民泊新法の施行から3年、廃止件数の増加で民泊は減り続けている、コロナ禍でも突き進む京都観光(番外編3)

 

住宅での宿泊事業を認める民泊新法(住宅宿泊事業法)が施行されたのは2018年6月15日、あれから今年6月で丸3年になる。日経新聞(2021年6月12日)は、新型コロナ禍でインバウンド(訪日外国人)需要が消失した現在、苦境に喘ぐ民泊事業者の姿をこう伝えている。

「観光庁が6月11日発表した大阪市の6月時点の民泊の届け出住宅数は1862件で、前年同月に比べ19%減った。同じ時期に全国では9%減にとどまっており、大阪は減少ペースが速い。ピークの2019年10月にはインバウンドを追い風に2677件まで増えていた。京都市も6月に15%減の608件だった。国家戦略特区法に基づく特区民泊も厳しい。全国の物件の9割が集中する大阪市では、5月末時点で前年同月末に比べて14%減った。不動産会社のDGリアルエステート(大阪市)は、特区民泊を中心に約30室運営していたが、新型コロナ禍で8割の物件から撤退した。民泊運営のフルエル(同)は全9物件を短期賃貸として貸し出している」

 

民泊届け出住宅数とは、届け出件数から事業廃止件数を差し引いたもので、調査時点での営業件数をあらわしている。観光庁統計からこの3年間の推移を辿ると、2020年4月10日の2万1385件をピークに届け出住宅数(営業件数)が下降に転じ、21年6月7日現在、ピーク時から1万8883件(▼11.7%)に減少している。新型コロナ禍は当分収まりそうにないので、今まで持ちこたえてきた民泊が今後劇的に減少する日はそう遠くないと思われる。以下、全国、大阪市、京都市の民泊の動向を、民泊新法施行後1年の19年6月(新型コロナパンデミック発生前)を基準にして概観しよう。数字ばかりで恐縮だが、読み飛ばしていただければと思う。

 

        2018年6月   2019年6月   2020年6月   2021年6月

全国      

 届出件数  3,728(21)      17,551(100)       26,224(149)       29,110(165)

 廃止件数            ―        1,023(100)          5,458(534)       10,227(1000)

 届出住宅数 2,210(33)      16,528(100)       20,766(126)       18,883(114)

※特区民泊認定居室数              7,864(100)        11,325(144)         9,842(125)

 

大阪市

 届出件数   179(7)           2,652(100)          3,761(142)         4,099(155)

 廃止件数         ―              209(100)          1,465(701)          2,237(1070)

 届出住宅数    97(4)           2,443(100)          2,296(94)           1,862(76)

※特区民泊認定居室数        7,078(100)         10,193(144)         8,858(125)

京都市

 届出件数     46(8)             582(100)             828(142)            869(149)

 廃止件数         ―               14(100)             111(929)             261(1864)

 届出住宅数    22(4)             568(100)             717(126)             608(107)

(※)特区民泊は、住宅数ではなく居室数で表示されている。大阪市は全国の9割を占めるものとして算出。資料出所:観光庁。

 

(1)全国の民泊届出件数は、新型コロナ禍の下においても19年6月から2年間で1万7551件から2万9110件(1.7倍)に増えたが、廃止件数が1023件から1万227件(10倍)に激増したため、届け出住宅数(営業件数)は20年6月に比べて9%減少した。なお特区民泊は、大阪市(橋下市長時代に推進)が全国の9割を占めるという特異な状況を示しているが、こちらの方も1年間に比べて13%減と同様の傾向を示している。

 

(2)大阪市は、住宅宿泊事業法に基づく民泊と国家戦略特区法に基づく特区民泊が併存しているので、とりわけ変動が激しい。民泊の届出件数は19年6月2652件から2年間で4099件(1.6倍)に増えたが、廃止件数が209件から2237件(10.7倍)へ激増したため、届け出住宅数(営業件数)は19年6月以降減り続け、2443件(19年6月)から2年間で1862件(▼24%)へ減少した(4分の3に縮小)。一方、特区民泊は7078室(19年6月)から1万193室(20年6月)にかけて急増したが(△44%)、20年6月から21年6月にかけては8858室(▼13%)と、同様に減少傾向に転じている。

 

(3)京都市の民泊も大阪市に劣らずわかりにくい。違法民泊の進出が相次いだころ、京都市は市民の批判をかわすため、住宅宿泊事業法に基づく民泊申請事務を旅館業法の「簡易宿所」申請事務に切り替えたので、それ以降、京都市の民泊はこの二本立てになったからである。観光庁統計は毎年6月現在、京都市の「住宅宿泊事業届出窓口対応状況」は年度末数字(3月末現在)なので、少し違うが再掲しよう。なお、簡易宿所は民泊ばかりとは限らないが(ユースホステルなどもある)、ここでは大半を民泊とみなして分析する。

 

京都市(観光庁統計)

       2018年6月   2019年6月   2020年6月   2021年6月

届出件数       46(8)            582(100)            828(142)            869(149)

 廃止件数         ―             14(100)           111(929)            261(1864)

 届出住宅数   22(4)            568(100)           717(126)            608(107)

 

京都市(住宅宿泊事業届出窓口対応状況)

        2018年3月   2019年3月    2020年3月   2021年3月

 届出件数    ―     502(100)     809(161)      868(173)

 廃止件数            ―      12(100)        93(775)          254(2117)

 届出住宅数      ―       490(100)        716(146)           614(125)

 

京都市(旅館業許可施設数、簡易宿所)

             2018年3月    2019年3月   2020年3月    2021年3月

 新規許可件数   871(103)    846(100)          602(71)           350(41)

 廃止件数            73(50)        147(100)          255(173)          583(397)

 総施設数        2291(77)      2990(100)        3337(112)        3104(104)

 

まず、民泊の届出件数は502件(19年3月)から2年間で868件(1.7倍)に増えているが、廃止件数が12件から254件(21倍)に激増したため、届け出住宅数(営業件数)は20年6月の716件をピークに21年6月には614件(▼14%)に減少した。簡易宿所の方も、新規許可件数が846件(19年3月)、602件(20年3月)、350件(21年3月)と2年間で4割に減少した。。一方、廃止件数は147件(19年3月)から583件(21年度月)と2年間で4倍に急増した。その結果、簡易宿所の総施設数は、3337件(20年3月)をピークに3104件(21日3月、▼7%)に減少した。

 

つまり、民泊と簡易宿所の両方を合わせると、19年3月から20年3月にかけては3480件から4053件(△14%)に急増したが、この1年間に3718件(▼8%)に落ち込んだことになる。この傾向がこのまま続くのか、それともどこかで反転するのか、今後の予測については次回に考えたい。(つづく)