの空爆に対しても、その立場から同様の厳しい態度で臨むのではいないか―、と期待していたのである。

 

 ところが、その期待はあっさりと裏切られた。バイデン大統領の演説を聞いていても、いったい彼が何を言おうとしているのかさっぱりわからない。パレスチナの民間人に多数の犠牲者が出ているにもかかわらず、イスラエルに対しては軍事行動を停止せよとは一言も言わない。ただ、抽象的な平和を望むといった言葉を繰り返しているだけだ。これでは、アメリカのイスラエル関係はトランプ時代と少しも変わらない。要するに、ネタニヤフ政権の腐敗(首相自身が汚職疑惑で裁判にかけられている)などには一切目をつぶり、その軍事行動を事実上容認しているだけの話なのだ。

 

 それはともかく一番腹が立ったのは、IOCバッハ会長とコーツ副会長の東京五輪開催に関する無責任きわまる発言だ。アメリカのマスメディアでは、バッハ会長は「ぼったくり男爵」、コーツ副会長は「はったり男爵」などと呼ばれているそうだが、両氏は揃いもそろって日本国民がコロナ禍の緊急事態宣言下で苦しんでいる事態を無視し、何が何でも東京五輪を開催すると言明したのである。バッハ会長は「五輪の夢を実現するために、誰もがいくらかの犠牲を払わらなければならない」と言い、ジョン・コーツ副会長は「緊急事態宣言が出されている中でも東京五輪開催はイエス」だと断言した。

 

 これは、菅首相の責任逃れ発言、「東京五輪開催の判断はすべて国際オリンピック委員会(IOC)の権限」だとする発言を受けたものであろうが、それにしても両氏の態度は目に余る。「東京五輪開催」すなわち「IOCの利権」を確保するためには、日本国民は「犠牲を払わなければならない」と言うのである。両氏は、IOCが国家主権を超える権限を行使できるとでも思っているのだろうか。

 

オリンピック憲章の精神を土足で踏みにじるようなこの発言は、日本国民の激しい怒りを巻き起こしたばかりでなく、世界中に「オリンピックは誰のものか」「何のために開かれているのか」「そんなものに意味があるのか」といった根本的な疑問を広げている。もしこのまま東京五輪開催が強行されれば、今後オリンピック開催を引き受ける国はなくなり、IOCは存在意義を問われる事態に直面するだろう。

 

 それにしても、この間の「ガースー」(菅首相)の対応には絶望するばかりだ。東京、大阪など大都市圏自治体以外の県にできるだけ緊急事態宣言区域を広げまいとして宣言区域の拡大を渋ったが、結局のところ「専門家」の意見に従わざるを得なかった。東京五輪開催のため、国内のコロナ感染状況をなるべく小さく見せかけようとする姑息な魂胆がすべて裏目に出て、感染拡大状況が次第に勢いを増しているからである。

 

 菅首相に絶望しているのは、どうやら私だけではないらしい。5月の各メディア世論調査を見ると、(菅首相にとっては)目をそむけたくなるような数字が並んでいる。念のためそれを一覧表にすると、前回に比べて支持率が一斉に下がり、不支持率がそれ以上に跳ね上がっているのがよくわかる。

 

 〇産経・FNN 支持43.0%(-9.3)、不支持52.8%(+10.9)

 〇朝日新聞  支持33%(-7)      不支持47%(+8)

 〇読売新聞  支持43%(-4)      不支持46%(+6)

 〇共同通信  支持41.1%(-2.9) 不支持47.3%(+11.2)

 〇時事通信  支持32.2%(-4.4) 不支持44.6%(+6.9)

 〇NHK    支持35%(-9)      不支持43%(+5)

 〇日テレ   支持43%(-4)      不支持46%(+6)

 〇テレビ朝日 支持35.6%(-0.6) 不支持45.9%(+8.5)

 〇TBS   支持40.0%(-4.4) 不支持57.0(+4.3)

 

極め付きは、直近(5月23日)の毎日新聞の世論調査だろう。内閣支持率は31%、前回調査40%から9ポイント下落し、昨年9月の政権発足以降で最低となった。不支持率は59%、前回の51%から8ポイント上昇した。東京五輪については「中止すべきだ」40%(+11)で最も多く、「中止」と「再延期」を合わせて6割を超えた。東京五輪の開催と新型コロナウイルス対策は両立できると思うかとの問いには、「両立できると思う」21%、「両立できないので新型コロナ対策を優先すべきだ」71%に上った。菅政権の新型コロナ対策については「評価する」13%、前回(19%)より6ポイント下がり、「評価しない」69%で前回(63%)より6ポイント上がった。緊急事態宣言については、「妥当だ」20%にとどまり、「全国に発令して感染を抑え込むべきだ」が59%に達した。

 

同紙は、「支持率急落は、政府の新型コロナ対策への不満や、東京五輪を予定通り開催する方針に批判が強まっていることが影響しているとみられる」と分析しているが、私はそれ以上に、菅首相にたいする絶望感が国民の間に大きく広がっているからだと思っている。芥川賞作家平野啓一郎氏の菅首相の人物評価は、まさに正鵠を射ている(デイリースポーツ5月18日)。その記事を紹介して終わりにしよう。(つづく)

 

  ―芥川賞作家の平野啓一郎氏が18日、ツイッターに新規投稿。菅義偉首相の政権運営について「末永く訓話として伝えられるべき」と記した。平野氏は「能力が無いのに人事パワハラでのし上がった首相が、国家の危機に直面して、結局誰もまともな助言をしてくれる人がおらず、利権と政権維持欲と『思い』とカンだけで対処し、甚大な被害を出した、というのは、末永く訓話として伝えられるべきだと思う」と投稿。「彼が嘘つき前首相の後継だというのも漏れなく」と安倍晋三前首相についても触れた。菅首相は、政策に反対する官僚は異動させると公言している―