立憲民主党と共産党が奇妙な取り引き(?)、京都は〝魑魅魍魎〟の世界なのか、岸田内閣と野党共闘(その2)

国会が10月14日に解散され、衆院選告示が19日と間近に迫った。自民党は11日、小選挙区と比例区の1次公認295人を発表し、残る5選挙区でも候補者調整の目途をほぼつけたとされる。野党共闘の方は立憲民主党と共産党の選挙協力態勢が固まり、競合していた選挙区で立憲民主党は3小選挙区、共産党は22小選挙区で候補予定者を取り下げた。この結果、全国289の小選挙区のうち、立憲、共産、国民、社民、れいわの5党の候補者が一本化される選挙区は200以上になる見通しとなった(朝日10月14日)。

 

ところが...である。京都では立憲民主党幹部からの共産党との共闘を否定する発言が相次いでいる。立憲民主党京都府連は10月9日、役員会と常任幹事会を開き、公認候補を擁立していない京都の1区、2区、4区についての対応を協議した。その結果、共産党の穀田国対委員長が立候補を予定している1区では(あくまでも)独自候補の擁立を追求し、その一方国民民主党が前原氏を擁立する2区と、無所属の北神氏が立候補予定の4区については、両氏がいずれも連合の推薦候補であることから独自候補を立てないという方針を表明した。党政調会長の要職にありかつ京都府連会長も務める泉氏は、終了後の記者会見において共産党から協議の申し入れのあった共闘については、「京都は自民、共産両党とは議席を争った地。これまでも非自民・非共産の立場で支持されてきた」と説明し、「『野党統一候補』という考えは取らないし、共産との選挙協力はない」と改めて強調した(毎日10月10日)。

 

また、京都新聞は10月12日、福山立憲民主党幹事長および田中京都府連幹事長の衆院選に関するインタビュー記事を掲載し、両氏が共産党との選挙協力を明確に否定したことを紹介している。

【福山幹事長】

 ―共産党とは「限定的な閣外協力」で合意したが、京都では共闘しない。福山幹事長、泉健太政調会長の地元で共闘しないことを有権者にどう説明するか。

「私も共産党と20年以上、選挙を含めて争っている。一方、全国的には自公を倒すために共産を含めて他の野党と選挙区調整をして戦う機運がすごく高まっている。今回は『市民連合』が仲介した常識的な政策を実現する限定的な閣外からの協力であり、日米安保や天皇制、自衛隊の存在では以前から変わらない距離で共産党と向き合う」

―京都1区は独自候補の擁立をまだ検討するのか。

「ぎりぎりまで府連の努力を見守りたい。1区は(自民党の)伊吹さんが議席を守ってきた。候補者を立てるのならしっかりとした候補者をという思いも泉府連会長にはあるようだ」

―京都で、共産党とは1、3、6区で「すみ分け」しているようにも見える。

「京都で話し合いの場があるわけでもなく我々は関知していない。すみ分けしているつもりは全くない」

【田中府連幹事長】

 「京都3区と5区、6区の3人はいずれも現職(比例復活含む)であり、必勝を期す。現在空白の1区は候補者を見つけられるよう最後まで努力したい。2、4区は独自候補の擁立は見送るが、近畿ブロックでの当選者を増やすため、街宣活動を強化して比例票を伸ばす」

 「連携を重視するのは、党本部が選挙協力で覚書を結んだ国民民主党だ。2区は国民現職、4区には無所属元職とかって共に活動した仲間がいる。信頼関係を維持したい。共産党とは地方選挙で対立してきた過去の経緯から京都府内では選挙協力できない」

 

 驚くのは、福山幹事長と泉政調会長がいずれも共産党と選挙協力を結んだ立憲民主党の幹部(当事者)でありながら、京都ではこれまで共産党と選挙戦を戦ってきたという理由にならない理由で「共闘しない」「選挙協力しない」と言い切っていることである。こんな(屁)理屈が全国に適用することになると、野党各党はこれまで互いに選挙戦を激しく戦ってきたのだから、野党共闘や選挙協力などは永久にできないことになる。要するに、福山幹事長も泉政調会長も田中府連幹事長も、政党としての政策協議などはそっちのけで、「共産党とは死んでも一緒にやらない」と言っているだけのことなのである。

 

 ところが、さらに驚くべきことが起こった。共産党京都府委員会は10月14日記者会見を開き、渡辺委員長が立憲民主党府連に対し1区で穀田国対委員長を野党の統一候補にすることを前提に、立憲前職がいる3区と6区は自主投票とし、共産党が候補者擁立を見送る方針を明らかにしたのである。共産党は過去の衆院選では全6選挙区に候補者を擁立してきたにもかかわらず、今回候補者擁立を見送る理由として渡辺委員長が挙げたのは、「中央では共通政策・政権合意・選挙協力という3つの合意が成立した意味は大きい。政権交代のために全力を尽くす」、「その代わり3区、6区については、比例での大幅得票増を狙う」との説明だった(毎日・京都10月15日)。

 

 6区の山井氏はともかく、3区の泉氏がおよそ野党共闘の対象たり得ない人物であることは、今回の立憲府連会長としての行動をみれば即座にわかることだ。それがあろうことか共産党が候補者擁立を見送るというのだから、呆れてものが言えない。京都新聞はこの事態を「実質的には京都3区と6区で立憲民主党の前職を応援することになる」と書いている(10月15日)。

 

かくいう私は京都3区の有権者である。2016年衆院補選でも共産党は全国での野党共闘を推進するためと称して京都3区で候補者を擁立せず、泉氏を「革新統一候補」として応援するという間違いを犯した。「二度あることは三度ある」というが、今回の方針はこれまでとは比較にならないほど(悪)影響が大きい。前回の衆院補選では、こんな有権者を馬鹿にした選挙には行かないとばかり、私の周辺では大量の棄権者が続出した。私自身も選挙権を持って以来、初めて棄権したのがこの選挙だった。

 

京都3区の有権者は猛烈に怒っている。泉氏に投票するぐらいなら死んだ方がましだと本気で思っている有権者が数多くいるのである。共産党は有権者を馬鹿にしてはいけない。渡辺委員長が候補者擁立を取り下げる代わりに比例の大幅得票増を狙うと言ったらしいが、こんな計算がどうしてできるのか不思議でならない。第一野党共闘の支持者が投票に行かないのだから、共産党の比例票が増えるわけがないのである。

 

こんなことは考えたくないが、立憲民主党が京都1区に擁立できる候補者が見つからないのを見越して、共産党が3区と6区の候補者を降ろしたのだとしたら、これは「密約」以外の何物でもないことになる。これでは、京都はまるで〝魑魅魍魎〟の世界ではないか。市民と野党共闘の政策を踏みにじり、理由にもならない理由で共産党との選挙協力を拒否してきた福山幹事長や泉政調会長を応援することは、野党共闘の大義を否定することになる。共産党は遠からずして京都3区の有権者の厳しい審判を受けることになるだろう。(つづく)